ハーレム展開撲滅ゲーム   作:劇鼠らてこ

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前話のラストはどちらが本当、とかは無いです。ナンバリングが違うので。


幸せな夢を、一時の幻を、切り拓いて行け。

 その細い首にかけようとした手を。

 自らの胸ポケットで輝く赤が、引き留める。

 

 ああ、それは幸せな夢だったのだろう。

 ああ、それは一時の幻だったのだろう。

 

 けれど授けられたそれが。託されたチャンスが。

 やっとの思いで、それを拭い去る。

 

「な──何よ」

「由岐」

「だから、何、って、──!?」

 

 それは多分、本当は、許されない事なんだろう。

 過去の俺も、未来の僕も、これを許す事は無いだろう。

 そんなことのためだけに、なんて。

 

「えっ」

「うわ、すご」

「やっぱりあの二人……!」

 

 教室中が騒がしい。けれど彼ら彼女らが僕の視界に入る事は無い。

 僕の視界は真っ暗だ。

 だって、目を瞑って。

 

 見せびらかされた"やり方"を、先に体験しているんだから。

 

「ん……っぷ、ふぁ、え? え? 何?」

「由岐。今まで、ごめん。さっきの事も、これまでの事も。そして、これからの事も」

「あ、彩人?」

「君のファーストキスを、奪った事も」

 

 理解の追いついてない様子だった彼女に現実を突きつける。

 そう、今、僕は彼女の唇を奪った。

 首に添えた手を肩に降ろして、そのまま彼女を抱きしめて、キスをした。

 

 けれど彼女の好意ゲージは上がらない。

 やっぱりか。本当に凄いな、由岐は。

 

「みんな……今までごめん。もう嘘は吐かないし、もう暴力は振るわない」

「藤堂君……?」

「天羽さん。いつも気にかけてくれてありがとう。君のその、些細な気遣いが、どれほどの癒しを与えてくれたか。今の今まで言えなかった事だけど、もう一度言わせてほしい。ありがとう。君の優しさが、僕をずっと救っていた」

「え……う、うん? どういたし……まして?」

 

 手を握って、瞳を見つめて。

 笑いかけて。

 

「榛さん」

「うぇっ!?」

「ごめんね。紙葉さんの事を僕は忘れてしまっているけれど、多分、僕と紙葉さんの間にはなにか確執があって、それに挟まれて窮屈な思いをしたんだろう。だから、ごめん」

「どどどどどうしよう美紅ちゃん、誠実過ぎて怖い!」

「正直ね公佳。私も同意よ」

「紙葉さんも……本当にごめんなさい。僕は多分、自分でもわからない何かを患っている。君の事を一切思い出せないんだ。それでも、」

「ああ、いいから。言い訳はいらないし、そもそも気にしてもいないわ。忘れたの? 私は委員会との仲介役を務めたのだから、粗方の事情はわかってる。なんなら、このクラスは任せてもらってもいい。街の外では、委員会のメンバーが真実を明かしている。後は私達の知らない貴方の繋がりを洗いなさい」

「──恩に着るよ、紙葉さん!」

 

 全速力で教室を出ようとして──けれど、もう一度。

 未だ混乱の極致にあるのだろう彼女に向き直る。

 

「浅海由岐さん」

「あ、う、うん。何?」

「僕は君が好きです。あの日、君が笑いかけてくれたあの日から、僕は君の事が大好きになった。あの日から僕は本当の事を言えなくなってしまったけれど、ずっと好きだった。だから」

「……いい。それ以上言わなくていいわ。彩人」

 

 す、と。冷静になって、彼女は言う。

 頭の中ぐちゃぐちゃだろうに、よく。

 

「わかってる。私もだから。……何か、やらなきゃいけない事があるんでしょ。はあ。手当は私達がやっておくから、行ってきて。どうせまた、私達に事実を明かすことなく、けれど私達を守ろうとしてるのはわかってるんだから」

「うん。ちょっと世界を守ってくるよ」

「ええ、いってらっしゃい」

 

 抱きしめはしない。それをやってしまえば、離れられなくなりそうだから。

 だから、踵を返して。

 

 教室を出る。

 

 行先はまず──屋上だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり来た」

「こらー!! そこな男子生徒! 屋上は立ち入り禁止です!!」

 

