──音の速度を超えて、衝撃波を撒き散らしながら横薙ぎで振るわれる腕。
伸び縮みのリーチでえげつないことになっている攻撃を避けながら、潜り込むように懐まで潜り抜ける。
「あんま環境破壊するもんじゃないぞ!」
勢いを殺さないまま回し蹴りを放ち、胴体部分へと当てるが──ダメージ無しか。怯んだ様子すら無いから、純粋な耐久力で火力を凌がれてる。
脳無の強さで言えば、コイツ>USJ>保須ってところか。
USJの時と同様に、最も有効的なのはカウンターなんだが……対策済ってことね。
リーチが長けりゃカウンターの対策も出来て、しかも手数も増やせる。単純が故に厄介だ。
関節部を破壊したところでどうせ再生持ちだろうし、天敵。
「だからどうしたって話だ」
コスチュームに搭載してる道具も無し。
連絡手段は既に喪失してる。
孤立無援なのは奴も同じで、むしろ俺が相手をしている限り他の奴に被害が向かわないからそれを有り難く感じるくらいしかない。
『オ、おおオおオオオぉ!』
胴体から無数の針が飛び出してくるが、速度はそれほどじゃなく。見切れる程度のスピードだから両手で捌いて、一歩外に引く。
空中に飛ばれた場合は木を利用して飛び込むくらいしか手段がない。
その木は薙ぎ倒されてるから、まあ近づく方法はないが──薙ぎ倒された木は武器になる。振り回してもよし、投げ飛ばしてもよし。再生能力で自壊スピードを上回ればもう少し無茶できるんだが、それは後でいい。
次の手がなくなった時点で試せばいいんだ。
懐に入れば近距離を殺せる太い針、離れれば伸びる両手足で攻撃。
防御能力にも長けている上に再生もするときた。
「実質完成品って感じか?」
『よよソ見すルナ!』
視力を強化し、脳無の身体を見る。
黒い体色をしているとは言え、筋肉の脈動は見える。それを利用して先読みするしかない。
後もう一つ増して、今俺がぶん回している状況の俯瞰用に用意した。
かなり頭痛が響いたが、この程度なら抑えていける。
俺は人類で最高峰の頭脳を有しているんだ、この程度超えていけ。死ぬわけじゃない、脳機能を信じろ。
鞭のようにしなる腕を、身をわずかに捩ることで回避する。
引き揚げろ上乗せしろ。強化の歪みを無くして動け。俺が奴に追随するにはそれしかない、まだ、
ギュルルルル! と、機械音にも似た音が響く。釣りの際にリールを巻き取るような、あの音に似ている。改造人間だからって何でもありになりすぎたら困るぞ、脳無。そこら辺の風情は残してんだろ?
「──ふぅッ!」
踏み込む。
腕と足を振るうパターンを絞って、その上でどのルートを通ればいいか計算した。
ある程度癖が残っていたから、それを複数回データをまとめることで算出したんだ。信憑性はそれなりにある。
『お?』
「超パワーってのは──類稀な力だから、超なんだよ!」
ポンポン量産するのは勘弁して欲しいね、こっちは純正人類の身体で頑張ってんだ。
狙い通りに攻撃してくるラインに沿って回避行動を行い、そのまま前進を続ける。
どれだけ性能を積んだところで、経験の差は覆せない。
俺がコイツに唯一勝てるアドバンテージはこれだ。既に同型の、下位互換ではあるものの、脳無との戦闘経験があること。どいつもコイツも同じパターンではないが、それでもある程度の方向性は絞れる。
USJはともかく、保須は俺目掛けて飛んできた。コイツも同様に俺目掛けて飛んできた。
知性は比べるまでもなくコイツが一番上で、強さ自体もコイツが一番。だから情報は話半分で抑えて、盲信することはやめる。
殺す殺さないとか、そんなことを考えられる領域じゃない。
だからここでは戦闘不能──確実に動けなくできる、頭を狙う!
