「炎の呼吸、奥義・玖ノ型・煉獄‼︎」
「術式展開、破壊殺・滅式‼︎」
灼熱の業火の如き一閃と、全てを破壊する剛拳が激突する。
その衝撃で大量の土煙が巻き上げられ二人の姿を包み隠した。
(煉獄さん…煉獄さん!)
徐々に治まっていく土煙の向こうに、炭治郎は煉獄が勝利する姿を期待していた。隣にいる伊之助も同じだろう。
だが、どうしても不安が拭えない。それほどに、あの鬼ー上弦の参、猗窩座は凄まじい力を持った鬼だ。
土煙が晴れる。そして二人の目に入ってきたのはーーー
「殺させて…なるものか‼︎」
二人の間に割って入り、猗窩座の拳を受け止める茨木童子の姿だった。
▼
(間一髪、間に合った!)
本当にギリギリだった。刀を振り切った煉獄さんに、この鬼の拳が直撃する寸前になんとか割り込む事ができた。
それにしても何なんだこの鬼は。変化で防御力を極限にまで上げているというのに、衝撃が掌を突き抜けて胴体の方まで達している。危うく吐いてしまう所だった。
ふと鬼の眼を見れば、そこには『上弦・参』という文字が刻まれていた。
(そうか、こいつがこの世界の鬼の首魁、鬼舞辻の直属の配下、十二鬼月の一人か!)
鬼殺隊に入って間もない頃、その話は聞いていた。鬼の中でも最上位の力を持つ十二体。更にその内の六体、上弦の鬼は、この百三十年間倒された事がないという。
以前戦った鬼も目に数字が刻まれていたが、目の前にいるこの鬼は、明らかに奴より格上だ。
「そうか、お前が影牢を倒したという鬼か」
影牢、とはあの影の鬼の事だろうか。
「直接首を斬ったのは吾ではないがな。それがどうした」
「何故人間の味方をするのだ。影牢を倒したというのであれば、少なくとも十二鬼月になれる実力はあるはずだ。何故弱い人間の味方をする?お前も鬼であるならば、俺と共にそこに転がる弱者共を消し去るべきではないのか?」
うむ、話が通じない戦闘狂とみた。FGO時空なら狂戦士のクラスで召喚される事間違いないだろう。
「吾は貴様らとは違う。人を喰らう事も、日の光に怯える事もせん。吾はただ、吾のやりたいようにやるだけだ」
斬撃を繰り出そうと骨刀を構える。その俺の肩に、誰かが手を置いた。
「下がっていろ茨木童子、この鬼の相手は俺がする…!」
その正体は煉獄さんだった。だが彼は、寸前の戦いで立っているのもやっとの様子だ。
「下がるのは汝の方だ、煉獄。おそらく勝てはせぬが時間稼ぎはできよう。日が昇るまでもうすぐだ。それくらい耐えてみせる」
「いいや、俺が相手をする。君も、そこにいる二人も、ここにいる者は誰も死なせはしない。そう決めたのだ!」
「その体で戦えば汝が死んでしまうだろう。誰も死なせないと言うならば、自分の命も守ってみせよ。ともかく、ここは吾に任せておけ」
「たとえ俺が死んでも、俺の炎の意思が絶える事はない。それを引き継いでいくのは君達だ。その為ならば、俺は柱として、喜んで君達の盾となろう!」
………あの、ちょっと。
「ここにいる者は汝が盾になる事など望んではおらぬ。自分の体を労われ。傷も浅くないのだ、早くそこに横になっておれ」
「断る。君の方こそ、さっき汽車が横転した時、少女を助けて怪我をしただろう。それでもう十分だ。下がっていてくれ」
……………………………うん、頭にきました。
「下がるのは汝だと言っておるだろうが!体を見てみろ!汝は重傷、対して吾は擦り傷程度だ!怪我人は黙って下がっておれ!ベッド投げ付けるぞ!」
「怪我の具合など関係ない!この鬼は俺と戦っていたのだ!ならば俺が最後まで相手をするのが道理!さっき攻撃を庇ってくれた事には感謝するが、それはそれ!下がるのは君だ!」
「い・い・や、汝の方だ!というかな、汝のその人の話を聞かぬ癖はどうにかならんのか⁉︎人間の癖して狂化でも付与されているわけではあるまいな⁉︎」
二人のやり取りに、炭治郎と伊之助、そして猗窩座はただ呆然と眺める事しかできない。
「いい加減にしろ茨木童子‼︎これは命令だ‼︎これ以上口答えすると言うなら、君の足を斬り落としてでも退いてもらうぞ‼︎」
「喧しいわ‼︎その体でやれるものならやってみろ‼︎大体な、貴様にここで死なれたら、千寿郎に合わせる顔がないだろうが‼︎」
その言葉に、一瞬煉獄さんが動揺する。その直後、背後に迫る殺気を、鬼の直感が捉えた。
