ハーレム展開撲滅ゲーム   作:劇鼠らてこ

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アイラブユーで魔法に戻る

「ぷりーず、ふりーず、ほーるどあっぷ」

「……」

「おや、案外従順ですね、トウドウアヤト」

 

 不躾にも、という言葉では収まらない程に不躾な事をして、言ってきた少女に、けれど逆らう事無く手を上げる。背中に付きつけられた堅い円筒状のもの。それはゴリ、と俺の肌をえぐり、痛みを発す。

 

「我々の要求は一つです、トウドウアヤト。──私と結婚しなさい」

「断る」

「……え?」

 

 まるで、断られることなど一切想定していなかったかのような呆けた声。

 ゲーム通りだ。

 だから、上げろと言われた手を下げて、動くなと言われた身体を動かして、振り向く。

 

「あ、だめっ!」

「"道路を挟む赤い屋根の家二つ。その屋上。この道路を直線的に見られる小ビルの二階。すぐ近くの電柱の裏と、街路樹の枝の上。極めつけには1km離れた廃ビルの窓から"、俺の頭を射抜かんと狙っているスナイパーがいる……んだろ?」

「な、え」

 

 本来の台詞は、廃ビルの窓から私の仲間が貴方を狙っています、なのだが。

 この動揺を見るに、配置は変わっていないし、言い間違いもなかったみたいだな。

 

「だからこうして、お前を抱きしめてしまえば。お前の髪にでも顔を(うず)めてしまえば、奴らは撃てない」

「ちょ、えっ、えっえっ、いや、え!?」

「落ち着けよ、錨地原。とりあえずあいつらに銃を下げさせてくれよ。そんで、交渉だ。こんな往来でなく──お前の家で」

「えぇーっ!?」

 

 その好意ゲージをチラ見する。

 

イカロスの子14

 

 ……相変わらず。

 いや、まぁコイツに関してはそこまで難しい話じゃない。とっとと終わらせよう。

 

 

 

 

「まずは……非礼を詫びます。トウドウアヤト」

「当然だな」

 

 人の家で、家主に正座をさせて、俺は足を組んでソファに座って。

 ──大量の黒服に取り囲まれている。

 それぞれにしっかりと好意ゲージがあるが、全員一律で二ゲージ。こちらに興味はないが、嫌いでもない、って感じかね。

 

「しかし、どうして?」

「どれがだ。どうしてわかったのか、なのか、どうして断ったのか、なのか。それとも──どうして、私を好きにならないの? なのか」

「……全部です。参りました、トウドウアヤト。私達は……私は、貴方を見誤っていました。どうかご容赦ください」

 

 主語や主題が宙に浮いたまま話が進む。

 コイツ、そうなんだよな。明確に何の話をしているのか言わないから選択肢が曖昧になる。初心者には攻略の難しいキャラクターだったし、割とはた迷惑な死亡イベントや世界滅亡エンドを引き起こしやがる厄いヤツ。その分役には立つんだが。

 

「前提から行こう。お前は錨地原(いかちばら)霍公(ほととぎ)。あるいは、イカロスの子。武装組織イカロスの羽根が愛娘、であってるか?」

「そ、そんなことまでお知りになられているとは……」

「世辞はいい。それで、お前が俺に求婚してきた理由は、ここら一帯でもっとも身体能力の高い男子と子を成せ、と親に言われたから、であってるか」

「あぁ、トウドウアヤト……貴方は予知者なのですか?」

「違う。で、本題だ。お前にとって大事なのは次の内のどれだ」

「え、あ」

「1.イカロスの羽根。2.俺。3.何気ない今の日常。お前が中学生最後の年である三年生として、毎日楽しく過ごしているのは知っている。どれだ。今選べ」

 

 矢継ぎ早にまくしたてる。こうでもしないとコイツどんどん話逸らしていくんだよな。

 属性を"お嬢様"+"ヤクザ"とかいう出るゲーム間違ってませんかみたいなものを抱えている錨地原。彼女の持つ*1イカロスの羽根は、敵に回すと世界滅亡エンドの下手人に、味方に付けると他の世界滅亡エンド時に一緒に戦ってくれる仲間になる。まぁ一緒に抵抗しようが世界は滅亡するんだが。

