やあ皆の衆、茨木童子(俺)だ。
時が過ぎるのは早いもので、無限列車での一件から一ヶ月が経った。
俺は相変わらず胡蝶さんの所で体を調べられながら、その合間に鍛錬をする日々が続いていた。
ちなみになのだが、あの一件の後、胡蝶さんから屋敷内であれば自由に行動していいというお許しを頂いた。やったぜ、それだけ信用されてるって事か。
この屋敷で過ごしている内に、ここにいる子達とも随分仲良くなった。アオイちゃんに、なほ、きよ、すみちゃんの三人娘、それとカナヲちゃん。カナヲちゃんは、初めて会った時はちょっと無愛想な感じだったけど、マカロンをあげたのがきっかけで心の距離がぐっと縮まった。今では胡蝶さんも交えて三人でお茶をする程の仲だ。
さて、それはそれとして今日も鍛錬だ。まずは日課の素振りから始めるか。
「5678、5679、5680」
この素振りにも大分慣れてきた。とりあえずこれを後四セットして、それから型の練習と、魔力強化の訓練を…
「あ、茨木!素振りやってるのか?」
「おお、炭治郎。体はもういいのか?」
目の前に現れた少年、竈門炭治郎。どうやら今日機能回復訓練を終えたようで、明日から本格的に任務に復帰するらしい。
「そういえば、茨木って煉獄さんに稽古つけてもらってたんだよね?どんな稽古してたの?」
「ん?ああ、吾の場合剣術の基礎がからっきしだったからな。それを鍛える為の素振りと、後は実戦稽古の繰り返しよ」
「煉獄さんと実戦稽古⁉︎やっぱりすごいな茨木は…」
「いや、言っておくが毎回吾ボコボコだったからな。吾の剣奴に擦りもしなかったし…」
素振りを続けながら会話をする俺。大丈夫、数はちゃんと数えている。
「よし、俺も一緒に素振りしようかな。茨木は今何回目?」
「これで六千、後四千回だな。これを後四度繰り返す」
「…………へ?」
炭治郎が突然固まった。どうしたのだろうか。
「六千足す四千…つまり一万回を後四回…って事は全部で五万回⁉︎」
あー、そうか。そうだよな、普通はおかしいと思うよな。慣れてしまってたおかげで感覚が麻痺してたわ。
「別にわざわざ吾に付き合う必要はないぞ。吾とて初めの頃はできなかったからな。終わる頃には日が暮れていた事も一度や二度ではない」
「いや、少しでも早く君や煉獄さんに近づく為だ。これくらいやってみせないと!」
そう言うと炭治郎は凄まじい勢いで素振りを始める。本当に五万回やる気だろうか。
まあ、頑張る気持ちを無下にはできないし、俺も一緒に頑張るとするか。
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「ほれ、水だ。飲めるか?」
「あ、ありがとう。助かるよ…」
結果から言うと、炭治郎はきっちり一万回やり切った。流石に五万回となると、明日の任務に支障が出てしまいそうなので止めておいた。
「そういえば槇寿郎殿から連絡はあったか?」
「あ、ああ。あったよ。実はこの後、その槇寿郎さんの所へ行こうと思ってたんだ。怪我も治ったし、一度直接話をしてみたいと思ってたからね。茨木も一緒に行くかい?」
「吾は屋敷から出るなと言われておるからな、また別の機会にさせて貰う」
炭治郎の手を取り、立ち上がらせる。するとどうしたのか、炭治郎が俺の手をじっと見つめ始めた。俺の右手を握ったまま、だ。
「…そういえば、猗窩座との戦いの時、茨木の手大きくなったり飛んでたりしてたよね?あれって、君の血鬼術なの?」
そういえば柱の人達には説明してたけど、炭治郎には言った事なかったな。血鬼術じゃなくて宝具なんだけど。
「まあ、そのような物だ。ただ、あの技は体力の消耗が激しいのでな、余り連発はできん。いわゆる必殺技という奴だ」
炭治郎が「おおっ!」と目を輝かせる。やっぱり男の子ってこういうの好きだよね。
「かっこよかったよ!こう、グワって大きくなってビューンって飛んでドカーン!ってなって!」
うーん、興奮すると語彙力がなくなるタイプか。俺も小さい頃はそうだったよ。
「しかし吾からしてみれば、汝の技も素晴らしい物だったぞ。特にあのヒノカミ神楽はなんとも「ボッ」あつぁッ⁉︎」
急に尻の辺りで何かが爆ぜた。原因は…分かった。そうか、もうそんな時間か。
「一々火の粉を散らすでない、叢原火!そう急かさずともちゃんと汝の飯は用意しておるわ!」
