ハーレム展開撲滅ゲーム   作:劇鼠らてこ

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遠い日の忘れ物

 ──"宇宙人の脅威は去った。もうインベーダー襲来エンドは起こらない。"宇宙人"+"侵略者"属性の晴巻夜明は人間となり、ハルムの星々は帰還した。もう、お前の妨げにはならない。"

 ──"インベーダー襲来エンド。属性"宇宙人"が絡む事で起きる世界滅亡エンドの一つ。飴梨花のコメント:長編SF大戦はロマン。でも地球側に勝ってほしくないよね。ってことで。クリア後の評価:C。宇宙人には勝てなかったかー。残念残念。でもいいよね、宇宙人。サディストなのもいい。わかるよー"

 

 朝起きて、枕元に置いてあったメモ。

 俺の字だ。だから、俺が書いたものだと思われる。

 

 内容は理解した。最近の俺はボーっとしている事が多く、何かを忘れているらしいことも分かっている。東郷アミチアに撮られた写真から、本当に記憶を失っているらしい事を理解している。

 だからこれは、忘れる前に俺が書いた、明日の俺……つまり今の俺へ残したメッセージなのだと思われる。

 助言、という奴だ。このインベーダー襲来エンドとやらに一切の覚えはないし、晴巻夜明という名前に聞き覚えはないが、作者コメントとクリア後の評価の"ふざけ具合"には覚えがある。こう、適度にうざい感じ。

 

 フリーゲーム故か、レビューだのSNSの投稿だのに作者が反応する事の多かったハーレム展開撲滅ゲームは、そのwikiに作者のコメントまとめが掲載されていた。

 それぞれの個別ルート、世界滅亡エンド、死亡イベントに回答したものであるそれは、全部が全部ではないものの、プレイヤーの印象に強かったものは大体ついていたように思う。

 だからこれがあるという事が、逆に言えば"インベーダー襲来エンド"なるものが実在した証左。

 その脅威を解消した事でそれを忘れてしまった……というのは流石によくわからないので、多分宇宙人の仕業なんだろう。キャトルミューティレーションでは攫った相手の記憶を消す、なんてのはよくある話だし。ギリギリの所で書き留めて、これを残せたのかな。少し走り書きっぽいし。

 

 ただ、気になるのは。

 

「……"好意ゲージで支配を行っているのは()()だ。何かじゃない"、ね。……それも宇宙人の知識、か?」

 

 最初の書置きとは別に、もう一枚。

 そう書かれたメモがあった。

 

 順当に考えれば、支配を行っているのは作者……飴梨花だ。が、ゲームの作者が干渉してきている、と考えるのは……ちょっとファンタジーが過ぎないか? いや"転移者"属性の子を考えればファンタジーも無くはないんだが、ベクトルが違うというか。

 誰か。それが指す意は、やっぱり──周囲の誰か、なのだろうか。あるいは本当に何もわからないけど、少なくとも人為的である、とだけわかった、とか? ううん、情報が少なすぎる。もっと仔細を書けよ俺。

 

「宇宙人を探して聞き出すのが手っ取り早い……いやいや」

 

 口に出して見て、(かぶり)を振るう。

 んなもん素っ頓狂が過ぎる。第一どうやって探すんだ。この晴巻夜明……という名前を頼りに行くか? 市役所とかに。そもそもなんて読むんだよ。捻りなくはれまきよあけ……いや、仮にヒロインの一人だとしたら、もっと当て字っぽくなる気がする。夜明……Dawn? はれまきどーん。はるまけ……ハルマゲドーンか!

 ドーン、という子。確かにそれなら探せそうだ。あんまりいなそうな名前だし。

 

 問題はどこで探すか、だ。

 市役所に登録してあんのか? 宇宙人の名前。

 ……無理だろ。ないだろ。

 

 まぁ、まずは。

 譲司に問い質すところから、だな。

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ」

「聞きたい事がある」

「お、相談役に相談か、嬉しいねぇ。本領発揮、本懐ってヤツだ」

「皆を好意ゲージで支配してるのはお前か?」

「ちげえなぁ」

「じゃあ誰だか知ってるか?」

「知らねえなぁ。誰だかも、何だかも。ああよ、まぁ辿り着いたってんなら"何だか"は潰してやる。誰だか、で合ってるよ」

「知ってんじゃねえか」

「それが、本当に知らないんだぜ。お前にわかる言葉を使って言えば、インプットされていない、って感じだ。けひひ」

 

