天と地程の差はあるが、天と地しか選べない。   作:恒例行事

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林間合宿②

「いやー、腹減ったなぁ」

「…………」

「…………」

 

 俺の両隣を歩く二人の女性。

 それぞれ同じ制服に身を包み、片方は制服のみが浮いている状態で、もう片方は耳から長いコードをふわふわさせている。

 

「二人とも腹減った? なんか獲って来るけど」

「……いい」

「私も要らない」

「そ、そうか」

 

 ふう、困った。

 非常に困ったぞ、このやろうめ。

 

 取り付く島もないとはこの事か。

 どうやら先程の無理矢理足を治した事を秘密にしてるせいで、とても拗ねている。

 ベストフレンド耳郎も、愛すべき葉隠との協力で俺を一人ハブってる。

 

 同級生で俺達の事を把握できるのは──……口田かな。

 野生動物と話せるアイツなら、野鳥とかと協力して俺達を探せるだろう。目的地を知らないからどこへ向かえばいいかわからないんだよな。

 

 どうしよう。

 ここら辺にいる野生動物とか殺して食っていいなら喰うけど、流石にそこまでサバイバル性求めるとは思えない。

 

「うーん……どうしたもんか」

「……いや、ね、アンタさ。よく普通にイケると思ったね」

「えー、あー……やっぱ言わなきゃ駄目?」

 

 コクリと頷く耳郎。

 

「いや別にさ、隠してるわけ……なんだけど」

「いいじゃん別に、ウチら誰にも言わないよ」

「秘密を持ってた方がミステリアスで魅力的だろ?」

 

 笑って誤魔化そうとするけど、どうにも目線を逸らしてくれない。

 

「……またそうやってはぐらかそうとして、そんなに信用できない?」

「信用できないって訳じゃ無くて──ああもう、そうじゃなくてな……」

 

 なぜこんな弁解に回らなければならないのか。

 全部全部オールフォーワンが悪い。お前が変な策謀回さなければ俺は学生生活を満喫しているのであって、俺の所為ではない。

 

 証明完了Q.E.D。

 

「ふうぅ~~……っ……真面目な話をすると、俺の都合だから巻き込めない。ああ、でももう、ここまで来た時点でアウトかなぁ……」

 

 もう手遅れな気がしてきた。

 全部話して秘密にしてもらった方が俺も気が楽だし、彼女達二人から信頼も失わない。個性だけ話せば行けるか? 

 

「頼む! 見てない事に出来ない……?」

「ていうかさ──痛くないの?」

 

 耳郎が心配するように言ってくる。

 事実心配してくれているんだろう。その瞳に敵意は無く、真っ直ぐに俺の事を見詰めていた。

 

「痛いけど我慢してる。それはいいんだけど」

「よくない!」

 

 今度は葉隠が声を張り上げた。

 相変わらず透明で見えないが、制服の動きから憤っているのは理解できる。

 

「だって、だってさ! USJの時治ってなかったじゃん!」

「げ、よく覚えてるな……」

「覚えてるよもう!」

 

 何故か怒りを露わにして制服を掴んでくる。

 

「アンタ揶揄ってくる割には自己評価低いよね」

「普通の人間はそこまで他人に興味を持たないって理解してるからな」

 

 俺は記憶能力に優れていて、全て覚えていられる。

 これは異常で、普通の人間はそう多くのことを覚えている訳ではない。

 

「俺の知識欲、と表現するのが正しいかは謎だが──この探求心は個性によるもの。今になってみれば、これも誰かさんの掌の上だ」

 

 俺が生まれた理由も、ここに至る過程も全て仕組まれている。

 そう理解させられた今だが心は折れない。

 

 敷かれたレールの上を歩き、用意された駒と戦い。

 いずれ来る災禍の日まで力を蓄える──それが俺の人生だ。逆らえない、避けられない未来。

 

「我儘なんだよ。俺のさ」

 

 だからこそ、俺は巻き込みたくない。

 親しくしてくれる二人だからこそ、オールフォーワンなんて言う巨悪に遭遇しないで欲しい。俺の切なる希望なんだ。

 

 ……この願いもおかしなことだけどな。

 