背後から火の球ーーー叢原火が現れる。俺は縁側に置いていた巾着袋から、今朝焼いておいたマカロンを取り出し、叢原火に差し出す。
「朝も焼きながらあれだけ食していたというのに、よくそんなに食べるな。吾の分がなくなってしまうではないか…」
差し出したマカロンは、叢原火の火の中に溶け込むように消えていく。
その光景を、炭治郎は呆然とした様子で眺めていた。
「ああ、これか。此奴は叢原火、吾の使い魔…汝でいう鎹鴉のような物だ。此奴は吾の手助けをする代わりに、菓子を要求してきてな。朝昼晩、定期的にやらんとこうして火の粉を散らしよるのだ」
巾着袋に入ったマカロンを全て平らげると、叢原火はスッと消えていく。今更だが、お菓子好きの火の球なんて聞いた事ないぞ。
「その叢原火って、君が操ってるんじゃないのか?」
「うむ。確かに自我を持っておる。吾も最初は驚いたがな…」
お茶屋でバイトをしていた頃、夜道で急に姿を現した時は思わず腰を抜かしたものだ。
「へぇ〜、自我を持つ血鬼術ですか。変わった能力ですね、茨木さん?」
「ふぁっ⁉︎」
何か最近驚かされてばっかりなんですけど⁉︎
突然現れた胡蝶さん。だけどなんだか…あれ、怒ってる?
「アナタの血鬼術は巨大な手を作り出すという物、と聞いていたんですが、こんな血鬼術もあったんですね。私、知りませんでした」
「う、うむ。だが此奴は血鬼術というより、もっと別の…」
「隠し事は無しにすると約束しましたのに。私、残念です」
ねえちょっと待って。確かに言ってなかったのは悪かったかもだけど、そこまで怒る事じゃ…
「じゃあ行きましょうか。その血鬼術について、きっちり説明して頂きますから」
「わ、分かった。分かったから待て。その拳を収めてくれ、な?待て、待っ」
頭に鈍い衝撃が走る。
そこで、俺の意識は途絶えた。
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あれから更に三ヶ月が経った頃、蝶屋敷で鍛錬をしている俺の下に、ある人物が訪れた。
「おおいたいた。茨木、ちょいとツラ貸しな」
煌びやかな輝石で装飾をした男、音柱の宇髄さんだ。一月程前には一緒に任務に行った事もある。その際に、服装や戦い方が派手だという事で、お気に入り的な物に認定されてる。
「どうした宇髄、任務か?」
「ああそうだ。前に話した事あったろ。遊郭に俺の嫁が潜入してるって。そいつらから連絡が途絶えた」
そいつら、か。この言葉の通り、この人嫁三人もいるんだよな。ギャルゲーか何かの主人公かよ。
「あいつらは優秀なくの一だ。連絡が途絶えたとなると、相当厄介な相手…上弦が出てくる可能性もあるかもな」
またしても上弦案件かよ。いい思い出はないけど、あれからかなり鍛えたし、新しく使えるようになった力もある。いずれは戦わなければならない相手だ。なら断る理由も無いか。
「承知した。いつ出発する?吾も同行しよう」
「そうだな、後ニ、三人くらい連れてくか。…あっちの方か」
宇髄さんの姿が消える。相変わらず素早い人だ。
縁側に置いた巾着袋を懐に仕舞い込み、俺は宇髄さんが行った方向へ走り出した。
▼おまけ お見舞い
「煉獄、見舞いに来たぞ。調子はどうだ」
「茨木童子か。相変わらずだ、まだ当分稽古には参加できそうにない」
「無理はするな。前みたいに病室で素振りを始めでもしたら、今度は本気でぶん殴るからな」
「ははっ、肝に銘じておくよ」
「うむ、ならばよし」
「…父上に会ったんだな」
「!」
「手紙が届いたんだ。何はともあれ、俺が生きていた事を喜んでいてくれていた。…君のおかげだ」
「礼などいらぬ。吾は力のある者として、成すべき事をしたまでだ。それに、貸し借りは無しだと言ったろう」
「ああ、そうだったな。すまない」
「それより、ほれ。見舞いの品だ。汝の好きなプリンを持って来たぞ」
「おお、それはありがたい。しかし料理がうまいとは、君はいいお嫁さんになるな!」
「いや、悪いがそれはないからな?天地がひっくり返ろうとありえないからな?」
閲覧ありがとうございます!
今回はかなりゆるりとした回でしたが、いかがだったでしょうか。
次回からは鬼の潜む遊郭に潜入します。ちょいと更新に時間がかかるかもしれませんが、どうか気長にお待ち下さい。