 武装集団イカロスの羽根。平気でスナイパーライフルだのアサルトライフルだのを携行し、その精度も抜群とかいう意味わからん組織。好意ゲージのせいで酷く平和なこの世界において、あまりに浮いているのは否めない。

 無論こいつらが出てくる状況は基本少しばかり殺伐としてきた頃合いなので、実際のゲーム中は「あぁ、やっぱそういうのもいるかー」くらいにしか思わないのだが。

 

「そ……その三つなら、最後の、です……」

「じゃあその本能に従え。親の言う事なんか気にするな。余計な口出しをしてこようものなら、力づくで上下をわからせてやれ」

「は、はい! ……その、トウドウアヤト……いえ、アヤト様は、どうしてこれらの事情を」

「どうせお前如きには言っても理解出来ん」

「……っ。……わかりました。聞きません」

「いいか、再三言うぞ。本能に従え。親に流されるな。"今持っている、失ってはならないものを、見誤るな"」

「はい。ありがとうございました」

 

 と。

 これで一件落着。

 出現時期と出現場所が曖昧なためにそもそも出会えていない、というプレイヤーも多くいた錨地原。逆にこのゲームの仕組みもわかっていない、楽しみ方さえ知らないプレイヤーの元に現れては求婚し、プレイヤーが了承の意を返そうものなら()()()()()()()()()()()()()とかいうあまりにもあまりにもな危険物。

 ただ、コイツは特に重たい過去とかしがらみとかを抱えているわけではないので、ゲーム中のセリフ通りに親へのヘイトを誘導してやればこれこの通り。

 平穏無事に回避できる、というわけである。

 

 

 

 

 わけであった、はずだった。

 

「……兄さん」

 

 錨地原の家から出てすぐの事。血相を変えて走ってきた、とでもいった様子の妹に──少し嫌な予感がした。

 微かだが、地鳴りが聞こえる。

 

「兄さん」

「……なんだ」

 

 好意ゲージが。

 ──半分を、優に超えている。

 

 それはもうすぐで、ハート状態になりそうなほどに。

 

「兄さん」

「……」

「聞きました。全部」

 

 その声は。

 その顔は。

 

 ──その、俺に向けられる、一切に……嫌悪がない。

 これは。

 なんだ。

 

「先日の、喧嘩して入院、と言っていたの。あれ、嘘だったんですね」

「嘘じゃないさ。ちょっと、ヒートアップしたんだ。腹に一本食らったが、五人も熨してやった」

「はい。みんなを、助けたんですよね」

 

 にっこり、と。

 本当に、心から嬉しい、みたいに。

 

藤堂(とうどう)(しるべ)14

 

 あ、と声が出た時には。

 手が、出ていた。

 

 かつてない好意ゲージの高まりに、あ、と。

 

 あ。

 

「──え」

「……」

「兄……さん?」

 

 渇いた音が鳴ったのだと思う。聞こえなかったけれど。

 その顔が今、どうなっているのかはわからない。見て、いないから。

 

「……消えろ」

「ぁ」

「俺の視界に入ってくるな。目障りなんだよ。ずっと、昔からちょろちょろちょろちょろと。家族だからか何か知らねえけど、何上から見てんだお前。自分の方が優れてるとでも思ってんのか。なんだその──よくできました、みたいな目は。ふざけるなよ」

「そ──そんなつもりはありませ」

「うるせぇっつってんだろ!!」

 

 往来だ。

 まだ昼下がり。どのようにして妹が俺の居場所を突き止めたのかはわからない。ただこうして──ちらほら、通行人のいる前で。

 叫ぶ。嫌悪感を露に、吠える。

 

「うぜえんだよ。お前なんか──家族じゃねえ。妹だなんて思ってねえよ。もう、兄さんなんて呼ぶな、気持ち悪い」

 

 頼む、頼むと。

 頼むからその好意ゲージを下げてくれと。

 あらん限りの罵倒をする。あらん限りの嫌悪を込める。

 

 ごめんね。ごめんね。いつもずっと、僕の事を想ってくれているのは知っているよ。

 ごめんね、ごめんね。本当は何か隠しているんじゃないかって、ずっと信じてくれているのも知っているよ。

 

 でも──だからこそ。

 ダメなんだ。お願いだから、好かないでくれ。

 

「……じゃあな」

 

 逃げるように、踵を返す。

 

藤堂(とうどう)(しるべ)14

 

