俺の人生にこんな彩りがあるとは思わなかった   作:猫ノ助

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おっす(*´Д`*) 皆様お久しぶりです。 リアルが多忙すぎて書いている暇のなかった猫ノ助でございますっ! 

いやぁ、何ヶ月ぶりですかね? ほんと、久々すぎて小説の書き方わかんなくなってて困りました。

それでも読んでいてくれている人も少なからずいたみたいで、感激の極みでございます!

そして、久々の投稿はリハビリも兼ねて手の赴くままに書いたので絶対に狂った部分が多々あると思われますが、どうか暖かい目で見守ってくださると助かります。それでは、早速どうぞ!


迷子の天使様と天使の妹とヒロイン(?)と……え、何これ? 前編

 「他人が作った道を失敗もなく歩む人々より、自分自身の道を迷いながら歩む、子どもや青年たちが僕は好きだ」

 

 

 史上三人目となるキャリア・グランドスラムを達成させたゴルフ界屈指の偉人──ゲーリープレーヤーの名言だ。

 

 

 小学校の高学年に上がってすぐの頃。当時の俺は、ピアノで伸び悩んで行き詰まっていた。

 

 

 『感情』が歪み、運指も音色も思い描いていたカタチにならないことに腹を立てて、もう駄目だと思って、もう嫌いだと思って、一度はピアノから離れようとしていた。

 

 

 譜面通りに弾けないこんな指など潰れて仕舞えばいいんだと、そう自暴自棄になって自傷行為に走ったりもした。

 

 

 何もかもが限界。俺の音楽の道は半ばで途切れているのだと、真面目に思っていた。

 

 

 そんな時に出会ったのが、ゲーリー氏の言葉。

 

 

 彼の言葉は幼心ながら、自然とすっと胸に浸透して、俺の胸中に蔓延っていた暗雲が嘘のように晴れ渡っていたのだ。

 

 

 譜面通り音楽を奏でなくとも良い、教科書通りに指が運べないのなら自分に合う手法を見つけろ──ただ、自分が導き出した道だけは絶対に違えるな。

 

 

 長い間濃い迷霧の中から抜け出せなかったとしても、最後は必ず自分の意志という道導を辿って到達点に脚を向けろ。

 

 

 そう言ってくれた気がした。

 

 

 個人宛で言ったわけじゃないのは、わかっている。普通なら大衆に向けたもの。もし個人宛だとしても、それは俺に向けたものじゃなく彼の身近にいる大切な誰かに向けてだ。

 

 

 だけど、たとえ俺に向けたものじゃなくても、その言葉は泥沼の底に沈澱しかけていた俺の心を救い上げてくれた。引っ張り上げてくれた。

 

 

 どれだけ自分の道を迷ったっていい。最終的にたどり着けるのならどんなに入り組んだ道だっていい。迷宮の果てに自分の意志を貫き通せるのなら、それは本望だ。

 

 

 故に俺は、俺が正しいと思った音楽道を愚直にも探し求め彷徨いながらも突き進む。

 その先に“自分だけの究極の音色”があると信じて──

 

 

「ふぇぇ……ここどこ……?」

 

 

 ──ただし、物理的に道を迷ったのならその場から動かず友人か周りの人に助けてもらった方がいい。変に動き回って状況がさらに悪化すると「ふぇぇ……」ってなるから、絶対(意味不明)。

 

 

 

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「痛ぇ……」

 

 

 あの時、美竹の凄まじい豪速球ならぬ豪速足を躱すことが出来ず見事に顔面へクリティカルヒットした俺は、上靴の形がくっきりと赤く型取られた痕を撫でながら自転車を押しながら帰宅道を歩いていた。

 

 

 あのサボり魔め、手加減も躊躇もなく全力で上履きを投げつけてきやがって。めちゃくちゃ痛いじゃねぇか。

 

 

 まぁ、不可抗力とはいえ下着を見てしまった俺が悪いと言うのなら、一〇〇%俺が悪いんだろうけど……。 

 

 

 こう……なんというか、もうちょっと話し合いとか何か奢らせるとか……。出来れば痛みを伴わない方法で穏便に済ませて欲しかったという願望を持つことは、見てしまった側としては間違っているのか?

 

 

 とはいえ、顔を羞恥で真っ赤に染め上げて涙をこぼしながら、屋上から脱兎の如く飛び出していってしまった彼女をわざわざ追い掛けてまで言うことではないし、俺が悪いといえば悪いので今更文句の付けようもないが。

 

 

 というか、明日はどんな顔をして学校に行けばいいんだ?

