天と地程の差はあるが、天と地しか選べない。   作:恒例行事

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始まりと終わりの地

 妙に鼻につく匂いだ。

 臭い(くさい)と表現するのが正しいかもしれない。

 

 不愉快なのは間違いない。

 

「……あー、なるほどね」

 

 軽く様子を見てみれば、ここはどこかの施設の中らしい。

 即殺すってスタイルじゃないことに感謝するべきだな。いや、死ぬ方がマシな目に遭う確率の方が高いんだが。

 

 嗅ぎなれた匂いはしないから、葉隠は近くに居ない。

 

 なんとか助けられたならいいんだが……まあ、場所が変わるたびに探しておくべきだな。

 

 太いパイプがいくつも配管され、巡り巡って奥の部屋へと向かっている。

 わかりやすい配置だ。露骨なまでに必要な場所が集約されている──さてさて、なにが出てくるか。

 

「……なんてな」

 

 ゾワゾワする。

 

 身体の奥底から引き摺られるような、引力にも似た感覚。

 まず間違いなく碌な目に遭わないだろうな。いっそのこと、ここで自殺するか? ワンフォーオールという切り札を使った今、まあ、まだ抵抗出来るが──最悪のルートを辿っているのは間違いない。

 

 死んでも悪用されそうだから無しだな。

 

 歩みを進めるしかなさそうだな。

 ご丁寧にも戻る道は封じられているし、ていうか、わざわざ用意したのか? 父親の愛が強すぎて涙が出そうだ。

 

「お優しいことで──なぁ、親父殿」

 

 

 

 

 

 歩き続けておよそ十分程度。

 かなり深い場所まで作られているのだろうか、僅かな照明を頼りに照らされた道を歩いて行く。相変わらず管塗れで不気味だが、まさしくヴィランの住処と言えるのではないだろうか。

 

 一時は世界にすら手をかけた巨悪がいまはこんな場所に封じられていると思うと、時代と言うのは大きく変化するものだと思わされる。

 時代と言うか、諦めない人間の底力って言うのかな。

 

 死を何度も繰り返して受け継がれて来た強さ。

 

 果たして個性が戦っているのか、それとも人間が戦っているのか。

 

「おっ」

 

 そんな事を考えていたら、少し広めの空間に出た。

 ドーム状と表現すればいいのか、横並びで複数の液体の入ったポッドと機械が連なっている。

 

 ピピピ、と異質な機械音と同時に扉が閉まった。

 

「……はーん、そういう事ね」

 

 退路を断ち、先に進むには障害を乗り越えなければならないと。

 

 先程まで並んでいたポッドが罅割れ、液体が溢れるのと同時にその正体が露わになる。保須やUSJで見た脳無が複数体、同時に出現した。

 その視線は真っ直ぐに俺へと向いており、実験の為かなんなのか付き合わされるようだ。

 

「──ボスラッシュか!」

 

 瞬間、駆け出す。

 脳無に思考する時間を与えてはいけない。

 

 合宿で襲ってきた脳無がこれまでで一番の完成体に近いとはいえ、グレードの下がる脳無もそれなりに脅威である。

 

 特にUSJの個体、コイツが厄介だ。

 パッと見保須が四体にUSJが二体、ランキング上位でもないヒーローじゃ話にならない戦力だろ。それをヒーローですらないただの卵にぶつけるとか、難易度調整ミスってんじゃねぇのか。

 

 保須個体の動きと、俺自身の動きを比べて危険度を定める。

 現時点で速度は俺の方が上、どんな個性を持っているのかがわからんから無茶は出来ん。神経ガスとか凶悪なのはやめて欲しいが──まずは、まだ動き出してない脳無の顔面を掴む。

 

 再生能力に祈れ。

 

 首を捻じ曲げて、身体部分を足蹴にして更に移動する。

 飛び跳ねるように脳無の首から上を破壊しながら更に次の個体へと手をかけた。

 

 残念ながら消し飛ばすような攻撃力は持ってないので、とりあえず脳天を破壊する事で動きを封じる。

 

「──っと!」

 

 三体目に手をかけた時点でUSJの奴が動き出した。

 

 相変わらずの巨体だが、個体差はないらしい。

 

 そこにバリエーションを持たせたのがさっきの奴か。

 どんどんバージョンアップさせてんのか、どれだけの人間を混ぜ合わせたらそうなったんだ? 

 

 デザインされて造られた俺が耐えられない個性複数使用を恒久的に使えるようにする改造人間──まったく。

 

 振り向けられた拳を、瞬間的に引き出した腕力で無理矢理捻じ曲げる。以前から力の方向性を変えて受け流す技術は持っているが、それを応用する。力のない人間が武力に対抗するために生み出されたのが技術だが、力を持っている人間が使えない道理はない。

 

 いまや俺以上に人体を理解している人間の方が少ないのだから。

 

 受け流す、のではなく。

 

 跳ね返す。

 

 それも捻じ曲がるように軌道を描かせて、無理な腕の挙動へと強制的に変更する。

 

「普通の人間相手には出来ないわな!」

 

 緊急搬送で治療できなければ取り返しのつかない程の断裂を身体中に刻む。

 相手のパワーが大きければ大きい程反動が強くなるのだ、オールマイトに対抗できる強さを持つ脳無の全力に加えて『人間として出せる限界の力』を出せる俺が合わされば──! 