飛び跳ね、身を捩りながら接近し──
「…………ぁ゛……」
視界が赤く染まってる。
今どうなってる?
どれくらい意識無くなってた。
あー、クソ。オーケー、思考時間を加速させる。頭痛が喧しいがある程度は飲み込むことにしようか。
まずは記憶の復元と、現状の把握の二つに分ける。
その上で現状の把握をさらに細分化。視界・音・匂い・身体機能の回復を並行する。これほど数を増やしたことはないが、脳が焼き切れる前に脳も再生すりゃ間に合うだろ。
無理を押し通す。それ以外に縋り付く方法はない。
食らったのは胴体部分からの攻撃か。
針だけかと思えば、よくわからん杭見たいなモンぶっ放してきやがった。サイズが統一されてたから針を出す個性かと思ったんだが、こりゃやられたな。
戦闘IQもしっかり備わってる強個性複数持ちとかオールマイト案件だろ。
あぁ、呼吸が上手くできないと思ったら、胸部ブチ抜かれたな。
再生の優先度をそっちに回して、とりあえず生存優先でいく。幸いにも、と言っていいかはわからんが俺を死んだと判断したらしい。まあ胸部に穴が空いた人間は死んだと判断する、俺だってそうするわ。
少しだけ動くようになった腕を動かして顔を拭う。
月の位置はそんな動いてない。多分、五分も気絶してないと思うが──全滅してないことを祈る。
生まれたての牛とかそう言うレベルでプルプル痙攣してるけど、それを無視して立ち上がる。
大丈夫、ここまでで大分再生できた。
ただエネルギーが切れてる。
この騒ぎの中じゃあ動物も近くにはいないだろう。
即効性のエネルギー、補給できるものは……あるには、ある。
「ただ、まあ、流石に……嫌だわ」
ぶっ飛んだ贓物が散らばっている。
自分の保有する菌とかに免疫力がやられなければ問題ない。そこは無理やり引き出して対策することにしよう。千切れた肺? の破片かな。
一度呼吸を挟もうとして、気管に何かが詰まったのか咳込む。
呼吸困難はマズい、対策のしようがない。
震える右手に力を込めて、手刀の形に揃える。
──全力で、自身の喉へと突き刺す。
痛い。
猛烈なほどの熱が、激しくのたうち回りたくなる痛みが襲ってくる。ああ、ダメだダメだ一回遮断しろ痛みを堪えろ!
脳機能を弄ってアドレナリンを大量に放出する。人工的な麻薬に頼るに限る。
「──……ふ、ぅ」
引き抜いて、塊になって詰まってた血を地面に捨てる。
治り切らない喉を気にせずに口の中に胃の破片を放り込んだ。
味がするのも気持ち悪い。
味覚を遮断するために脳機能をちょっと弄る。これは引き出す個性とは違う、一つ超えた先にある手段だ。ここまで精密にいじれたのは今回が初めてなんだが、死に瀕すれば強くなるって漫画のキャラクターみたいだな。
咀嚼して、飲み込む。カニバリズムに目覚めてはないが、緊急時に摂れるエネルギーとしてはありだ。倫理観が失われていくのが欠点。
聴力を強化し、周囲の音を探る。
あの脳無が暴れている音はしない。上を飛ぶにしても羽ばたく音すら聞こえなかったことから、物理法則を無視しまくりのジョーカー。そんなチート野郎生み出してんじゃねぇよ。
「ん──透?」
「あ、あはは、我全くん……大丈夫、には見えないんだけど……!」
「ちょっと下手打ってな。マジで死にかけたわ」
聞き覚えのある音が混ざってると思えば、どうやら俺たちの後に入った透・響香ペアが近づいてきてたらしい。
「ヴィランが襲撃してきたんだが状況は把握してるか?」
「いや、まあそれなりには……それよりアンタ大丈夫なの?」
「生きてるから問題ない。ちょっと血塗れだけど」
「それは大丈夫って言わん!」
白いTシャツを二人とも着てるもんだから、思わず近づくのを躊躇う。
