天と地程の差はあるが、天と地しか選べない。   作:恒例行事

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隠された力

 身体を捻じり、天と地が逆さまになる。

 下半身を狙った弾丸を回避し軌道を維持したまま一気に距離を詰める。

 

 少々狙いと違ったがまあ仕方ない。個性の制御なんてロクにやったこと無いのに実戦で試そうとしたから良くないのであって、もっと練習しなければならない。

 

 今後の課題が早々に見つかったことに喜びつつも高速で思考を回し現状をどうするか考える。

 

 引き出してしまったのは身体能力と動体視力か? 

 時速換算でどれくらいかわからんが、相当な速度で移動している事は間違いない。なのに一般人と同等の俺の視界は依然としてスローモーション、迫りくる弾丸一つ一つをゆっくり対処できるレベルだ。

 

 暴走とは違うけど暴発ではある。

 

 この個性の弱点として引き出したらひっこめるのが無理な所があるな。

 誤ってAFOでもOFAでも無く凡個性を引き出したらもう目も当てられない。そこだけは暗示で無理矢理矯正しておこう。

 

 それに問題は目の前にもある。この弾丸の嵐、俺自身の身体能力。

 

 どう対処するべきか──いっそのことやってしまうか(・・・・・・・)? 

 

 保須で成長しましたで誤魔化せないかな。轟とか体育祭以来炎使うようになったし、緑谷とか日々進化(学習)してるし、俺もちょっとリミッターの開け閉めできるようになりましたで言い訳できる……かも? 

 

 ぐるりと空中で一回転、無防備な着地を狩るように設置された先生の弾丸一つ一つの場所を認識して動く。

 

 着地に合わせて四股をバラバラに動かす。

 例えるなら熟練のピアニストの左手右手が別々の動きをするように、武術の達人が目玉をそれぞれ両側へと無理矢理動かし視界を拡大するように。

 

 それはさぞ気持ち悪く見えるだろう。

 何かを参考にしたわけでもない、俺だからこそ(・・・・・)出来る技だ。

 

 多腕の異形型とかなら再現可能か? 

 

 そんなどうでもいい(・・・・・・)ことを考えつつも、身体は動く。創作の物語に於いてよく扱われる、俗に言う並列思考(マルチタスク)というヤツだ。

 

 こうやってどうでもいい事を考える自分の思考に加えてもう一つ、常に冷静に別の作業について考え身体を動かす自分の思考。最初は気持ち悪かったし上手く行かない事もあったが今は違う。

 

 ……ああ、そういう事か。

 また一つオールフォーワンの強さを理解してしまったのと同時に自分が順調に進んでいる事に絶望しながら腕を振るう。

 

 飛んできた弾丸を腕で逸らし手首で逸らし手の甲で逸らす(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 少しずつ弾丸のエネルギーを奪う様に身体を駆動させ、それを全身で行う。USJで脳無相手にやった受け流しと理論は一緒で、当たれば死にはしなくても骨折程度の怪我。

 

 一通り逸らしてスナイプ先生が俺に完全にターゲットを移行したその瞬間。

 

 嗅ぎ覚えのある香りを感知し、試験の終了を悟った。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふん」

 

 手元にある資料とモニターに流れる映像を見比べて、鼻を鳴らす。

 

 志村我全。

 個性『完全記憶能力』、五感で感じ取ったモノ全て記憶可能であり匂いや音すら忘れる事の出来ない程の個性。オールマイトやエンデヴァーのようなわかりやすい強さは無いが、個人的にそっちの方が好ましい──担任でもありプロヒーローでもある相澤消太はそう思っていた。

 

 なにせ匂いや音を視覚情報と合わせて一生覚えていられるというのは大きすぎる。

 毒を扱う個性や(ヴィラン)が相手であれば一度嗅げば対処法を即座に見極められるし、既存のライフルやピストルの発射音を聞き覚えておけば奇襲に対しても対応できる。

 

 一撃で殺されれば終わりなのは自己再生が可能な生命体以外は共通なので、そういう意味で評価している。

 

 その汎用性は、前線で活躍するプロヒーロー達と経験を積むことで完成する。

 

「……身体強化にしか見えんな」

 

 しかし、相澤は今やその程度の評価では足りないとすら思っている。

 

 志村我全が入学してから見せてきたその全て、全部を理解しているわけでは無いが相澤なりに噛み砕き理解しようとしてきた。

 

 それこそ、この学校の誰よりも。

 どんな教師よりも生徒よりも、相澤消太という一人の教師として見続けてきた。

 

 だからこそ今の異常性を理解した。

 

 軽いフェイントだとか、弾丸相手に躊躇が無いなとか、そんな事はどうでもいい。

 

 問題はあの身体能力──スナイプの放つ弾丸ですら罅割れ程度の損耗しかしない地面を砕き陥没させる脚力だ。面倒な化学式などは当然覚えていないから、あくまで目算ではある。

 それでも相澤の目にはその力は個性(・・)を離れた力に見えた。

 

 同じことを、A組の中で再現できる奴は何人いるか。

 特殊個性を除いた物理強化個性の面々を浮かべた後に、比較対象が軒並み強力な個性を保有する面子だと気が付く。

 

