ハーレム展開撲滅ゲーム   作:劇鼠らてこ

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またR15描写あります。


愛し脅し

 五月病、という奴なのだろう。

 最近、どこかボーっとしている事が多い。四月の入学式より始まった本編……ハーレム展開撲滅ゲームの数々のイベントを経て、多分、緊張の糸が切れてしまっているのだろう。これから体育祭という大きなイベントも控えているというのに、しっかりしなくては。

 

「こら! そこの男子生徒、止まりなさーい!」

「……」

「遅刻ですよ、ちーこーく! 届け出を出しなさい!」

 

 五月の第二木曜日。この日は必ず遅刻をする日だ。ハーレム展開撲滅ゲームに設定された、数少ない固定且つ不可避イベントの一つ。世界滅亡系ロリ風紀委員長先輩に、主人公は必ず捕まる。

 相も変わらず届け出を出さない気の主人公は学校の裏門からこっそり侵入し、しかし見回り中の彼女にばったりあって、追い掛け回されることになる。

 ゲーム内での選択肢は三つが三回。隠れる、廊下を行く、階段を行く、の三つを三回繰り返し、見事逃げきれたらそのまま教室へ、捕まったら好意ゲージ固定量上昇イベントへ連行される次第だ。

 

「む……逃げ足が速いですね……」

 

 隠れる、の選択肢。無論選択肢など見えてはいないが、メタ的に見るならそういう事だろう。

 そのまま廊下の窓を開け、身を乗り出し、その傍らを伝う縦樋を伝って上階へ。裏門から侵入する時、二階の窓が開いているのは確認済みだ。そうして上がって。

 

 上がった先に。

 

「こら! 危ない事はいけません!!」

「げ」

「なーにが"げ"、ですか! ほら、行きますよ、届け出を出しなさい!」

 

 まさか先回りされていようとは。

 怒った口調だが、その好意ゲージは半分近い。下がりづらいオブ下がりづらい好意ゲージを持つこの人は、多分俺の噂のいい部分だけを聞いて、その評価と好意ゲージを上げている。恐ろしすぎる。

 

「あ、逃げるのもダメです!!」

 

 もう一度窓の外に出て、そのままさらに上へ。呼樋の金具に手を掛けて、逆上がりの要領で一回転。屋上へ。

 ……いや、普通にやばいよな、これ。流石は主人公の肉体。俺、筋トレとか何にもやって無くてこれだぜ。努力してスポーツやってる連中に申し訳ないよホント。

 

 屋上。

 屋上か。

 

 ふと、何気なしに教員棟の方を見る。

 

「……あそこで、ナイフ男と戦ったんだっけ」

 

 水橋を護った場所だ。腕を刺された水橋を庇い、男に拳を刺した。

 今思えば、少々蛮勇が過ぎる。主人公の肉体が凄まじいものとはいえ、相手は刃物。乱雑な振り回しだけでも致命傷となる可能性があるのに、突っ込んでパンチ、なんて。

 そもそもけが人がいたんだ、抱えて逃げる方を優先したら良かったのに。まぁ待ち伏せなんかの可能性があったから出来なかったんだけど。

 

 それ、以外に、

 何かあったような。

 

「こらー!!」

「うげっ!?」

「屋上は立ち入り禁止ですよー!!」

 

 屋上のドアがバァンと開く。彼女の言う通り、屋上は立ち入り禁止だ。施錠もされている。

 だから彼女とて入って来れないはずなんだけど。

 

「風紀委員権限です!!」

 

 出たぁ。

 ギャルゲー特有の超常権限を有す風紀委員会……。いや確かにゲーム内でもそういう類の描写はあった。特にこのロリ委員長の個別ルートに入ると、平気で風紀を乱すような事をやらかしつつ、全部裏で処理しておきますね、とか言うのだ。

 "ロリ"属性はともかく、"博愛主義"とかいうサイコな属性の持ち主はやる事がやっぱり違う。

 さて。

 逃げ場はまぁ、いっぱいある。登ってきた時と同じように、どこへなりとも逃げ果せるだろう。

 

 問題は、果たして、この委員長が逃がしてくれるかどうか、である。

 ゲームでは不可避イベントの一つだったこれ。入学式の時は見逃してくれたか、探し切れなかったのどちらかだろうが、今回ばかりは違う様子。校外に逃げても地の果てまで追ってきそうな剣幕だ。