 俺が屋上に入って一分と経たない内に、彼女は来た。

 ロリ風紀委員長こと。

 

仲帳(なかとばり)先輩」

「はい、風紀委員の仲帳です! って、そうじゃなくて、藤堂彩人君! 屋上は立ち入り禁止ですよ!」

「今まで、申し訳ありませんでした」

「……む? ん……はい、はい。素直に謝れるのは良い事です!」

 

 仲帳すみれ。"ロリ"+"博愛主義"の彼女は、目に映るあらゆるものを愛している。

 故にちょっとやそっとの事では対象を嫌いにならず、そしてちょっとやそっとの事で愛情が深まるサイコ属性の持ち主。

 風紀委員をしている理由も、その愛がため。

 

「ここへ来たのは、どうやったら仲帳先輩に会えるかわからなかったからで」

「ふむふむ。成程、私に会いたかったのですね。確かに私はいつも校内を駆け回っていますから、直接の用事がある時は、特に一年生では難しい。こうやって私が来そうな場所にいるのは最適解です。でも立ち入り禁止ですよココは!」

「ごめんなさい。どうしても貴女に会いたくて」

「む。……その用向きによっては、許さないでもないです!」

 

 愛するが故に正さんとしている彼女は、実は風紀というものをそこまで気にしていない。

 博愛主義であるが故に、愛せればどっちでもいい。自らの手の届く範囲に、目の届く範囲に、みんながいればそれでいい。

 そして自らが与える愛がそうであるならば、自らが貰う愛も。

 

「お礼を」

「お礼?」

「いつも叱ってくれてありがとうございます。おかげで僕は、今まで外れていた道をようやく正せました」

「ほほう!」

「今まではちょっと、不良生徒気味だったけど……これからは優良生徒になれるよう頑張りたいと思います」

「それは良い事です! ふふん、私の毎日の頑張りも報われた気がします!」

「はい。先輩のおかげです」

 

 その対象に愛が届いたのだという事実こそが、彼女にとっての愛。

 一途な恋愛感情や重苦しい愛情を求めない彼女が、唯一愛を感じられるもの。

 

 自分の愛する生徒や後輩らからの労い。お礼。労わり。

 そういうもので、仲帳先輩は──簡単に。

 

「貴方のような後輩を持てて、私は鼻高々です! これからも精進するよーに!」

「はい。ありがとうございます」

 

仲帳(なかとばり)すみれ18

 

「それじゃ、出ましょう! いいですか? 屋上が立ち入り禁止なのは、何も貴方達を苦しめたいがためとかではなく、危険だからなんです。落ちてしまえば怪我所では済みませんからね!」

「はい、わかりました」

「素直でよろしい!」

 

 大人しく従う。

 したがって、屋上階段から廊下へ出れば、仲帳先輩はその低い身長からピンと腕を伸ばして、高らかに宣言する。

 

「じゃあ、私はパトロールに行ってきます! ちゃんとHRにも出るのですよー!」

「はい」

 

 ……いや先輩は?

 とか思わないでもない。あの人、いつでもどこでも りに来るから、実はHRも授業も一切出てない不良生徒説あるんだよな。まぁ流石に深読みなんだろうけど。

 

 ……これで、一人。

 最低な行いであるのはわかっている。

 でも、大事だから。

 

 リボンが、その先の未来で俺が言ってたじゃないか。

 バケモンにはバケモンぶつけんだよ! って奴。……って。

 

 それが、答えなんだろう。

 

 

 

 

 

 

「鄭和先輩」

「ん、お、藤堂か! よっす!」

「おはようございます」

「……ん? お前本当に藤堂か? なんか……めちゃくちゃなよっとしたな」

「あはは。つい先日、宇宙人に連れ去られまして」

「……マジか!?」

 

 鄭和衛須先輩。

 宇宙人に連れ去られ、TSさせられたとかいうけったいな設定を持つ先輩だ。テキストでは宇宙人としか語られていなかったけれど、ワンチャン晴巻夜明が下手人なんじゃないかと睨んでいる。宇宙人ていったらあの子しか知らないのもあるけど。

 

「だ、大丈夫だったか!? その……潰されたりしてないか!?」

「あんまりよく覚えてないんですよね。なんか頭をグチャグチャされたみたいなんですけど」

「それで性格がこんなに丸く……いや良かったのか? いや、いや! 俺がされて嫌だったことを良かった事、なんて、ダメだろ!」

「あ、そろそろ良いですか?」

「ぬ、む、うん? あ、そうか。俺に何か用があるのか」

「はい」

 