 個性把握テストの際に見せたソフトボール投げの記録、あの時は『脳』というブラックボックスに干渉出来る程に知識を身に付けた志村がリミッターを解除という手法を取ったのかと思っていたが……今の現象は明らかに違う。

 

 ──リミッターの解除には相応のデメリットが存在する。

 

 これが個性把握テスト以降相澤が独自に調べて知った結論だ。

 過去にリミッターが偶発的に外れた人間のデータや参考文献を見つけるのには苦労したが、自分より才能のある生徒が(ヒーロー)を目指して色んなモノを吸収し学んでいる。

 

 志村程優秀であればデメリットも把握していると理解したうえで、相澤も手助けになれればと思い少しずつ空いた時間を利用して探していた。

 

 閑話休題。

 

 リミッターを解除する事によるデメリットだが──端的に言うと、肉体がその負荷に耐えきれず千切れる事象だ。

 

 筋力が急激に身に付く訳では無い。

 生命の維持に必要な蓄えすらも使い切って、通常得る事の出来ない超パワーを手にするのだ。

 

 オールマイトには流石に足りないが、それでも旧世代(ここでは個性発現前を指す)であれば『超人』と呼ばれる程度には。

 

 そして志村我全は、そのデメリットが一切起きていないように見える。

 

 日常的にリミッターを外しているのか? 

 

 そこまで考えて相澤は否と答えを出した。

 仮に日常的に解放しているなら、自ずと肉体に変化が訪れる。まるで異形型個性のように筋肉が肥大化していく筈だ。それが一つも無いという事は……常時解放はしてない。

 

「お……っと、相澤くん。ここに居たのかい」

「どうも、オールマイト。準備は出来てるんですか?」

「ノープロブレム! バッチリさ!」

 

 筋骨隆々という言葉が似あう金髪の男性──オールマイト。

 相変わらず彫りの深い顔を見て日本人離れしてると思いつつも相澤は口にしない。

 

「これは……志村少年か」

 

 そしてオールマイトは、相澤が見ていたモニターに視線を移す。

 捕縛ロープで身体全身を雁字搦めにされたスナイプを尻目に、志村我全と葉隠透が歩いている。走りすらしないのはゴールが目の前にあるからだろう。

 

「正直な所、狙いから少し外れました」

 

 相澤が呟く。

 

「完全記憶能力と透明化──この二つの個性では、スナイプの弾丸に対して正面突破は無理。志村は何度か規格外な所を見せたことはありましたが、それでも弾丸クラスに速く小さな攻撃に対して抵抗する手段は無いと考えていたんですが……」

「私も見ていたよ。再度の弾丸の受け流しはまあ技術であると言い張れるかもしれないが、その前の踏み込みからの加速。アレは……」

 

 二人とも声には出さないが、その答えは一つだった。

 

 ──『志村我全には明らかになってない個性が存在している』と。

 

「……面倒だな」

 

 そう呟きながらも、相澤の脳内では既にどうやって知っていくかのルート構築が始まっている。本人が認知してないならば共に探るし、事情があるのならばそれも加味して理解していこう。

 

 一方オールマイトは、自らの師であり理解者のグラントリノに言われたことを思い出していた。

 

『──志村我全をよく見ておけ』。それは忠告なのか注意なのかオールマイトには判断しかねるが、言われなくてもそうするつもりだった。

 

 志村菜奈に似た顔立ちで、姓が志村。

 それで気に掛けるなと言う方が無理だろう。現にオールマイトは自分の持つ情報網を駆使して少しずつ情報を集めようとしている。

 

 結果は、あまり芳しくない。

 

「志村少年、か」

 

 入学試験の時、オールマイトは同じ想いを抱いた。

 まるで亡くなった恩師の息子(・・)が居たらこんな顔付きなのかと思わされる程の既視感。

 

 だが幾ら探っても出てくる情報は無く、オールマイトは複雑な感情を抱いていた。

 

「ま、悪い奴じゃないんですが」

「……そうだね」

 

 ここ数ヵ月で既に例年を超える密度で事件が起きている。

 USJでの襲撃、インターン先での怪人の出現。何を中心に誰が行っているのか、その全貌は掴めていないが──それでもヒーロー達は情報を集めている。

 

 既に死んだ筈のヴィランの王の復活が近い。

 

 若い世代は潰させない。

 それが相澤やオールマイト達、今の時代を築いた者の責務だ。

 

「そうだ、今の所赤点者はいるのかい?」

 

 一度会話を切り替えるためにオールマイトが話す。

 林間合宿が間近に迫った現在、以前USJの際に情報が漏れていた事を加味し徹底的な情報統制が行われている。各担任と現地を担当するヒーロー、それに加えて校長や警察の一部の者しか知る者は居らずオールマイトもその例に漏れず知らされてない人間の一人だ。

 

 本人的には歯がゆくもあるが、敵連合の狙いの一つにオールマイトの命を奪う事とあった為にこのような措置となっている。

 

「ええ、まあ。数人いますね」

「……お手柔らかにね?」

 

 担任である相澤の厳しさは、副担任として関わっていく内に理解した。ある種自らの師と変わらないかもしれない、と少しだけ思ったオールマイトだった。

 

 

 

 林間合宿──最終章が幕を開ける。

 

 

 

 

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