天と地程の差はあるが、天と地しか選べない。   作:恒例行事

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天と地しか選べない。

 身体中に行き渡るエネルギー。

 

 ワンフォーオールの際に生まれた未知の力ではなく、明確に俺の力だと認識できる快適さ。

 

「──ぬ、ぐぐ……ッ!」

 

 視界に紫電が舞う(・・・・・)

 あまりにも莫大な反動だ。

 

 過去に経験したどんな力よりも強い。

 

 ワンフォーオールを一度使用しておいてよかった。

 

「──おおおオォォぉぉ!!」

 

 拳を握りしめ、上に向かって腕を振り上げる。

 音速すらも置き去りにして、遅れて衝撃が放たれた。

 

 ドゴッッッッ!! と大きな音と共に、天井を破壊する。

 瓦礫にすらならず塵芥へと変貌を遂げた破壊の伝播が、どこまでもどこまでも続いて行く。

 

 想定していたよりよっぽど威力が高い。

 

 ワンフォーオールすらも超えた、幾つもの個性の究極の先。

 “個性因子”そのものを操り方向性を定めて、俺だけの進化を付け加えた。言うなれば既存人類と一画を隔てた細胞組織へと、作り変えたんだ。

 

「これは個性じゃない! 俺の、俺だけの、人間の枠組みの中に“個性”を落とし込んだ新たな種だ! お前には奪えねぇよ!」

 

 既に既存の個性因子とは形も成分も何もかも変質し始めている。

 俺自身、肉体の内部構造と干渉しないように調整しながらの戦闘だ。それを大ボス相手にやるのはそれなり以上にプレッシャーだが──今ならやれる。

 

 脳細胞の一つだって逃さない。

 

 並列に並列を重ねろ。

 流れ込んでくる情報の全てを管理しろ。

 

 今の俺なら、出来る筈だ! 

 

「──往くぞッ!」

 

 一言告げて、オールフォーワン目掛けて突撃する。

 残像すら残らない速度で初速を駆け出し、依然加速を繰り返す。有り余る衝動的なエネルギーを全身へと行き渡らせて、全てを制御する。

 

 緑谷は、ワンフォーオールを持て余していた。

 

 肉体的・精神的に初めから完成されていたオールマイトと違いアイツは一般人だ。

 精神性の狂気は若干引き継いでいるものの、中途半端と言わざるを得ない。そもそも全体的な平和の象徴に至った奴が人間性を維持している事の方がおかしいのだ。

 

 ワンフォーオールのように、強大な力は本来ゆっくりと身体に慣らしていくべき。

 

 ──俺以外の人間は。

 

 俺は全てを経験で補える。

 記憶が経験そのものへと置換できるのだ、できない訳がない。

 

 即順応。

 

 成して見せろ、志村我全。

 それこそが俺の集大成になるのだから──! 

 

 次から次へと襲い来るオールフォーワンの攻撃、性質を曲げ新たな手札となって無数の人工物が飛来する。

 大きな攻撃は砕き、小さな攻撃は風圧で消し飛ばす。全盛期のオールマイトを参考にした戦い方で、この男にとっては最も見慣れた屈辱的な戦法だろう。嫌がらせと同時にダメージを効率的に与えられる理想的な戦闘スタイルだ。

 

 それを、ワンフォーオール以上の出力を完全制御して操る。

 

「本当に、よく育ったものだ!」

「アンタの育児のおかげでな!」

 

 まだ軽口を叩く余裕があるみたいだな。

 

 俺とアイツの距離はどんどん近づいている。

 先程までは二十メートルほど開いていた物理的距離が、いまや五メートル程度。近すぎれば自分の攻撃が当たる可能性もあるから、オールフォーワンの攻撃が先程より細かく多彩なモノへと変化した。

 

 遠・中距離が得意なヤツは近接戦闘が不得手っつー法則性があるが、やはりコイツは優秀だ。

 ひたすら適応して隙が無い。

 

