ハーレム展開撲滅ゲーム   作:劇鼠らてこ

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R15描写があります。


NALUV

 そもとして、鄭和衛須が性転換するに至ったきっかけに、"宇宙人"属性のヒロインの姿がある。というかゲーム本編で起こる科学的なオカルトは"宇宙人"属性の、魔法的なオカルトは"転移者"属性のヒロインがほぼほぼの原因で、時たま他の奴らが関わっている、くらいのソレ。

 ただし、前述したように"宇宙人"属性の子も"転移者"属性の子もまだ地球にすら来ていないはずの時期で、だから鄭和衛須が性転換しているのもおかしな話。

 逆を辿れば、もう彼女らは来ている、という事になる。ただゲーム本編では主人公のクラスに転校生として入学してくるので、それがないということは、もう俺には予測の出来ない異常事態が起こっている、としか。

 

「……来ないと思った。藤堂彩人」

「そっちが呼びだしたくせに、何言ってんだ」

「無視するものだと。案外律儀なのね」

「あんな脅迫状送っといて、良く言う」

 

 さて、現在。

 種目の一つである綱引きをこれまた圧勝で修め、「これならもっと少人数チームの固定量上昇イベントの方が良かった、選択ミスだ」なんて思いながらチーム全員の好意ゲージの上昇を眺めつつ戻ってきた校舎──の、昇降口。

 スリッパに履き替えよう、としたところで、そこに一枚の紙きれが入っている事に気が付いた。

 内容は長ったらしかったが、要約すると「お前の秘密を知っている。バラされたくなければ教員棟階段下の暗室へ来い」という感じ。脅迫状だ。

 

 秘密。

 そんなもん、抱えすぎてどれがどれだか状態だけど、最近は少しばかり嘘を吐く頻度が増えたので、一応向かって、コレだ。

 

東郷(とうごう)アミチア16

 

 金髪。縦ロール。碧眼。

 その余りに煌びやかな容姿を持つ彼女の名は、東郷アミチア。"留学生"+"お嬢様"属性の持ち主で、親に海外の資産家を持つ属性通りの少女。その財力は湯水が如きで、何故こんな田舎町に、そもそも日本なんかに留学に来ているのかわからない程の家柄。加え、アミチア自身の能力も高く、才媛と称するに最も似合う少女と言えるだろう。

 無論、彼女が日本に来ている理由もゲーム中では語られている。

 曰く日本文化が好き。

 正確に言えば、ローカライズされた日本文化……忍ばない忍者や高速戦闘をし、銃弾を切り落とす侍なんかに憧れているようで、本編においてはそれを主人公に求めてくる。

 

 ……もしや、それか?

 

「単刀直入に問うけど──貴方、忍者、よね?」

「違うが」

「……安心なさい。この部屋の防音は最上級。外に音が漏れる事はないわ」

「違うが」

「……証拠は挙がってるのよ。貴方が人一人を抱えて壁を駆けあがっていく姿。屋上から落ちても無傷。その走行速度に気配察知能力! どれをとってもチョウイチリュウ……!」

「あー」

 

 見られて、いたのか。

 ちゃんとクリアリングはしたはずなんだがな。ああでも、遠くから、とかだと流石に気付けん。

 この好意ゲージの高さも憧れであるなら納得だ。探し求めていたジャパニーズニンジャ。その性格に多少の難あれど、求めて止まなかったものだというなら、まぁ。

 さて、これを下げるにはどうしたらいいのか。

 

「用件はそれだけか」

「ッ! ま、待ちなさい。そうよね、私のような一般人、それも海外籍の者に秘密を明かすわけにはいかないわよね。……なら、コレを見なさい」

「いい加減に──、」

 

 秘密兵器、と言わんばかりに。

 アミチアはそれを──二枚の写真を取り出した。

 

 それは。

 

「こ、れは」

「どう? この、()()()()()()()()()()()。貴方は事実無根だと吹聴しているようだけど、この決定的な証拠がバラ蒔かれたら、どうしようもないでしょう?」

 