 しかしまともに捕まると、固定量上昇イベントが始まる。その上昇量、なんと二ゲージ分。今が半分少し手前である彼女の好意ゲージはあまり上げたくない。下げる方法見つからないし。

 

 なら──やっぱり、逃げるしかない。

 

「あ、待ちなさい! 飛び降りたら危ないでしょう!」

「危ないとかそういうレベルじゃないけどな……」

 

 飛び降りる。

 屋上だ。三階建ての校舎から、ひょい、と。

 

 そのまま中庭の樹に入って、枝やら何やらをクッションに衝撃を殺して、着地。

 ちなみに対話という選択肢はない。あの人は対話するだけでも好意ゲージが上昇する事がある。だからダメだ。

 

 さて、こっからどこへ逃げようかな、と校内マップを思い浮かべていた所。

 

「こっちよ、藤堂君」

 

 と、声がかかった。

 

 

 

 

 

 

「皆森先生、ここに一年の男子生徒……藤堂彩人君が入って来ませんでしたか?」

「いいえ? 今朝から今まで、ここへ来たのは貴女が初めてよ」

「そうですか。ありがとうございます。失礼しました」

 

 そんな会話が、カーテンの向こうで行われた。

 ガラガラと引き戸の閉じる音。キャスター付きの椅子がキュル、と回る音がして、シャッとカーテンが開けられた。

 

「もう大丈夫よ」

「……」

 

皆森(みなもり)朝霞(あさか)27

 

 表示される好意ゲージの量は多い。

 養護教諭、皆森朝香。"年上"+"バツイチ"属性のヒロイン。

 ハーレム展開撲滅ゲーム本編唯一の成人女性*1で、その個別ルートはR15ラインギリギリのアダルティなものとなる。当然人気は高かったけれど、伴って死亡イベントがNTR展開という、ユーザーの地雷を踏み抜くトラウマ物固定であったため、ルートの評価は最低に近い不思議な人気を持つキャラクターだった。

 そんな人が、何故。

 

「いいのか、教師がそんなことをして……って目ねぇ」

「あぁ、なるほど? こうやって危ない所を助けて弱みに付け込んで、秘密の共有みてぇな背徳行為をすることで、簡単に堕ちてくれそうな男子生徒食い漁ってんすか」

「……先生、そんな目で見られてるのね。悲しい」

 

 よよよ、と泣き真似をする養護教諭に、しかし警戒は解かない。

 好意ゲージが高い事もそうだが、今言った言葉の半分くらいは正解なのがこの人の怖い所。主人公と添い遂げることになる個別ルートで明かされる話だが、要約すると「欲求不満だったの」で終わる。R18系のアートサイトにはソウイウ絵が多数上がっていた。

 この人はロリ委員長とは違った意味で話が通じない。

 包容力というには些か汚いのだが、こちらの言動を「まぁ学生のいう事だし」で済ませてしまえる余裕があるため、これまた同じく好意ゲージが下がり難い。

 

「答えろ」

「そんな怖い言葉使わないで? 三木島さんの時、ちゃんと養護教諭していたでしょう?」

「……」

「ふふ、アツイ視線。でも大丈夫、本当に安心していいのよ。()()()()()()()()()()()()()()()

「な、に?」

 

 冷静にゲームでのイベントなどを思い返している思考に、突然罅が入る。ピシリと入ったそれは、予想外の衝撃に寄るもの。

 

「どういう」

「その前に。貴方は今、自分がどんな状況にあるかわかっているかしら」

 

 ……なんだ。

 何を知っている?

 

「……わかっている、つもりだが」

「そう? その割には冷静ね」

「何がその割には、なんだ」

「だって、水族館の中だったとはいえ、公衆の面前で女の子の胸を触って逃げられた、って。もう、飛び切りの噂になってるわよ?」

 

 ああ。

 なんだ、そっちか。なんだ。そっちかぁ。

 一瞬身構えてしまった。ハーレム展開撲滅ゲームの事を言っているのかと。

 

 そっちか。

 いやそっちも面倒臭いのは事実なんだけども。

 

 そっちも──ん?

 いや待て。

 公衆の面前で女の子の胸を触る? ……ん?

 

「それ、事実だと思ってんすか」

「目撃者がいっぱいいるもの」

「……確かに俺は、……素行の悪い方すけど。そんなことまではしないすよ」

「そう? でも、現に貴方の周りには女の子の影が沢山ある。榛さん、三木島さん、水橋さん。他にもたっくさん。スキンシップも多めよね。頭を撫でたり、肩を抱き寄せたり。ソウイウ、欲求があるんじゃないのぉ?」

 

 ああ、やっぱりそっちに話持っていくのか。

 知識通りで安心した。

 それより、だ。

 

 なんだ、その噂。

 いつもの悪行(こと)か、と思って流しかけたが、俺は……そんな変態的行為をする奴だったか?

