天と地程の差はあるが、天と地しか選べない。   作:恒例行事

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林間合宿③

「悪いな、早く呼び出して」

「いいえ、そろそろ呼ばれるだろうとは思ってました」

 

 早朝、陽が昇っていない程の早い時間帯。

 AM4:00という深夜とも受け取れる朝に相澤先生に呼ばれて、一人教員室に居た。

 

「今日から行う訓練内容、お前の分だけ情報が纏まりきってないからそこの擦り合わせをしなきゃならん。単刀直入に聞くがお前の個性はどうなってる?」

「あー、まあですよね。俺の方だと把握してますよ」

 

 色々考えた結果、教師陣……相澤先生に話すメリットを優先する事にした。

 理由は幾つかあるが、現状俺の事を最も観察している人だからである。どういう戦い方をして、どういう個性の活かし方をして、どういう人格か。そこら辺を加味した上で合理的に考えてくれるのがこの人だ。

 

 巻き込んでも心が痛まないという部分はある。

 

「俺の個性は『引き出す』。自分の身体機能を引き出す個性っぽいです」

「……なるほどな。理解した、完全記憶能力は副次的な力か。保須で分かったのか?」

「はい。保須で戦闘した時に」

 

 顎に手を当てて考える仕草を見せる相澤先生を尻目に、これからどうするかこっちも練る。

 

 どこまで話すか。

 オールフォーワン関係を話す──それをしてしまえば、合宿どころではなくなるだろう。即座に中止、俺は捜査の方に情報提供するか悪ければ実験室送り。それじゃあ安心できない。

 

 他のどんな奴がオールフォーワンを倒すと誓っても、俺はこの手でオールフォーワンを倒さなければいけない。

 心の底からそう思う。常々脅威に身を晒しているからなのか、俺の生存本能が理解しているのか。確かな事実として、オールフォーワンを殺す事で俺は初めて一人になれる。

 

 殺して死ぬか、殺せず死ぬか。

 

 それならば誰だって前者を選ぶだろ? 

 

「個性届けは再提出しておけ。黒か白なら潔白の方がいい」

「ごもっともですね。で、さっきは流しましたけど訓練内容は何ですか?」

「後で伝える。この後ブラドとすり合わせをせにゃならん」

 

 よく見ると相澤先生の目の隈がいつもより濃い。

 シンプルに寝てないのだろうか、覇気は何時も無いが衰えている様にすら感じる。

 この状態で襲撃されたらひとたまりもないな──最悪の想定だが、考えていないよりマシだ。

 

「なら大人しくしてます。級友たちと親睦でも深めますよ」

「やりすぎんなよ」

 

 ひらひらと手を振って相澤先生と別れる。

 男子部屋に向かう前に、ロビーに置いてあるソファに座る。流石に朝五時起床で早起きする奴は見当たらず、前日の疲労も相まって俺の貸し切り状態である。

 

 そこら辺もズルして回復してるからあまり影響はないが──さて、どうしたものか。

 

 折角時間があるんだ、考え事に励むとしよう。

 

 先ずは今回の林間合宿という行事について。

 徹底的に情報を秘匿して行われていると話には聞いているが、どこまで秘密にしているのだろうか。雄英教師陣でも一部しか知らないのか、それとも一部にすら知らせてないのか。

 相澤先生・ブラド先生・ワイプシ(四人組)で計六名が同行している。他のヒーロー達の姿は見えず、恐らくこのメンバーしかいないのだろう。

 

 それなら確かに情報が洩れる心配はない。

 知っている人間が限られているのだから、漏れたとしても対策がしやすいから。

 

 逆にその秘匿性が破られた時、この状況は一気に不利になる。

 

 俺がオールフォーワンならば絶対に狙う。

 オールマイトもおらず、大事に育てている後継者が自分から守られない場所へ移動しているのだ。言ってしまえば子供が一人で夜道を歩いているのと等しい。

 

 庇護下にない無力な子供が、悪意を持った大人に対抗できるはずも無く。

 雄英側がそのメリット・デメリットを把握してないとは思えない。

 

 それを押し通してでも林間合宿を行う必要があった訳だ。

 

 ……あるか? 理由。

 そんな危険を冒してまで、こんな襲って下さいと言わんばかりの状況を整える必要あったか? 

