天と地程の差はあるが、天と地しか選べない。   作:恒例行事

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林間合宿⑤

 林間合宿三日目、予定通り日中の訓練も終わり一日の行程が過ぎた時間。

 

「と言うわけで今日は肉じゃがを作ってもらうよ!」

「もうこれ趣味入ってないか?」

 

 ワイプシ指導の下、自分たちの飯は自分たちで作れという指令が入ったので作っているんだが──いや、うん。自分達で食べる分だしさ、いいんだけどさ。

 

「いやー、我全くんと一緒なら問題ないね!」

「ふ、まあ? ファッション優等生とか罵られたけど俺根本的に優秀だからさ」

「いいから手を動かせボケカスが!」

「うわ、懐かしいなそれ。バクゴーくんも寂しかっただろ?」

 

 死ねカスと叫びながら野菜を切りまくる爆豪。

 器用に熟しているが言っていることは相変わらず暴力的なので、そこら辺矯正したほうがよかったんじゃないだろうか。

 

 少しは俺を見習って欲しいね、やれやれ。

 

「味付けは任せとけ。絶対に失敗しない肉じゃがを作ってやる」

「わーい頼もしい! 一緒にやろーね!」

 

 ぴょんぴょこ跳ねる()、そのたわわに実った胸部(直球)は目に毒なので非常にやりづらい。

 そう言う点では爆豪は一切気にしないので、その強気のメンタルは俺も参考にしたい所存であります。いや実際気にするよね、響香・透の二人は魅力的な癖に気にする素振りがないから困る。

 

 しかもアピールしてくるもんだから堪ったもんじゃない。

 嬉しいけどな。

 

「家庭的って点で考えればこのクラス、みんな何でも出来るよな──俺が一番だがな!」

「な訳ねぇだろぶっ飛ばすぞ! 一番は俺だ!」

「いいぜ、勝負しようじゃないかバクゴーくん。お題はキャベツの千切りタイムアタックだ!」

「上等ォ!」

「肉じゃがでキャベツの千切り……?」

 

 そうと決まれば話は早い。

 八百万にまな板と包丁を生成してもらい、余ったテーブルに俺と爆豪が横並びに待機する。食べ物で遊んでるわけではないのでセーフ。

 

「俺とお前では格差が存在している。爆豪、お前はそれを理解してないな?」

「ハッ、言ってやがれ」

「科学的に、理論的に野菜を調理できる俺に負ける要素はない。誰から見ても明らかな勝負で申し訳ない……」

 

 音速でフラグを打ち立てているような気もするが、多分大丈夫。

 おふざけの時はあまり厄介な方向に話がもつれこまないようになってるのさ。応援してくれている透のためにも負けてらんねぇな……! 

 

「あれ? でもかっちゃん、中学の時に家庭科で志村くんと同じ班だったよね」

 

 ──突如介入する緑谷出久! 

 定期的に空気を読まないと言われる彼の一言が的確に記憶を呼び起こした。確かに中学時代に一緒の班で勝負して、しかも俺の圧勝で終わった気がする。

 

 爆豪の顔を覗いてみれば、『マジで余計なことしやがって』と言わんばかりの目つきで睨み付けている。これから犯罪を起こす前科持ちのヴィランと言われても違和感ないぞ。

 

「……すぞ!」

「アウト! 爆豪を抑えろー!」

 

 切島を筆頭に暴れようとする爆豪取り押さえ班の介入により、無事事件は解決された。

 

「また一つ俺が勝ちを重ねてしまったな……」

「今の勝ちでいいの!?」

 

 いいんだ透。

 勝負の世界は非情でな、俺と爆豪は数え切れないほどに潰し合いをしてきた。あいつも敗北を認めてるだろうよ。

 

「クソボケがァ!! 負けてねーぞ!!」

 

 やれやれ、困っちゃうね。

 そしてそんな風にふざけている俺たちを見かねて相澤先生が一言。

 

「遊んでないでさっさと飯食え」

 

 

 

 

 

 

「夏だ!」

「合宿だ!」

『──肝試しだ!』

 

 ウェーイ! 

 

 シリアスを自力で吹き飛ばした俺たちを出迎えたのは夏の風物詩である──肝試し。

 事前に決められたルートにA組とB組でそれぞれ驚かせあうらしい。私有地につき個性の使用は自由だそうだ。私有地って便利だな。

 

「班分けとかは自由にやれ。ただまァ、残念なことに──補習組はこれから補習ね」

「ウソだろ!?」

 

 相澤先生の捕縛ロープにより捕らえられた数人が運ばれていくのを見送りつつ、八百万が用意したクジ箱に手を突っ込む。

 

「響香来い透来い響香来い透来い……!!」

「志村さん欲望だだ漏れですわ……」

「ここまで行くとウチも引くわ」

 

 野郎と二人きりで肝試しは流石にあり得んからな。

 俺は全力で女の子、それも仲良い二人を引いていく。そのためならどんな細工だってしてやるさ。

 

「ぬ、ぬあッ……これだッー!」

 

 魂を込めて引いたクジ。

 今クジ引きを終えたのは男が二人と女が一人、響香透の二人ともまだ引いてない。まずは第一段階として誰も引いてない番号を引く必要がある。

 

 まあ、確率的に考えれば? 

