天と地程の差はあるが、天と地しか選べない。   作:恒例行事

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迫る期末試験

 季節は移ろい、既に初夏。長袖は暑くなり、身に着けている制服も半袖へと変わっている。夏の熱を少しずつ感じ始める時期、一学期の終わりが近づいている。

 

「──うわああぁぁ! 詰んだ! 終わった! サヨウナラ林間合宿!」

「あはははー、勉強なんもしてなーい!」

 

 期末の試験が見え始め、中間テストの結果が芳しくなかったクラスメイトが騒ぎ出す季節。そういえば中学でも同じような連中がいたな、俺は全部満点だったが。

 

 ずずず、とコンビニで買った紙パックのジュースを飲みつつ騒ぐ連中の成績を思い出す。たしか、上鳴は最下位。芦戸も二十位中十九位だった。……ビリが二人揃って喚いている所を見るに、期末試験のビリも確定だな。

 

 筆記試験で苦労したことが無いから、悪いが俺は彼ら彼女らの気持ちがわからない。勉強しなくても覚えてるし、そもそも授業の内容をテストに出してくるんだから俺が分からない訳がない。聞いてなくても覚えてるこの脳に感謝だ。

 咄嗟の応用ならまだしも、試験なんて悠長な時間も与えられてるモノなら余裕。

 

 別に教える事も出来なくはない。上鳴や芦戸、それぞれにどういう教え方が適しているか等の判断から下せるからぶっちゃけ世界で一番最適な教え方を実行できる。それで伸びるかどうかはさておき、分析して教える事に関しては適性がある。

 

「なぁバクゴーくん、筆記どんな感じよ。俺は満点余裕だけど」

「ンだクソ野郎話しかけてくんじゃねぇ!」

「三位」

「あ゛ぁ゛!?」

 

 中間試験の結果、一位俺・二位八百万・三位爆豪・四位飯田……と、学力は比べられる。中学の頃から俺がいなければ一位だったのに、俺が現れてから一度も一位を取れてない爆豪からすれば堪ったものじゃないだろう。

 正直、勝つ勝たないの勝負の次元に俺はいない。筆記試験という項目に於いて、少々俺は有利すぎる。

 

 得意分野の中の得意分野だ。

 

「絶対に手に入る一位なんて虚しいだけだぞ」

「調子扱いてんじゃねぇぶっ殺すぞ!!」

 

 あまりにもストレートすぎる殺意に、感嘆すら覚える。これほど純粋に殺意をぶつけてきたのは死柄木以来じゃないだろうか。オールフォーワン? アイツはノーカウントで、格が違いすぎる。

 

「仕方ないだろ全部理解しちゃうんだから。逆に満点取れないほうがヤバいだろ」

「そんな真顔で言うなよ……」

 

 中間試験十六位、切島が会話に入ってくる。

 

「こんな、なんにでも成れる個性持ってりゃそうなるさ。俺に現状成れない職業は……何だろ。現状何に成れないんだ? 俺」

 

 知識があればやれることに関しては何でもできる。出来ないことは無いと断言はできないが、よっっっぽどコアな職業じゃない限りなんだってなれる。ヴィランも含めてな? 

 

「──志村くーん!」

 

 相変わらずいい香りを漂わせて葉隠が机に飛び込んでくる。制服しか見えてないからよくわからんが、こないだ遊びに行ってから距離が近い気がする。元々距離感が近い娘だから違和感は無いが、まあ……アレだ。勘違いするよね。

 

「どうしたのかな、中間試験十七位葉隠透さん」

「なんでそんな他人目線!? しかも順位まで!」

「点数まで言おうか? でも赤点のアレは流石に」

「もう殆ど言っちゃってるじゃん!」

 

 うぎゃーと暴れる彼女をベストフレンドが宥める間、葉隠に勉強をお礼がてら教えようか悩む。

 

 実際、俺はかなり感謝してる。

 