 ときおり拳を振って衝撃波を放ってくる。

 今なら軽く無視できるだろうが、コイツ相手に攻撃を受け流すのは得策じゃない。

 

 その衝撃波に『毒』を仕込む事だってできる。

 

 世界で一番手数を保有する相手に対して、ゴリ押しは通用しない。

 せめて弱体化してくれないとな。

 

 直接ぶん殴るより、未知の攻撃をした方が良い。

 

「──ぶっ飛ばすぞ、オールフォーワン!」

 

 空中で腕を交差させ、勢いを殺さないまま滑空して力をこめる。

 ぐぐぐ、と軋むような感覚を制御し、拳を握ったまま上へと掲げた。

 

 身体の奥底、胸の中心点から紫電があふれ出す。

 

 放出系の個性を取り扱ったのは初めてだが、参考となる連中を見てきた。

 爆豪に轟、放出系の個性でも最上位であろう火力に精密なコントロールを有する二大トップだ。現役ヒーロー顔負けの能力を持つ彼らを間近で見て来たのだ、頼りにさせてもらおう。

 

「おおおォォ────!!」

 

 地下の深くから、今少しずつ上へと向かっている最中。

 オールフォーワンを上に弾きだすのと並行して障害物を削れる技を放つ。

 

 最早ビームとすら表現できる光の奔流が全身を突き抜け上へと撃ち出される。

 

 一秒、二秒三秒四秒五秒──! 

 地下を越えて、空へ届くまで放ち続ける。

 ヤツが用意した戦場ではなく、ヤツにとって完全有利ではなくなった場所へ移す。これだけでやりやすさは変わるものだ。

 

 撃つのをやめて、上に向かって純粋な身体能力で(・・・・・・・・)加速する。

 空中を蹴れば加速できるこの強さはやはり大きい。全盛期のオールマイトがよく使っていた戦い方だ。

 

 そうして開いた穴から一気に飛び出て、入り口をふさがれることを警戒して空高くまで飛び上がる。

 

「────……なるほど」

 

 ここまでくれば復元したほうが早そうだ。

 因子を操作し、ああ、いや。正確には細胞と言った方が正しいか。

 

 まあ、そこを弄って『浮遊』を自らの身体機能に組み込む。

 

 以前使用した際の感覚に加えて、母さんの使っていた記憶もある。

 

 ふわりと空中で静止した後に、下を見る。

 

 オールフォーワンとの問答の時に少しだけ見たテレビ中継の場所。

 どうやらそこの地下に運ばれていたらしい。経緯を理解してないからどうしてここで戦っているのかはわからないが、周囲に有名な建物でもあれば場所が特定できるんだが……見当たらないな。

 

 というか、更地になってる場所がある。

 もしかして俺がやっちゃった感じ? そうだとしたらもう後戻りできないんだが、流石に色々弄れるようになって少し上の位階に来たとは言え、そんな便利な機能は備え付けてない。

 

 いや、オールマイトが戦ってる時点で結構ボロボロだったな。

 

 多分大丈夫だ。そこは気にしないで行こう。

 視力を強化して見渡せば、ヒーロービルボードトップ層が集っている。一部居ない人たちもいるが、錚々(そうそう)たる面子が揃っている。

 

「……オールマイト、そんな顔すんなよな」

 

 チラリと見た表情は、驚愕と困惑と悲哀の混ざったぐちゃぐちゃなモノだ。

 俺を見てそういう顔するって事はネタバラシされたな? 直接的な母体ではないとはいえ、今は亡き恩師の遺伝子を弄んで造られた息子がいるなんて情報は嫌だろう。寝取りは趣味じゃないだろうしな。

 

 ああ、そうだ。

 なら一つだけ、確実に安心させられる仕草がある。

 

 息を大きく吸い込んで、叫ぶ。

 

「──俊典!」

 

 両手の人差し指を口角に当てて無理矢理笑顔にする。

 きっと、俺の本当の個性や事情もオールフォーワンによって聞かされているんだろう。最も最悪なタイミングで、最も最低な事を。それを安心させる材料は無いが、俺がよりよい方向を選んだと伝える為に。

 

 オールマイトにだけ、伝わればいい。

 

 俺はヒーローになるよ。

 どれだけ苦しくたって辛くたって、そういう時は胸を張るんだ。

 笑顔で明るく前向きに、それがヒーローってもんだろう! 