 

 

 相手は隣の席の女子。つまりは、ほぼ毎日顔を合わす相手だ。

 

 

 繋がりや会話はほとんどない。だがしっかりと毎朝顔を突き合わせる。となれば、明日も必然的に学校に向かうわけで……。

 

 

 うん、ホントどうすればいい? 

 

 

 気不味いってもんじゃないんだけど。自業自得とはいえ、なんとも耐えがたい苦行が目に見えてるんだけど。

 

 

 流石に、被害者となった相手も気不味さMAXなのは明白。

 

 

 年頃の女子が、同級生の、それも隣の席の男子に一瞬の出来事とはいえショーツを思いっきり見られたのだ。

 

 

 これで明日、平然とした表情で教室に入って来れたのなら、そいつはきっとかなりのビッチか、途轍も無く割り切るのが上手い世渡りの上手い人間だろう。(尚、後者は今井先輩に当たると思われる)

 

 

 ただ、この一ヶ月ほど彼女の隣の席にいる者として彼女のことを述べるのなら、真っ先に浮かぶのは『友達付き合いが全く出来ないサボり魔』、だ。

 

 

 おそらくウチのクラスの大半の奴が俺と同じ意見を述べる。それほどまでに美竹のコミュ力と人望はまるで和紙のようにぺらぺらに薄い。

 

 

 見た目は最上級に整っている。まさしく、ウチのクラス内でナンバーワンの容姿を誇っていると言っても過言ではないだろう。それ故に彼女の周りには、問題視されていた俺なんかとは比べ物にならない程のクラスメイトがいた。

 

 

 そんな彼女の現状は、今や俺と同様のぼっちである。しかも、しれっと授業をサボる問題児だ。

 

 

 ここまで厄介で面倒な女子がコミュ力に長けているとは到底思えない。

 

 

 もし美竹に今井先輩並みのコミュ力……まぁそこまでは行かなくても三分の一ほどでもあれば、明日の結果はまた違ったものになるのかもな。だが生憎と、彼女そんな高水準な対人能力を持ってはいないだろう。

 

 

 だからこそ明日は学校に行くのが非常に億劫だ。目に見えて厄日になるのがわかっていてわざわざ地雷を踏みに行きたがる奴がこの世のどこにいるってんだ。

 

 

 そんな風に憂鬱げに物思いに耽りながら見慣れた歩道を歩いていた時のことだった。

 

 

「ふぇぇ……ここどこ……?」

 

 

 困惑した声音が聞こえた方角に視線を向ければ、どこかで見覚えのある制服を着たゆるふわ系の女子高生がキョロキョロと辺りを見渡しながら慌てふためいていた。

 

 

 あの制服って、たしか花咲川女子学園のやつだよな……? 氷川先輩とか、白金さんとかが着ているのを何度か見たことあるからまず間違い無いはずだ。

 

 

「ふぇぇ……どうしよう。携帯の電池もちょうど切れちゃったし、千聖ちゃんに電話出来ないよぉ〜」

 

 

 大きく円な目の端に涙を浮かべながら、そう弱気に独り言ちていた少女。

 事情は皆無だが、随分と困っているんだろうことは伝わってくる。

 

 

 ふむ……。

 

 

「あの、何か困りごとですか?」

「ふぇっ? え、えっと……」

 

 

 どうしようかと考えようとしていた俺の脳内とは裏腹に、体と口は勝手に動いていた。

 

 

 こういう風に無遠慮に人の困りごとに入り込むのは俺の悪い癖だと理解しているのに、どうも困っている人を見掛けると勝手に頭よりも先に行動を起こしてしまう。

 

 

 やっぱり人生とは、ままならないものだな。

 

 

 突然、誰かも知れない男子から声をかけられたゆるふわ少女は、一瞬呆気に取られたものの、すぐにわずかな恐怖と警戒心を滲ませた瞳を訝しげにこちらへ向ける。

 

 

 常識のある女子高校生としては当然の反応をされて、逆にホッとした。

 

 

 最近の女子高生はこういうところの敷居が低く変にノリが軽いと聞いていたから、多少なりとも懐疑心を抱かれていた方がこちらとしても信頼に値する。

 

 

 勝手に入り込んでおいてなんだが、無駄にハイテンションに突っ掛かられたら面倒以外の何でも無いからな。

 

 

 とはいえ、何事にも限界というものはあるわけで……

 

 

「そ、その……ふぇ、ふぇぇ……っ」

 

 

 ちょっと可哀想なぐらい動揺してるんですけど。

 

 

 視線はこちら向きなのに一向に目を合わそうとしないゆるふわ少女。手もいじらしくモジモジとしているし、前を向いていた顔もだんだんと俯き始めた。

 

