「一番最初に合流したいのは──八百万だ」
走りながら葉隠に伝える。
八百万の個性、創造。
自身の知識に存在する無生物であればほぼ全て作成できるという万能を極めた個性。正直、彼女に完全記憶能力があったら完璧だった。
何せ、理解を深めれば深める程なんでも作れるのだ。
フレーム、エンジン、モーター、その他部品……すべて揃えてしまえば彼女一人でジェット機だって作成できる。使い手次第とはよく言うが、これ程使い手を選び尚且つ素晴らしい個性は他にない。
俺に備わっていたら、そうだな……オールマイト程ではないが、この国そのものを強固にできただろう。
「八百万と合流、その後ドローンを作成してもらう。無人操作で良い、プログラムで真っ直ぐ飛んでいくだけのドローン」
「ドローン……あ、そっか。志村くんが覚えてれば」
「そういう事。八百万なら俺の説明を必要としないかもしれないけど、確実に作るなら俺が居た方が良い」
俺と八百万が居れば、ほぼ全ての災害に対して対応できる。
火災があれば水を射出するホースを、地震による倒壊ならば瓦礫を撤去するだけのロボットを。八百万の個性を補う形で完全記憶能力を持つ俺が居れば対応できない事は殆どない。
既に作って飛ばしてくれていれば有難いが──ヴィランも複数いる。もし仮に近接戦闘が出来ないメンバーで固められていたら最悪間に合わない。
広場の相澤先生がどこまで持ち堪えられるかという問題もある。可及的速やかに増援を貰わねばならない。
剥き出しの山──山岳ゾーンを登っていく。高さはそこまで高くはない、だが小山以上の高さはある。施設内でこれだけ立派な山を作るのは凄いが、こんな事になると不便だ。
葉隠のペースに合わせつつ、出来る限りの速度で走って漸く中腹辺りまで来た。かかった時間は二十秒程度、上出来だ。
「……見つけた」
岩陰に隠れて、広場のようになっている場所を覗き見る。
数人のヴィランに、八百万、上鳴、ベストフレンド耳郎……に、捕まってるのが二人、倒れてるのが一人。
かなり容赦なく攻撃してきたのはどこも変わらず、か。上鳴はアホみたいな顔になってるし八百万は左腕から血を流してる。こういう時、不意打ちの専門家が居て助かる。
「葉隠、頼めるか? 狙いは人質を抑えてる二人、解放さえしてくれればそれでいいから」
「うん、わかった。やってみるよ」
いつもの元気さを少し抑えつつ、手袋と靴を脱いでその場から気配を消す。……何か、全裸のクラスメイトが居るのにも慣れて来たな。
ここからヴィランへの距離は凡そ十メートル。会話はあまり聞き取れないが、走ればすぐ到達する距離。チラ、と岩陰から顔を出して八百万の様子を伺う。
こちらに気が付く様子はなく、両腕を上げて降参しようとしている。すぐさま動ける状況になってくれないとあまり好ましくない、こういう時は──信号弾の出番だよ。こっちに意識を向けさせて、八百万達への視線を外す。
それに加えて、先程俺が放った信号弾に気が付いてくれたら完璧だ。きっと八百万なら気が付く。
残る弾数は3──十分だ。
パシュッ! と独特の音を立てて空に打ちあがる信号弾、気が付きこちらに視線を向ける全員。
上に視線が集中している間に走る。風上から香る匂いで、葉隠が既に傍まで行っているのは把握済み。演算能力の高さってのが、つくづく役に立つ。
人質を急に手放すヴィラン達、何故そうなったのか当人たちも理解出来ていない。困惑を示す連中に対して先程と同じく加速し踏み込む。
変化型では無い。人間の姿をした奴の顎を蹴る。
脳を揺らす、基本的に強いこの戦法は一定の効果を発揮する。顔が分厚かったり、首が太かったりする奴にはあまり効かないが──こういう細身な相手に対してはこの上なく効く。
「──葉隠!」
膝から崩れ落ちるヴィランを放置し、すぐさまもう一人にターゲットを移行。ここまで崩せればある程度無理を通せる、葉隠に俺が届かない奴を狙わせる。
同時に残った方を処理し、全員沈黙したのを確認してから束縛していく。異形型が少なくて助かった、倒れているヴィランも数人いる事から倒す事には倒したのか。
「よし、全員無事だな」
「ありがと、助かった」
「ベストフレンドの危機を救えたみたいで何より」
「…………そ」
引き攣るような顔。流石に引かれたみたいで、俺は悲しい。
「芦戸と……瀬呂が捕まってたのか。飯田は意識は?」
「敵にやられたというより、上鳴さんの放電に巻き込まれたんです」
「ああ……そういう事ね」