 

「個性という、枠組みを外れた力……納得したよ、それじゃあ僕は奪えない」

「どーよクソ野郎。少しは驚いたか?」

「強力なのは認めよう──だが、それで僕を倒せると?」

 

 ダメージを食らったのだろう、多少は煤けた様子を見せるオールフォーワン。

 一度手痛い攻撃を受けたからか先程より落ち着いた様子がある。あのままキレたままだと良かったんだが、そこまで甘い相手ではない。

 

「倒せるさ」

 

 それでも、宣言する。

 

 お前は強いよ。

 積み上げてきた重みも、重ねて来た経験も、俺より数倍以上ある。伊達に一世紀近く生きて来た訳じゃないんだ。

 

 ──だからこそ。

 

倒すんだよ(・・・・・)

「──よくぞ吼えた!」

 

 オールフォーワンの背後から泥があふれ出す。

 

「僕が今用意できる、最高の手札だ! フォーマットも終えて完全な状態へと移行した脳無たち──ハイエンド三体。凌げるかな?」

 

 ゴボリ、と音がしたかと思えば次の瞬間には目の前に脳無の黒い手が映り込む。

 今さら手下を嗾けて来た所でもう通用はしない。無限に個性を持つわけでもない、ただ闘うための個性を備えただけの改造人間なんざ相手にならねぇ。

 

 両手足を駆け巡るエネルギーを感じ取り、眼前まで迫った腕を引き千切る。さっきまでテレビ放送されてたみたいだが、まあ、不可抗力だろ。

 

「お子様は見るの注意しとけよ!」

 

 紫の残光と共に、刹那に空を駆け巡る。

 うねり渦巻きを描くように、それでいて真っ直ぐな直線を表すように、自由に空を翔けるのだ。

 

 通り過ぎるその合間にハイエンドと言われた脳無の四股を打ち砕き、脳漿を蹴り・殴り・千切り──完全に戦闘不能にする。

 

「瞬殺か!」

 

 オールフォーワンに肉薄し、殴り掛かる。

 全距離オールマイティに熟せるだろうが、近距離まで近づかせることの方が少なかっただろう。

 それこそ、オールマイト以来になるのか? 

 

 俺の振りかぶった拳に対して、オールフォーワンも合わせてくる。

 

 インパクトのタイミングをずらしてきたが、その程度は織り込み済み。 

 一度の攻撃で通らないなら、通るまで攻撃を重ねればいい。

 

 もう踏ん張る必要も無い。

 

 とにかく拳を、脚を、ひたすらに撃ち続ける。

 

 それに対してオールフォーワンも合わせてくる。

 一体どれほどの個性を併用しているのか──性根は悪だが、やはりその才は生中なモノではない。

 

 その個性を扱うが為に生まれた訳では無いのに、それだけ使いこなせるのは……お前だけだよ。オールフォーワン。

 

「──だから、ここで終わらせる」

 

 お前の手で生み出された、誰かの為にしか生きる事が出来なかった俺が、お前を終わらせる。

 きっとお前はここで敗北してもいいように二手三手打ってあるんだろう。しない訳がない、狡猾で悪辣な悪意の王が忘れるわけがない。

 

 だが、今ここで俺と相対しているお前は『俺の因縁』だ。

 

 僅かな瞬間。

 ほんの少しのタイミングが遅れたのを見逃さずに、オールフォーワンの顔面をぶん殴る。

 多分、今の俺の出力で本気で殴れば山の一個分くらいは消し飛ばせる。それ以上を有する事も可能だろうが、ここはあくまで街中。被害を最小に抑えるべきだ。

 

 お前を捕らえるべきなんだろう。

 お前を捕まえておくべきなんだろう。

 

