天と地程の差はあるが、天と地しか選べない。   作:恒例行事

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林間合宿④

「個性強化訓練、ね」

 

 生徒一人一人に沿った方向性を用いて、これまでの肉体の成長や戦闘の経験を積むのとは違う形での訓練。

 個性そのものの強度を増すための限界を測り限界を超える、それが林間合宿におけるメインらしい。だから相澤先生がわざわざ確認してくれた訳だ。

 

「いざとなったら先生が消してくれます?」

「それが仕事だ」

 

 ザ・仕事人の相澤先生は乗り気ではないがやってはくれるらしい。そう言う部分では雄英高校で最も信用できる人物である。

 

「じゃあ早速──『聴覚』」

 

 引き延ばすような感覚を覚えながら、音をどれだけ拾えるか。

 具体的な範囲で言えば半径1キロ圏内まで聞こえるように引き出し──直後、雑多と言えるほどの爆音が濁流となって押し寄せてくる。

 

 岩が弾けるような爆発音。

 氷が砕け炎が燃え盛る音。

 人の呻き声や肉と骨がぶつかり合う鈍い音。

 

 戻そうと思っても戻せないし、引き出したらそのまま解除不可能なのはやはりよろしくない。そこのオンオフができれば一つ山を越えられるんだが。

 

「んー……あ、これか? いや、違うな、もっとこう、多分柔らかくて静かでそれでいて喧しい音……」

 

 試しに一つ。

 この喧騒の山から音を聞き取ってやろうじゃないか。人間の歩く音で、唯一俺が知覚している音。視覚的な情報に頼ることの出来ない個性を持ったクラスメイトの足音を思い起こす。

 

 メタ的な要素を抜きにして考えていこう。

 思考回路を分割して倍の速度を保ちつつ、片方は身長体重体幹バランスを元に情報的に足音を算出する。もう片方では自分の脳に保存されている音・質感を基に探っていく。この思考の渦を抜け出す目標の時間としては一秒単位で短い方がいい。

 

 既存の音声を基に、現在周囲にある音の中から判別して比べれば──算出完了。

 

 必要になるかはわからんが、とりあえず葉隠の足音を間違えることはない。

 引き出して計算する工程も覚えたし応用すれば他の人間にも使えるから良さそうだな。この調子でやっていけば汎用性が一気に広がる。

 

 どれくらいの重さで、どれくらいの身体能力で、それでいてどんな個性を抱えているか。

 

 ターゲットが子供か、大人か、男か女か、人間型か異形型か。

 判別できればかなりのアドバンテージを確保できる。動物の個性を保有するならそれに則った弱点や長所を持っている筈だし、知識は力になり得ないが武器にはなる。

 

 重量級の異形型も人間型も、様々な種類が居るこのクラスは最高の環境と言える。

 

「──よし、覚えた。相澤先生、一回消せますか?」

「俺もお前にかかりきりで居る訳じゃないからな」

「わかってますよ、可愛い生徒がお願いしてるんですから」

「お前補習にぶち込むぞ」

 

 個性を消すついでと言わんばかりに睨んでくる相澤先生の視線を浴びて、聴力が徐々に元に戻っていくのを感じる。

『引き出し』た力と、『脳の機能を弄って外した』力は別物みたいだな。

 

 完全記憶能力は消えてないし、無理くり引き剥がしたリミッターは相変わらず壊れてる。物理的な力に関しては完全に制御できてるからまあ問題ないんだが──まあ、仕方ない。

 脳機能を解明できないうちに個性社会なんてのが生まれたんだ。怪しまれたってしょうがないさ。

 

「対人格闘は問題ナシ、毒物系もある程度身体で確かめてる、後は……アレだよなぁ」

 

 訓練開始初日にして既にやることがなくなったが、後一個だけ残ってるものがある。

 これは個性を伸ばすと言うより、個性の限界点を探るモノに近い。

 

 個性因子の到達点。

 個性社会の渦巻き。

 一人はみんなのために、みんなは一人のために。

 

 その相反する個性を混ぜ合わせた極地──ワンフォーオール・オールフォーワンだ。

 

 正直まだやれる気がしない。

 複数個性の利用に関してはある程度考えてる。徐々に対話(・・)も終えてるし、並列思考(マルチタスク)を増やせば運用も可能だろう。残念なことに、この答えに辿り着いたのは今朝のオールフォーワンとの会話が関係している。

 

 個性とは、その事実に面と向き合ってきたのはヒーローではなくヴィラン。これは避けようのない事実であり、決して公開できない情報。マスコミが取り上げれば、節度をもってヒーロー側を叩く方向に火種をつけてコメンテーターがヴィランへの否定的なコメントをつけて終わりだろうな。