 好意ゲージの減少が確認できたからだ。

 半分を優に超えていたゲージは、見る間もなく下がっていく。これなら大丈夫だろう。

 この分なら、でも、妹は俺の事を信じてくれているだろうから。

 

 一ゲージくらいは──。

 

藤堂(とうどう)(しるべ)14

 

 ぎぃぃ、という音がした。

 靴裏で感じ取った振動は地鳴りの比ではない。

 

 地震だ。

 

「あ──」

 

 踵を返さんとしていた足を無理矢理捻って、飛ぶ。

 未だ茫然自失といった様子で座り込む妹の元へ。

 

 その小さな体に向かって倒れてくる、電柱を掻い潜るようにして。

 

 間に合、えっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その日。

 

 この街を震源地とした直下型地震によって、()()()が確認された。

 それは、屋内にいた所、倒れてきた電柱に圧し潰されての死亡。

 

 妹を抱き留めるようにして跳んだ俺は見てしまった。

 窓辺にいて、俺達の会話を聞いていたのだろう誰か。その誰かの顔が絶望に染まる瞬間。確実に目が合った。確実に目が合った誰かは、けれど、次の瞬間石柱によって圧し潰されて──死んだ。

 

 死んだ、のだ。

 死亡イベント。倒れてきた電柱で圧死。ゲーム中にも、あったイベント。その一つ。

 

 死んだのだ。

 

 あの、誰かは。

 

「……ふぅ」

 

 主人公の肉体は天性のもの。倒れてくる電柱程度に遅れは取らないし、妹を抱きかかえ、範囲外へ逃げるのもおちゃのこさいさい。

 流石に擦り傷こそ免れなかったが、あの場にいたとは考えられない程の軽傷で済んでいる。

 済んでしまっている。

 

 目が合った。

 その時の好意ゲージは──確実に、ゼロだった。

 

 妹の死亡イベントがその誰かの死亡イベントに置き換わった。あるいは、元から一辺に二人とも、という予定だったのか。

 ……。

 

 救えなかった。

 

「なのに、なんだ。……この、()()()()()

 

 ああ。

 違和感はあったさ。ずっとあった。

 こんなにも手ひどく、こっぴどく女の子達に酷い事をして、他の人にも素直にならなくて、酷い事を言って。

 どうして俺の心は折れてしまわないんだろう、って。

 ずっと、ずっと。

 思ってはいた。

 

「……何かしなきゃ、と……あぁ、なんだ。はは」

 

 次の行動をしなければいけない。立ち止まってはいられない。

 そう思う。そう思ってしまう。そう考え、その通りに行動してしまう。

 

「属性か」

 

 主人公の属性は──"イケメン"と"行動力"。

 そんな主人公に、心折れて立ち止るなんて停滞は許されない。

 

 結局俺も、ハーレム展開撲滅ゲームのシステムに縛られた一人という事だ。

 

 人が死んだんだぞ。

 誰か知らない。あの一瞬では好意ゲージを見る事しか出来なかった、名前も知らない誰か。警察にでも聞けば、あるいは新聞でも読めばわかるのだろう。けれど今、俺は、あの人が誰だったのかを知らない。

 全く知らない誰かを。

 妹の好意ゲージを下げるために放った罵倒で──殺したのだ。

 

 殺したんだぞ、俺が。

 自覚しろ。

 

「……ごめんな」

 

 それは誰への謝罪なのか。

 誰かか。それとも、妹か。

 

 俺でさえ、その答えは持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 朝。

 

 あのまま家出でもしよう空気だったが、主人公は家に帰るものであるようで、どれだけ離れようとしても家に足が向いてしまう。前回の入院時くらいしか自由は無いらしい。

 だから帰って、当然妹とも出会った。病院に運ばれ、どちらもが軽傷と判を押され、別々に帰って──ばったりと。

 

 でも、会話は無い。

 好意ゲージは一。一度はゼロになったそれを、何かが繋ぎ止めたのだろう。

 

 けど。

 食事はもう、作ってくれなかった。当然か。家族じゃないもんな。

 

 だから昨晩はコンビニ弁当で済ませて──朝だ。

 今、だ。

 

 退院後、初の登校。昨日が日曜日だったからな。丁度、学校が無かった。

 それで、学校へ着いて、教室へ着いて。

 ヒュッっと変な息が喉から漏れた。

 