 ……外れか。

 インプットされていない。じゃあやっぱり、コイツを送り出したのは、コイツの上にいるのは、黒幕的な誰かなのだろう。ただそれをコイツにすら知らせていないだけで。

 一時はSYSTEMに思う所あるように見えたコイツだけど、手先である事は変わらないのかね。

 

「それよりいいのか? もうすぐ学期末だぜ」

「……わかってるよ。本当に……クソシステムめ」

「けけけ、今更だろ。ま、この曲利様に言わせてもらえば、弱者救済に目を向けたシステムだとは思うけどな」

「どこがだよ」

「だって慈悲だろ? 好きになったら、勇気が与えられるんだ。どんなに気が弱い奴でも、行動を起こす活力が与えられる。たとえそれが叶わなくても、告白をした、って事実は何物にも代えがたい人生経験だぜ」

「強制されてるようなもんだろ、美化しすぎだ」

「それに気付いてるのはお前だけだ。なら、お前以外の人間にとっては、自らが起こした気力と変わらない。けけけ、知らないものは無いのと同じ、ってよく言うだろ。お前が余計な事を言わなければ、余計な気を起こさなければ、お前以外の奴らは前に進み続けられるんだ」

「……ふざけんな。それを成長と呼ぶんなら、停滞してた方がまだマシだ」

「お前は好きなヤツがいるからまぁそうだろうぜ。けけけ、だが、初めて人を好きになったヤツにとっちゃ、どうしていいかわからない自らを導く存在は必要なのさ。添え木って奴だ。それは加工でなく、干渉でなく、いずれ自らの一部として成長と自称する。ひひ、誰も彼もがお前みたいに強いわけじゃないんだよ」

 

 最近、饒舌だ。

 譲司和審豚。ゲーム本編では相談役として頻繁に喋る相手とはいえ、雑談のテキストは当然ヒロインよりか少ない。基本応対で、こういう風に自身の思想を喋る事なんてない。

 ここへ入学し、初めて会った時もそうだった。まだ、言っては何だがN()P()C()()()()()()

 それが、最近になって、どんどん。

 どこか思春期を思わせるような、高校一年生らしい、ような。

 そんな印象を受ける。人間らしい、というか。いや笑い方は人間らしくないんだけど。

 

「解放リボン。使う機会が来なきゃいいな」

「……なんだ、いきなり」

「何って、相談されたから、その返答さ。アドゥォヴァアイス。ぐひひ、気にするかしないかはお前次第だぜ、イケメン君」

「使わなくて済むなら使いたかないが……一人、危ないのがいるんだよな」

「ま、精々気を付けるこったな。再三言うが、ちゃんと登場キャラクター一覧を確認しろよ? 学期末、死人が出るぜぇ」

「……ああ」

 

 言って、自らの席に戻る譲司。

 解放リボン。

 "幸せな未来を見せる道具"、ね。……でも、俺の事を好きになってもいない奴に、俺と添い遂げる夢を見せたとして、効果がある……のだろうか。

 ……使いどころは、決めてある。

 

 パンデミック。

 世界滅亡エンドの一つ、ある薬品の流出によっておこるゾンビパニック──その下手人に。

 

 

 

「おい、藤堂!」

「ん?」

 

 俺が秘かな決意を革めていると、怒気に近い声がかかった。

 見ればそこには──男子連中。軒並み好意ゲージが低い、男子連中。

 

「てめぇ、昨日どこ行ってたんだよ!」

「どこ、って……なんでンな事教えなきゃいけないんだ。関係ないだろう、お前達には」

「はぁ!? 最初ちゃんと活躍してたから見直したのに、クソ、結局かよ!」

()()()()()()()()くらいなら、最初から参加すんじゃねえよクソ野郎!」

「大変だったんだぞお前の穴埋めるのは! 一言くらい謝れ!」 

 

 あ。

 

 ……完全に忘れてた。

 あれ俺、昨日何してたんだっけ。確か東郷アミチアに暗室に閉じ込められて……アイツの家に誘拐されて、貞操の危機に陥って。

 俺悪くない。……よな。うん、どうしようもなかったし。

 

「最初から参加するな、ね。懇願されて参加した覚えがあるんだが。参加しなくていいのなら、これからの行事は全部遠慮させてもらうわ」

「……学業を放棄するの?」

「あ?」

 

 その声は、男子連中でなく。

 背後──彼女の席から。

 