「ウェーイ……」
アホな声を出している上鳴。戦闘訓練の時に見て知ってはいたが、本当に個性を使いすぎるとアホになるんだな。
「一番最初に合流できたのが八百万で良かった。ドローン作れるか? 速度を重視、プログラムとかは真っ直ぐ校舎に向かうだけの奴でいい」
「私もそのつもりでした。ただ、詳しいAIの内部回路は覚えていなくて……」
「わかった、そこは俺が補助する」
これで目的の八割は達成できた。もう、他の連中に関しては生き残っている事を祈るしかない。
俺はオールマイトにはなれない。全てを救う事は出来なくて、手が届く一部を取りこぼさない様に足掻くしかない。大多数のヒーローはそうだ。
「相澤先生は広場で恐らく戦闘中。チンピラレベルのこいつらなら問題ないだろうが、奥に居た連中の詳細がわからない。信号弾で伝えてはいるが、どこまで持つか……」
「……そうですね。っと、出来ました。これでよろしいでしょうか?」
「飯田にも行ってもらった方が良いんだが気絶してるしな……水とか生成出来るのか?」
「流石に無理やり叩き起こすのはどうかと……」
拷問に近いな、やめておくか。ふわー、と飛んでいくドローンを見送って第一関門は突破したと安堵する。
「さて、どう動くか……」
状況の再整理を行おう。
現在位置は山岳ゾーン、隣の森林ゾーンの敵はある程度倒して攻略済み。一つ飛ばして火災ゾーン、横の土砂ゾーンが一番近い。
土砂ゾーンに関しては正直心配いらない。今確認したが、氷の山が出来上がっていた。あそこには轟がいるのだろう、それなら他の連中も纏めて確保してくれている。
そして、轟は俺の信号弾を唯一直接見た人間だ。氷の中で信号弾に気が付いてくれていればいい。そうでなくても、単独で動くことが出来て尚且つ他者を救える強個性。なら向かうべきは火災ゾーンか……と、思いはしたがもう一度振り返ろう。
7つあるゾーンの内、既に三つ攻略済み。この時点で施設外に生徒を飛ばした可能性は限りなく低い。
生徒を確殺するならわざわざ施設内にバラけさせはしない。そうなると、そもそもの目的が変わる。
生徒の殺害が目的ではなく、現在最も危ない立ち位置にいるのは──相澤先生だ。状況的に出来上がったのは、『生徒を守れず一人戦闘した教師』という状態。
「──八百万。双眼鏡作ってくれ、広場が見える奴」
あっちの詳しい状況を確認するべきだ。
相澤先生の状況次第で、今後俺達が取れる行動は変わる。
八百万から双眼鏡を受け取り、広場を確認する。
──大量の破壊痕。陥没した地面、破壊された噴水から溢れた水に混ざる赤い液体。
そして──大男の手で地面に叩きつけられる相澤先生。
「──八百万! 悪い、今すぐライフル作ってくれ!」
双眼鏡で状況を見ながら、注文を付ける。
「広場まで届くライフルだ! 相澤先生が相手をしているあのヴィラン、抹消の個性で筋力が減ってない──正真正銘、本物のバケモンだ……!」
速攻で援護しなければマズい。あのままだと、相澤先生が先に死ぬ。そうなればあいつらの目的は完遂される。
『天下の雄英、侵入され教師を惨殺される』──実質、生徒を殺されたのと変わらない。
「ラ、ライフルですか……!?」
「作り方が不明か? なら俺が今から言う内容を──待てよ」
あの大型、筋肉量をライフルで撃ち抜いたところで効力は少ない。オールマイトクラスだと想定して、あの化け物を止めるには何が必要か纏める。
純粋な火力、これが必要だ。
「八百万、もしここからあのヴィランに攻撃を仕掛けるとしたら──何で攻撃する?」
双眼鏡を渡して、八百万に問いかける。相澤先生が叩きつけられ、今にも死を迎えそうな状況を見て喉を鳴らした。
「っ……わ、私なら──大砲を使います」
「──わかった、それで行こう。自信、あるんだな?」
こうなれば、後方支援は完全に任せる。俺は俺でやらなければならない仕事がある。相澤先生の救出っていう、大きな仕事が。
「ええ──お任せください」
「よし、頼んだ。俺が相澤先生をあそこから持ち出す、好き勝手撃っちまえ」
あの大男の行動パターンは
「ブレインが複数いると、楽でいい……!」
駆け出す。
登って来た時より数倍早く、下り坂を滑り落ちていく。山の登り方や斜面の下り方、適切な行動をする。
広場へ足を踏み入れて、全く俺の事を警戒していないヴィラン達。それほど相澤先生を嬲るのを楽しんでいるのか──いい油断っぷりだ。ここまで来て生徒に反撃されるとは思わなかったのか?