 

 見知らぬ男子から話しかけられて少なからず動揺するのは、まぁまだわかる。人見知りで男子が苦手な人も現にいるし俺も良く知っている。

 

 

 ただ、すぐ涙ぐむのはやめてほしい。何も悪いことをしていないのに、むしろ善意から話しかけただけなのに何故か罪悪感が半端ないんだけど。

 

 

「もしかして邪魔しました? 別に困ってたわけじゃ無いとか……そうだとしたら、でしゃばってすみませんでした」

 

 

 俺が苦笑を浮かべながら謝罪を述べると、ゆるふわ少女は勢いよくばっ! と顔を上げて首を横に振った。

 

 

「ぜ、全然っ、そんなことありましぇんっ! い、いたい……舌、噛んじゃった……っ」

 

 

 どうやら慌てて口を動かしたために舌を噛んだようだ。羞恥で顔を赤らめながら痛々しそうに苦悶の表情を浮かべる。

 

 

 なにこれ? この娘は天使だったのか? 天使二号だな? そうだよな? そうだ、彼女こそ至高の存在、天使……っ! その二号だっ! ちなみに天使一号は羽沢。会心の『異議ありっ!』が飛び出してきても絶対にそれだけは譲れない。

 

 

「う、うぅ……お顔はちょっと怖いけどいい人そうだし話してもいいよね……? あ、あの…………っ」

 

 

 うんうん。前半の部分はきっと俺に聞こえないよう配慮して小声にしたみたいだけど、生憎と俺は耳がいいので全部丸聴こえだ。そういうところも可愛らしい。

 

 

 『誰の顔が怖いんじゃボケェっ!!』とは決して口に出して言わないように内心で堪える。悪意があって言ったわけじゃないし、何よりそれでも哭け無しの勇気を振り絞ってあちらから話掛けてくれたのだ。余計に怖がらせて話をややこしくする必要はないだろう。

 

 

 そして、意を決した少女は決然とした表情で口を開いた。

 

 

「は、羽沢珈琲店ってどこにありましゅかっ?」

 

 

 あ、また噛んだ。

 

 

 

 

☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎ ☀︎

 

 

 

 

 今日は部活もバイトも、そしてバンドの練習も休みになった珍しく何の予定も入っていない放課後。私──上原ひまりは、暇さえあればほぼ毎日来ている幼馴染の両親が経営している珈琲店に今日も今日とてもお邪魔していた。

 

 

 いつもなら幼馴染達と駄弁ったりして有意義に時間を潰しているのに、今日は誰もいない。まぁ、みんな用事があるからバンドの練習が休みになったんだし当然といえば当然なんだけどね。

 

 

「はぁ……」

「どうしたの、ひまりちゃん? 最近溜息が増えてるみたいだけど……はい、苺パフェ」

「あ、つぐ。ありがとー」

 

 

 ここ最近……というか、ほんの一ヶ月前くらいから急激に増加した溜息をまた今日も溢した私に、この店の看板娘で私たちの大切な幼馴染の一人でもある羽沢つぐみこと、つぐが心配そうに声をかけてくれながら私が注文した苺パフェを持ってきてくれた。

 

 

 早速、つぐが配膳してくれたパフェを一口いただくと、さっきまでの疲労感が嘘のように溶けて消えていく。

 

 

 甘く蕩けるような幸せの味が口一杯にじわじわと広がっていき、私のざわついていた心を晴れやかにしてくれた。ここのパフェ、どれを頼んでもハズレがないからやめられないんだよねぇー。

 

 

 ……体重が増えるとか言わない。それ禁句だから。ダメ、絶対。

 

 

 そんな風に私が幸福感に浸っていると、つぐも休憩を貰ったみたいで私と対面する席にひょこっと座る。うん、つぐって時々可愛い動きするよね。元から可愛いけど。

 

 

「それで、またどうして溜息なんか吐いてたの? 何か辛いことでもあった?」

「ううん。今日は特に何もなかったんだけど、思わず溜息が溢れちゃって」

「そう? だったらいいけど……もし、どうしようもなく辛かったら言ってね。何があっても私はひまりちゃんの味方だからね!」

 

 

 なんだか悟られたくなくて適当に誤魔化してしまう私にも、優しく微笑みかけて接してくれるつぐ。その心遣いが、今の疲れきった(?)私の心によく染みるよ。

 

 

 容姿も愛らしく整ってて、優しくて気遣いも出来る。なにより、誰よりも直向きに努力出来る凄い努力家。ツグりすぎはよくないけど、そこもまたいいところなんだよねぇ。ちなみに『ツグってる』とは、『ツグってる』である(迫真)。

 

 

 ただ、最近はツグり過ぎて倒れないように気を配りながら日々を過ごしているみたいで、なんだか前よりも余裕があるように感じる。

 

 

 たしか、初めてつぐが午後の授業を抜け出して誰かと遊びに行った日くらいからだったと思うけど……その日あたりからつぐの調子が良くなったんだっけ?