 二人はヒーロー志望で敵と戦う宿命にある。それなのに戦わないで欲しいと思うのは、大切だと思うこの感情は俺の独りよがりな想いに過ぎない。

 

『如何にも俗人らしい感性だ。それを踏みにじるのがいいんじゃないか』

『人格が破綻した倒錯者が語らないでくれる?』

『やれやれ、本当につまらない女だ』

 

 唐突に人の中でレスバを始めた両親は放っておいて、青春に真っ向から目を向ける。

 

 以前もこんな事があったな。

 あれは体育祭の時、オールフォーワンと初めて出会った後の事だ。

 色んな情報が雪崩れ込んできて、それを処理しきれずに自分の中で抱えていた時。二人は様子がおかしいと判断して話しかけてきて、頼れと言ってきた。

 

「自覚はある。でも、曲げられない」

 

 覚悟だ。

 俺にとって、避けられない事実。

 これを乗り越えて──俺はやっと、二人に全部話せる。

 

「……わかった」

 

 耳郎が了承を告げる。

 

 ぶすっ、と擬音が付くような不貞腐れた表情で言葉を吐いた感じとても不服なのだろう。

 それでも飲み込んでくれた友人には感謝を示す以外に何も出来ない。

 

「信じてるから」

「……ああ。応えるさ」

 

 本当に、俺にはもったいない友人達だ。

 

「──取り敢えず合流しようぜ。俺の判断ミスではぐれたからな」

「まだ実習の内容も何も知らないしね、ウチら」

「締まらないね……」

 

 

 

 特に何事もなく、耳郎の個性により合流を果たした俺達は教師陣の思惑を知った。

 

『魔獣の森』──そんな仰々しい名前を付けられたこの森を抜け、本来の目的地である山の麓まで無事に到着する事。

 ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの四人によって管理された森は完全に掌握されていて、俺達の様子もある程度は監視されているようだ。あそこで口を滑らせなくてよかったね。

 そこまで聞き取れるかは謎。

 

 肝心の魔獣、つまるところお邪魔ギミックだがこれもワイプシの個性によるもの。

 

 前線を張れるメンバーが一人増えたので、爆豪・轟・飯田・緑谷・俺の五人を主軸に正面突破。

 

「……はい、お疲れさん。大体六時間位だね」

「ははぁ、随分ゆっくり来たね?」

 

 楽しそうに言う相澤先生とピクシーボブ。

 

 どうやらギリギリ俺の怪我は見られてなかったらしい。

 怪我したって言っても勝手に飛び上がっただけだし、他の連中が誰も怪我してない辺り配慮はしてたんだろうな。

 

 土で構築された魔獣はそれなりに厄介だったが、脳無に比べればマシ。あんなクソ耐久クソ個性の組み合わせを相手にしてきた面子からすれば余裕だった。

 

「お昼って時間じゃ無くなったけど、予想より全然早い! いいね君達、期待高まっちゃうよ」

 

 特に君ら──そう言って指さしたのは主力だった戦闘メンバー。

 躊躇いの無さと判断能力を褒められた。爆豪以外は直近の戦闘経験があるんだが、逆に爆豪はどこで経験値集めてんだ。戦闘センスが並外れてるのはわかってるけど確かに疑問ではある。

 

「ツバ付けとこ!」

「ピクシーボブ、みっともないことやめてください」

「これが適齢期を迎えた人間の末路か……」

 

 人類の醜さに慄いた所で今日のカリキュラム、もとい移動日は終了。

 

 食事を終えて入浴、その後就寝して終わりだと説明を受けて──いざ入浴という時にそれは起きた。

 

 

 

 

 

 

「──よォ峰田。何処に行くんだ?」

 

 湯気が立ち、湯の温かさと夏の夜の心地よさが靡く。

 一人孤独に壁際に佇む男──峰田を見て言う。

 

「やかましいんスよ……」

「そう言うな。俺もわかってるぞ勿論──この先だろ、お前が見たい景色は」

 

 壁の向こう側。

 耳を凝らせば聞こえてくる僅かな湯の撥ねる音、女性特有の僅かに高い声。

 薄い壁を一枚越えた空間に異性が裸で入浴しているという事実が存在し、この峰田という男はそれを見届けようとしているんだ。

 

