天と地程の差はあるが、天と地しか選べない。   作:恒例行事

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始まりの終わり 終わりの始まり

『神野区で起きた、オールマイトとオールフォーワンの戦い。

 激戦の果てに勝利を掴んだのはオールマイト、この戦いの後に『現役引退』を表明。ヒーロービルボードでも有数の人気を誇るヒーローが複数脱落したことから、『神野の悪夢』と呼ばれています。

 また、その直後に発生した誘拐されていた雄英高校の生徒と、オールフォーワンを名乗る(・・・)ヴィランの戦闘。個性の無断使用は緊急事態下について不問とされましたが、雄英高校の警備やプロヒーローの情報体制に疑問を呈す声も──……』

 

「いやぁ、好き勝手言われてますなぁ」

「…………だね」

「俺達も好きでやられてる訳じゃ無いっての! 悪いのはぜーんぶオールフォーワンなのに、なんで俺達に目が向くんでしょうか? そういう心理について一度ガッツリ調べたことがあるんですけど、気になります?」

「…………だね」

「……ん゛ん゛ッ、俊典

「気軽にお師匠の声出すのはやめてくれ!」

 

 はーやれやれ。

 当事者の俺がこんなにも前向きに生きてる(・・・・)っていうのに、元人気ナンバーワンヒーローは心ここにあらず。既にいない人間の事を考えて悔やんでいるらしい。

 

「いーいじゃないですか、生き残ったんだし」

「あのまま死なれたら私はもうその場で自殺する勢いだったよ」

 

 緑谷少年を残して死ぬ気はないがね、なんて呟く骸骨みたいな容姿の男性。

 

「……本当に、情けなくて仕方が無い。未熟な私を庇って亡くなったお師匠の仇を倒したと思い、ナンバーワンと言われながら平和の維持に尽力してきた」

 

 ぎゅ、とシーツを掴みながら、言葉の節々に後悔を滲ませながら。

 

「それがどうだ! 陰に潜んで、私どころかお師匠も、そして、君に因縁を抱かせてしまった。気が付いてあげる事も出来ずに、踏み込む事すら出来なかったんだ。情けない……!」

「たぶん、母さんはそんな事露ほども思ってないですよ」

 

 嘆くオールマイトと同様に、あの人も善性で構成されている。

 人の不幸を嫌い、幸せを好む。

 

 元は一般人であった母さんが戦いの世界に身を投じたのは幸せが崩壊し、不幸のどん底へと墜とされたから。

 その元凶たるオールフォーワンを許せないと憤ったから、この世界にやってきたんだ。

 

「良くやったって褒めてくれるんじゃないすかね」

 

 多分、そうだろ。

 血が繋がってるだけ、しかも勝手に造られた息子に対して、母親としての愛をくれた。

 本当の息子を可愛がってあげることが出来なかったからその分はあるかもしれない。いや、あった。実際にその感情はあったが、それでも俺は俺として見てくれた。

 

「俺はもう、二択すら選べなくなりましたけど──まだ諦めちゃあいない」

 

 その意思が大切だと、教えてくれた。

 

 諦めるな。

 どんなに苦しくても、辛くても、前を向いて往け。

 それこそがヒーローにとって最も大切な事だって。

 

「だから、気にしなくていいんです。俺も貴方も」

 

 頭の中に声が響くことは無い。

 オールフォーワンも、志村菜奈も、本当の意味で逝ってしまった。

 ……いや、父親の方は消えて有難いけどな。アイツが元凶だし。

 

「志村、少年ッ……!」

「うわっ、泣かないでくださいよ」

 

 男が泣いている姿を見られるのも嫌だろうと思い、反対側──窓を見る。

 窓の外は雲一つない快晴が広がっていて、下を見たいが見れないのがもどかしい。右足は太ももの半ばから先が無く、罅割れが胴体まで広がっている。どんな“個性”を用いても治せなかったことから、多分これは代償なんだろう。