 

 

 誰と抜け出したの? 、て聞いてもつぐは顔を赤くしてめちゃくちゃ慌てながら誤魔化すから、誰かはよくわかってない。

 

 

 ただ、一週間前くらいから昼休みにピアノを教えてもらっている人がいるみたいで、その人の話を照れながら語るつぐから直接聞いた感じだと、その人が真面目で頑固だったつぐを連れ出してガス抜きしてくれた人と同一人物で間違いないと思う。

 

 

 まぁつぐを強引に連れ出したことは許せないけど、ツグり過ぎる前につぐを宥めてくれたことには素直に感謝してる。つぐってば、変に卑屈になっちゃうから。

 

 

 自己評価の低かったつぐを肯定してくれた存在か。やっぱり心の奥隅ではモヤモヤした気持ちがあるのもまた事実。

 

 

 だって長年付き添い助け合ってきた私たちはつぐがどう見ても無理をしていると分かっていても何もしてあげられなかったのに、その人はたったの一週間……へたすれば連れ出したその日だけでつぐの無茶を止めて見せた。

 

 

 正直、めちゃくちゃ悔しい。けど、それ以上に興味もある。つぐがそこまで全幅の信頼を置くその人に会ってみたいと素直に思った。おそらく、他の幼馴染も同じ気持ちだ。

 

 

「ねぇ、つぐ」

「ん? なにかな?」

「やっぱつぐにピアノを教えてくれる師匠に一回でいいから会わせてよ。興味あるから」

「へぇ、ひまりちゃん興味あr──ぶふぅ〜〜ッッ!!?」

「つぐっ!?」

 

 

 私がその人に一度だけでも会ってみたいと言った途端、つぐは一瞬だけいつもと変わらない微笑を咲かせたあと、口に含んだ砂糖とミルクを入れたコーヒーを噴き出した。

 

 

 え!? そこまで動揺することっ!?

 

 

 女子として品のある行動を心がけているつぐが、はしたなくも思わず珈琲を噴き出しちゃうなんて……。しかも噴き出した今も、わなわなと身体を震わせながら頬を紅潮させている。こんなつぐ見たことない。

 

 

 その現在進行形であわあわしているつぐは、周りのお客さんに迷惑をかけたことと注目を集めたことを謝罪する。

 

 

 今来ているお客さんは常連の人が多かったからつぐが素直に謝った姿を微笑ましげに見て許してくれていた。みんな優しい人ばかりだ。

 

 

「ひ、ひひひ、ひまりちゃんっ。きょ、興味があるとは……その、どう言う意味で……っ?」

「うん、今のは私の言い方が悪かったと思うよ。つぐが感じているような“興味”とは違うから、断じて違うから。だから一旦落ち着こう、ね?」

「う、うん」

 

 

 誤解を解きつつ暴走気味に慌てふためいていたつぐを宥める。

 

 

「はぁ……よかったぁ」

 

 

 深呼吸を一つ入れてからやっと頭が冷えたつぐは、軽く胸を撫で下ろしながら安堵の息を溢す。

 

 

 今の今まで見せたこともないような甘い乙女の顔を浮かべて溢れた呟きは、本人は口に出したつもりじゃないんだろうけど近くにいる私にはバッチリ聴こえた。

 

 

「……やっぱ、つぐってばその人のこと好きなんじゃ──」

「ち、違うよっ!? す、好きだとか……えっと、そんなんじゃなくて……いや、好きと言えば好き……なのかな?」

 

 

 私の問いかけに、ぶんぶんと首を横に振って即座に否定したつぐ。けど、すぐに小首を傾げて疑問符を浮かべた。

 

 

「お兄ちゃんのことが好きって感情は当たり前だけど恋とは違うよね……? だったらなんだろう? 友愛? たしかに血は繋がってないけど、それとは違う気がする。やっぱり兄妹に感じる親愛……そう、親愛だ。私がお兄ちゃんに感じている愛情は親愛……へへっ♪」

 

 

 直後、つぐは別世界にトリップしてしまった。細めて潤んだ瞳に、緩んだ口元を隠すように両手を添える仕草。控えめに言っても、恋する乙女のそれ。

 

 

 え? 本当に何この小動物。貰って帰ってもいいですか? めっちゃ萌えるんですけどっ。キュンキュン悶え殺されるぅううっ!!