 俺の机。

 

 何かが、置かれている。

 いじめの手法でよくある花束、じゃない。何か汚いもの、でもない。

 

 震える。近づけば。否、近づかずとも、主人公の視力ならそれが何かわかる。貼り付けられた付箋の文字まで読める。

 

「……」

 

 そこには──"おかえりなさい。みんなを救ってくれてありがとうございます。これは藤堂君が入院していた時の分の授業で習った内容です"、と。

 

 丸文字。女子か。

 誰か、はわからない。名前が書いていない。

 

 ただ、クラス中の軒並み高い好意ゲージを見て──ふぅ、と溜息を吐いた。

 

 そして。

 

「──え」

「あ」

「お、おい」

 

 机に置かれたノートを──破る。

 ビリビリと、バリバリと。

 中身なんて読めないくらいに。貼り付けられていた付箋も破いて、ぐしゃぐしゃにして。

 

 ゴミ箱に捨てた。

 

「──テメェ」

 

 その怒気の乗った声は、背後から。男子の声だ。

 振り向けば、そこには……あー、鬼の形相、という言葉がもっともしっくりくる男の子が一人。

 好意ゲージのタイトルは、夕闇(ゆうやみ)大翔(はると)。♂ 15。

 ゲージは二。いや、今一になった。

 

「一生懸命! 休み時間とか使ってまで書いてくれてたんだぞ、てめぇ、それを、それを!」

「余計な世話だ。授業内容なんざ全部頭に入っている。紙の無駄だ」

 

 今教室にいるクラスメイトの好意ゲージが下がるのを確認。

 その調子だ。だが、加減を間違えるな。

 

「よくわかった。よくわかったよ、藤堂。てめぇ、一発ぶん殴られねえと目が覚めねえらしい」

「そうか。じゃあ殴ればいい。それで気が済むんだろ」

「あぁそうさせてもらうよ!!」

 

 拳。少なくとも俺のテレフォンパンチよりはいくらか技術の練り込まれたそれは──思いっきり、俺の頬へ突き刺さる。

 が、踏み止まる。おー、痛。正義感凄いねぇ、でもそれ普通に犯罪だよ。正当防衛じゃないし。

 ……まぁ昨日の妹へのビンタも十分にやばいか、それだと。

 

「あぁ、助かったよ。目が覚めた。改めて言うが大きなお世話だ。こんな汚いノート、俺の机に置くなって書いてくれた奴に言っといてくれ」

「──」

 

 ガン、と。

 殴られた。

 

 背後から。

 

「最低。折角見直したのに、やっぱゴミじゃん藤堂って。顔が良いだけで何でも許されるとでも思ってんの?」

「誰に許されるんだよ。俺はいらないって言ってるだけだろうが。善意の押し付けは必ず答えなきゃいけないのか? 小学生かよ」

「……お前なんか、帰って来なきゃよかった。腹刺されてそのまま死んどけばよかったんだ」

「そうだな。俺もそれが一番良かったと思うよ」

 

 改めて、席に就く。眠りはしない。

 険悪も険悪な空気に、好意ゲージが減少を見せ始めている奴も多い。が、ゼロにはならなそうだな。まぁ学校を救ったのは事実だ。それが曲がりなりにも繋ぎ止めてくれてんのかね。

 ……誰が書いてくれたノートなのかは、知らない。夕闇の激昂具合から察するに、真面目な女子なんだろう。優しい系か。

 

 悪い事をした。ノートにも。

 だが必要な犠牲だと、そう思ってほしい。

 

 昨日からずっと地震があった。あれは死亡イベントのための地震、ではない。そう考えている。

 三木島の件とナイフ男の件。立て続けに起こった俺の人命救助エピソードのせいで、ハート状態に差し掛かっている子が多くなっているんじゃないか、と考えたのだ。

 だから、その予兆として。

 

 ハーレムが起こる予兆として──微弱な地震が起き続けている。

 

 ハーレム展開を、撲滅するために。

 

「……やめてくれよ、ホント。わかってくれよ。俺がこういうヤツなんだ、って」

 

 小声で呟かれたそれは、けれど誰の耳に届くこともなく。

 腕で囲った小さな暗闇の中に溶けて消えて行った。

*1
正確に言うと現在は彼女の両親が所有している

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