 

 個性の同時併用すらも超えた、規格を飛び越えた存在へと成り上がろうとした代償だ。

 

 これで自分の因縁を打ち払えたんだからいいじゃないか。

 万々歳、奇跡の大団円だと俺は思うよ。

 

「…………でもやっぱ、寂しいもんだな」

 

 自分の身体に当然の様に備わっていたモノが無くなるのは寂しい。

 空虚な感覚だ。それだけが全てではないと理解しているが、それでも、勿体なく感じるのは事実だ。もう少し手があったんじゃないかって、後悔する自分が居ない訳じゃ無い。

 

 ……過ぎた事を何時までも引き摺るのはよくないから、切り替えていこう。

 

「いやぁそれにしたってオールマイト、家も無くなって足も無くなって俺どうすればいいんでしょうかねぇ!」

「ぐはぁッ!!」

 

 ちくちくと嫌味にする気はない自虐を言えば、オールマイトが吐血する。

 ううん、楽しい。なんか、こう……ゲスいよな、俺の発言とか。絶対何とも思ってないのバレると思うけど、オールマイトは俺達(母親含む)に対してあり得ん程のクソデカ感情を抱えている所為でこうなるのだ。

 

 ちなみに相澤先生の目の前でやったら怒られた。

 

「マジでどうしよっかなー……銀行からお金を借りて(・・・)ちょろまかすか」

「駄目な面が出てきてる!? お師匠、私はどうすれば……!」

 

 そこは「私の家で住むと良い! なにせ私はワンバーワン、お金はたっぷり持っているのさ!」くらい言って欲しいよな。

 普段だったら言えるんだろうけど、俺に対しては言えないらしい。

 

 そんな感じで話していたら、コンコン、とドアがノックされた。

 どうぞ、と一言返事をする。

 

「どーも」

「相澤先生、学校は?」

「それも含めて話があってな。オールマイトもいいですか?」

 

 いつも通り、いや、いつもより深く皺を刻んだ担任が入ってくる。

 

「単刀直入に言うが、お前は雄英で暮らすことになった」

「…………あー、成程。そういう事ですね」

「相変わらずの理解力の高さで助かるよ。度重なる雄英生徒への襲撃に、オールマイトが戦力から外れた今警備面での強化をするために全寮制に切り替えてる。お前の席はまだ無くなってないぞ」

 

 お優しい事だ。

 こんな両足動かない、腕に力もロクに入らない、いつ綻びが出るかわからない身体をしている人間を助けてくれるんだ。

 にしても、俺の席は無くなってないか。

 

 もう、ヒーローになる事すら出来ない人間の席を。

 

「それはありがたいですが、多分、俺はもう──」

「いいか志村。これは提案じゃなく決定で、お前は雄英で暮らすんだ。それが俺達を騙していた罰だよ」

「あ、相澤くん! なにもそんないい方しなくても……!」

「こんくらい言わなきゃコイツはあの手この手で逃れようとします」

 

 よくわかってる。

 

「……正直、俺は満足してるんです。人生の宿命も果たしたし、夢を叶えたんです。思い残す事はない」

「わかってないな。お前、ちょろまかしてる罪があるからな」

「それは言わない約束でしょ!」

俺達(・・)はヒーローだ」

 

 はは、まったく。

 本当に優しい人だ。

 

お前もヒーローだろ(・・・・・・・・・)

「──……はい」

「ヒーローなら、罪は清算しなきゃいけないな」

「そうですね、その通りです。僕は一途なんでね、ちゃんと想いを貫き通すべきだ」

 

 そう言われちゃあ仕方ない。

 そうだ、俺はヒーローだ。そうさ、ヒーローなんだ。

 綺麗に物語を終わらせるのもいいが、登場人物であるより先に──俺は、志村我全だ。

 

