クーネル・エンゲイザーを書いたものです。
とても素敵な歌なので、みんなも聞いてね。
地球は極寒に閉ざされた。
???? 年?? 月?? 日? 曜日。
昼。
いつしか世界は、未曾有の寒さに覆われた。
果たしてそれがいつだったか、もはや誰にもわからない。
ましてや二人の少女は、絶対にわからないだろう。
なんせ外界との連絡を断たれているのだから。
しょうがないと言えるだろう。
たった二人、道路も空も青く白くこおった世界で。
「おねえちゃーん」
「どうしたの、葵」
琴葉茜、琴葉葵。
二人の姉妹は極寒の世界の中、一軒の家にこもっていた。
未だ電気は流れていて、暖かいヒーターはまだ効く。
だから生き残ることはまだできた。
それももう、いつ終わるかと言ったような状況なのだが。
「相変わらず静かだよね」
「そんなことか……でも確かに静かだよね」
外に出ていた人は、例外なく凍った。
思わず息を吸い込んだ人たちは、冷えた夜が肺に。
砕けて散った。
最初は二人とも、それを見て怖がった。
怯えた。
苦しんだ。
親も凍ってしまったのだから、当然だと言えば当然なのだが。
だが、二人は死ぬよりも生きることを選んだ。
寒い世界の中。
そんな中、彼女たちは生きている。
その命の火を灯し続けている。
希望は捨てることなく、ただただ生きようとしていた。
「はぁ……家の中だって言うのに息が白いよ。お姉ちゃん」
「ほんとだね。面白いからいいと思うけど」
「もうお姉ちゃんは危機感ないんだから」
プンスカ怒りながらも、楽しく笑う。
外に出れない、そんな生活だけども幸せであった。
茜も葵も。
コタツに入って、テレビをつけてみる。
もしかしたらニュースがやっているかもしれない。
もしかしたらバラエティ番組がやっているかもしれない。
数少ない希望だけど。
もしも、映ったらいいな。
そう思ってテレビをつける。
だが、流れるのは砂嵐だけ。
無駄であった。
そう、生きることすら無駄だったのだ。
思い出も夢も、そのうちすっかり凍ってしまうのに。
ジジッと音を立てて、電気が消えかける。
「また……大丈夫かな」
「大丈夫だよ。そんな心配ばかりしてたら、頭がパンクしちゃうよ?」
「むぅ……お姉ちゃんは考えなさすぎなんだよ」
「そうだねぇ。今は葵と一緒にいれるのが幸せだからなぁ」
「……もう、お姉ちゃんってば」
そう言うと、葵は立ち上がってキッチンに行く。
下のタンスを開けてみるが、食料はまだ余裕がありそうである。
後、数ヶ月は生きれるだろうか。
なら、余分に少し食べても大丈夫だろう。
そう考えた彼女は、コンポタを作る。
(……もっと、生きたいなぁ)
そう考えながらも、長く生きれないことは悟っていた。
それは姉も同じだろう。
何も映らないテレビを見つめる姉。
なんとも虚しさがある。
悲しい、悲しいなぁ、と。
「おねえちゃーん、コンポタ作ったよ」
「おお、気がきくなぁ。葵は」
「ふふーん♪ そうでしょ?」
機嫌よく、歌を口ずさむ。
それに重なるように、姉の茜も歌を口ずさむ。
なんとも楽しそうで、なんとも苦しそうで。
それを見る人は誰もいなくて。
茜はコタツの上にあるみかんを取る。
そして考えた。
(コンポタと食べたら美味しいんかな)
みかんの皮を剥いて、一口咥える。
みかんから溢れる果汁がなんとも美味であった。
冷たくて、美味しいみかん。
幸せだったのだろう。
「早く冬、過ぎないかなぁ」
「……過ぎて欲しいね」
そうは言うものの知っていた。
今は八月。
冬以外の季節なんて来ないことを。
「そうだ葵、夏になったわ海に行こうよ! バーベキューとかいいかも……えへへ」
「そう、そうだね。お姉ちゃん」
精一杯の笑みで答える。
夏は来ない。
その事実に改めて突き当たる。
自然と零れ落ちていたのは涙だった。
「葵、どうしたんや?」
「え……あ、ううん。なんでもないよ」
目から溢れる涙を拭いて、姉と同じようにみかんの皮を剥く。
中から出てきたのは、随分と小さいみかんであった。
(可愛い……)
小さいみかんと普通のみかんを置いて、大きさを比べてみる。
こう見てもなかなか小さいのだ。
「ふふっ」
「葵?」
「ほら見てお姉ちゃん。ぼくとお姉ちゃーん」
