皆さん的にはどっちの方がいいですか? アンケートは出さないかもしれないし出すかもしれませんが、一応、教えてくださると非常に助かります。
それではどうぞ!
「えー、であるからして……」
昼休憩後。いつもと変わらない午後授業。
五限目の科目は数学Ⅰ。得意とも不得意ともいえない至って普通の科目だ。
教師も毎度お馴染みの壮年の教諭。下積みと経験豊富な能力を遺憾なく発揮しているおかげで、教鞭は非常にスムーズかつ、要領を得ていて物覚えの悪い俺にも理解しやすくなっている。
板書をノートにつらつらと書き記していく手もしっかり動いているし、教室内もカリカリとペンが奔る音だけが響くぐらいに静まり返っていて授業がもっとも捗る環境と言えるだろう。
ただし、
((((日神、しばくしばくコロスコロス……っ!))))
何やら男子共の視線が鬱陶しいのさえ除けばの話だ。
嫉妬、殺意、軽蔑……そんな負の感情。何とも居た堪れない空気感におくびを出すわけではないが、大変気が散る。
男子達の害意に満ちた目線の理由は、まぁ何となくわかる。
十中八九、昼休憩の件だろう。
美人な先輩に呼び出された不良生徒。その構図から俺達の関係を邪推しているのだと思う。
今井先輩には申し訳ない。あちらも煩わしい状況になっていなければいいが。
それは、今さら言ったところでどうしようもないので放っておくほかないけど。
「はぁ……」
もはや親の仇でも見つけたかのような刺々しい『感情』に、疲労然とした溜息を吐き出すしかない。
授業中だというのに、これでは集中が妨げられる。
仕方ない……。
「よってこの公式を当て嵌めることで──」
「先生」
「ん、なんだい? 日神君?」
ガラッと椅子から立ち上がった俺は、気分が悪い『感情』を全面に出して言う。
「体調が悪いので休んできてもいいですか──?」
ここは一時撤退させてもらうことにしよう。
☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎
五月に入ったこともあり相応に気温の上がり始めた今日。
校門前の桜色は深緑に変わり、春の終わりを物語っているようで少しだけ胸寂しさを、屋上から見下ろしながら覚える。
羽丘学園の屋上は常に開放されていて生徒でも出入りできる仕組みになっていてるらしく、昼休みには集団で輪を作って弁当を食べたりしている生徒達もいると聞く。
そんな学生特有の青春を謳歌する場所に、不良ぼっちの烙印を押された俺が授業をサボる為に利用しているとは、中々に皮肉めいている。
「ふぅ……」
頬を撫でるそよ風が心地良い。
夕焼けに染まっていく絶景が好きだ、と羽沢は言っていたが。
日に晒される街並みを一望できるこの時間も負けてないと、個人的には思えた。
静まり返ろうとする夕暮れも乙だが、こうして日向が燦々と輝いて活気が溢れている方が俺の好みだ。
この光景を独り占め出来るという愉悦感。
これは堪らなくハマってしまいそうだ。
「そういえば……」
本当に突拍子もなく、隣人のサボり魔がいないか、周囲に探りを入れるもそもそも人の気配がない。ここにはいないのだろう。
最近では、姿形をほとんど見ることの無くなってしまった隣の席の赤メッシュ少女。屋上にいないということは、どこかをふらふらとほっつき回っているのかもしれない……が、どうでもいいことだな。
徐にスマホを取り出しイヤホンを装着。
音楽プレイヤーアプリを起動する。
流れ出す軽快で陽気な曲に耳を澄ませ、そっと目蓋を閉じた。
鍵盤はない。譜面もない。あるのは、曲の流れだけ。
今は『感情』を発露する場面ではなく、気分を宥めるところ。
ベンチにゆったりと腰を下ろした状態で温和な空気を肌で感じとる。
荒んでいた心が落ち着きを取り戻していくかのように、穏やかな『感情』へと緩やかに変化していく。
そうして静謐さが満ち始めた頃合い。
「──?」
ふと、少女の歌声がイヤホン外からぼんやりと聴こえてくる。
目蓋をゆっくりと開けイヤホンも取り払うと、その可憐な歌唱はさらに鮮烈さを帯びて俺を魅了してきた。
「──ぁ」
自然と、歌声の主へ視線が向いた……いや、吸い寄せられた。
艶やかで陽光の輝きすら吸い込んでしまうのではないかと思える程の漆黒の髪に、自身の心情を表したかのような赤メッシュ。
すっとして綺麗な立ち姿。華奢な体躯なのに姿勢のおかげで背が高く見える。
くっきりとした端正な顔立ちと、キリッとした瞳は何にも囚われない真っ直ぐな意志を宿していた。
貯水槽の横……俺よりも高い位置にいる彼女の口から放たれる熱い『感情』を含んだ歌に、意識が持っていかれる。
この歌を知らない。
この『感情』も知らない。
だけど俺は、この『情景』を…………
「夕焼け……」
──知っている。
まだまだ荒削り。音は所々で外しているし、テンポも走り過ぎている。
原曲がどんなものかはしらないけど、それでもはっきりわかる間違いはそこそこあった。
でも、この衝撃は湊先輩の時と同等か、もしかすればそれ以上かもしれない。
『感情』を乗せて歌う生粋の音楽人である湊先輩だとするならば、彼女は『感情』ごと歌うことの出来る原石。
「……うん、さっきよりはいい感じ」
そんな彼女に目を奪われている俺の存在など眼中にないのだろう。
さっきの真剣そのものだった表情から険が取れて柔らかい微笑みが浮かんでいた。
そのギャップに見惚れそうになるが、頭を横に振って邪念を払う。
同時に、生き生きと歌っていた彼女の端麗な容姿が生気の失せたような隣人の暗い面影と重なった。
「美竹……?」
思わず口に出した名前。
あんなにも自分を表現できる彼女が、いつも気怠げでうら寂しそうな面持ちを引っ提げて学校に来るあいつと同一人物などと、なんと的外れなことか。
「え……あ、あんたは──っ」
しかし俺の声に反応した彼女の様子を見るに、あながち間違いじゃなかったようだ。
目を瞠き明らかに狼狽した様子で俺を見る赤メッシュ少女──美竹蘭は、恥ずかしげに顔を朱色に染めて何かを言おうとして、
ビュオォオオオオオオ〜〜〜ッ!
「〜〜〜ッッ」
「ぁ……」
突如として吹き荒んだ風にスカートが捲り上げられ口を噤むんだ。
ばっ! とスカートの端を急いで押さえつけるも、誠に残念ながらこの角度ではばっちりと拝めてしまう。
まさか自分がラッキースケベな展開に巻き込まれる羽目になるなんて……。
そんなふうに微塵たりとも考えたことのない俺は、キッと睨み付けてくる美竹に果たして何を言えばいいのか困惑する。
そして、
「まぁ……なんだ………………その……ピ、ピンクって可愛いよなっ」
「死ね──っ!」
一番言ってはならぬこと……地雷を自ら踏みにいくという愚行に及んだ。
だって仕方ないだろっ。ピンク色が焼き付いてしまってそれ以外思いつかなかったんだからっ!
とりあえず、天罰として赤メッシュの投擲した上履きを避けるようなことはせず、大人しく顔面に陥没させた。
めちゃくちゃ痛いです。
最近の自分
猫ノ助「猫動画〜♪ 猫動画〜♪」
弟「……キモい」
猫ノ助「素直に言うなや」
メンタルカスだった。