 彼女、から。彼女の声で。

 

「クラスメイトからの問いかけにいちいち凄む必要、ある?」

「うるせぇな、横槍入れてきた時点でそっちに正当性はねぇんだよ」

「クラスの総意だと思うけれど。後半いなかった貴方のせいで、代わりに出なければいけない子や、その段取りに各方面に迷惑がかかったから。何か事情があったのだとしても、一言入れておくことも出来ないの?」

「知るかよ、んなもん。勝手だろ俺の」

「学校という組織に属している以上、勝手な事なんて無いとわからないの?」

 

 ごもっともです。いやさ、全部正論。ぜーんぶ正しい。

 僕、彼女に対しては割と全肯定気味だけど、それを抜きにしても確実に僕が悪いです。いや不可抗力だよ。うん。俺は悪くないんだよ。でも悪いんだよ俺と東郷アミチア以外から見たら。

 悲しい。けどここで悪いと認めたら、好意ゲージ上がっちゃう……んだろうなぁ。

 学期末の清算に対する調整はしなきゃとはいえ、じゃあここでハート状態二人出ました、世界滅亡! なんてなったら目も当てられない。

 

浅海(あさうみ)由岐(ゆき)15

 

 それに、これだけ強い口調にも拘らず、これだけ悪い態度にも関わらず、相変わらず彼女の好意ゲージは三のまま。ミリ単位での上下はあっても、変わらない。

 ……やっぱり、少しだけ、怖い。

 何を見てくれているのか。何を覚えてくれているのか。多分それが、俺への好意を繋ぎ止めている何かであるのだろうけど、俺にはそれがさっぱりなのだ。

 

「浅海さん、いいよもう。藤堂に何言っても無駄だって。コイツの事で怒るの、エネルギーが勿体ないって」

「ありがとう、深田さん。でも、彼も一応クラスメイトだから。それに、幼馴染だもの。他に正せる人がいないのなら、私がしないと」

「はん、まだ幼馴染面してんのか。いい加減にしろよ、小学生からろくに喋ってもいねぇだろ。いつまで姉面してんだ、気持ちわりぃ」

「姉面をした覚えはないけど? そっちが勝手に下手に出て、尻尾を振っているんじゃない」

「はぁ?」

 

 姉、だとはまぁ確かに思ってない。好きな人だと思ってる。大好き。今でも大好き。

 その怒ってる顔も、ごめん、正直大好き。可愛い。笑ってほしいけど、それが無理なのはわかっているから、それで満足できる。目を見て喋ってくれるのが凄く嬉しい。いつかまた、一緒に。手を繋いで遊びたい……けど、無理だと思う。だから、こうやって喋ってくれるだけで。

 ありがとう。感謝しか出て来ない。ごめんね、酷い事言って。本当にごめん。

 

「ま──まぁまぁ! 浅海さん、落ち着いて落ち着いて! ほら藤堂くんも!」

「榛さん?」

「榛……余計な口を出すな」

 

 空気に耐えられなくなったのだろう。

 榛公佳が仲裁に来たが……ああ、これで引き下がったら、ダメだ。好意ゲージが上がる可能性がある。榛の好意ゲージは高い方だから、そこに影響するのは不味い。

 が、この膠着状態……喧嘩もどうにかした方がいいとは思う。あんまり悪い態度見せ続けると、彼女以外のクラスメイトの好意がゼロになりかねん。この規模の人数の死亡イベントとか考えたくもない。隕石でも降ってくる可能性がある。

 

 さて、どうするか。

 

「──やめなさい、公佳。どうせ言っても聞かないし、本当に何も感じてないと思うから」

「あ、うん……」

「……?」

 

 榛を止めた少女がいた。

 仲裁に来た彼女を制止し、引き戻し。

 ……強い。

 強い既視感に、襲われる。

 

「何よ」

「……お前、は」

「ああ、私の事なんか忘れてるんだっけ? ふふ、酷い話。あの事抜きにしても、クラスメイトなのに。今更自己紹介してあげましょうか? 私の名前は紙葉美紅。()()() ()()()()()()

 

 激痛、だ。

 頭に鋭い痛み。顔には出さない。そんな、心配されるような事はしない。

 

 紙葉美紅。

 ミク……榛の言っていた、俺の忘れている子。クラスメイト、だったか。

 ああ、見覚えはある。クラスメイトだから。だがあの件とはなんだ。俺はこの子と、何があった。

 痛い。なんだ。なんだ。なんだ。

 

