「………………………………………………………」
どうしたのかって?へこんでるんですよ。
傍観なんてせずに初めから助けに行っていれば、どうにかなっていたかもしれない。そんな後悔の気持ちがぐるぐる頭の中を回っている。落ち込んでばかりいても仕方ないのは分かっているのだが…
「ハァ……」
この世界に来て、人が死ぬのを見るのは初めてだった。それもあんなに無残な死を見るのは。『ガサガサッ』
こういう事が起こる世界だというのは分かってはいたが『ガサガサッ』それでも実際に『ガサガサッ』にすると『ガサガサッ』
「あーもうさっきからガサガサガサガサうるさいぞ!人(鬼)がへこんでいる時ぐらい静かにせん……か………」
茂みの中から現れた物を見て、俺の思考は停止した。
人間の顔をした蜘蛛がいる。
人間の・顔を・した・蜘蛛が・いる
「………ヒュッ」
俺の中で恐怖と責任感が弾け、そのまま意識を手放した。
▼
「………ハッ!」
どれくらい意識を失っていたのだろうか。
恐る恐る辺りを見渡してみたが、あの不可解な生物の姿はない。
「何で蜘蛛に人の顔がついておるのだ。意味が分からぬ、意味が分からぬ」
大事な事なので二回言いました。服に着いた土を払いながら立ち上がる。
まだ空は暗い。夜明けまでまだ時間がありそうだ。となれば、あの少年達が気がかりである。
さっきはへこんでいた事もあってしれっと去ってしまったが、大丈夫だろうか。
「とりあえず、飛び回って探してみるか」
近くの木に向かって跳躍し、少年達の捜索を始めた。
ーーーーーのだが。
(全っ然見つからねぇ!)
あれからかなり方々を回って探しているが、手掛かりが何一つない。あの時はそこまで距離は離れてはなかったはずなのだが…
ーーなどと考えていると聞こえた、何かが爆ぜる音。
(あっちか!)
足に力を込め加速する。そして俺が見たのは、あの少年が燃える刀で鬼の首を断ち切る瞬間だった。
(あの剣舞は…!)
素人目でも伝わる凄まじい剣気、遠目からでも分かる少年の胆力。
(すごい…)
その姿に思わず見惚れてしまっていた。だからだろうか。
背後に忍び寄る気配に気づかなかったのは。
「そんなにあの子が気になりますか?」
振り向きざまに刀の切っ先が迫るのが見える。かろうじて体を逸らした事で、刃は頬を掠める程度で済んだ。
慌てて隣の木に飛び移り、現れた人物の姿を目に入れる。
ほんのり紫がかった髪に、蝶のような羽織と耳飾り。整った顔立ちで、その顔には温和な笑みが浮かべられているが、鬼としての直感か、それがハリボテだという事はすぐに分かった。
「金色の髪に黄色い衣、間違いありませんね」
骨刀を出現させ、臨戦態勢をとる。
「あなたですよね?煉獄さんと立ち会って、逃げ延びた鬼というのは」
煉獄…?一体誰の事だ?
「赤い髪の、目がギョロっとした人です。覚えはありませんか?」
あの人の事か⁉︎あのどう見ても人間離れしたヤバイ奴の事か⁉︎
そしてアンタもあの人同等の人だな⁉︎聞かなくても分かるわ!
「…私ばかり喋ってますね。あなたも何か聞きたい事はないですか?少ししか時間はありませんが、お話しましょう?」
あ、何か怒ってる?とりあえずごめんなさい。
「吾としては…」
「はい」
「吾としては、汝と戦うなどという気は毛頭ないのだが、見逃してもらう事はできぬか?」
「できませんね」
「即答か⁉︎」
「ああ、ごめんなさい。少し語弊がありました。私もあなたと戦う気はありませんよ。だって、あなたを生きたまま連れて行く事が、お館様の御命令ですから」
「は?それはどういう…ッ!」
何だ、体が痺れて…⁉︎
「体の自由を奪い、昏倒させる毒です。…あなた、鬼なのに傷の治りが遅いんですね」
この人、毒使いか!顔に傷をつけた時点で、すでに戦いは終わっていたって事か、どうりで余裕があったわけだ。
ふわりと蝶のように飛び、彼女は俺の隣に静かに降り立つ。
「大人しくしていてくださいね。大丈夫です、すぐに殺したりはしませんから」
それ、いつかは殺すって事ですよね。少なくとも近い未来に殺すって事ですよね⁉︎なら俺にも考えがあるよ!