「それに雄英は人手不足なんだ。優秀な人材は喉から手が出る程度には欲しい」

「相澤くん……」

 

 いつもと変わらぬ表情で、らしくない事を言いまくる相澤先生。

 

「……本題に移るぞ。なんですか、オールマイト」

「いやあ、君は教師が板についてるなと思ってね」

「……サポート科と企業合同で、現在お前の補助器具を作成していた」

 

 ニコニコ笑うオールマイトを無視して、聞き逃せない言葉を漏らす。

 え、俺そんな話聞いてないんだが? いつのまにそんなの──そうか、俺のデータ持ってるから採る必要無いんだ。

 

「身体的な衰えに関しては、色々おかしい部分が多い。お前は『個性ではない力』を使った結果として身体が崩壊したんだろ」

「ええ、まあ。個性因子はもう俺の身体にはありませんよ」

「途中で崩壊が止まったのは、あの脳無の仕業だとも言っていたな」

 

 俺の身体の崩壊は、止める事が出来なかった。

 左足も足首から先が無いし、左腕も右腕も指が二・三本欠けている。頭は特に異常無し、左目を中心に罅割れが口元まで走っている。胴体はまあ、心臓を中心に渦巻くように罅割れている。

 

「仕留めたと思ったんですけどね。他者から引き摺りだす(・・・・・・)個性を所持した脳無に綺麗に持っていかれました」

 

 多分、本当に予測だが、あの脳無の素体──消えた叔父だ。

 オールフォーワンの手下だと思っていたが、まさかハイエンド脳無に改造されているとは。

 

「俺を助けよう、なんて意志は無かった」

 

 きっと意識はなかった。

 叔父としての自我は無く、俺の強さの源を吸収しただけなんだろう。

 

 それが結果的に崩壊を招き、件の脳無は灰になって消えて行った。

 

「運が良かった」

「今生きてるのも奇跡的らしいな。俺は医学的な知識が深い訳じゃないからそこに関しては何も言えないが、今後の事も考えてお前を参考にしたいんだとさ」

「その内出てくるかもしれませんからねぇ、俺みたいな奴が」

 

 一人、個性の枠を飛び越えた奴が現れたのだ。

 次が現れないとは限らない。

 

「生きる理由が出来ちゃったなぁ」

「生きる理由が人助けか。なんともイカれたヒーローの誕生だな」

「母親譲りなんですよ」

 

 ニッ、と笑う。

 

 それもこれも方便なのは理解してる。

 相澤先生や、他の先生方が尽力してくれたんだろう。勿論プロとして名を轟かせている人たちも協力してくれているんだろう。

 

「話を戻すぞ。その作成していた補助器具が完成したから、雄英に見に行くぞ」

「……え?」

「今日は授業が普通にある。放課後になれば全員揃うぞ」

「いや、ちょっと待ってください。今この状況で、俺はアイツらに会わなきゃいけないんですか?」

「その通りだが」

 

 話すと言って結局何も話さないまま終わろうとしたのに、俺は顔を合わせなきゃならない。

 ヤバイ。葉隠と耳郎に殺される。

 

 爆豪にも殺される。

 緑谷はなんか、意外と絡むの楽しいかもしれん。

 

「死んだ」

「お前、外で生死不明って扱いになってんだぞ。ここじゃ安全を確保しきれないから、雄英に戻ってやっと発表する。クラス連中に説明するのは俺じゃないからな」

「あ、逃げた! 逃げましたね!」

 

 明らかにマズいだろそれ。

 え、俺マジで殺されない? 本当に大丈夫? 

 

 今めっちゃ絶望してる。

 ふ、はは、あはは。どうしよ本当、折角生き残ったのに殺されるかもしれん。心配してくれるのが目に見えている。イヤホンジャックで刺されて終わりならいいな~! 