「無理みたいね。別に、気にしてないから。浅海さん、あんまり責めないであげて。彼にも事情があったのよ」

「紙葉さん、何か知っているの?」

「いいえ? でも、彼は、貴女が思っているよりは誠実よ。私の事なんか忘れてしまうくらいには誠実」

「切れ味の良い皮肉ね」

「まぁ、いいじゃない。昨日は優勝できたわけだし。藤堂がいなかったせいで、藤堂にヘイトが溜まったせいで、私達は一致団結出来た。そうでしょう?」

「……藤堂のおかげっていうのは癪だけど、そうだな。なんなら藤堂が最後まで居たら喧嘩になって、優勝できなかったかもしれない」

「あはは、そうかもね。ほら、みんな。藤堂はこういうヤツだって、知ってたでしょ。あんまり期待しない方がいいわ、私みたいに忘れられちゃうから」

 

 わからない。

 誰だ。コイツは。俺と同じクラスにいるという事は、ヒロインだ。その容姿の美しさがそれを際立たせている。確実にヒロインだ。それを何故、俺は忘れている。

 いや。そうだ。宇宙人。ドーン、という子。あの子の事も忘れているが、恐らくはヒロイン。宇宙人の技術で記憶消去と考えれば、この頭の痛みにも説明がつく……気がする。脳をこう、レーザー的な。こわ。

 

 あれ。

 

「……え?」

「何よ。人の顔みて、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」

「そ、れ……お前、なんで」

「……ふぅん。あの子達の言ってた事は本当、みたいね。じゃ、コレ。あの子達の連絡先。渡しとくから」

 

 無い。

 無いのだ。

 

 好意ゲージが──無い。

 紙葉美紅、と言った。その側頭に出ているステータスにも、そうと名前が出ている。

 けれど、無い。その下にあるはずの好意ゲージが。ゼロ、でなく、無い、だ。

 

 そんな事があり得るのか。

 いや、あり得る。だって俺は一人、そういう奴を知っている。

 

 譲司和審豚。相談役であるアイツ。

 黒幕の端末と思われる、アイツ。

 

 まさか、コイツも。

 じゃあこの連絡先は。

 

「紙葉さん、そろそろHRが始まるわ」

「ええ、ありがとう。……KKDKT委員会、というそうよ」

「……委員会……?」

 

 最後に小声で、そう告げて。

 紙葉もまた、自らの席に帰っていく。他、俺と彼女の喧嘩に腰を浮かせていたクラスメイトもまた、落ち着きを取り戻していく。

 好意ゲージがゼロになった者はいない。紙葉の言葉に持ち直した、のか。

 ありがたい、が……脅威だ。

 誰なんだ、一体。

 

 渡されたメモを見る。

 携帯番号。フリーダイヤルとかではない。普通に、誰かの番号。

 ここに、あるのか。

 その黒幕とやらの真相が。

 

 ……ああ、けど、どうしよう。

 その前に全校生徒の好意ゲージ調整をした方がいい、気もする。学期末。皆が皆、自宅で清算するその時に死ぬ、なんて。

 助けようがない。救いようがない。

 それだけは、どうにかしなければ。

 

「はい、HRを始めます」

 

 どちらを取るか。

 

 

 

 

 

 

 

 善は急げ、だ。

 連絡先にコンタクトを取る方を選んだ。

 もしそれで、この好意ゲージの支配自体を、システム自体をぶっ壊せたら、学期末なんか考えなくてもよくなるわけだから。

 空き教室で一人、そこへ電話をかける。

 

 コールコール。

 コールコール。

 

 ──"はいはい、何用? 今学校でしょそっちも"

 

 また、頭痛。

 聞いたことのない声──同時に、酷く既視感のある声。

 

 ──"? もしもし? ねぇ、聞こえてる?"