「その浪漫……ああ、俺も理解できる。大いに理解できるぞ」

 

 我が同級生、ヒーロー科A組は美少女が多い。

 

 というか美少女しかいない。

 

 これを言えば犯罪なので口に出してないが、俺はスリーサイズを知ってる。

 書類をハッキングしたわけじゃない。単にわかってしまっただけなんだ。例えば八百万はクラス一の発育お化けであり、その肌を容易に晒す悪癖……もとい価値観が形成されている。

 

 そんなのを繰り返していたらその内見慣れて、「あ、ちょっと育ったな」的な思考が芽生えてしまった。

 

 きっとその時点でアウトだった。

 

 思考を元に戻そう。

 

「残念だが、俺はお前と違って失う物がある。主に女子からの評価と世間体」

「は?」

「いやー、俺はモテるからさ。特定の相手を作ったことは無いけどそういう部分は気にしてんだわ。俺がなんでこういう風に声を出しているかわかるだろ?」

 

 既に峰田は俺の策にハマっている。

 その事に気が付いたのか、「ハッ……!」と神妙な顔で呟いた峰田が目を見開きながら続ける。

 

「ま、まさか……オイラと会話する事で既に……!?」

「ククク、気が付いたようだな。そうだ、もう俺の作戦は終わってるんだよ!」

 

『峰田を利用して株を上げる』──身もふたもない作戦名。

 

 ヒーロー科における性欲の権化峰田が女子風呂を覗かない訳が無く、また、教師陣がそれに対応しないとは思えないが対応しなかった場合俺が『紳士ですよ』とアピールする事が出来る完璧な策。

 声を出す事で峰田に理解を示しつつも、わざとゲスめの発言をして女子から「堅苦しい委員長タイプ」ではなく「軽い軟派なお調子者であるが一線を越えない」というレッテルを張る。

 

 既に俺が匂いとか覚えてると知っている葉隠はこの際除く事にする。

 

「冗談で済む内が華だ。まあ……俺だったら怒られるだけで済むけどな!」

「あれ、そう言えば志村の個性って完全記憶能力だよな?」

「ああ、そうだ──」

 

 上鳴の声に返事を返そうとして、俺は気が付く。

 

 頭の中で警笛が鳴り響き、これ以上進めば死ぬと告げているアラートに。

 かつてないほどの危機感。避けようのない現実が迫りくるような、静かでありながら凄みが滲み出ているこの恐怖。

 

 横目で上鳴の顔を伺えば、コイツも暗黒に堕ちた顔をしている。峰田と二人、まさか……俺を嵌めたのか!? 

 峰田を囮に俺が計算高く攻撃してくると理解して、そこまで読んで!? 

 

「…………なるほどな」

 

 選択を迫られている。

 俺がこのまま言葉を続けるか、それとも諦めるか。

 

 前者はきっと、峰田を止める事が出来る。だが俺の個性で覚えている事がバレる。個性では無いけど。ややこしいからそこは気にしないで行く。

 

 後者を選べば、峰田を止める事が出来なかった情けない男としてレッテルを張られてしまう。女子風呂の声が聞こえている時点で男子風呂の声が聞こえてない筈がなく、今この声は向こうに届いている。

 

 どうする? どう選べば切り抜けられる? 

 

 そこまで考えた所で、ある事に気が付いた。

 

 ──ぶっちゃけどっちでも問題ないな。

 

 既に俺が軟派な奴というのは耳郎・葉隠とのやり取りでバレてるから、どう足掻いても性に大らかな男(限りなく控えめな表現)という総評は変わらない。

 女性陣からすれば男に裸を見られるという事によるマイナスダメージから他の人間が止めなかった事に対しての怒りが増幅する可能性が高い。

 

 と、くれば。

 

「──俺の個性は完全記憶能力。俺は全てを覚えてるが?」

 

 ここは敢えて堂々と行く。

 

「葉隠の甘い香りも、恥ずかしがったり躊躇ったりするけどちょっと一歩踏み込もうとするラインでいつも邪魔が入る耳郎の赤面した顔とか覚えてるが?」

「コイツ無敵かよ……」

「はッ、今更この程度で俺の評価が揺らぐかよ! こちとら入学当初から黒歴史作りまくってんだぞ」

 

 女子風呂の方向からバシャバシャお湯が撥ねる音がしている。

 誰か暴れているのだろうか? 