ーーーーー仕切り直し
体の痺れが取れた事を確認し、跳躍。毒の女性も不意を突かれたようで、距離を取るのは容易だった。
そう、これこそ茨木童子のいい所その一!『仕切り直し(A)』!自身の状態異常を回復し、戦闘を離脱するスキルだ!
「侮ったな人間よ!吾にかかればこの程度の毒抜きなど朝飯前よ!連れて行くなどと宣っていたが、そもそも吾人間殺した事ないし、鬼狩りに連行される覚えなどないわ!赤髪の…煉獄、だったか。そ奴も一方的に襲ってきたから迎え撃っただけだし、むしろ吾の方が被害者だわ!」
キョトンとする毒の女性。この際だ。溜まっていた鬱憤を全部出してやる。
「汝な!性格悪いとか言われた事ないか⁉︎騙し討ちして鬼を手玉に取ろうとするなど人間のやる事では『シャキン!』うはぁっ⁉︎」
あ、危なかった、また切られる所だった。こめかみピクピクしてるし、これ以上はやめておこう。
「ではな!吾は帰る!明日もやらなければならない事あるのでな。あの小僧に息災にと伝えておけ!」
もう一度、今度は全力の跳躍でその場を離れる。毒の女性の姿がみるみる小さくなり、やがて木の影に消えていった。
それにしても、あんな人間離れした奴が二人もいるとは…いや、他にももっといるかもしれない。
鍛錬の時間を増やしたい所だが、今回は鬼殺隊に接触し過ぎた。しばらくの間は大人しくして、落ち着いた頃にまた、鍛錬を始めよう。
ーーそう思っていた時期が、私にもありました。
「あの…」
浅草。いつもの茶屋で働いていた俺の元に訪れたのは、
「茨木って、君の事だよね」
箱を背負った、額に傷のある少年だった。
▼以下ボツネタ
はーいどうも俺(茨木童子)でーす。
何とね、俺今鬼殺隊の本拠地にいるの。毒使いの女の人、胡蝶さんっていうらしいんだけど、その人の毒にやられて気がついたらここにいたの。これからここにいる鬼殺隊の…柱?どうも鬼殺隊の最高戦力らしいんだけど、その人達に裁判にかけられるらしいの。
(あれ、俺詰んでね?)
だよねヤバイよね⁉︎これって俺をどうやって殺すかっていう裁判だよね⁉︎やめて!俺まだ死にたくない!何でこの世界に来たかの理由も知らないまま死ぬだなんて酷過ぎない⁉︎逃げようにも手枷足枷されてるし…待てよ、これ強引にやったら壊れそうだぞ。
ーーん?あれ、何か見覚えのある…ああ、あの時の少年か!…何か包帯まみれになってるけど、一体どうしたの?
「治療は私達の隊が行うと言いましたのに、源さん」
源さん?また柱の人かな。
「いえ、いいえ。傷だらけの我が子を、どうして放っておく事ができましょうか。まだこんなにも年幼いというのに…母は、母は……っ!」
………ちょっと待て。この声、この独特な言い回し、源ってまさか…!
「初対面のガキに我が子とは、相変わらず派手な事言いやがる」
「鳴柱様、もうじきお館様様がいらっしゃいます」
「ええ、分かっています。ですがその前にーーーーー」
「蟲が一匹紛れているようですので、先に潰してしまいますね」
あ、終わった。
この後、紆余曲折あって最終的に俺も我が子認定されるのだが、それはまた別のお話。
閲覧ありがとうございます!
ボツネタに出てきた人は…言わなくても分かりますよね、皆の母です。
しかしこの人を出そうとすると、もう一人の鬼の方も出さねばならぬと思い、そうなるとパワーバランスや話の構成が当初の予定とかけ離れてしまうと思い、あえなくボツとなりました。
話は変わり更新についてですが、鬼滅の新刊が手に入らない為、次回はともかく、その後の話は投稿がかなり遅れそうです。どうかご容赦を。