 自問自答を繰り返しながら百面相をする少女に、一つ、あるものを提示する。

 

「男に戻れる薬がある、って言ったら、先輩は飛びつきますか?」

「本当か!?」

 

 飛びつきますか、は比喩だったのだが、先輩は実際に飛びあがって僕の身体に飛びついてきた。

 いやいや、僕じゃなかったら押し倒されてたよ、それ。

 

「知り合いに天才研究者が居まして。彼女が戯れで作った性転換薬……そして、僕をキャトった宇宙人。その両名に、僕から先輩を戻してもらうよう打診します」

「お、お願いだ! 頼む! それは、それをしてくれるなら俺はなんだってする!」

「なんだって、ですか?」

「え、お、おう。なんだって……するぞ。え、なんだ? 俺ももしかしてなんか不味い事言ったか?」

「なんだって、ですね」

 

 なら、と。

 改まって。前置きして。

 緊張に固唾を飲む先輩に──告げる。

 

「僕と友達になってください」

「……はあ?」

「僕、実は男友達少なくて……先輩に対して言う事じゃないと思うんですけど、アイタッ!?」

 

 ぶっ叩かれた。

 別に痛くはないけど、痛がっておく。

 ……鄭和先輩の個別ルートにおける攻略法の一つが、これ。

 

「もうフツーに友達だろ、馬鹿! あぁ、俺が言ってたお前の事大嫌い、が悪いのか? そーだよな、すまんすまん! 別にもう俺お前の事嫌いじゃねえや! だってお前、すげーじゃん。色々やってきてるみてーだし、何より、聞いたぞ! お前こーぉんな時から一人の女の子愛してるらしいじゃんか。くそっ! 俺もそういう恋してみてーよ!」

「……ちなみにそれ、誰から聞いたんですか」

「ん? あー、誰だっけな。ああ、違う違う。新聞で見たんだ。今月号がお前特集でさ」

 

 なんだよ一個人の特集って。

 ……あーあ。譲司は、本当に。クソみたいな"悪友"だ。

 

「んで? 要求はそんだけかよ」

「あ、はい。連絡ついたら二人に言っておきますね」

「ん! 頼むわ! いやー、お前との巡り合わせに感謝だ、ホント!」

 

ていわえいす

鄭和

    ♀  17

衛須  ♂  17

 

 ……ダメだったか。

 これ以上は出来ない。鄭和先輩の個別ルートに入るには、彼女を捨てる必要がある。

 それは出来ない。

 

「じゃあ、先輩。そろそろ僕行きます」

「ん、おう! ……なんか知らねーけど、忙しいみたいだし、頑張ってるみたいだし。応援してるぜ、彩人!」

「あ……はい!」

 

 鄭和先輩をハート状態に出来なかったのは残念だけど。

 なんだか……友達が増えたのは、良かったな。

 

 

 

 

 

 

 

「来たわね」

「はい。ずっと尾行けてましたよね」

「当たり前よ。そして、それに気付く貴方はやっぱりニンジャ……!」

「あれそれ違うって断定したんじゃ?」

「ご両親が違っても貴方が違う理由にはならないと判断したのよ。貴方は演技が相当上手いようだし。ま、今は素で話してくれてるようだけど?」

「あはは。敵いませんね、東郷先輩には」

 

 東郷先輩は、何故か例の暗室にいた。

 彼女の教室へ出向いたというのにその姿が無かったときは絶望したものだ。彼女が一番チャンスのある存在だから。

 僕がこの暗室へ来たのも偶然。たまたま通りかかって、そのドアの赤く光る使用中の文字に、もしやと思って開いたらこうだ。

 

「SP、生徒の中にもいるんですね」

「当然じゃない。黒服スキンヘッドを校内に置いておけると思う?」

「成程、不審者ですね」

 

 僕の後ろをこそこそと尾行してきた生徒の存在については把握していて、その生徒がビデオカメラのようなものを持っていたのも確認済み。

 遠隔でそれを見ていたのだろう、隠す素振りもなく、暗室のPCにはそのカメラ映像が流れている。

 