 

「悩めよ、若者。お前の未来は明るくなってるんだ」

「…………そうですねぇ」

「それじゃ、行こうか。既に許可は貰ってるし、器具の出来によっては即日入寮だ」

「マジで言ってます? 俺一応重症患者なんですけど」

「治しようがないんだから居ても意味ないだろ」

 

 ご、合理主義……! 

 ここで炸裂しないで欲しい。

 

 ニヤリと口元を歪ませて、相澤先生が言う。

 

「プルスウルトラ。限界超えていこう」

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、本当にやってきてしまった雄英高校。

 また戻ってこれるとは思っていなかったが故に、なんだか感慨深いモノが込み上げてくる。

 

「──あれから、三週間か……」

 

 二週間以上意識が無い状態が続いてたらしく、意識を取り戻したのが一週間程前。

 身体の傷はこれ以上悪くなることも無く良くなることも無いという不思議な状態で、体力面を考慮してリカバリーガールの治療も頼めなかったそうだ。やってみた結果、効果は無かった。

 

「教師陣で事情を知ってんのは俺と校長、オールマイトくらいだ。流石にお前の話を表に出すのはな……」

「親がオールマイトの師匠とオールフォーワンとか流出したら終わりですよ」

 

 因縁を振りほどいたとは言え、爆弾である事には変わりはない。

 暴露される日が来なければいいなと祈るばかりである。

 

「厄介なもん抱えてるとは思っていたが──……いや、なんでもない」

「お気遣いどーも。俺としちゃ必死に隠してたんでバレなかったのが嬉しいんですけどね」

「……まったく」

 

 ギコギコと車椅子が微妙な音を立てながら動く。

 もちろん相澤先生が押してくれている。両手足が動かないのがこれほどまでに不都合だとはな──まあ、何でもかんでも再生してたツケだろう。

 自分のやった末ではあるが、それを周囲が掬ってくれるのは、なんだろうか。恥ずかしいような情けないような、でも嬉しいと思う感情もある。

 

「志村」

「なんですか?」

 

 いつもと変わらない声色。

 ただ、ほんの少しだけ、車椅子のグリップを握る拳に力が入ったような、僅かな音が聞こえた。

 

「すまなかった」

 

 ──真剣な、それでいて重すぎない言葉。

 この人は自堕落で適当で合理主義者に見えて、ロマンチストで他人想いの部分が大きい。

 色々葛藤を抱えているんだろう。いや、今もそうなんだ。いつだって人は悩んでる。悩んで悩んで、人生を見つめなおして生きているのだ。

 

「俺はもう、十分すぎる程に貰ってますよ」

 

 俺の為にここまで手を尽くしてくれたのだ。

 死なない為に、未来を見せてくれたんだ。半ば諦めていた俺に先をくれたんだ。

 

 それ以上何がある。

 自分の人生を自分で決めるのは当然だ。だからこそ今の俺があるし、その中で発生した損得は俺のモノだ。誰にだって肩代わりさせない。

 

「ホラ、ヒーローはいつだって笑ってないと。ニッ、てね」

「…………そうだな」

 

 珍しく、相澤先生が笑った。

 

「生徒に言われちゃしょうがないな」

「ええ、しょうがないです」

 

 そこからは無言だった。

 ただ、少しだけペースを下げて、夏の日差しを避けるように木陰を進んだ。

 

 

 サポート科に到着して、軽く身体調査を行ってから器具を身に付ける。

 義足と義指、中々ピンポイントな部位だが完璧なサイズだった。装着する際に痛みでも発生するかと思ったが、技術の飛躍は凄まじく痛みを感じず。違和感もなく、自分の脚や腕を認識できた。

 

 身体の罅割れに関してはもうどうしようもないらしい。

 ま、男前になったとでも思っておこう。

 

 後は身体の衰弱具合なんだが──まずは最低限歩けるように。

 基本的な移動は多機能車椅子を作成するので、それでどうにかするらしい。寮を一から組み立てたからバリアフリーは完備だそうだ。そこから手を加えて貰えたと思うと、どうしようもなく有難く感じた。