霧のヴィランだけは警戒して、連中が立つ噴水広場の裏まで足音を立てないように近寄る。
あの黒霧ヴィランは、最初に俺の名前を言っていた。それが一体どういう意味なのか、後で聞いてみたいものだ。お前の後ろにいる人物を示している言葉なのか? それとも、純粋に雄英のデータを確認したという意思表示なのか。
いつか必ず暴いてやる──だが、今はお前らに構っている暇はない。
災害のプロフェッショナルとは言え、対人戦の秘密道具も用意している。例えばこういう道具だ──スタングレネードっていう、便利な便利な小道具を。
ピンを抜いて、広場の中央へと投げる。相手がソレに気が付く前に、走り出す。右側から走り抜けて、左耳を塞ぐ。
爆音が発生し、僅かに衝撃が左目を襲うが──問題ない。右目が稼働するし、これは機能回復する程度の威力しか積んでない。
キーンと耳鳴りする聴覚を無視して走り抜ける。あの化け物はどうやら俺に気が付いてないらしく、スタンをまともに喰らって戸惑っている他の二人を見ている。不自然すぎる動きだ。
その隙に手を離した相澤先生を回収し、どこへ逃げるか考える。
山岳、駄目。敵のいる方へいかなければならない。火災、森林も同じ理由でアウト。倒壊土砂──ヴィランが潜んでいる可能性が高い。水難ゾーンを一目確認すると、此方を見ている複数人。
あそこは問題なく処理を終わっているらしい。水中ならばあの怪物の攻撃力も多少は減衰する、だが相澤先生が出血しているのが問題だ。
……船、そうか。船を使っているのか。
水難ゾーンで俺達の方を覗いているクラスメイトの中には、梅雨ちゃん──蛙の個性を持つ少女が居る。相澤先生が入水せずに船に合流するとすれば、その方法を取るしかない。
「──
相澤先生の胴体を掴み、思い切り投げ飛ばす。この大男に気が付かれたのは確定なので、俺も急いで水難ゾーンの方へと駆け──ない。
俺は、ここに残って時間を稼ぐ。相澤先生が稼いだ数分、俺が稼ぐ数十秒──十分だよ。
それだけ時間があれば、この学校には平和の象徴が居る。
「八百万──!」
懐から残った信号弾を取り出し、装填。空へ向かって一発放つ。
──瞬間、放たれる砲撃。
打ち出した射角、飛んでくる速度に落ちる速度まで計算する。狙いは広場の中央、誤差は少しありそうだ。大男を盾にして、その衝撃から逃れる。着弾と共に、爆発音と衝撃が身体に打ち付けるが──大男は微動だにせず。何故か俺に攻撃する事もなくじっとしている。
どうやらあの霧と手だらけヴィランの近くに落下したようで、二人とも少し吹き飛んでいる。
「ぐ、ソが……! ガキどもが調子づきやがって……!」
ブレインではないな。大物っぽく見せているが、本体はこいつでは無さそうだ。実行犯の中で一番頭脳役として活躍しそうなのはあの霧のヴィランだが──果たして誰が?
「脳無! ソイツを、そのクソガキを殺せ! 今すぐにだ!」
脳無と呼ばれた大男は、言葉を言われた瞬間に俺の事を見る。
無機質な目に、剥き出しの脳。脳無、何て名前の癖に丸出しの脳は何なんだ? 少なくとも、普通の人間じゃないだろう。
筋肉の膨張する動きを察知して、どの攻撃をしてくるか先読み。叩き潰すような腕振りを後ろに下がる事で回避するが──風圧でよろめく。その隙を見逃さない訳が無く、距離を詰めて俺に追撃する。
指令されたら従う、明らかに普通じゃない丸出しの脳──お前、もしかして……?
避けようがない拳が迫り、思考が加速する。
あの黒い霧を持つヴィランが俺の名前のみを読んでいた理由。そして、この怪物。個性で消せない身体能力に、単純すぎる思考回路。
まるで、人の手によって作られたような──兵器の様なヴィラン。
「──お前
拳が、振るわれた。