 

 何か見落としてんのかな。オールマイト不在、オールフォーワンの存在、色んな状況と条件を揃えてみるがどうにもしっくりこない。林間合宿を行う合理的な理由が見当たらないのだ。

 

 訓練なら学校で行えばいい。

 うーむ、なんだろう。

 

「まさか学生らしい事を妨害する訳に行かない、なんて理由じゃないだろうしなぁ」

 

 青春は奪うべきではない。

 その心意気だとすれば称賛はするが、些か舐め過ぎじゃないだろうか。

 悪意の塊、敵の王の名は伊達じゃないんだ。少しずつオールフォーワンの情報を引き出しているがクソみたいな記憶ばかり流れ込んでくる。

 

 しかも、俺が視ているのを理解したような記憶の見せ方をしてくるから余計質が悪いんだ。俺の個性で引き出してんのになんで操作できんだよ、せめて俺の中でくらい大人しくしてて欲しい。

 

『ああ、ヒーローが好きそうな青臭い理想論。その自己に溺れた感情でどれだけの人間が悪に染まって堕ちたか、未だに理解できていないようだね』

「笑わせんな。元々お前らみたいな屑が居なかったら起きねーんだよ」

『これは僕の持論だが、人格を形作るのは教育によるものだ。教え導く先人が多種多様に分岐し様々な思想が増えていけば行くほど社会は混迷し、時代は錯綜する』

「誰かの所為にするのか? 随分とプライドの無い奴だな」

『自分が“したい”と願う事にプライドなんて必要ないんだ』

 

 ああいえばこう言う、ただただ不快な応対。

 

 普段友人達と話している時とは違う。心の奥底から相容れない存在が胸の奥に棲んでいるどうしようもない不快感に、顔を歪めながら話す。

 本音を言えば口を利きたくも無いが、情報を漏らさないとも限らない。

 

 それを向こうも理解しているからこそ度々話しかけてくるのである。

 

 非常に不愉快だ。

 

「頭を潰せば、お前は消えるか?」

『それは無いだろうね。僕は個性に染み付いた人格のようなモノだと思えばいい』

「あー、理解した。俺が生きている限りアンタは生きているって訳か」

『さあ、それをどう解釈するかは君次第さ。僕にとってはそう(・・)だっただけで』

 

 信用できないが、一つの仮説としてこの考えはアリだ。

 個性に人格が宿る──なるほど、今を表すのにこれ以上しっくりくる答えは無い。

 

 俺の頭の中で時々響く女、もとい遺伝子上の母親である志村菜奈とオールフォーワンの声。俺の幻聴や思い込みでないとするならば。

 埋め込まれた因子が引き出しの個性によって反応している──ま、所詮仮説だな。

 

 俺に都合のいい回答をこのクソ野郎がするとは思えないので、半分半分でいいだろう。

 

 それにしたって個性に人格か。

 面白い話だ。科学が個性誕生以前と比べて多様な方向に進化・発展を遂げたのは間違いないが、未だ個性に関してはブラックボックスで溢れてる。個性因子が引き出している、と言う話が通説で個性そのものに人格が宿るならば──卵と鶏がひっくり返る。

 

 人類は突然変異によって個性を生み出したわけではなく、発動しない程度の超超微量な個性因子が全てを支配していた。

 

 ここまでいくと飛躍のしすぎだが、一つの仮説としては取り扱える。

 

「そう言う事実を認識するのがヒーローじゃなくヴィランなのが、まあそれらしいな」

『そうさ。人類はいつだって犠牲と屍の上に発展してきた。少しは僕に感謝して欲しいものだね』

「お前のは偶然だろ。偶然で片付けていいのは倫理の存在しない時代だけだ」

『自分たちのことすら解読できてないルールがなんの役に立つ?』

「社会を崩壊させるよりマシだ」

 