 いや、好意ゲージを下げるためなら別にやりかねないだろうが、もう少し場所を選ぶというか。そんな、公衆の面前で女の子の胸を触るとか。ちょっと、変態過ぎないか。

 

 いつも通り噂の尾ひれがついている……わけでもなさそうな言い方だった。

 目撃者がいっぱいいる、らしい。いやまぁそれもいつも通りではある。噂を聞いただけの、詳細を目撃者から聞いただけの目撃者気取りが風評というものを形作るから、その類じゃないかと。

 

「でも貴方は決まって彼女を作らない。女の子に優しくするし、女の子に酷い事をするけれど、決して誰かを彼女にする事は無い。それってやっぱり、付き合えない理由があるんでしょ?」

「……」

「だから……ね? 藤堂君。別に、付き合えとは言わないのよ。私も貴方を好きにはならないから。ね? 実はね、先生、早くに夫と別れてて……その」

「"貴方の顔を見るたびに、貴方の声を聴く度に。カラダがアツくなって、カラダの芯がキュンキュン音を立てて……もう、我慢できないのよ"……とでも言いたそうな目線すね」

「え──え、演技派ね、藤堂君。凄いわ、そんな特技があったなんて」

「大学生から付き合ってた彼氏と卒業後に入籍、けれど結婚してから彼氏の性格が豹変し、DV被害を受けるように。二年後、意を決して離婚。その後養護教諭の道へ、だったか」

「……何、藤堂君、貴方……もしかして私のストーカー?」

 

皆森(みなもり)朝霞(あさか)27

 

 お、このアプローチが正解か。

 元の彼氏を髣髴とさせるような、メンヘラ男っぽい言動、で好意ゲージを抑えられると見た。

 

「肉体関係を持ちたい、って事すよね。要は」

「いえ……その……」

「大歓迎すよ、()()。ああ、安心してください。アンタが耳が弱点なのも知ってます。甘噛みされると全身の力抜けるんしたよね」

「……藤堂君。貴方、もしかして恭二と」

「ええ、知り合いすよ。聞かされました。逃げられたイイ女、って話」

「ッ!」

 

 嘘である。

 恭二というのは、皆森朝香の死亡イベントに出てくるNTR男……まぁ一応元鞘というか、元カレとなる存在で、余りにも古風なビデオレターを送ってくるタイプの一般サラリーマン。何故か主人公の家にも現役のビデオデッキがある。

 スチルは主人公が暗い部屋でビデオを見ている絵で、テレビの内容は映されないものの、テキストで何やら惨たらしい事が行われたのだ、と理解して、終了。

 他の死亡イベントもグロかったりゴアかったりするのだが、この死亡イベントは特にソッチ系に耐性の無いプレイヤーを傷つけた。☆1評価に、"他すべては楽しかったけどこのイベントが存在しているだけで無理"なんてのもあったくらいだ。

 俺はソッチの趣味を否定するつもりはないが、まぁ、嫌いな人には絶対に受け入れられんのだろうな、という所感。ちなみに元カレ氏の苗字は根鳥。ふざけてる。

 

皆森(みなもり)朝霞(あさか)27

 

 皆森朝香は自らの両肩を掻き抱いて、震えるようにしながら、キャスター付き椅子ごと少しずつ下がっていく。

 

「いや、そんなに怯えなくていい。アンタが言い寄ってこないなら、この話は無しだ。俺だってあの人に好き好んで関わりたいわけじゃない」

「そ……そう、よね。ごめんなさい。余計な事を……言ったわ」

「ただまぁ、今後サボる時にここ使うの、黙認してくれってだけだ。ああ、別に良いんだぜ。ここで養護教諭やってる事あの人に教えても」

「それだけはやめて。……わかった。わかったわ。自由にしてくれていいから、それだけはやめて」

 

皆森(みなもり)朝霞(あさか)27

 

 ……ちょっと下げ過ぎたかもしれない。

 一ゲージは、不味いな。そんなに効くのか。あぁ、三木島の時から何も学んでないじゃないか、俺。余計な発言をして余計な傷を増やす。もしこれでゼロになってたらどうする気だったんだ。

 