 彼女が俺に気を遣ってくれて、クラスメイト達の間へ引き込もうとしてくれるのが有難い。ちょっと前の俺は中二病全開だったから思い出したくないが、そこが分岐点だったかもしれない。

 完全に独りを選択していれば、今の光景は無い。

 

「うう、もう頼れるのは志村くんだけだよ……勉強教えてください……」

「別にいいけど」

 

 自分から言ってきてくれるとは話が早い。

 

「みっちり満点コースとほどよく平均点コースのどっちがいい?」

「……満点コースはどんな感じ?」

「一日八時間感謝の課題」

「平均点コースで!!」

 

 表情はわからないが、喜んでいるように見える。声のトーンと仕草を平常時と比較しても喜色が混ざっているあたり本心で喜んでくれているのだろう。それだけ頼りにされてるのは俺としても嬉しい。

 

『志村我全』として積み重ね、築いて来たモノは決して無駄では無かったと実感する。

 

「…………あ、あのさ」

 

 耳郎が控えめに声をかけてくる。何かに申し訳なさそうに話しているが、何かしたのか? 

 

「混ぜてくんない……? 数学がちょっと怪しくて」

 

 俺とベストフレンドの仲なのだから、もっとグイグイ来てもいいのに。何を遠慮する事がある。

 

「いいね、皆で一緒に勉強会だ!」

「皆って単位にするには少ないけどな」

 

 俺、葉隠、耳郎・わずか三人両手に華状態だ。あれ、俺もしかしてすごい青春チックなことしてるのでは? 中学時代は無かった華やかな青春だぞ。

 

 ていうか女子の知り合いが少ないのでは……? 

 葉隠、耳郎……麗日……? 

 

 泣けるぜ。

 

「緑谷に負けた……!」

「相変わらずよくわかんない思考してんね」

 

 女友達は緑谷の方が多い。よくわからんサポート科の女子、麗日、梅雨ちゃん……クソッ! 流石ワンフォーオールの保有者、手を回すのも早いな。

 

「あ、でも爆豪には負けてねーや。ハッハ、流石バクゴーくん」

「死ねボケ」

 

 昇華された殺意が言葉に乗る。彼の告白はどれほど情熱的なのか寧ろ気になって来たね、爆豪の母さんとかに聞けば教えてくれそうだ。

 

「で、だ。どうする、どこでやる? 悪いけど俺んち居候だから使えねーんだわ」

 

 流石にこんな何にも盛り上がる要素の無い状況で仕掛けてくるとは思えないが、俺の家は無し。叔父さん完全に帰ってこないし、これ元々アイツの手駒だったな状態だ。人の目があるファミレスか、カラオケか……カラオケで集中できるとは思わない。俺は出来るけどな? 

 

 耳郎歌上手いし、葉隠も歌うの好きだからそっちに集中する気がする。多分。

 

「……(うち)、来る?」

「え、いいの!?」

 

 耳郎の何気ない言葉に葉隠が反応する。

 

 今更だが、耳郎は音楽的なセンスがずば抜けてる。両親が二人とも音楽関係者であり、調べれば情報が色々出てくる位には有名な人達。

 

 そんな人達の子供である本人は音楽の道というよりヒーローを志しているようで、血は争えないのか楽器の扱いから歌まで幅広い才能を持つ。幼い頃から触れていたという事も要因ではあると思うが。

 

「ちゃんと前もって言っておけば大丈夫、だと思う」

 

 友人として招いてくれるくらいには親睦が深くなったのだろうか。爆豪の家に押し掛ける位しかなかった俺としては大変嬉しい出来事だ。

 

「お父さんへの挨拶は任せとけ」

「余計な事したらぶん殴るから」

 

 ちょっとふざけただけなのに耳をピクピク動かして脅してくるベストフレンドには畏怖を覚える。

 

「落ち着けよベストフレンド、俺はちょっと"挨拶"するだけ。娘さんを俺にくださいって」

「それが余計な事だって言ってんの!!」

 

 実際にやりはしないが、少し顔を赤くしてるあたりこういう冗談に弱そうだ。一般的にこういう感情を『萌え』というらしい。いい言葉だな。

 

