どうも、茨木童子(仮)です。
今俺は鬼殺隊の胡蝶しのぶさんという人の屋敷で、包帯や拘束着でベッドにがんじがらめにされて治療中です。
どうしてこんな事になっているかと言うと、あの鬼との戦いの後、鎹鴉とか言う喋る鴉の伝令で胡蝶さんとその部隊があの場に駆けつけ、意識を失っていた俺をこの屋敷に連れ帰った、との事です。どうして鬼の俺を治療してくれているかは、まだ分かりません。
炭治郎曰く、本当は別の医者の所に連れて行こうと思っていたらしいが、しのぶさん達の方が一歩早かったらしい。何でも、ある鬼を探す為にあの辺りを巡回している途中だったとか。
………まあ、そのある鬼って俺の事だったみたいだけどね!どの道鬼殺隊に連行される運命だったのね!鬼殺隊の情報網って凄いね!
という訳で現在拘束&治療中の俺です。え、何で逃げないのかって?
確かに拘束は変化で簡単に抜け出せそうだし、傷はまだ痛むけど、茨木童子の鬼としての回復力のおかげで動ける程度にはすでに回復している。『仕切り直し』もあるし、逃げようと思えば逃げれない事はない。でも、
「…何ですか、私の顔に何か付いてますか?」
この人が逃してくれそうにないんですよ。
そう、俺を拘束&治療した張本人、胡蝶しのぶさんである。何でも、鬼殺隊の最高戦力と呼ばれる『柱』の一人らしい。
常にニコニコしてるんだけど、何か、目の奥が笑ってないんだよな。俺の前では。まあ鬼殺隊からしたら俺は完全に敵な訳だし、当然と言えば当然なんだけど。
「いや、別に何もない。それはそうと、一つ頼みがあるのだが」
「お断りします」
まだ何も言ってないんですけど⁉︎
「いや、大した頼みでもないのだが」
「だったら必要ないですね、お断りします」
「いくらなんでも吾への当たり強すぎないか⁉︎」
「ごめんなさいね、私、性格悪いですから」
あの時の事根に持ってらっしゃる!いやまあ、調子に乗った俺が悪いんだけども!
「せ、せめて、話だけでも聞いてくれぬか…」
「聞くだけでしたら、どうぞ」
う、うーん、本当に聞くだけで終わりそう。まあ、そうなったらそうなったで別にいいけど。
「その、だ。この部屋、ずっと窓を閉め切っておるだろう?それを開けてもらえぬかと思ってな。これでは今が昼なのか夜なのか分からぬ」
そう言って俺は雨戸で閉め切られた窓を指す。多分、俺が逃げ出さないように閉め切っているのだろう。
「……………はい?」
え、何その反応。俺そんなに変な事言った?
「いや、だから…窓を開けてくれぬかな、と…。あ、別に逃げ出す為とかではないからな?」
「今、昼ですよ?」
「いや、そういう事ではなくてだな。日光を浴びずにずっと部屋の中にいると、時間の感覚が狂ってしまいそうなのだ。あれから丸二日経つが、流石にそろそろ――」
「いやいやそうではなく。……あなた、鬼ですよね」
…うん?確かにそうですけど。
「鬼が日光に当たればどうなるか、知っていますよね?」
……………あー、そういう事か。そうだよね、この世界の鬼って日光に当たったら死んじゃうもんね。
「その事なら心配いらぬ。吾は他の鬼とは違う。日の光なんぞで死ぬ事はないわ。まあ、彼奴らのような馬鹿げた再生能力はないがな」
「……この窓は開けられませんよ。外側に鉄板を貼り付けていますので」
あ、そうですか。だったら諦めます。
それにしても、俺ってこの後どうなるんだろうなー。わざわざ治療してくれてるって事は、すぐに殺されるとかいう事にはならなそうだけど。
そんな事を考えていると、扉がノックされる音が聞こえた。
「しのぶちゃーん、入るわよー」
女の人の声だ。誰だろう。
「見張りお疲れ様ー、あ!その子目を覚ましたの⁉︎お腹に穴あいてるんでしょ?大丈夫?痛くない?」
…!まずい、あれは…!
「甘露寺さん、どうかしたんですか?」
「あ、そうそう。お腹空いてるかなと思って…じゃん!パンケーキ作ってきたの!」
「ありがとうございます。後で頂きますので、そこに置いておいて…っ!」
胡蝶さんが突如顔を引きつらせる。その原因はーー俺である。
なぜなら俺の視線は今、目の前に現れたパンケーキに釘付けになっているのだから。
「ええっと…茨木ちゃん、だよね?どうしたの、そんな血走った目をして」
甘露寺さんが俺の視線の先に気付き、手に持ったパンケーキを上下に動かす。それに釣られて首を上下する俺。
そう。この体になってからというもの、甘い物を見ると体が反射的に反応するようになってしまったのだ。もちろんバイト中は我慢しているのだが、疲れた時や怪我をした時には、制御が利かなくなってしまうのだ。
「………食べたいの?」
「いらぬ」
「食べたいんだよね⁉︎口元涎すごいよ⁉︎」
「いらぬと言っておるのだ!吾は別にそんな菓子なんぞ食いとうない!ふわふわで見るからに美味そうだし甘い香りで鼻が蕩けてしまいそうだが全くもって食べたいなど思ってない!それは胡蝶の為に作った物だろう。さっさと汝の腹に収めてしまってくださいお願いします」
早くしろ!(俺の理性が)間に合わなくなっても知らんぞ!