 

 ぶっちゃけ一般人はどうでもいいんだが、それに伴って起きる二次災害と言うべきか。

 今現在最前線で研究を続けている良識と倫理観を兼ね揃えた人物たちが揺れ動いて、それこそヴィラン側へと動いてしまうかもしれない。オールフォーワンが復活すれば個性の果てを合法・非合法なんて気にせずできるんだ。

 

 批判も何も気にせず、自分たちの苦労が報われる可能性が高いなら……ま、可能性の話。

 オールフォーワンの復活なんざさせないさ。

 

 閑話休題。

 

 ざっくりとやるべきことを並べれば、

 

 ・ある人物達との会話

 ・その上でどちらかを選ぶ

 

 この二つか。

 

 オールフォーワンと戦う前に脳無との戦闘もあるだろう。

 USJ・保須を参考にするのは正直怪しい気もするんだが……俺の中のオールフォーワンはそんな情報1ミリたりとも落としてくれないので、当たり前ではあるが、ない部分は補正するしかない。

 

 素の力でオールマイトと殴り合える、それでいて複数個性持ち。

 

 確定している事実はこの二点か。

 今更俺を警戒するとは思えない、思えないが──無策ってこともないだろう。既に爆弾が仕掛けられている可能性も含めて精査するべきだな。

 

 そしてそれ以上に警戒するべきなのは、ヒーローが敵に回ること。

 

 俺は明確にオールフォーワンが悪であり害悪であると理解しているが、ヒーロー側がどのように対処してくるかは不明だ。

 あー、よく考えたら手を回してこないわけないな。あの性格の悪さで用意周到な怪物がやってこないわけがない。ある意味信用すらある。

 

 ヒーロー側をなんとか無力化して、脳無を代表としたヴィラン共と戦って、ようやくボス戦。

 

『俊典は?』

「オールマイトは全盛期をとっくに過ぎてる、エンデヴァーが弱いとは思わないがタイマン張れるとも思えない。次世代、もとい俺たちもまだまだ力不足。未来を捨てればワンチャンあるんだがなぁ……」

『私はともかく、OFAは本っっっ当に極僅かしか無いの。それに賭けるのはリスクがありすぎる』

「でもそれしかない。ヤツの定説を信じるなら、この声が幻じゃ無いとすれば──AFOを引き出せば終わりだ」

 

 脳無を突破する方法はひたすら行動不能にするしか無いんだが、その手段もまあまあ限られてくる。

 身体能力の引き出しは非常に有効だが、俺のフィジカルは所詮人間の範疇でしかない。人体を超える怪物性を誇るワンフォーオールを十全に扱えるなら違うんだが──ないものねだりはよそう。

 

 関節を破壊するとか、一度の損傷で動けなくなる程に傷をつけるとか。

 

「今の時代殺人拳なんて流行ってないしなぁ」

「アンタまーた物騒なこと言ってんね」

「これはこれは、響香(・・)じゃんか」

「………………ん」

 

 耳たぶ、ではなくイヤホンジャックの先端がボロボロになったベストフレンドが歩いてきた。

 俺が思考を回している間に昼になったようで、一度小休憩を挟みにきたらしい。

 

「個性、個性なぁ……響香の個性って限界を迎えるとどうなる?」

「見て分かる通りボロボロになるし、痛いし、伸縮性もかなり悪くなる。一番悪いのは音質が劣化することかな」

「音質かよ」

「音楽にはこだわりがあんの」

「いいこだわりじゃんか」

 

 痛いと言う割にプラプラ動いているイヤホンジャックを手に取って、先端部分を注視する。

 

 人体には本来存在してない器官ではあるが、臓器に直接干渉してるわけじゃないだろうし影響は少ないんだろう。音の伝わり方に関しては通常時とイヤホン状態に差はあるのだろうか? 

 一昔前のスマホとかについてるイヤホンジャックに形は似ているが、本質的に大事なのは効果だ。この形だからこの効果なんだろうか? 

 

「ちょっと、その、聞いてる?」

「んー」

 

 触った感触は響香の肌と一致してる。

 引いたら引いた分だけ伸びるんだが、この質量はどこから生まれてるんだろうか。個性ってブラックボックスすぎてたまにエネルギー問題を解決してる時があるんだが、それらの要素を解明して科学にするのが人類じゃなかろうか。

 

 待てよ。

 今、何かを見落としたぞ。

 

 何か大切なワードだ、多分、これは見逃しちゃいけないもの。

 

 オールフォーワンとの問答の中で一度触れた。俺はそれを覚えている。

『個性に人格が宿る』、そうだ。前提を間違えるなよ、今親と子が逆転するかもしれない時代の節目にいるんだ。

 

 個性に人格が宿る。

 ならば、個性とはなんだ? 一体何から発生している? 