「いや、こっちこそすみません。挑発されると、カっとなっちゃうタチで。最近ちょっと色々あって、疲れてるんす」

「あ……あぁ、そう、よね。本当にごめんなさい。そう……あんなことがあった後だものね。もしかしたら私達もあの日死んでいたかもしれないのに、貴方に全てを押し付けてしまって……」

「いえ、あれは自分のためなんで」

「その。……ほ、本当にやめてね? 恭二に連絡するのだけは」

「勿論す。さっきも言ったけど、俺もあの人に積極的に関わろうとは思えないんで」

「……そうよね。そう、やっぱり恭二は、普通の人からしても最低だった。のよね」

「それはまぁ、疑う余地もないかと」

 

 "普通時の根鳥恭二"を俺は知らないが。

 まぁ、あんなことをする輩が正常なワケがない。

 

皆森(みなもり)朝霞(あさか)27

 

 よし、とりあえず二ゲージには回復した。

 これで十分だろう。

 

「んじゃ俺、授業行くんで。明日からまぁ、避難所、お願いしますわ」

「……ええ、わかったわ」

 

 これで世界滅亡系ロリから逃げ果せる手段を確立できた。

 ヒロイン一人をほぼほぼ無害化出来たようなものだし、結果は上々なのではなかろうか。

 

 確実に関係性は悪くなったけど、まぁ、今更か。

 

 

 

 

「よーォ変態クン! 重役出勤か、お疲れぃ!」

「うっざ」

「ははは、知ってる」

 

 休み時間を狙って席についた途端、譲司がいつものにやけ顔三倍増しで近づいてきた。

 変態クン。さっき聞いた噂の話か。

 

「噂、聞いたぜ。いやぁすげぇよお前。水族館で、女子の服脱がそうとして、脱がなかったからって襟から手ぇ突っ込んで胸揉みしだいたらしいじゃねぇの。くぅ~、流石イケメン君! 世の中自分中心に回ってるゥ!」

「そこまで尾ひれついてんのか」

「尾ひれェ? いやいや、事実さ。事実。お前に取っちゃ些事なんだろうがな、やられた側はたまったもんじゃないと思うぜ?」

「わかった、わかった。反省するよ。覚えちゃいないが、そういうコトやったんだろう。嫌われるために。それはもういい。早くいつも通りの情報を寄越せ。上下、一番危ないのは誰だ」

「ハート状態一歩手前なのは今んとこいねぇな。さっきの噂がかなり評価下げてるぜ。やったなぁ」

「ああ、嬉しい嬉しい。下は?」

「夕闇クンさ。ほれ、この前お前に突っかかった男子。夕闇大翔クン。アイツ潔癖でフェミだからな。これも今回の噂で、やべぇとこまで行ってら。けけけ、お前、女子にゃ優しいが、男子は救うのかぁ?」

「当たり前だろ、アホか」

 

 性別で選別なんかするかよ。

 救うに決まってるだろ。

 

「けひひ、だろうな。じゃあサービスしてやる。アイツ、隠れオタクってヤツだ。見た目陽キャだがな」

「……珍しい。なんだそのサービス。なぁ、お前は敵じゃないのか、譲司」

「敵ィ? この丙午(ひのえ)サマが敵ィ? 馬鹿いっちゃいけねぇよ、イケメン君。俺はお前の相談役だぜ? けけけ、癒しだぜ? 敵なわけねーだろー? なぁ?」

 

 一切信用は出来ないが。

 ……コイツにも何か、あんのかね。世界に対して……システムに対して、思う所とか。

 

「けけ、お前、誰彼構わず身内認定するの止めた方がいいぜ。そんなんだから──」

「うっせ。わかってるよ。でも……俺が居なければ、とは。思うからな」

「はン。……んじゃ、とっとと行ってこい。夕闇クンの心のケアに。んで救ってきな。今日、俺から出る情報はもう無いぜ」

「なんだいきなりテンション落として。おい、蹴るなよ。行くにしても昼放課だろ」

 

 言えば、そいじゃ、と片手を上げて、自分の席に帰っていく譲司。

 なんなんだアイツ。

 

 わかってるよ、そんなのこと。

 背負い過ぎって言いたいんだろ。知ってるよ。

 でも、背負える肉体渡されてんだから、そんなの。

 

 無視できないだろ。

 

 

 

 

 

 夕闇君とは、「実は俺二次元にしか恋愛感情持てないんだよね」という言葉で和解。好意ゲージの回復も出来た。

*1
一部人間換算で未成年あり

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