 この状態で誰ともペアじゃない番号札を引く可能性の方が高いんだ。

 ここは悩むタイミングじゃない。ここは大丈夫だ。

 

「2番──!」

「あ、爆豪さんと同じですわ」

「クソですわ!!!」

 

 ジーザス。

 神は死んだ。

 

 天を仰いで絶望を表現するほかない。

 どうして俺はこうなんだ。こんなにも絶望することあるか? 俺は悲しいよ。いい夢くらい見させてくれよ、終いには女子部屋に正面から入るぞ。

 

「よぉ……爆豪クン……」

「テメェ……何引いてんだ……!」

 

 今この瞬間、俺と爆豪は同じ思いを抱いた。友情パワーを使えるようになる日もそう遠くないのかもしれない、そう感じさせるくらいには共感した。

 

「交換システムあり?」

「駄目ですわ、公平性に欠けますもの」

「響香! 俺と駆け落ちしよう!」

「は?」

 

 騒ぎ立てている俺たちを尻目にくじ引きは進行していく。

 五人補習で二人一組、絶対一人の枠が生まれるので、まあ一人じゃないだけ……マシ……か……? 

 爆豪と二人きりか、それとも俺一人で遊ぶか。くそっ、意外と悪くない選択肢だぞ。八百万の買収に力を注ぐべきだった! 

 

「あ、緑谷一人枠じゃん」

「ケッ、お似合いだぜ」

「息ぴったりじゃんアンタら」

「あ゛ぁ゛!?」

 

 急にキレる爆豪にツッコミを入れていく響香。そう言う点では強かになっている、多分入学当初から俺と絡んでるからだな。

 爆豪を一番いじってる人間がここにいるから超えちゃいけないラインを理解している。

 

 自業自得なんだが。

 

「ま、折角のイベントだし個性は抜きだな」

 

 聴覚とか軽く引きだせばネタバレし放題だけど、それじゃあ、楽しんでるとは言えないだろう。

 俺の鋼の心臓を驚かせる人材がB組にいるのかどうかは不明だが、楽しんでいこうじゃないか。そこら辺の反射的なシステムも俺は勉強したからな、この分野において素人に負けることはない。

 

「バクゴーくんが驚いてるところは正直見てみたい」

「驚くわけねぇだろはっ倒すぞ!」

 

 一組目が森に入ってから三分後、俺たち二組目も森の中に入る。

 森の中に入るのは二度目だが、雰囲気が少し違う気がする。昼と夜じゃ活動してる生物も違うからどうしようもないものではあるが、この落ち着いた空気感の中に絶妙な緊張感──B組がそれだけ本気ってことか。

 

 いや、でも、なんか、見られてるって感覚がなぁ。多い気がするんだよな。

 そう言う個性の可能性もあるしな、そこまで全力で疑いかけてもアレか。ここは大人しくスルーしておこう。

 

「お、そろそろ来るんじゃね」

「ビビるわけねーだろカス共が──」

 

 ヌッ、と足元から浮いてきたB組女子。

 先を歩いていた爆豪の体が一瞬ビクリと反応し、震えたのを見逃さなかった。

 

「ナイスプレー」

「ん」

 

「b」と指を立てて、ターミネーターさながらのポーズで地面に潜っていったB組女子を見送って静かに爆豪が歩き出す。

 

「身体は正直だな、爆豪」

「殺すぞ!」

 

 ワハハと笑いながら付いていく。

 これで相方が女子だったら最高なのに……どうして爆豪なんだ。

 

 響香だったら今のシーン、「ぴゃっ」とか言いながら驚いて俺に寄りかかってくる。向こうは焦ってるからあんまり気にしてないんだけど、ちょっと時間が過ぎてから離れるんだ。「ご、ごめん」とか言いながら離れる響香の体温と香りが残ったまま名残惜しく『今度はこっちから行くから』って揶揄えばもう満点さ。

 

 妄想だけどね。

 

 透だったら今のシーン、「ひょええ〜!」って言いながら飛び跳ねて俺に抱きついてくる。わーわー騒ぎながら走って駆けていく透に合わせて俺も走り、ようやく姿が隠れたあたりで「ビックリしたねー!」って笑ってくれる。ニコニコ笑ったまま(※顔は見えてません)俺の手を引いて歩いていく透は満点以外につけようがない。