 

 そうだ、それだ──個性因子。

 

 ……ああ、そうか。

 個性にとって大事なのは、個性そのものじゃない。

 

 個性因子──これか! 

 

 イヤホンジャックから手を離して、個性を発動。

 人差し指の爪を一気に成長させて簡易的な刃物に変化させる。

 

「いきなり……って、何して──」

 

 響香が何かを言い終えるより先に、自身の左手首を切り裂いた。

 溢れるように血が流れ始める。

 

「ちょ、何やってんの!? 早く治しなっ」

「響香」

 

 慌てて声を荒げる響香の口を右手で塞いで、流れる血液を見る。

 先程聴力を引き出した時と同様に──今度は視力を引き出す。参考にするのは顕微鏡だ。幾重にも重ねられた技術の果てに肉眼で細胞を可視化した素晴らしい技術を、ここでも使わせてもらう。先人の知恵に倣うってヤツだ。

 

 十倍、二十倍、五十倍、百倍──細胞の隅々を見通し、それを処理する事の出来る脳機能を利用する。

 

 血液を潜り、細胞の隙間を抜けて──見つけた。

 

 個性因子の胎動(・・・・・・・)を。

 

「…………ふ」

 

 ああ、見つけた。見つけたぞ! 

 他者のサンプルは無いから確証はないが、俺には今奇妙な自信があった。

 

 これだ。

 ここに答えが詰まってる。俺の人生を左右する、いや、俺の人生をここまで導いてきた運命が。

 

 感覚は掴んだ。

 個性が宿るってのはこういう事か(・・・・・・)

 

「はは、ははははッ! なるほどなるほど、そーいう事ね!」

 

 全部を把握したわけじゃないが、一手増えたのは事実だ。

 脳無の肉体的な強さを超えて、俺の、俺だけが使えるオリジナルの攻撃手段。これを実用化できれば『個性』と言う枠組みから外れる事だって可能──ああ、そうか。オールフォーワンの到達点は、これか。

 

 最終的な位置はここにあったんだな? 

 

「サンキュー響香。多分、いい事だ」

「……そ。なんか懐かしいね、アンタの奇行も」

「失礼な! 俺の行動はどれも論理的に効率的に考えられた末の動きであって、突発的感情的な動きじゃあないんだ」

「どーだか」

 

 全く信じてないな? 

 終いには泣くぞ、俺が。

 

「なんで泣いてんの!?」

「いや、こう言うこともできるぞって脅し」

「意味わかんなすぎるでしょ!」

 

 こうやって俺が泣いていれば誰かが助けに来てくれると言う打算込みである。ヒーローは守るべきものが多くて、それでいて泣いてる人を助けるんだぜ。

 

「あー! 響香ちゃん泣かせたー!」

「あーもーややこしい事すんなバカ!」

 

 背後から抱きついてきた甘い香りと柔らかな感触で一瞬涙がひいたが、響香にバレたらヤバいことになるので隠しておく。女の子のコンプレックスは男が思っているより根深いものなんだ。

 

「こらそこ、ふざけてんなら全員補習にぶち込むぞ」

「響香、ちゃんとしろよ」

「お前だよファッション優等生」

「ファッション優等生!?」

 

 担任とは思えない罵倒に思わず驚きを示してしまった。

 俺は誰がなんと言おうと優等生なんだが? ファッションで全教科満点が取れるかよ。

 

「騒ぐのは後にしとけ。三日目を楽しみにしとけ」

 

 三日目……一応何か用意してるのだろうか。

 生徒主導でイベントをやられるよりは教員で把握できる範囲でやった方が安全だし合理的、と言う訳か。

 

「相澤先生もそう言うこと言うんすね」

「実に不合理だが、ゴリ押しされたからな」

「ああ……」

 

 相澤先生が先陣切るとは思えないから上に言われたか、ワイプシが言ったのだろう。実にヒーローらしい青春論だ。

 

 でもまあ、悪いもんじゃない。

 今はそう思えるよ。心に余裕ができたから。

 

「何も起きなけりゃいいんですけどねぇ」

「……縁起でもないこと言うな」

 

 全くだ。

 珍しく相澤先生と意見があったところで、午後の訓練が始まる。

 

 三日後、どんなイベントが待っているのか──少し楽しみだ。

 

 

 

 

 

 




Twitter、ユーザーページに載せたので、興味あれば……(本編と関係なくてごめんなさい)
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