「えへへっ、なにそれ」
楽しげな笑い声が家中に広がる。
二人っきりの家の中で。
数日後。
朝。
「お姉ちゃん、おはよう」
「んぁ……葵? おはよう」
そう言いながら茜は席に着く。
運ばれてきたのは朝ごはん。
葵特製の朝ごはんだった。
「美味しそう。いただきます」
外の窓を見てみる。
相変わらずの真っ白な景色。
朝か夜か、それすらもわからないくらいに真っ白であった。
「やっぱり世界が眠らなかったら、すきって言ってあげてもいいよ」
「……どうしたの、葵」
「……え? い、いやなんでもないよ! ほら、早く朝ごはん食べちゃお!」
ご飯食べて、またコタツに入ってみかんを食べる。
たまに遊んで、飽きて寝て。
外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
食って、寝て、外を見る。
もはやそれは、単純化された作業であった。
だからこそ、飽きる時が来る。
その生活に。
数ヶ月後。
夜。
「ねぇねぇお姉ちゃん! 見てこれ!」
「んぅ……? アルバムだ。どうしたのそんなもの」
「えへへ、片付けてしてたら見つけたの」
中を開いてみると、懐かしい生活の思い出が一気に蘇ってきた。
昔の思い出が、一斉に。
まだ地球が凍る前の、昔が。
(……懐かしいなぁ。戻りたいな、この頃に)
だがそれは、もはや叶わぬことであった。
全ての思い出を見終えた葵は、片付けの続きに、と。
そのアルバムを持って二階へ向かう。
そこで窓を見た時。
空が晴れていた。
綺麗で、青い空が一面に広がっていた。
「は、晴れてる……? 晴れてる……!」
アルバムを投げ出し、急いで窓に向かう。
そして窓に手をかけ、少し開いた瞬間だった。
雪が降った。
一粒の雪が、零れ落ちた。
それは冷たい空気。
全てを極寒へと誘う、空気であった。
それを吸ってしまったのだ。
少女は。
「ガッ……ハっ……!? ぐ、ゥ……ァあ」
急いで窓を閉め。膝をつく。
(空気が冷たい、吸う息がとにかく冷たい。それに右手が、青い)
それよりも、問題があった。
何も感じないのだ。
冷たいと言う、痛いと言う、感情も何もかも。
心が凍ってしまったのだ。
「葵?」
「お、おねえ、ちゃ、ん……?」
咄嗟に右手を隠す。
バレるのが怖かった。
怖かったのだ。
心配させるのが、とにかく怖かったのだ。
「どうしたの……」
「何でもないよ」
言えなかったのだ。
とにかく怖くて、何も言えなかったのだ。
数日後。
家の中が少しだけ寒くなってきていた。
その事実から、二人とも目を背けようとしていた。
「うん、お茶は美味しいね。お姉ちゃん」
「そうだね」
右手を隠して、隠して。
ただ隠して。
バレないようなしていた。
(ねえね、さむいよ)
「今日もみかんは美味しいね」
(だけどあなたには言えないよ)
「次の季節は、何をしよっか」
(ぼくの右手は、青く凍ってひびも入ってしまった)
「外の景色は白いけど。二人で見る外の景色は綺麗だよね」
(冷たいこころは脈をうち)
「あれ、何で手にしもやけが……」
(あれ、何で手にしもやけが……)
そしてまた始まる。
食って、寝て、外を見る。
それは苦しくも、楽しくはあった。
「……りを……ん、しろ……」
(声……?)
突然、声が聞こえた。
男のような、声。
そして足音。
どうも沢山人がいるらしい。
「い……ん……じょう、ん……だい……ぶか……!?」
(誰、だろう)
目を覚ます。
空気が冷たく、とても辛い。
だが、生きているのだ。
ぼくは。
「だ……れ……」
「生きてる……生きてるぞ!!」
(ぼくは……助かった……?)
上を見ると、電気は既に止まっているのか、暗かった。
コタツも何もかも、付いていなかった。
隣を見ると、赤毛の少女。
茜が寝ていた。
「……お姉ちゃん、起きて。助けが来」
そう言いながら触れた瞬間、気づいた。
冷たいのだ。
冷たく、冷たくて、まるで死んでいるようだった。
でも、茜は笑みを浮かべて寝ていた。
生きている、いきている。
「……お姉ちゃん?」
葵の上に、暖かい布団をかけられる。
そして茜にかけたのは、白い布。
顔に白い布を乗せた。
彼女は、死んでいたのだ。