 

「──次ィ!」

 

 細かく破裂した脳無からターゲットを変更する。

 潰れた仲間を見て攻撃を止める事も無い。学習するという機能は、コイツらには実装されてないんだ。

 

 憐れな改造人間だ。

 

 最上位にもなれず、俺にもなれず、ただ言われるがままの駒。

 

 同様に向けられた拳に対して同様のカウンターを放ち、また脳無の身体が四散する。

 

 残っていた保須型の脳無が隙を狙ってくるが、相手の力に頼る必要も無い。

 俺自身の身体能力で十分対処可能な耐久力しかないのだ、首から上を足刀で蹴り飛ばして、この場所にいた脳無は全て沈黙した。

 

「……で、扉が開く訳な」

 

 最初に複数体の脳無。

 

 何かを踏襲してるとすれば、なんだろうか。オールフォーワンはオマージュなんて高尚な事はしないが、皮肉な因縁は刻もうとする性格だ。そもそもがオールマイトへの嫌がらせが目的だし、そこら辺を考えていくのがいいか? 

 

「既に術中なのは避けようがないんだが……」

 

 流石にこの状況じゃ従うほかない。

 

 示されるがまま、何かに誘われている通りに先に進む。

 

 いきなりオールフォーワンが待っているってことは無いだろうとは思う。

 

 脳無、まあ一番強いであろう個体を除けば対処可能。

 一番強いのが出てきたらどうすっかな。アイツら本当に天敵だよ。ひたすらにスペックが高く、それでいて戦闘IQが頗る高い。対処できるプロヒーローですら数える程だ。

 

 トップ10なら辛うじて、だと思うね。

 

 でも沢山出してこないって事は、それだけ調整が難しいんだろう。

 

 ……待てよ。

 今更だが、アイツらの目的はなんだ。

 

 オールマイトを憎んでいるのは知っている。そのために俺は生み出されたから、そこに因縁が少しでも存在するのは理解している。

 

 だが、これまで仕掛けてきた手はオールマイトを直接的に殺しうる可能性を秘めたものではない。

 USJが一番近かっただろうが、達成するなら俺を殺した脳無を複数体出せばいいだけだ。

 

 まさかプロトタイプの一体しかいないのに出してくるわけがないだろうから、完成したのが遅かった……? 

 いや、それだけじゃない。仕掛けてきたのはオールフォーワンではない、死柄木弔というヴィランが主役になっていた筈だ。

 

 そうだ、これまでの事件はオールフォーワンが直接的にやったのは合宿の脳無くらい。

 

 USJは死柄木弔の初陣、保須で脳無が出てきたことから恐らくそっちにも関わっているだろう。だがあの程度の被害をわざわざ出そうとするとは思えない、ならば死柄木の仕業だと考えるのが道理だ。

 

「──手駒を育てている?」

 

 オールマイトの手によって信用できる配下が潰され、オールフォーワンは敗れた。

 だからと言って、互いに弱体化した状態で手下を補強しようとするか? そんな訳があるか、もっと直接的なプランを──……練る……。

 

 直接的なプラン。

 

 俺がそうじゃないか(・・・・・・・・・)! 

 

 俺の身体の中に流れるオールフォーワンの血は、ただの流れる血でありながら人格を有する異常な残滓。個性によるものなのか、それともオールフォーワンの異常性なのかは謎だが、少なくとも俺は【オールフォーワンに成る可能性がある】。

 傷ついた身体を綺麗に修復できる可能性がある訳だ。

 

 全てを仕切り直して、なおかつオールマイトへの嫌がらせをした上で徹底的に屈辱を味合わせた後に再臨なんてことも出来る。

 

 クソ、なんでそっちの方向性を考えなかったんだ。

 俺が勝手に育ったのとは別で、自分自身で育てれば確実になる。嫌がらせと未来への投資を並行してできるならそりゃあやるだろ。

 

「だからか、だからあの時……!」

 

『君は、僕の息子だ──個性の事を、よく考えてみるといい。そうすれば、君はまだまだ強くなれる。僕を超える程に……』

 

 体育祭で言われた言葉を思い出す。

 

 これは言葉通りの意味だ。

 俺の個性を用いればOFAもAFOも思うがまま、どちらへ転ぶのかは俺次第。そしてオールフォーワンにとってはどちらに転んでも美味しい、そんな状況に勝手に嵌まってくれる。

 

 AFOの再臨でも、OFAすらも兼ね揃えた正真正銘悪の帝王が降臨しても。

 

「アイツの狙いは──」

『満点だ、志村我全』

 

 声が響く。

 俺の内側からか、それともこの施設すべてからか。

 