 

 

 それより“オニイチャン”とか言う有り得ないワードが聴こえたんだけど、気のせいだよね? 私の幻聴だよね?

 

 

「それにしてもつぐにも春が訪れたのかぁ〜。なんだか感慨深いね」

「だ、だからおにい──こほんっ……彼とはそんな関係じゃないって言ってるのに……」

「ねぇ、さっきからナチュラルに“お兄ちゃん”って言ってない?」

「い、言ってないよ?」

「なぜ疑問形……」

 

 

 お兄ちゃんって、そういう意味? 本物の兄妹とかじゃなくて、そう言う感じのプレイかなんかですか? ヤバい、つぐが思ったよりも頭の逝かれた男の人を好いている疑惑がある。

 

 

 ちょっと戦慄した。

 

 

 そんな風に意味のわからないこともあるけど、それにしたって羨ましい。

 

 

「つぐは、かけがえの無い大切な誰かが出来たんだよね」

「え?」

 

 

 ぽつりと溢れた本音。つぐは、私の言葉にきょとんと呆けた。

 

 

 あぁ、本当に羨ましい。つぐの“王子様”は、本当につぐのことをちゃんと気にかけて大切にしてくれているのが話だけでも伝わってくる。

 

 

 けど、私の“王子様”は誰かも分からない。覚えているのは、暴漢に絡まれているところを救ってくれた姿くらいだ。颯爽と現れて襲われていたヒロインを救い出してくれた“ヒーロー”、私の“王子様”。

 

 

 これが進学してから一ヶ月間続いている溜息の原因。

 

 

 私はあの日の頼もしい背中を無意識に追いかけているだけ。ただの幻想にずっと追い縋っている。

 

 

 もう一度だけでも話したい。もう一回だけ会いたい。なんだったらたった一度だけ顔を拝めればそれでいい。

 

 

 入院していたのは知っていた。けど、勇気を出せなくて……。あの日からずっと足踏みしたまま立ち止まっている。

 

 

 そんな臆病な私に奇跡など起きるはずもなく、この一ヶ月間、当然のように恩人と顔を合わせることはとうとう無かった。

 

 

 カランカラン〜♪

 

 

 店の扉が開き小さな鐘が鳴る。入店の合図だ。

 

 

「あ……ひまりちゃん。ちょっとごめんね?」

「え……? あ、う、うん……こっちこそごめん」

「ううん気にしないで。でも、後でひまりちゃんの抱えてることを話してくれると嬉しいかな」

 

 

 そう言って微笑んでパタパタと入店してきた人の元へ駆け寄っていくつぐの後ろ姿は何よりも眩かった。

 

 

 はぁ……やっぱりつぐには敵わないなぁ。

 

 

 うん。ごちゃごちゃ考えたって仕方ない! モヤモヤした心を払拭するために残りの苺パフェを焼け食い気味に掻き込んだ。

 

 

 結局のところは、つぐは自分から踏み出して私は臆病者だった。たったそれだけのことだ。

 

 

 自分で手繰り寄せようとする意思がなかった。本当にそれだけのこと。

 

 

 今回のことを悔いるのはいい。だけど、ずっとメソメソしてたって仕方のないこと。もう少しは前向きに……

 

 

「いらっしゃいませ──って、お兄ちゃん!?」

「バカ、オニイチャンヨビハヤメロッ‼︎ お前、俺の尊厳をこれ以上貶めて何が目的だっ!? 強請る気か? 強請る気なんだなっ? オーケー……自分の尊厳を守るためなら俺の臓器を売り飛ばすのも吝かではないぞっ!?」

「ふぇぇ〜っ!? け、決死の覚悟っ!?」

 

 

 ……え、あれがつぐの言ってた“お兄ちゃん”、大切な人なの?

 

 

 あまりの衝撃に頭が真っ白に染まる。だってあのシルエットとまるで人を殺していそうな鋭い目付きは……っ!?

 

 

 あの日の彼と、つぐと親しげに話している彼が重なった瞬間、私は咄嗟に立ち上がった。

 

 

 全員の視線が私に振り向く。けど、そんなことに構っていられない私は嬉しさのあまり喉を震わせながら彼を呼ぶ。

 

 

「……“ヒーロー”さんっ、ですよね?」

「「「…………はい?」」」

 




長すぎたので前後編に分けました。次の更新は二週間以内には出したいなぁ(願望)
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