「マンダレイがテレパシーで状況を伝えてくれたんだけど聞いてないの?」
「あー、聞いてない。ちょっと気絶してたから状況が飲み込めてないんだ」
「複数人のヴィラン、後手に回ってる、戦闘許可が下りてる」
最低限抵抗しろってことか。
あの脳無クラスが三体、いや、二体いれば俺たちは詰む。
どうする? このまま動いてどうにかできるラインじゃない、ここで考えて答えを出していかなければならない。
クラスで戦闘要員として今期待できるのは轟・爆豪・緑谷・飯田……他にもいるが、とりあえずはこのメンバー。轟・爆豪で炎を出して森林を明るくしてもらうか? 空に浮いてる脳無を見る手段はあるにはあるが、あー、でも、どうする。
決戦なんて状況じゃないのに、最終防衛ラインを容易に突破されてる。
俺のことを躊躇なく殺してきたんだ。他のやつを殺さないとは思わない。
「まだ誰も死んでないな」
聴力で聞いた感じ、クラス全員の音は把握できた。
B組がちょっと怪しいが、それでも昼の訓練である程度は聞き分けたから問題ない。黒色に混じる奴とかいるから信じれるかどうかは難しい。
優先順位を決めよう。
・脳無の位置を特定。
・クラスメイトの避難。
・脳無他ヴィランとの戦闘。
保須の脳無程度にはタイマン張れるメンバーと合流させて、俺は脳無探しをした方がいいな。
俺一人だと勝てる可能性はマジで低い。ほんっとうに低い。普通に殺されるのがオチだろうし、送り込んできた向こう側の思惑を想定すれば俺の動きも完全に予測済みだと考えるべきだ。
俺が一人で戦えば死ぬ。
他の連中と共闘すれば他も殺せる。
俺が個性を引き出して、新たな状態に飛躍しても美味しい、か。
ったく、大物のくせに狡猾だからヤになるね。
『──気付いてるかい?』
「あ?」
『
唐突に話しかけてきたオールフォーワンの言葉。
何のことだ?
一体何が外れている?
リミッター? そんなわけはない、今更コイツが指摘してくること自体がおかしい。倫理観か、それとも道徳的な話か。いや、この状況でそんなことを告げる理由はない。外れてきている、まだ俺はヒーローとして問題ない立ち位置にいる筈だ。
そこまで考えてから、自分の思考が一度途切れたのを自覚する。
『い生キきてるじゃなイいか』
強化した聴力が聞いたのは、その言葉のみだった。
次の瞬間には風が舞い、わずかに視界の中で動く脳無を捉えた。辛うじて動かした両腕で防御の態勢を取ったが──読みが
脳無の狙いは最初から俺じゃなかった。
いや、正確に言うと俺が狙いだが──俺の【個性】が狙いだったんだ。今理解した、どうしてオールフォーワンが唐突に声を発したのか。他人の人格内部にしか宿れない癖に今出しゃばってきた理由。
『──ああ、我全。このままじゃあ……』
交差させた腕の隙間から脳無の動きを追い続ける。
俺の横を過ぎ去り、狙いは──響香と、透だ。
間に合わない。
一瞬脳裏をよぎった言葉を否定する。
諦めるな、思考を回せ。
俺が割り込むか? 割り込んでどうする、脳無の攻撃を逸らすにはあまりにも時間が足りてない。既に俺の横を通り過ぎてる上に、初速はあっちが上だ。
損害度外視の攻撃をするしかない。引き出して引き出して、何がある。筋肉量だとか、そんなもんはもう遅い。引き出して膨張しているうちに手遅れになる。
間に合わない。
『わかるだろう?』
オールフォーワンの声が響く。
『もう君が取れる手段は限られている。君だけの力で対抗できるのはここまでさ』
どこまでも憎たらしく、ヴィランらしく、人間らしく囁く。
『──僕が力を貸してあげよう。勿論、対価は頂戴するけどね』
悪の帝王が今。
12月27日14時更新します。