「チィッ!」
煉獄さんを炭治郎達の方へ蹴り飛ばし、そのまま体を反転させ、刀を振り下ろす。刃と拳がぶつかる。硬い。まるで鉄の塊に向かって斬り落としたかのように、俺の刀は弾かれた。
「…いい動きだ」
鬼がニヤリとほくそ笑む。何を笑っているんだこいつは。この戦いを楽しんでいるのだろうか。まるで自分達をオモチャのように扱われているような気がして、だんだん腹が立ってきた。
鬼が両脚を地に着け、構える。すると鬼の足元に羅針盤のような陣形が現れた。
「破壊殺・乱式」
豪雨の如き乱打が放たれる。これは受けてはまずい。そう確信した俺はその場から飛び退き、なんとか攻撃を回避する事に成功する。対する鬼は追撃をしようと拳を構える。
「破壊殺…ッ!」
だが追撃を放つ前に一気に距離を詰める。そしてその勢いのまま掌底を撃ち込んだ後、胸ぐらを掴み上げる。
「ッ!」
鬼の首を斬ろうと刀を振るう。しかし刃が首に到達する刹那、鬼が上体を逸らし斬撃を躱す。鬼の服を掴んだままの俺の体は、鬼の動きにつられて空に浮く。
「破壊殺・脚式、流閃群光!」
今度は脚による乱打。回避は間に合わない。鬼から手を離し、変化で防御を固めつつ攻撃を受ける。
一撃一撃がとてつもなく重く、そして速い。体中に裂傷を作りながらも、なんとか受けきった。
着地した所にすぐさま追い打ちがくる。迫ってくる鬼に向けて骨刀を斬り上げる。鬼は刀の描く軌道に合わせて体を回転させ、斬撃を受け流した。
(やっぱり一筋縄ではいかない、か!)
続け様に二撃、三撃と斬撃を繰り出すが、鬼は涼しげな顔でそれを回避する。
やはり戦闘経験の差があるか。相手は百三十年間誰にも倒せなかった鬼、そんな奴を相手に俺ができる事は何だ?考えろ、考えろ!
『ーーーーー君の動きには迷いがあり過ぎるな!』
ふと、鍛錬中に煉獄さんに言われた言葉が頭をよぎる。
『相手の動きを分析する事も確かに大切だ!だが君の場合、それが本来の動きを鈍らせてしまっている!』
仕方ないじゃないか。初めての手合わせの時、あんなに一方的に負けてしまったんだ。教えて貰った事を活かせるように、一手一手考えなきゃーーー
『初めて俺と戦った時の事を覚えているか⁉︎あの時、俺は本気で君の首を斬るつもりでかかっていた!だがそれは叶わなかった!それどころか君に情けをかけられ、見逃されるという失態を犯した!何故だか分かるか⁉︎』
そりゃあ、あの時は必死だったし、殺されまいと無我夢中で…
『俺が思うに、君は危機感知力がずば抜けているのだ!それに対応できる反射神経も持っている!そしてそれが最大限に発揮されるのは、命のやり取りをしている時だ!だからあの時、俺は君を殺せなかった!考える事も大事だが、時には直感に体を委ねるんだ!君には君の戦い方がある!俺の教えた事も、必ずそこで活きてくるだろう!』
拳が迫る。大地をも割る破壊の剛拳。受ければ当然、ただでは済まない。
視界を開け、感覚を尖らせろ。本能のままに戦え。それが、茨木童子という鬼の戦い方だ。
▼
拳が触れる直前、猗窩座は違和感を覚えた。目の前に立つ鬼、そいつの何かが変わった。
最初の一手に対する反応速度は良かった。だがそれまで。他の技の精度は煉獄の足元にも及ばない。
この一撃を以って終劇としよう。その思いで拳を放った。だが、
「何ッ⁉︎」
猗窩座の拳は空を切る。そして、振り抜いた右腕に赤い線が入り、ぼとりと地に落ちた。
(速度が上がった…?)
羅針が闘気を察知する。猗窩座は体を百八十度反転させながら裏拳を放つ。しかし、尚も空振り。視界の端に、身を屈めた茨木童子の姿が入った。
「ぜぇい!」
先程と同じ、右腕による掌底。前の一撃は多少驚きはしたものの、大した威力ではなかった。だが今度は、
(力も上がっているだと…⁉︎)
茨木童子の拳は猗窩座の胴に深々と突き刺さり、足元に血溜まりを作り出した。
(人間を喰らったわけでもないのに、何故急にこんな力を…⁉︎)
猗窩座は見た。茨木童子の体に起きた変化を。白い髪飾りが施され、肩にかけて虎柄の襷が現れた。そして金色の髪は炎を纏い、妖艶な揺らめきを帯びる。
「おおおおぉぉぉぉ!」
刀が振り上げられる。その刃は、腕が突き刺さり動けない猗窩座の胸を切り裂いた。そこで猗窩座はある事に気付く。
(傷の治りが…遅い?)