――ん?胡蝶さん何を…ああ、ようやく食べてくれるのか。パンケーキをフォークに刺して……え、何でこっち持ってきてんのってもがぁ⁉︎
「…もぐもぐ、もぐもぐ」
う・ま・い‼︎
見た目と期待を裏切らない味だ!ふわふわのパンケーキの甘みを蜂蜜とバターが更に引き立たせている!
「…食べましたね」
「うん、食べたね…」
何か二人して驚いてるけどそんな事はどうでもいい。今はこの幸せを噛みしめねば!
「ね、ねえ。よかったらもっと食べる?足りなかったら、また作ってくるから」
「甘露寺さん、あまり甘やかしては…」
「だってこんなに美味しそうに食べてくれる子初めてなんだもん!あー、なんだか私までお腹空いてきちゃった」
コンコン、と扉が再びノックされる。扉を開けて、演劇とかで見かける黒衣のような姿の人が入ってきた。
「胡蝶様、甘露寺様。他の柱の方々が到着致しました。産屋敷邸…へ…」
黒衣の人が、パンケーキを頬張る俺を見て言葉を詰まらせる。さっきから驚かれてばっかなんだけど、何なのかな?
「分かりました、すぐ向かいます。…茨木さん、あなたも一緒に来て貰いますよ」
「分かった分かった、食べ終わるまで少し待て……え、どこに行くと?」
「柱合会議です。そこで、あなたの今後の処遇を決めます」
▼
三時間後
私、茨木童子(仮)。今後、鬼殺隊にて軟禁生活を送る事が決定しました!拍手!
いやー、処刑とかにならなくて本当によかった!
処刑されなかった理由としては、俺が日頃から鬼を狩って人を助けていた事が主な理由かな。正直、これはちょっと狙っていた。俺の噂を聞いて味方してくれる人ができればなーとか思ってました。まあ、柱の大半の人は信用できないって反対してたけど。
後は俺の体を調べる為、というのもある。鬼でありながら日光で死なない理由とか、人を食べなくても行動できる理由とか、調べる事がたくさんあるらしい。
それに協力すれば、ある程度の自由は与えてくれる、との事だった。やったぜ!これで鬼殺隊から怯える生活とはおさらばだ!
―――――と思っていたのだが。
「…何ですか?人の顔をジロジロと」
俺の今後の生活には、柱が一人監視に付く事が条件なのだ。正直、常に首元に刃を突きつけられているような気がして落ち着かない。
「もぐもぐ、いや、別に。もぐもぐ」
甘露寺さんに貰ったパンケーキを頬張りながら、目の前に座る胡蝶さんを見つめる。彼女は薬学に精通しているようで、俺の体の調査も兼ねて監視役に任命された。また、監視役はその時の状況次第で変わるとの事。
「ごっくん。ふう、まことに美味であった。して、胡蝶よ。尋ねたい事がある」
「今度は何でしょうか。お館様からお許しが出たとはいえ、妙な事をすれば即毒を打ち込みますよ」
ひえっ、怖い。
「どこか近くに鍛錬ができる場所はあるか。できるだけ広い場所がいい」
「鍛錬…鬼のあなたがですか?」
うむ、と俺は首を縦に振る。
今回の戦いで痛感した。今の俺では、この世界で生きていくには力が足りない。そして同時に確信した。大江山の首魁たる茨木童子の力が、この程度のはずがない。
鍛錬の先に俺が狙うのは――――そう、霊基の再臨である。
▼おまけ 柱合会議にて
「お館様!流石にこの度だけは許容できませぬ!この鬼殺隊で、鬼を二匹も匿おうなど!人を助けたと言いますが、我々の目を欺く為の演技という可能性もありましょう!どうか、この鬼の処分を願います!」
「待て、傷の人よ。汝、おはぎを持っておるな」
「…はあ?一体何の「いや、皆まで言うな。吾には分かる」
「おそらくこの集まりの前に食べようとしていたが、タイミングが合わなかったのだろう。して、そのおはぎはこし餡か?粒餡か?どちらも美味いからなぁ、甲乙つけ難い。こし餡はあの滑らかな舌触りが、粒餡はあの粒々とした食感がなんとも――」
「うっせえな!そんなに食いたきゃテメェにくれてやるよ!」ブオンッ
「もぐもぐ、美味い!」
「黙れ‼︎」
閲覧ありがとうございます!
そして誤字報告ありがとうございます!非常に助かります。一応チェックしてから投稿するようにしているのですが、まだまだ不足しているようです。今後もご指摘よろしくお願いします。