「……聞こえて無かったら、その問いかけ意味無いだろ」

 ──"……ごめんなさい。完全に割り切ったつもりだったんだけど、ちょっと涙出るかも"

 

 聞いたことのない声だ。

 聞いたことのない声だ。

 聞いたことのない、声、の……はずだ。

 

「お前が誰か、聞いてもいいか」

 ──"貴方が可哀想だから、教えない。多分、私の名を聞いても、私の顔を見ても、何も思い出せないから。思い出せないのは辛いでしょ。だから貴方は、私のありがとうだけを聞けばいい。ありがとう、私の命の恩人。あの深い水底で、貴方が手を伸ばしてくれた事。貴方自身も危うかったのに、命を賭して私を救い出してくれた事。全部全部感謝してる。あの時は妹経由になってしまったけれど、本当はちゃんと、自分で伝えたかった。ありがとう、彩人さん"

「お、おい。捲くし立てるな。何のことかわからん」

 ──"今度は、私が貴方を救う番。今、貴方のために、貴方を救うために、色々な人と協力してる。昨日、元宇宙人も入会したのよ"

「宇宙人……? おい、その子の名前は、ドーン、か?」

 ──"いえ違うけれど"

 

 違うのか。

 どんだけいるんだ宇宙人。少なくとも二人来てるの、普通に怖くないか。

 

 ……ああ、懐かしい。何も思い出せないけれど、俺は多分、コイツを知っている。

 勝手に捲し立てて、情緒が結構不安定で、だけどちゃんと、()の事を見抜いてくれた、初めての人。懐かしい、のだ。思い出せない。去来する感情だけが、何かを告げている。

 

 良かった、と。

 元気になって、本当に良かった、と。

 

「……すまない」

 ──"謝らないで。これでも他の人達よりは、貴方の事をわかってる。貴方が私を好きにならない事も含めて、ね。もう勘違いしないから。貴方は貴方の恋に専念して"

「お前は……黒幕、じゃないんだよな」

 ──"貴方の味方よ、彩人さん。私は、私達は、みんな。貴方に感謝してる。貴方を大事に思っている。ねぇ、だから、教えて欲しいの。七月。()()()()()()()()()()()()"

 

 彩人さん。 

 そういう風に呼ぶ人は、本当に少ない。

 いや、いないかもしれない。

 だから多分、忘れてしまったけれど──唯一の人、だったのだろう。

 俺がそこまで、気を許していたのだろう。ああ。ああ。何故こんなにも──懐かしい。

 

 彼女以外に、こんな感情を抱くことがあっていいはずないのに。

 

「七月は……学期末だ。そこで、清算が起こる」

 ──"なるほどね。それ以上は言わなくていいわ。その情報があれば、妹がなんとかしてくれるはず。ありがとう、彩人さん。大丈夫よ。必ずその渦から、救い出してあげるから。もう少しだけ頑張って"

「……KKDKT委員会、と言ったか」

 

 ぶふっ、と。

 何か噴き出す音が、電話の向こうで鳴る。

 大丈夫、だろうか。

 

 ──"え、ええ。そうよ。私達はそう名乗っている"

「無理だけは、しないでほしい。アンタらが思っているより……一般人が立ち向かうには、危険な状況なんだ。余計な事をするな、とは言わん。お前は言われたところで守れはしないだろうからな」

 ──"ッ! ……ええ、そうね。私も妹も、誰かに止められたところで、止まらない"

「大丈夫だ。俺はお前が思っているより、強いよ」

 ──"馬鹿ね。彩人さんはこの世の誰よりも弱いのよ。それは、私と初めて会った時に確認したでしょ"

「覚えてないんだ。ごめんな」

 ──"わかってる。彼女さんを大事にね。最悪──世界がどうなっても。一番大事なのは、彩人さんの心だから"

「そうも行かないんだ。それも、ごめん」

 ──"バックアップは任せて。大丈夫よ。いつか必ず、貴方は幸せになるの。そうじゃないとおかしいもの。彩人さんはみんなを救っているのだから、貴方自身が幸せを手に出来なければ、バランスが保てない"

 

 KKDKT委員会。

 何の略だろう。わからない。

 でも黒幕なんかではないのだけはわかる。わかった。

 その声色の優しさから、その口調の柔らかさから。その言葉の暖かさから、この記憶の懐かしさから。

 

 この相手は信用できると、忘れてしまった過去が、そう告げている。

 

「電話、切るぞ。じゃあな」

 ──"ええ。またね、彩人さん"

「ああ──藍那

 ──"え?"

 

 最近の、そして今朝の彼女との諍いのせいで荒んでいた心が癒された感じがする。

 本当に、誰だったのだろう。思い出せない。名前も顔も判らない。

 でも、大事な人、だった気がする。……こんなことを思うの自体、彼女に不誠実、なんだけど。

 

 ありがとう、と。

 言われた。

 でも今度は、何故か……心に傷を付けなくて。

 

 ただただ、暖かい気持ちになった。

 

 

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