ほんの僅かだが、刀で斬られた箇所の再生速度が遅いのだ。おそらくはあの不気味な刀の所為だろう。日輪刀とは違う、邪な気配を帯びている。
茨木童子の突然の成長に驚く猗窩座、だがそれ以上に湧き上がってくる感情があった。それはーーー喜び。一度に二人の強者に出逢えた事に、猗窩座は歓喜していた。
「名を名乗れ!異形の鬼よ!お前を俺の好敵手として認めよう!」
「…大江山が首魁、茨木童子」
「俺の名は猗窩座!茨木童子!最後にもう一度問おう!俺と共に来い!そして永遠に戦い続けよう!」
「その戦いの果てに何がある。この体も、かつては暴虐の限りを尽くした身であったが、その生の中でも尊ぶべき物はあった。他者を喰らい、虐げるだけの貴様らと共に道を歩むだと?笑止千万‼︎」
「そうか、ならば…死ね‼︎」
術式を展開。もう加減はしない。全身全霊の一撃で、この鬼を屠る。
「破壊殺・羅針‼︎」
茨木童子の闘気が膨れ上がっていく。向こうも最後の一撃を繰り出すつもりだ。
「滅しッ⁉︎」
猗窩座が技を放つ寸前、黒い刀身が胸を貫いた。
「貴様…‼︎」
目に入ったのは日の模様の耳飾りをした少年、先程自分が弱者と罵った人間だった。
「クハハ!弱者に一本取られたな、猗窩座よ!」
猗窩座が振り向いた時、視界は巨大な赤い手で覆い尽くされていた。
「姦計にて絶たれ、戻りし身の右腕は怪異と成った!走れ、叢原火!」
巨大な手に捕まれ、体が宙へと持ち上げられる。抜け出す事はーーーできない。
「羅生門大怨起‼︎」
炎が爆ぜる。鬼種の炎熱は文字通り相手を骨まで焼き尽くし、粉砕する。
ーーーーーーしかし、
「いいぞ!もっとだ!もっと俺と戦おう!お前の全てを、俺にぶつけろ‼︎」
足りなかった。今の茨木童子の宝具では、上弦の鬼を屠るに至らなかった。焼け焦げていた猗窩座の体は、見る見る内に再生していく。
(こうなったら、もう一度宝具を…!)
その直後、一筋の光が、猗窩座の額を照らした。すると、
「ぐあっ⁉︎」
光の当たった部分が焼け、灰のように崩れて落ちる。そう、夜明けが来たのだ。
「チィッ、ここまでか。お前達の顔、覚えたぞ。次に会った時は、必ず俺が殺してみせる!」
それだけ言うと、猗窩座は森の中へと姿を消した。
一夜に渡る戦いは、ようやく終わりを迎えたのだ。
「…………ぷはぁっ!死ぬかと思った!」
緊張感が解け、その場に崩れ落ちる。自分の手を見てみると、プルプルと小刻みに震えていた。それでもなんとか、生き残る事ができた。
「茨木!大丈夫か⁉︎」
茨木童子に炭治郎が駆け寄る。
「汝のおかげでなんとか、な。助かったぞ、炭治郎」
炭治郎の一手が無ければ、猗窩座を撃退する事はできなかっただろう。その意味も込めて、茨木童子は感謝の意を示した。
「…そうだ、煉獄は⁉︎」
「大丈夫だよ、ほら」
炭治郎が指した先を見ると、黒衣の服を纏った『隠』の部隊が、煉獄や汽車の乗客達の手当を行なっていた。
すると煉獄が隠の隊員に肩を貸して貰いながら、茨木童子の方へ歩いてきた。
「……貸しができてしまったな」
「何を言うか。今までタダで飯を食わせて貰っていたのだ。これでおあいこよ」
そう言うと煉獄は穏やかな笑みを浮かべた。その顔を、太陽の光が優しく照らし出した。
閲覧ありがとうございます!
煉獄さん…生存ルートです。魘夢の最期は原作の流れに茨木童子が追加されるだけになってしまいそうだった為省かせて頂きました。ご都合主義ですので、どうかご容赦を…
今更ですが、評価、お気に入り、感想頂きありがとうございます。感想についてですが、今までは返信できていませんでしたが、今後はできる限り返信させた頂こうと思います。
次回は治療+日常回になる予定です。どうかお楽しみに。