 俺が。

 どこ、だろう。多分、水族館。暗い。暗い場所で、けれど水槽の灯りに照らされた場所で。

 見知らぬ少女の胸に。襟首から、腕を入れて、その胸を──揉んでいる、その姿。そしてもう一枚には、赤外線カメラだろうか、薄い緑に染まった写真が、これまた同じ構図で撮影されている。こちらの方が明瞭で、顔の形までくっきりわかる。

 

「……合成、か?」

「加工なんてしてないわ。あの時。貴方が、田畑さんに連れられて水族館デートに行ったのを、私は尾行()けてた。そして一部始終を見たわ遠くから! ああ、大丈夫。私はアアイウの、別に気にしないから。もっとオープンになった方がいい、と考えているくらいには。けれど……日本人に、そして日本文化には、痛烈な打撃を与えるのでしょう? 勉強したのよ、これでも」

「……流石は才媛だな。反吐が出る」

「ふふん、なんとでもいいなさい」

 

 知らないワードが出過ぎて混乱している。

 誰だ田畑って。そして、未加工らしい写真。じゃあ、出回ってる噂は本当に本当なのか。

 だとしたら。

 ……いつか俺が、何故かプールにいた時があった。

 最近、榛から美紅という名を聞いた。

 

 忘れて、いるのか。

 何か。

 記憶が……消えて。あるいは、改竄されている?

 

「それで、その脅しを以て、アンタは俺に何を望むんだ、東郷アミチア」

「えっ!? ど、どうして私の名を」

「今更か。そんなの、」

「やっぱりニンジャ! 情報収集はお手の物というわけね……やられたわ!」

 

 だる。

 ……好意ゲージが然程増加していないのが救いだが、これどうしたらいいのかね。

 あまり酷い罵倒をすると、コレがばらまかれる、のか。

 単純な醜聞……言葉で伝わる風評より、こういう実物があった方が好意ゲージの減少は大きいだろう。これがインターネットにでも流れた時点で、多くの命が失われる可能性がある。鄭和衛須なんかは最たる例か。俺が嘘を吐いていた事もバレるというか、嘘をついていた事になるからな……。

 となると、その田畑とかいうのを探してこれは事実無根である、合成写真である、と表明してもらう、か。

 

 あるいは、コイツの要求を飲むか、か。

 

「東郷アミチア。アンタが日本文化に憧れてるのは知ってる。だから、あー……忍者っぽい動きでもすればいいのか?」

「っ! バカにしないで! 忍者っぽい動きって……違うのよ、貴方のその、日常に現れる忍者らしさにこそ惹かれたのであって、見世物用に作られた動きなんかいらないわ!」

 

 面倒くさいなこの人。

 ゲーム本編でもオタクっぽい片鱗は見せていたが、他が有能なのとビジュアルがめちゃくちゃ可愛いので相殺されていた。実際に相対するとダルいなオイ。

 

「じゃあ何が欲しいんだよ」

「貴方よ」

「……は?」

「だから、貴方。忍者の末裔と結婚したいわ。そのまま本家(ウチ)に来て、忍者の技術を私の作ったハイスクールの者達に教えなさい!」

「ことわ──」

「へぇ、いいの? 写真がばらまかれることになるけれど」

 

 性格の面倒臭さは今わかったが、ああ、厄介だ。

 ちゃんと逃げ道を埋めた上で呼びだしたのか。まぁアミチアは俺が社会的尊厳の死を恐れていると思っているのだろうが、そこは違えど結果は同じ。ばらまかれた時の被害を考えるに、首を横に振るのは難しい。

 ……とはいえここで頷いてみろ。好意ゲージが上がる。ハート状態になりかねん。

 そのまま結婚、なんて。

 それは、俺が嫌だ。するなら……彼女とがいい。もう今、彼女からの俺の評価なんて虫けらも同然だろうけど、それでも、そこだけは変えたくない。

 

 八方塞がり。

 

「ああ、勿論、私も鬼じゃないのよ」

「よく言う」

「メカケ、を認めるわ。わかる? メカケ。私以外の妻を作る事を許す、と言っているの。既に貴方には好きな子がいる……そうでしょ?」

「……誰から聞いた」

 