 

「実際そこどうよ。お前、堂々と二股する訳じゃないよな? そうだったらこの場で電撃流す」

「あー、まあ実際好意的にみられてるのは理解してるよ」

 

 家庭環境で言えば恵まれている訳では無いが、それでもどうしようも無い程追い詰められていたわけでは無い。

 経済面や社会的面では問題ない。ただ、俺は愛情と言うものに疎い。

 

「それが信頼か、親愛か……俺はわかんないからな」

 

 理解はできる。

 共感はできない。

 

 自分自身幾度となく抱いたこの相反する感情を合致させる日がいつか来るのだろうか。

 最近は覚悟が決まったが、それでも「来て欲しい」と願う気持ちが増えている。個性の事、将来の事、人生の事──悩みは幾らでも作れるが、安らぎは容易に作ることは出来ない。

 

「恋愛って何だろうなぁ」

 

 なんでもかんでも答えを求めている癖に、好悪も理解している癖に、愛情にだけは注力しない。

 

 なあ、オールフォーワン。

 アンタは何を考えていたんだ? 

 

 俺を造って、勿論それだって純粋な感情じゃないだろう。

 将来的な計画に組み込んだ膨大なデータの一つ、あくまでサブ。本命は別に存在していてそれすら仕組んでいる。

 

 戯れか。

 愚かにも力を得てしまった女を貶める為にだけ、お前は使ったのか。

 

 こればっかりは本人に聞くしかない(・・・・・・)

 

 引き出して直接対話するか、こっちから出向くかだ。

 

「ま、なんでもいっか。俺はお前らと違って女子の気持ちを理解してるだけなんだよ」

「さっきまでと言ってる事百八十度ちげーぞ!」

「恋愛がわかんなくても乙女心はわかんだよ!」

「お前のソレ、数学的な理解をしてるだけだろ。絶対そうだ、壁ドンとか解説させたら死ぬほどツマンナイ理屈を並べてくるタイプだ」

「本能的な刺激と普段の差異が大きく示しだされて性的な危機感が刺激されてるだけだが?」

 

 上鳴は口を閉ざした。

 おれの高度な言葉に閉口する他なかったようだ。

 

 よって俺の勝ち。

 

「ふー……また一人黙らせたところで先に失礼する。峰田、覗きはやめとけよ。流石に誰も庇えないから」

「うっ、釘差してきた……」

 

 壁際でそわそわしてた峰田に忠告してから立ち上がる。

 湯で温められた身体が風に煽られ冷ややかな空気を纏う。暑すぎもせず、冷たすぎもせず。一番心地いい感触だ。

 

 ……二股、ね。

 

 先程上鳴に言われた言葉を思い出しながら、露天風呂を後にする。

 

 あの絶妙な距離感がいいんだ。

 互いに好意を直接伝える訳でも無し、でも友人と呼ぶには些か近い。

 俺も、葉隠も、耳郎も。薄々感じ取っている。

 

 でも、踏み込めない。

 

 俺が一線引いてるから踏み込ませてない。

 オールフォーワンとの関係さえなければなぁ、もっと行けたけどなぁ。どうしようも無い位に悪辣で最低な人格を持つ親だから、『自分を痛めつけたオールマイトの恩師である女を利用して誕生させた自分の息子の想い人』を利用しない訳が無い。

 

 既に危ないんだよ。とっくに利用される範囲なんだよ。

 だから、離れることも出来ない。

 

 今更離れた所で確実に巻き込まれるだろうから。

 

 俺に出来るのは、いや、しなければならないのは。

 

 葉隠と耳郎を守る事だ。

 

 (ヴィラン)からじゃない。

 巨悪(オールフォーワン)からだ。

 

 それは、それだけは――なんとしても成し遂げて見せる。

 

 

 

 

 

 




話書く時に毎回悩むのがサブタイトルなんですけど、やっぱワートリ形式使いやすくて素晴らしいですね。
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