 だが、お前は──今の人類には抑えきれない悪魔だ。

 

 ありとあらゆる手を使って世界を握る、そんな予感すらある。

 未来予知の個性、なんて第六感じみた物を使わなくてもわかるんだ。お前を捕まえた所できっと事態は好転しないし、この国も良くならない。

 

 脳を揺らすように数度拳を当てて、ぐらついた所に本気の一撃を当てる。

 足に力を籠めて、狙いを定める。

 

「……僕を、殺すかい?」

 

 ニヤリと、どこまでもいやらしく笑いかけてくる。

 コイツも理解してるんだろう。俺が捕まえる気が無いと言う事を、そして、その命を奪おうとしている事も。

 

「──ああ、殺すよ。お前はここで殺す」

「ヒーローが、殺人を許容すると?」

「倫理観の問題はとっくに終わったんだよ。たとえ俺が罪を生んでも、お前だけはここで殺さなきゃいけないんだ」

 

 力を籠めている脚が軋み始めた。

 いや、この感覚は──

 

「──でも、直接的にお前を殺した所で意味はない」

 

 全てを飲み込んで、問答を返す。

 俺が全国民の目の前でコイツを殺しても、コイツはただ死んだだけで何もない。

 ヒーロー免許も持ってないのに個性を使用してる時点でまあ、大分アレだが、俺は憂さ晴らしをして終わってしまう訳だ。コイツの策略に嵌まって。

 

 それは嫌だ。

 

「だから、お前が死んでも死ななくてもいいようにするのさ」

 

 個性が発現して数世代、それにも関わらず未だ未開の空がある。

 俺達人類が現時点で生存する事すら出来ない、ただ生きて行くことが不可能な緻密な原子と分子で構成された世界がある! 

 

宇宙(・・)は広い。お前のその探求心と悪辣さを、そこで生かせよ」

「──────」

 

 酸素もない。

 水もない。

 人もいない。

 

 お前しか生きる者がいない、死の空へ。

 

「──ぶっ飛べ、クソ親父いいィ!!」

 

 俺の因子のすべてを籠めて。

 

 俺の人生の二択の末路。

 生きるか死ぬか、殺すか生かすか。

 

 いまだってそうだ。

 自分を犠牲にするか、他人を犠牲にするか。

 俺の人生はずっとそうだった。二択を選んで、選ばされて、考えて悩んでずっと生きて来た。

 

 その人生に別れを告げる一発だ。

 

 これで終わってもいい。

 

 ──だからこそ、この一撃にすべてを! 

 

 オールフォーワンの腹へと足をめり込ませて、上へを全力で蹴り上げる。

 莫大なエネルギーの奔流と共に、解き放った。

 

 爆風と表現する事すら甘く感じる衝撃と共に、光の速度に近づいたんじゃないかと思う程の速度で蒼の空を突き抜けたオールフォーワンを見送って、左腕を掲げる(・・・・・・)

 

 さようなら、オールフォーワン。

 さようなら、志村菜奈。

 

「……おれは」

 

 ああ、クソ。

 右足から少しずつ、身体が崩壊してきた。

 痛みも感触も、まとめて消えていく。俺の全部が消えてく。

 

 俺の生きて来た十数年、築いて来た関係や認識・価値観。

 育んで来たものが無くなる虚無感が込み上げてくる。

 

「…………おれは」

 

 それでも、無駄じゃなかった。

 

 決して、一つたりとも無駄じゃなかった。

 俺の人生は、歩かされてきた人生は、絶対に無駄じゃない! 

 

「──おれは、ヒーローだ」

 

 たとえ全てが灰に消えたとしても。

 ここで俺が終わったとしても。

 

 生きた証は、消え去らない。

 

 ワンフォーオールもオールフォーワンも関係ない。

 

 おれは、志村我全。

 一人の人間としてようやく地に足着いたんだ。

 

 

 

 

 

 

「ヒーロー、シムラだ!」

 

 

 

 

 

 

 











もうちょっとだけ続きます。
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