 

「いやー、手厚い介護ですねぇ」

「あと五十年は生きてもらうからな」

 

 ハハハ、いや、そこまで手をかけられたら恥ずかしくなるから嫌です。 

 人間として生活できる日が何時か来ると信じて、車椅子生活は仕方なし。ある程度の事は元から出来るから腕と指さえ動けば生きて行けるさ。

 

「ま、手続き自体はこれからするよ。入寮できるとすれば二週間後くらいだな」

「おお、もしかして文化祭間に合います?」

「間に合わせる、安心しとけ」

 

 学生らしいメインイベントだ! 

 ヴィラン連合なるオールフォーワンの子飼い連中は逃したみたいだが、俺にとっては気にするべき相手ではない。いや、ヴィランだしどうせオールフォーワンの計画が続いてるだろうけど、俺との因縁は深くない。

 

「……その前に皆に説明しなくちゃいけないんだけどな」

「まあ、オールマイトの個性に関係しない部分なら言っていいぞ。そこはまあ省く感じで」

「わかってますよ、はぁ~あ」

「ふにゃふにゃするな」

 

 とは言いつつも、内心楽しみにしている。

 もう会えないと思っていたけど会えるんだ。これがどうだ? 俺は病院送りにはなったが研究対象にならず、生きるための支援すら貰える。

 最上の結果だろう、これは。いつもいつも助けられてばかりで、これから先返すチャンスはあるのだろうか。

 

「あー、緊張してきた」

「お前でも緊張する事はあるんだな」

「そりゃあそうですよ。幾ら鋼のメンタルを持つ俺としても、流石にあんだけ色々やらかしてんのに緊張しない訳がない」

 

 これで微妙な空気になったらどうしよう。

 俺もう生きて行けないかもしれない。

 

「あー、出来れば全員揃ってないタイミングがいい。爆豪だけいねーかな」

 

 そんな都合のいい事もないだろうが、せめてそこがいい。もっと改まったタイミングで行きたいんだよ。

 

「ほら、見えて来たぞ。アレがA組の寮だ」

 

 20人以上を住まわせる事が出来て、なおかつ十分な生活が可能な環境。

 納得の大きさである。

 

「デカ……」

「お前の部屋は一階だ」

「それはありがたい」

 

 そういう配慮が本当にありがたいのだ。

 

「──じゃ、開けてくれ」

「……え?」

 

 相澤先生の声を合図に扉が開く。

 なんだろう、嫌な予感がするぞ。こう、なんか、嵌められた気がする。

 ヤバくないか? 開けてくれる人がいるのか? 本当にか? 

 

「相澤先せっ……!」

 

 振り向いてみれば、口角が上がっている。

 

「──嵌めたなッ!」

「そら、行ってこい」

 

 抵抗出来ないのをいい事に、そのまま開いている扉に放り込まれる。

 

「あ、相澤先せ──……」

「なんで俺達集めたんス……か」

 

 ロビーに集まっていたクラスメイト──総勢19名。

 全員揃ってんじゃねぇか! 

 

 切島と上鳴が気付き、それにつられたメンバーがこっちを見る。

 あーあ、こりゃやられたよ。

 

「お、おまおまままおま……!!」

「出たーッ! 出たぞーっ!! 確保しろー!」

 

 ドタバタと騒ぎ立ててくる切島。

 

「いやぁ、皆さんお揃いのようで」

「──テメェ!! 死んだんじゃねーのかよ!」

「かっちゃん流石にマズいよ!」

 

 爆豪がキレ散らかしながら近づいてくる。相変わらずで何よりだ、色々あったみたいだしな。

 

「よ! 緑谷」

「志村くん……」

 

 多分俺の事情を既に聞いてるな。

 反応が微妙だし、オールマイトに聞いたんだろう。あの人口が軽いのか固いのか微妙なラインが存在してるからな……。

 

