ご愁傷さま金剛くん 作:やじゅせん
「……」
「……」
二人が睨み合うこと数秒。
オレたちの自室の中、気まずい沈黙のみが流れた。
「……鈴……一夏」
その沈黙を先に破ったのは鈴だった。
「ねえ、一夏。……あんたがそうやって甘やかすから、金剛はいつまでもこんな調子なのよ?」
「……別に甘やかしてなんかねえよ」
鈴に睨みをきかせたまま、一夏はそう口にした。
それに……、と彼は付け加える。
「……親友として金剛を気遣ってやるのは当然のことだろうが」
「別に金剛を気遣うことがダメなんて言ってないわ。……けどね、優しくすることと甘やかすことは別なのよ? あんたがやってるのはね、ただの甘やかし」
「……お前はなにが言いたいんだよ」
一夏がイライラしたようにそう吐き捨てる。
「それは……」
一夏の言葉に、今度は鈴が言葉を濁した。
「……金剛はね、もう女の子なの。あんたが小さいころから一緒にバカやってた男の金剛はもういないのよ?」
「ふざけんな。金剛は金剛だ。男も女も関係あるか」
「……そういうことを言ってるんじゃない。あたしが言いたいのは、もうあんたたちは男同士だった時みたいな関係には戻れないってこと。例えば……あんたたちが二人きりで遊びに行ったとするわ。男同士だったころはそれがただの仲のいい友達と遊びに行っただけってことで済んだかもしれないけどね、今のあんたたちがやるとそれはもうデートなのよ? わかる? その違い」
「……デート」
オレの口から思わず声が出た。
……理由は当然、思い当たる節があったからだ。
「……それがデートかどうかを決めるのは当人たちの意識だと思うけどな」
一夏がそう反論する。
「ええ、確かにあんたの言ってる通りよ。……けどね。あんたたちがどう思ってるかに関わらず、周りの目から見てそれがどう映るかが問題なの。あんたたちがどう思ってようとね、仮にあんたたちが二人で仲良く出かけてたら皆はあんたたちが付き合ってるって思うでしょうね。……どう? これでもまだ、あんたたちが男同士だった時みたいな関係でいられると思う?」
「それは……」
言葉を濁す一夏。
一夏はそのまま押し黙ってしまった。
「……あたしはね、あんたたちのこと友達だと思ってるから忠告してるの。金剛はいい加減、自分が女になったってこと自覚しなさい。一夏はいつまでも金剛を甘やかさないで。いい?」
「……」「……」
一夏と二人で顔を見合わせる。
一夏はなんとも言えない複雑な表情をしながら、オレを見つめていた。
「……わかったよ」
一夏はなにか考え事をしているような表情を数秒間見せたあと、鈴の言葉に頷いた。
「金剛も」
「……うん」
彼女の言葉にオレも頷く。
オレたち二人の同意を得たのを確認すると、鈴は「ならよし」と満足そうに頷いて、
「じゃあ一夏。あんたこの部屋から出ていきなさい」
そんなことを口にした。
「は? なに言ってんだよ鈴。意味わかんねえぞ」
「わかりなさいよ、バカ一夏。年頃の男女が同じ部屋で一緒に生活していいわけないでしょ? 常識で考えなさい」
「じゃ、じゃあこれから俺はどこで寝泊まりすればいいんだよ」
「千冬さんの部屋があるじゃない」
「千冬姉も女だぞ、……一応」
「千冬さんは大丈夫よ。だってあの千冬さんよ? 間違いなんて起こるはずないわ」
「あ……今の千冬姉に言っとこ」
「やめて!!」
鈴と一夏が二人で言い争いをしている。
数分間の論争の後、一応の決着がついた。
「――……わかったわ。じゃあ、あと一日だけ待ってあげる。その代わり、明日になったらこの部屋をあたしに明け渡しなさい。明日の放課後からはあたしが金剛と一緒に住むわ。いい?」
「…………ちっ。わかったよ」
話を纏めると、明日からは一夏は千冬さんの部屋で過ごすことになったみたいだ。
それと同時に鈴が明日からのオレのルームメイトになる……と。
(千冬さんの部屋か……確か、前に行ったときすごく汚かったんだよな)
オレのせいで一夏が部屋の移動を余儀なくされるんだ。
……あとで、千冬さんに言ってあの部屋の掃除をさせてもらおう。
――こうして明日から、オレと一夏は別々の部屋で暮らすこととなったのである。