「貴方のやりたい事、言いたい事は察したわ。──私に、貴方を好きになれ、と。そういう事でしょ?」

「……流石です、東郷先輩」

 

 さっきから僕がやっている事。

 物の見事に言い当てられた。

 

「貴方は散々……というかずっと、ずーっと、それをしないようにしてきた。自分を好きになる人を作らないように立ち回って、嫌われるように仕向けて、けれど嫌われすぎないように振舞って。あの時貴方の言葉から、世界だのなんだのが関わっている事も察せられた。貴方は独りで何かと戦っている。何かと向き合っている」

「……」

「そしてそれは、さっき学校中の窓ガラスが割れた事にも関係している。貴方の教室が赤い光に包まれた事にも、そして──」

 

 東郷先輩は、人差し指をピンと立てて──上を示す。

 十二時の先。宙を。

 

「今、地球に迫ってきている小惑星にも、関係している」

「凄いな。東郷先輩の家はそんな事までわかるんだ」

「政府や天文台は事実をひた隠しにしているようだけどね。流石に各家々が抱える天文技師の口までは封じることが出来なかったみたい」

「はい。そう、先輩の言う通りです。今、世界が危機に瀕しています。けれどそれは──先輩が僕を好いてくれる事で、解決します」

「……貴方、自分が本当に最低な事を言っている、っていう自覚はあるのかしら」

「ありますよ。ずっとずっと、あります」

 

 東郷先輩の好意ゲージはまだ消えていない。

 高い数値で止まったまま、下がってもいない。

 

「なら、契約をしましょう」

「はい」

「……まず、一つ。貴方は絶対に幸せになる事。もしかしたら犠牲になる人が出るのかもしれない。けれどそれは貴方の責任ではない。だって、貴方が何もしなかったら、全てが滅んでいたのだから」

「……はい」

「そしてもう一つ。浅海さんを幸せにする事。貴方が大切に想うあの子を、なんとしてでも、よ。たとえ彼女にフラれたり、愛想を尽かされるような事があっても、貴方は浅海さんを守りなさい」

「それは勿論です」

「で、最後」

 

 ふぅー、と。大きく溜息を吐く先輩。

 本当に賢い人なんだろう。研究や勉学の面で天才を謳う平岩木の実や千式真那比などとは別ベクトルの賢さ。

 相手の心理を、そして世界の真理に辿り着く、洞察力の天才。

 

「私を、()()()()()()()

「──」

 

東郷(とうごう)アミチア16

 

「貴方は自分が思っているよりずっと、ずーっと不器用だから。多分、関わってきた女の子達に責任を感じてしまえるくらい、誠実な人だから。私は、あるいは私達は、貴方を想い続けるけれど。ちゃんと、しっかり、それを振り払う事」

「……それでいいんですか」

「嫌よ。ただまぁ、それでいいという事にしておくわ。そもそも、貴方が浅海さんと結婚するかどうかはわからないわけだし。高校生のカップルなんて、付き合ったけど長続きしなくて破局、なんてよくあることでしょ」

「酷いなぁ」

「もしそうなったら、私は容赦なく貴方を奪いに行くから。監禁して私しか考えられないように躾けてあげる。精々頑張って浅海さんを幸せにすることね」

「肝に銘じておきます」

 

 既に、東郷先輩は抜け出しているのかもしれない。

 その支配から。自らの感情との折り合いを。その制御を。

 

 凄い人だ。でも、成程。

 苦手、というのは。全くだ、としか。

 

「これで?」

「はい。でも、まだ。出来る限り」

「そ。……ウチの財力を以てしても、技術力を以てしても、アレはどうしようもない、という結論が出てる。貴方にはそれをどうにかできるのね?」

「出来ます」

「じゃあ行ってらっしゃい。忍者の力、とくと目に焼き付けるわ。ほら、アレ……カ○イ!」

「忍者の勉強やり直しといてくださいね」

 

 暗室を出る。

 

 仲帳すみれ。東郷アミチア。

 ハート状態が──二人。

 

 世界滅亡の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆森先生を抱きしめる事で懐柔し、強引にハート状態へ持っていくことに成功。

 北山先輩は無理だった。まぁあの人は上がりづらいから仕方無い。また、水橋も上がりきらず、断念。ただし水橋はその属性……"ムードメーカー"と"情報通"であるが故か、むしろ僕についてのいい話を広めてくれている側だったようで、非常にありがたい。その口の端に「要が」とかなんとか言っていたけれど、それも多分、僕の忘れていることなんだろう。