「また今度話そうぜ。聞きたいことあるしな」

「……うん!」

 

 グータッチの一つでもできればよかったんだが、残念なことに今は出来ない。

 

「……………………」

「……いやー、本日はお日柄もよく」

「……………………」

「……あー、その、なんだ。えーとな」

 

 目の前まで歩いて来たベストフレンド耳郎。

 目を合わせるのが怖くて、今は目を逸らし続けている。無言だし。

 

「生きて戻ってこれた。ごめんな」

「…………あんたさッ……!」

 

 ギリ、と耳郎の握り拳が音を立てる。

 

「ほんと、ほんっと、この…………!」

 

 人目も憚らず、泣き崩れ俺に凭れ掛かって来た。

 

「個性も無くなっちまったし、まともに動ける身体すら失った。けどさ、ちゃんと帰って来たよ。色んな人に助けられてさ」

「馬鹿! アンタ、本当に大馬鹿だよ……!」

「うん、馬鹿だった」

 

 俺の右足を見て、更に涙を増やしてしまう。

 耳郎と葉隠には俺が再生する所を見られてる。だから余計に気負わせてしまってるのかもしれない。

 

「……葉隠」

「…………う」

 

 ああ、大切なモノを失った。

 葉隠の香りも、アレだけ何度も忘れないと誓っていた癖に。本当に俺は愚か者だ。

 

「うわああぁぁぁ~~ん!!」

「うおっ」

 

 胸元に衝撃が飛んでくる。

 決して重くなく、それでいて重たい。矛盾する表現ではあるがこれで正しいんだ。軽いけど重い、重いけど軽い。

 

「良かった、よ゛か゛った゛よ゛ぉ~~!!」

 

 ……そっか。

 葉隠と最後に顔を合わせたのはあの時か。荼毘とコンプレスに連れていかれる時だから、俺が焼かれてる所とか見てるのか。そりゃあ心配かけたな。

 

「わた゛、私さ、ほんとにさ、ごめんね……! ごめん……!」

 

 かける言葉がない。

 本当に俺は恵まれた。こんなにもいい仲間を持ったのだから。

 

 

 

 

 天は二物を与えずと言う。

 

 人工的に二物を与えられた俺は、その摂理に逆らった代償を支払った。

 果たして人が手を出すべきではない禁忌だったのか、それとも未だ人類に早過ぎたのか。いずれは到達する可能性の一つであるのは間違いない。

 

 ヒーローとヴィラン。

 

 相反する二つを両親に持ち、未来を持ち、十全に使いこなせる個性を以て生まれてきた。

 祝える出生ではない。呪われた命だっただろう。

 

 けれど、俺は終わらせたくなかった。

 

 芽生えた自意識が、自分を確立しろと叫んでいた。

 

 石ころで終わるな。

 操り人形になるな。

 

 へこたれるな、諦めるな、後ろ向きになるな。

 前へ前へ前へ、進んで進んで進んで。

 

 そうして得た仲間たち。

 天が与えた何物よりも価値がある大切なモノだ。

 

 最初の誓いとは違い、俺が地を這いつくばって、アンタは空に消えた。

 なんともまあ皮肉な話だ。案外人生ってのはそういう風に出来てるのかもしれない。

 

 天と地程の差はあるが、それが結末だ。

 

 ここからは、俺の、俺だけの物語。

 『ワンフォーオール』も、『オールフォーワン』も、これまでの因縁全てが関係のない俺の話。

 

 だからここで幕引き。

 

 この物語は、俺が最高(最悪)な最期を迎えるその日までの軌跡を記したモノだ。

 あなたも、愉しんでくれたか? クソ親父(悪の親玉)

 

 

 





これにて本編終了です。
みなさま、お付き合い頂きありがとうございました。


……そのうち番外編は出すかもしれない。
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