 

 妄想だけどね。

 

「マジで悲しくなってきた。峰田と上鳴の気持ちがよく理解できるわ」

「気色悪ぃ……」

 

 爆豪、たまにこうやって引く。

 失礼なやつだよな。

 

「ハア〜ア! 俺も青春してぇよ!」

「喧しいわボケが!! 雰囲気崩れるだろうが!」

「意外とそう言うの気にすんのな、ギャップあるぜ」

「……すぞ」

 

 再度殺意の波動に目覚めようとしてる爆豪は置き去りにして、次の仕掛けも楽しみにしておく。

 割とB組の驚かせようと言う気合いが十分なので期待できるな──そこまで考えて、違和感を覚えた。

 

 すん、と鼻から入り込む臭い。

 焦げ臭い、何かが燃えている臭いだ。木が燃えているのか、それとも別の何か──これは驚かせる内容に関係ないだろう。

 

「爆豪、気付いてるか?」

「あ? 何のことだよ」

 

 爆豪ですら気がつかないレベル、か。

 デフォルトで五感を強化していたのはいいとして、山火事にしては騒ぎが少なすぎる。ワイプシのメンバーが見逃すとは思えない。ならば状況を把握しなければ。マンダレイのテレパシーが来ないってことは、今仕掛けられている(・・・・・・・・・)──! 

 

「『聴力』」

 

 通常行動も可能な程度に聴力を引き出して、周囲の状況を探る。

 人間の呼吸、木々のさざめき、わずかに火が飛ぶような弾ける音。わかりやすい例で言えば炭に近い。何かしら火で燃やしているのは確実か。

 

「襲撃か? わからん、要救助者になるのはマズい。道を引き返すぞ──」

 

 

 

 

 

 

 

『──ミ、ミミ、見つけタ』

 

 

 

 

 

 

 

「──は?」

 

 おぞましい声が耳に入ったと思えば、次の瞬間空に投げ飛ばされていた。

 反射で腕を交差させて防御態勢は取っているが、それを貫通してあまりある衝撃が内臓を叩く。胃の奥底から喉を通過してこみ上げてくる吐き気を無理やり押さえ込んで、正体を見極めるために思考を分割する。

 

 声の照合──データ無し。

 物理的な攻撃の照合──一致無し、類似ダメージに『脳無』が存在。

 

 ひしゃげた腕を治すために回復力を引き出して、視力も同様に引き出す。

 

 既に落下が始まっているが脳無(仮)が追いかけてくることはない。動体視力も高めておく必要がある。

 これは訓練でもなんでもなく、既に戦闘が始まった。ヴィラン共の襲撃を受けていると確定させたほうが良さそうだ。

 

 無許可での戦闘は違反だが──戦わなきゃ死ぬなこれ。

 

「──爆豪ォ! B組の連中回収して」

『オ、オ前、ツ強イって言ワレた』

 

 伝えきる前に瞬間移動さながらの速度で目の前に現れたその正体を見る。

 全身は黒く染まっており、顔は千切れた出来損ないの雑巾見たいな形状をしている。四本足を獣のように立てて、背から生えた翼が大気を仰ぐ。

 

『コ殺してもイイ、言われタ!』

「ちょ──」

 

 引き出した視力ですら捉え切れないほどのスピードで振るわれた腕に何とか反応するが、実際ほぼ直撃みたいなもんだ。

 ギリギリ腕を挟み込むことには成功したが、そんなのを意に介さない威力で地面に叩きつけられる。

 

 着地の寸前に位置を調整して、辛うじて大ダメージで抑え込む。

 

 両手足、肋骨、内臓もいくつかイカれた。

 呼吸が苦しいが個性を使う冷静さは無理やり保ち、再生速度全開でぶん回す。ミチミチと激痛を伴って修復されていく骨と肉の感覚を気持ち悪く感じながら、視界がクリアになっていく。

 

「……はぁ、俺の相手こんなんばっかだよ」

 

 ただまあ、こいつ相手に可能性があるのは……俺か緑谷だな。

 轟がワンチャンあるくらい。全く、試練が厳しくて泣いちまうぜ? 親父殿。

 

「お前、名前は?」

『のノ脳無』

「喋れる脳無、ね」

 

 既に十分性能の高さは味わったが、これは相当無理しないとヤバそうだ。

 勝てる可能性は低い。マジで針の穴に糸を通す確率だ。

 

 特別製を誕生日プレゼント代わりに寄越したってか?

 

 一度深呼吸をしてから、構える。

 脳のリミッターは外れている状態で、さらに身体能力を引き出す。それくらいやっても互角にすらならんだろう。

 

「──いいぜ、ぶっ飛ばしてやるよ」

『無理ムむり、俺の方ガ強イ』

 

 

 

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