 それ、ばらしたの。

 誰だ。……思いつくのは、三木島か、鄭和衛須か。どちらかだろう。

 

「保健室で話していたのを聞いたのよ」

「盗み聞きか。つか、さっきから聞いてて思ったんだが、アンタストーカーだな。完全な」

「そんな口聞いていいんだ? しゃ・し・ん」

「別に、それをばら蒔かれた時点で俺はアンタの要求を飲まなくて良くなる。アンタが俺と結婚するには、そして自国へ連れ帰るには、その写真が流出していない状態が条件だ。違うか?」

「……ふぅん、流石は忍者。交渉事にも長けているのね」

 

 忍者のイメージおかしくないか。

 あれ、木っ端だぞ。間者だぞ。交渉事て。それもっと上の奴がやるもんだろ。

 

「でも依然、こちらの有利は変わらないわ。そもそも何が嫌なの? 名を知っているのなら分かっていると思うけれど、私の家はとても大きいわ。お金が沢山あるということ。加えて、あまり自ら評するのは好まれないとわかっているけれど、顔立ちも整っている方だと自覚している。貴方の大好きな胸……おっぱいも、ほらこの通り」

「勝手に人の好みを決めつけるな」

「あら? でもほら、三木島さん、だったかしら。あの凄く大きな胸の子。その子には胸に関する口説き文句を沢山言ったのよね? 文面を見せてもらったけれど、言われてもいないこっちが恥ずかしくなるくらいの」

 

 ……そうか、確か……水橋を中心とするSMSグループがあって、そこに俺の言った、三木島の個別ルートで使われるあのセリフの全文が掲載されているんだったか。

 それを見るのは、確かに。このお嬢様なら簡単にやってのけそうではある。

 

「このように私自身は問題なくて、メカケも許すと言っているのよ? 三木島さんもそうだし、榛さんも、紙葉さんも、田畑さんも、水橋さんも、水髪さんも、鄭和さんも、天羽さんも、北山さんも、なんなら皆森先生も、勿論貴方の妹さんも。あ、輪島さんもね?」

「……ストーカーが過ぎねえか、アンタ」

「だって将来の夫となる人の情報よ? 調べないはずがないわ」

 

 幾つか知らない名前があった。

 が、それより。

 

 彼女の名がない。

 ……調べきれなかった、か? いやまぁそうだろう。だって誰にもバレたことはない。話した事すらない。校内ではずっと険悪で、だから妾候補になるとは思わなかったのだ。

 しかし妾、て。意味ちょっと違わないか?

 

「ハーレム、よ? 男の子なら、一度は憧れるものでしょ? それを、経済的な恐れ無く提供してあげようとしているのに、どうして迷うのよ」

 

 ああ。そりゃ、迷うだろ。

 それを作らないために、俺は、ずっとずっと奔走してんだから。

 

「勿論、個別に部屋を……なんなら一人一人に家を用意してあげてもいいわ。私が本妻である事だけは譲れないけれど、子供を作る事も許してあげる。もう学校に行かずとも働かずとも良い。全員、私が養ってあげる。どう? あまりに魅力的な条件じゃない?」

 

 もし、俺が。

 この世界に生まれていなくて、こんな、余計な事を考えなくて良かった前世であれば、何も考えずに飛びついたくらい"美味しい"話であるのは事実だ。

 アミチア本人の容姿は勿論最上級で、ハーレム容認、なんて。

 ただ、この世界で、俺が藤堂彩人なら。

 

 ……飛びつけるはずもない。何より俺には、心に決めたヒトがいるのだから。

 

「断る」

「ッ……! い、いいの!? 写真、ばら蒔くわよ!」

「それもダメだ」

「はぁ!? どっちか一つよ! そんな欲張り、許され──」

 

 だから、これは。

 心からの苦渋の決断。心の奥底からの、泣きたくなるほどの、選択。

 

「──!」

「……」

 

 無言の時間が続く。

 喋れないのだ。

 だって、どっちも。

 

 口が塞がっているから。

 