 オールフォーワンの様に、聡く有れる癖に愚かに生きる存在。

 よくいる『世直し』の悪人ではない、世界を掻き乱す圧倒的な邪悪。全ての負の連鎖を愉しみに変換する性根は殺さなきゃいけない。それが社会が定めた最低限のルールだ。

 

「エゴだの矛盾だの、どうでもいい。お前らヴィランが悪だろ?」

 

 ヒーローは守るためにいる。

 ヒーローは生きるためにいる。

 ヒーローは(ヴィラン)を滅ぼすためにいる。

 

「……ま、全部消すことなんざ不可能だけどな」

 

 分かってる。

 分かってるんだよ。

 

 俺がコイツを殺したところでヴィランは消えず、全ての人類が幸せに暮らす世界なんて存在しない。それはヒーローによって縛られた世界で、閉鎖世界(ディストピア)に様変わりだ。

 

 それでも、それを飲み込んで──妥協のラインを探るのが現代だ。

 

「善も悪も、一番上は変わんねえや」

 

 志村菜奈を通して見るオールマイト、オールフォーワン。

 対極の狂気を宿して生まれた存在は相容れず、互いを潰すその瞬間まで争い続ける。宿の廊下を歩いていると、前から耳郎が現れる

 

「あれ、どしたのこんな時間に」

「よっ。いやなに、呼び出しくらったんだよ」

「呼び出しって……思い当たることが多いからウチわかんない」

「俺は超絶優等生なんだが? 印象操作やめてもらっていいですか」

 

 なーにが、なんて言いながら肩を竦める耳郎。

 

「そう言う耳郎はなんで?」

「あー……ちょっと早起きしちゃって」

「まあ今から寝直すのもな。ちょっと話そうぜ──あ、一つだけ釈明しておく」

「?」

「俺は別に二股とかする気ないからな」

「……そ、そう。いや、ウチそう言うの知らないし。ちょっと訳わかんないかな。ウチ別に好きとか言ってないし」

「誰も耳郎のことは言ってないぞ」

「……………………」

 

 頬を掻きながら目を逸らしたかと思えば、顔を俯かせて俺の近くまで歩いてくる。

 

「大体男連中はすーぐ好きだの嫌いだの恋愛方向に発展させたがる。男女の関係はさ、性別だけじゃないんだよな。例えば俗に言う肉体だけの関係もいれば、愛を囁き合いながら肉体的な関係を持たない謎の夫婦もいる。デリケートな話題にズカズカ立ち入るのは勝手だけど、そのアフターケアもしっかりしないとダメだと思うんだよ俺は」

「……アンタ分かってて言ってる?」

「そりゃもう盛大に」

「…………女の敵だわ」

「悪いな。嫌いになったか?」

「あーハイハイ。嫌いな訳ないでしょ」

 

 ため息を吐きながら隣に座る。

 

「ただの朴念仁かと思えば察してるしさ。まあ、否定されないのは、その……正直嬉しいけど」

「誠実か誠実じゃないか、人道的か非人道的か。こんな他人の尺度でなんとでも解釈できる物差しは自分で決めちまえばいい。自分の精神状況を冷静に俯瞰するには、それがどうしても必要だと思うぞ」

「急に難しいこと言うじゃん。……透を泣かせたら許さないから」

「肝に銘じておくよ、お姫様」

「ぶっ飛ばすよ」

 

 なあ、クソ親父。

 因果なもので、自分で選んだはずの選択肢も二択ある。

 どこまで行ってもお前が敷いたレールみたいに付き纏う二択だよ。

 

 でもやっぱり、自分を肯定して受け入れてくれる人がいるのは心強い。

 お前とは違う部分だ。

 

 お前はお前で満たされる。

 俺は俺で満たされない。

 

「今日は何すんだろなぁ」

「先生に聞いたんじゃないの?」

「聞いてない。俺は聞かれたことに答えただけさ」

 

 ふーん、なんて素っ気なく反応する耳郎。

 いつもより、三人でいるときより、ほんの少しだけ──近くに居る気がした。

 

 

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