満月の夜、山から山へ跳び渡る影が一つ。その正体は天狗か、猿か。いや違う。
「ククク…クハハハーーーッ!」
もちろん、吾だよ☆
ただ今忍者走りで高速移動中にござる。茨木童子になって身体能力が爆上がりしたおかげで山も谷もひとっ飛び。正直楽しくて仕方がない。パルクールができる人ってこんな気分なのだろうか。
下り坂を駆け下り、その勢いを利用して思い切り跳躍する。
「ッ!見つけたぞ!」
月を背に、山中に潜む鬼の姿を視界に捉える。骨刀を手に取り着地、鬼の居場所を目指して一気に加速する。
鬼は迫り来る気配に気付くが、時すでに遅し。抵抗する間も無く首は両断され、灰となって消えていった。
(…決まった。今のは決まった)
思わず笑みが溢れる。それほど見事な早業だった。ただ、
ーー顔面が蜘蛛の巣だらけでなければ完璧だったのだが。
(……気持ち悪い)
へこむ、すごくへこむ。ハイになっていたテンションが一瞬でゼロに落ちる。
蜘蛛の巣を払い、周りを見渡して見ると、あちらこちらに蜘蛛が巣を張っていた。
(やだなぁ、俺蜘蛛苦手なのに)
あのたくさんの眼とか足とか、とにかく生理的に無理なのだ。
こんな所に長居したくはない。さっさと別の山に行こう。そう考え足を動かした時だった。
『ーーーッ!』
確かに聞こえた人の声。それも悲鳴だ。
「あっちの方か」
もしかしたら誰かが鬼に襲われているのかもしれない。
近くにあった木の上に飛び乗り、声のした方向へ足を早めた。
▼
(見つけた!)
少し離れた木の上から、悲鳴の主の姿を捉える。
背中に『滅』と書かれた黒い詰襟を身に纏った女性だった。
(という事は、鬼殺隊じゃねぇか!)
しかし妙である。その鬼殺隊の女性は、同じ黒の詰襟を着た少年と…何だあれ?猪の頭をした半裸の…変態?と向き合っているのだ。それも刀を抜いて。
(仲間割れって感じじゃなさそうだし…おや?)
目を凝らして見てみると、女性の体に蜘蛛の糸が付いているのが見えた。まるで操り人形のように。
(いや、ようにじゃなくて、本当に操られているのか!)
そう考えていると、バキリと嫌な音が耳に入る。糸で無理矢理体を動かされているせいで、骨が折れようとお構いなしらしい。
そうこうしている内にもう二人、同じく糸で操られている鬼殺隊員が現れた。一人はすでに息絶えており、もう一人も虫の息の状態だ。
少年と猪頭の二人はなんとか耐えてはいる物の、このままではやられるのは時間の問題だ。
(…仕方ない、気は進まないけど助けに行…ッ⁉︎)
飛び降りようと身構えた直後、少年が女性の体を掴み、木に向かってぶん投げた。
(そうか!糸を木に絡ませて動きを止めたのか!)
あの状況でその判断を行い、即座にやってのけるとは、大した物である。続けてざまにもう一人、まだ息がある方の鬼殺隊員を、猪頭の少年が同じようにして動きを止めた。なんか叫んでるけど、君はなんでそんなにテンション高いの。
「…ッ!」
すでに息が絶えていた鬼殺隊員。その男に絡まる糸が一気に張るのが見えた。
(まずいッ!)
両脚に力を込め、一番距離の近かった女性に目掛けて飛ぶ。そして骨刀を振り抜き、女性の頭に巻き付いていた糸を切り払った。
▼
気がついた時にはすでに遅かった。
骨が折れる音、目の前でぐるりと回った首。
(助けられなかった…ッ!)
せっかく助けられたと思ったのに。一瞬の油断で皆を殺してしまった。自分の不甲斐なさに、怒りが込み上げた。
「あーーっ!畜生!皆殺られ…いや、一人だけ生きてるぞ!」
伊之助の言葉に、ハッとして顔を上げる。そこには、何が起きているのか分からず狼狽する女性の姿があった。
「……生きてる!」
その様子を見て安堵の息がでる。
なぜか、女性の頭の周りの糸だけが切断されていた。そのおかげで助かったのだ。だが、自分達は彼女の糸を切る余裕などなかった。なら、一体どうして…
「…ッ!何だテメェ!どっから出てきやがった!」
伊之助が再び声を上げる。伊之助の視線の先を辿ると、一人の少女が立っていた。
着崩した黄色の着物を着た金髪の少女。ただしその少女は人間ではない。額から生えた二本の角がそれを証明していた。
「……助けられなかった」
少女は木に吊り下げられた男を見ながら、小さくそう呟いた。
そして少女は二人に背を向け、この場を去ろうと歩き出す。
「ま、待ってくれ!」
少女がピタリと足を止める。
「…どうして、助けてくれたんだ?」
浅草で出会った二人の鬼。あの人達に出会った時と同じ言葉を投げかける。
「…さあな。そんな気まぐれを起こす鬼もいた、というだけだ」
それだけ言い残して、少女は山の中へ姿を消して行った。
彼女からは、全員を助けられなかったという悲しみの匂いと、ほんのり甘い団子の匂いがした。
閲覧ありがとうございます!
今更ですが今の茨木童子は第一再臨の姿になります。
次回は今週中に投稿できたらいいなー、という感じです。適当ですみません!