「ん……ぷ、ぁ、っはぁ」

「……」

 

 流石に主人公クラスの肺活量がないためか、アミチアが音を上げたように酸素を求める。

 それでも、止めない。

 

「んんっ、んー! ……ん、ぁ──っはぁ、っはぁ!」

「……はあ」

 

 ようやく。

 こちら側もキツくなったので、リリース。

 小さく息を吐いてアミチアの方を見れば──涙目で、頬を上気させて。肩で息をして──こちらを、ぼうっとした表情で見つめていて。

 

東郷(とうごう)アミチア16

 

 その側頭のゲージは、予想通りの所にまで来ていて。

 

「ご……強引、なのね。ああ、どうして、かしら。凄く……素敵。私、こうやって強引にされたかったのかな……」

「俺には好きな人がいる」

「え──?」

 

 暗室の出口は一つだ。

 鉄の、重たい扉。

 その前に陣取る。未だ混乱の極致にいるだろうアミチアに、対峙するように。

 

「さっきアンタが挙げた名の中に、その好きな人はいない」

「な、──にを」

「だからアンタの言うハーレムには何の魅力も感じないし、アンタにも、一切、だ」

「わ……私の、唇を、奪っておいて……?」

「今からもっとひどい事をする」

「え──ぁ、ひっ!?」

 

 体を掻き抱いて、後退るアミチア。

 けれどこの部屋はそんなに広くない。逃げ場など、どこにもない。

 

 どうだ、ここまですれば、流石に──。

 

「それも……いい、かも……」

「──」

「やだ、私、こんな……こんなはしたない子じゃなかったはずなのに。あは、貴方のような強引で強気な男性、周囲にはいなかった。……キて?」

 

東郷(とうごう)アミチア16

 

 マズい。

 好意ゲージが一定量以上になるとハート状態になるのは散々述べているが、それより先の段階がある。

 それはMAX状態。正式名称ではないのだが、プレイヤーにそう呼ばれるその状態は──好意ゲージが下がらなくなる。

 本来は個別ルートでのみ起きる現象であるため、もう好意ゲージを下げる必要はないと判断されるのだ。

 それが。

 こんな、ところで。

 

「どうして……キてくれないの? ああ、その好きな人、というのに遠慮しているのね。大丈夫、貴方に襲われた、なんて、言わないから。貴方はここで種を吐いて、私と一緒に国へ行って。勿論その人も連れて。その人が入って無いからハーレムに魅力を感じないというのなら、その人を入れたらいいだけだものね」

「……」

「それとも──虚勢、だったの? それなら」

 

 どうにか、どうにかして嫌われる手段を。

 どうにか、どうにかして、好意ゲージを下げる手段を。

 

 そうやって思考を巡らせていたら、いつの間にか。

 目の前──超至近距離に、アミチアがいた。

 

「ッ!」

「貴方が来ないなら──私が襲うけど」

 

 反射的に、手が出ていた。

 ああ、俺は、ダメだ。女の子に。そんな、最終的に暴力に頼るしかないなんて。

 嫌われる手段なんか。言葉なんか。簡単に思いつくだろ。もっと簡単に、いくらでも。

 こんな詰め寄られるまで、こんな追い詰められるまで待つのが、もう、ダメだ。

 

 ああ、ヤバイ。

 手が──止まらない。

 

「え」

「ごめ、」

 

 ん、と言い切る前に。

 俺は──消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 いやいや。

 消える、とは。

 

「ふいー、間一髪だったねぇ!」

 

 その天井を見て、そこがどこなのかすぐにわかった。

 すぐにわかったし、その下手人も判明する。

 銀色の天井。壁。滑らかな流線形のデザインは、既存の建築物にないもので。

 時折走る光の筋と、その粒。それもまた、地球には存在しないもの。

 

「や、初めまして、未来の旦那さん! ボクの名前は晴巻夜明。見ての通り、宇宙人さ!」

 

 "宇宙人"属性のヒロイン──本来、まだ地球には来ていないはずのその少女が、そこにはいた。

 ……やばいな、それは。

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