『僕の遺伝子を持つとはいえ、あの女の息子だ。理想論を抱いたまま死んだヤツとは違い、現実との擦り合わせも出来ている。数年前であれば仲間に欲しいと願う程には優秀だ』

「そいつはどーも。下克上かましてやるよ」

『その生意気さも可愛い物さ。現状を理解してなおどうにか足掻こうとしているのは本当に見ていて心地が良い』

 

 性根の腐った野郎だ。

 

 志村菜奈の記憶を通して悪辣さは理解しているが、記憶をリピートするのと新しく目の当たりにするんじゃ不快感のレベルが違う。

 

「で、ここは何処だ? お前が俺に望んでるのは二つ、オールフォーワンに俺が呑まれるかワンフォーオールを発現させるかどうかだろ」

『その答えは既に得ているだろう? 僕がするのはこうやって、親子の団欒を楽しむひと時を提供することだけさ』

「あーあ嘘くせぇ。……アンタが出て来たって事は、既に順調に計画が進んでるんだろ」

 

 少し声を張り上げて問いかけてみれば、何が面白いのか、腹の底から滲み出た嘲笑が聞こえてくる。

 

『そうだね──今、上では面白い事が起きてる。僕はそれを味わってる最中でね、いわば仕事の合間に息子に電話をしているサラリーマンのようなモノだ』

 

 面倒くさい遠回しな表現をしやがる。

 

 それに無視できない単語も出た。

『上』──つまり俺達は下にいる。ここは地下だと考えればいいだろうか? 

 

 コイツが面白いと表現するのは、現時点で有力なのがオールマイト関連。

 

 わざわざ一介のヴィランが暴れている事件の事を面白いと表現することは無いだろう。

 消去法で考えていけばこの答えが出るってだけの話だ。

 

 それでいて、俺に声をかける余裕もある。

 ……オールマイトと親しい人間に何かがあったのか、それとも精神的なダメージを負わせる何かを暴露したか。メディアにだってシンパがいるだろうし、仕込むのは容易いだろう。

 

『一つ、ヒントを上げようか』

 

 思案する俺を嘲笑うように、オールフォーワンが声を出す。

 妙に上機嫌で、跳ねるような楽しさも感じ取れたのが不愉快だ。

 

『林間合宿での雄英の失態、二人の生徒の誘拐(・・・・・・・・)、ワンフォーオールの残滓──今まさに、事が進んでいる最中さ』

 

 二人、二人だと? 

 もしや葉隠が捕まっていたのか。俺が助けられたと感じ取った匂いは偽物だった……いや、そんな筈はない。間違える訳が無い、俺はそういう風に出来ているから。

 

 だが無駄なブラフを張るとは思えない。

 雄英の失態、これはまあ情報が漏れたことに対してだろう。内通者が存在するのか、単純に情報管理が甘いのかは判断できない。相手が悪いともいえる。

 そして、ワンフォーオールの残滓──林間合宿で俺が使ったワンフォーオールの事か? 

 

 いや、そんなのは何の情報にもならない。

 

 ワンフォーオールの残滓、何かの比喩? 

 

『僕から言えるのは、ここまでだ。前に進むといい』

 

 そう告げて、それきり声は聞こえなくなった。

 掌の上で転がされている感覚が拭えない。相手が格上だから、どうしようもない位には格上だからしょうがないとは言えるが──悔しいな。

 

 警戒しながら進み、およそ五分程度。

 

 大して広くもない、だが中央に古いテレビが配置された部屋だ。

 よくあるワンルームより小さい。倉庫と言ってもいいくらいの広さ。

 

『──……す、戦っています! オールマイトが今、街を破壊したヴィランと戦闘を!』

 

 これは……テレビ中継か? 

 ヘリの音に混じってなんとか声が届いている。上空からじゃないと放送できない程度には状況がおかしくなってるのか。

 

『あの姿は、オ、オールマイト……?』

 

 ザ、と一度ノイズが走ったのちに映像が映る。

 そこに映し出されたのは、頼りない細く小さな背中。そのコスチュームは時代を象徴した偉大なモノで、今を生きる人間であれば誰しもが見た事のある背中だった。

 

 ──ワンフォーオールの維持が出来ないのか! 

 

『そう、だから残滓(・・)さ。搾りカスで、あの状態の僕にすら苦戦している。無能な後継に託したが故の破滅さ』

『これで、僕に対抗できる個性を持ったのは……いや。ワンフォーオールを所持するのは、君と緑谷出久だけになる。平和の象徴は死に、新たな時代の幕開けだ』

 

「──だから、ここで終わらせよう。我全、我が息子よ」

 

 突如として肉声へと切り替わり、テレビの上の配管がズルズルと移動をしていく。

 上から差し込む僅かな光が地下の照明すら食い潰し、黒い影が下りてきた。

 

「僕はオールフォーワン。あの時(・・・)の約束をここで果たすとしようか」

 

 テレビの右上に映る、LIVEの文字。

 嵐のような戦いを繰り広げるオールフォーワンとは、全く別の姿──マスクすら付けていない、完全体となったオールフォーワンがそこにいた。

 

 

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