「あはは、仲いいねー」

「おわっと」

 

 ぐに、と席を追い出すように接近してくる葉隠。相撲か? 任せとけ。ぐい、ぐいぐい。中々諦めない葉隠に、仕方ないから席を譲ることにした。

 

「ふふん」

 

 腕を組み(おそらく)得意げな表情をする。──待てよ。今思ったが、顔の形を触って完全に把握すれば彼女の顔がわかるんじゃないか? 彼女の魅力である『透明』であるが仕草や雰囲気が可愛いという点を潰す事になるからやらないけど。そういうアプローチもあるよね、って話。

 

 ペチペチ顔があるだろう場所を軽く叩きつつ、実際勉強させるにあたってどうするか考える。

 

 葉隠の成績はかなり下、順位で言うと悲惨の類に入る。授業中寝ているとか、集中してない訳じゃないだろうけど何故か勉強が出来ない。テスト向きの覚え方をしてないと言うべきか、基礎があるかどうかから調べるか。

 

 一番最初に小テストをやって大まかな現状の把握、何が足りてないかでゆっくり教えていくとしよう。

 

 耳郎? ああ、彼女は成績いい方だから大丈夫だろ。本人が何が出来ないのか把握してるだろうし、聞かれたら教える形式で問題無い。

 

「って、大丈夫?」

「なにが?」

 

 急に耳郎が声をかけてくる。大丈夫、勉強を教える事に関しては別に何の問題も無いし、予定的にも大丈夫だが……。

 

()()口元歪んでるよ」

「──…………そうか。ありがとな」

 

 まだ影響が出ている、か。

 

 志村菜奈でもない、志村我全でもない、正真正銘オールフォーワンの嗤い方。口元を歪め、嘲笑うかのように微笑むこの顔。最早遺伝子どころか身体に刻み付けられた癖はそうそう抜けそうにない。

 この面をオールマイトが見るたびに若干複雑な顔をしているのが猶更面倒だ。

 

 でもまあ、流石に志村という姓からオールフォーワンを連想する事は出来ないだろ。何かを奪ったりする個性も持ってないし、志村菜奈の浮遊だって使ってない。

 

 現状そうだとバレる可能性は限りなく低い。まあ、志村菜奈の血縁者だと見つかるのはまだマシだな。

 

 まったく、オールフォーワンの記憶は今は辿ってないのに()()だ。引き出した時どうなるかなんて、考えたくもないね。志村菜奈で塗り潰せるか? ……無理だろ。流石に格が違いすぎる。志村菜奈を批判する訳じゃなく、アイツが規格外すぎるだけだ。

 

 やはり引き出すのは危険すぎる。暫く封印だな。

 

 かといって、使わないのも勿体無いのは確かだ。

 俺は『引き出した瞬間オールフォーワンと同等の存在になる』というデメリットでありメリットが存在している。

 

 個性のパターンを把握し、数えきれないほど無数に存在する中から適材適所を選択して使用する。掛け合わせて相性を考え、より強力な個性へと進化させる。ただ奪い与える個性を手に入れたなら、何も起きないさ。

 

『オールフォーワンの経験と個性』を同時に手に入れられるからこそ脅威なんだよ。

 

 ……暫く引き出すのは自分の身体のみにしよう。

 

「でもさ」

「ん?」

 

 僅かに声色を変えて、楽し気な声で耳郎が言う。

 

「最近は少し、柔らかい顔になったんじゃない?」

 

「…………そっか」

 

 ならいいんだ。

 

 やはり雄英に入ってから、この二人にずっと助けられてる気がする。その内礼をしないとな……。少なくとも、俺が死ぬまでに。

 最近の女子の中での流行りってなんなんだ? あまりにも興味なさ過ぎて全然調べてなかった。食べ物とかそういうのに少し気を向けてほうがいいかもしれない。

 

 期末試験まで一週間。

 

 ゆっくりと青春を過ごそうじゃないか。

 

 

 

 

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