 少しばかり焦りを覚えながら一度教室に戻れば、天羽も榛も夕闇君も輪島も三木島も、しっかりとハート状態になってくれていて。

 

「よぉ、首尾は上々ってかぁ?」

「もう終わったのかしら?」

 

 煽ったのだろう奴と、明かしてくれたのだろう少女に感謝をする。

 ハート状態は別にぞっこん、というわけではない。限りではない、が正しいか。ちょっと気になるかな、でもハート状態に入る奴は入る。

 だから、もう。

 このクラスにハート状態でない奴はほぼいなくて。

 

「はい、これ」

「これは?」

「委員会の子に繋がってるから。外行くなら持って行きなさい」

「……準備が良いね」

「全部唯葉……委員会のトップの差し金よ」

 

 ああ、"好き好きちゅっちゅラブラブちゅっちゅ状態"なんてけったいな名前を付けてた人か。

 結局あの宇宙船では会う事が出来なかったけど、どんな人なんだろうな。

 傑物である事には間違いないだろうけど。

 

「それじゃ、私達は教員の所にも行こうかしら」

「けひひ、俺様パスー。もう疲れた、イテェッ!?」

「私、貴方の事良く知らないけど。どうせ貴方も噛んでるんでしょ。手伝いなさい」

「こ、このっ、この水先様に何すんだ!」

「水先? よくわからないけど、貴方が事情を知ってるのはわかってる。あのバカの友達なんでしょ? 手伝いなさいよ」

 

 ……なんか、新鮮。

 アイツいつも余裕あるというか、自分は一歩引いてるんだぜ、感が凄いのに。

 こうやって……誰かに認識されて、一人の人間になっていると、こうも。

 

「頼むよ」

「任せなさい」

「おい見捨てんのかイケメン君!」

「お前には頼んだ、って言っとく。頼んだ、譲司」

「……けっ」

 

 何度も諭されてきたのに、これだ。

 優先順位、ね。そんなのをつけて友達を見れるか、って話だ。

 まぁ、もし。どうしてもつけないといけないのだとしたら。

 彼女が一位で……譲司は、二位とか三位とか、結構上位にいる事だろう。お前が思ってるよりも遥かに高い順位に。

 

 さぁ、あと少し。

 頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「計器がイカれちゃってさぁ。上からは小惑星、下からは大地震。横からは大洪水に、なんかよくわからない空間震動。まさに滅亡って感じィ~?」

「おはようございます、千式さん」

「え。うわキモっ! え? 君そんなだっけぇ? もっと……"ハ、ざまぁねぇぜ"とか"残像だ"とかいうタイプじゃないっけ?」

「流石にそんなじゃないですね」

 

 学校を出てすぐに、彼女はいた。

 千式真那比。僕の命を狙うと公言している正義のミカタ。

 

「殺しますか?」

「いーや。流石にもう無理っしょコレぇ。たとえ試練がアンタの死によって回避されたとしても、あの石が落ちてくるのは止められないし、太平洋沖で起きてる大津波も止められない。おっそろしい規模の地震が来そうな前兆もだし、何よりコレね。よくわからない……ヘンな空間の震動。次元震動、ってヤツ?」

「そういうの観測出来るんですか?」

「まーね。……いつになく余裕そうだけど、もしかして助かる手段があったりするぅ?」

「はい」

 

 その答えに、チャキ、と。

 もう何度聞いたかわからない、鉄器を構える音が響く。

 

「じゃ、今すぐ実行してほしいナ~? オカルトでもファンタジーでもいいからサ。そうしないと、私も君も、この学校も、妹ちゃんも。ぜーぇんぶぜーぇんぶ、壊れちゃうよ?」

「じゃあ好きになってください」

「……ん?」

 

 踏み込む。

 間合いに入ってしまえば、銃を持つ手を抑えてしまえば、それを撃つ事は出来ない。

 千式真那比の動体視力はそこまでじゃない。その腕力も速力も常識の範疇。どころか、妹にすら敵わないだろう程度。

 だから、無力化出来る。誰かに身体を押さえつけられでもしていない限り、彼女に後れを取る事は無い。

 

「僕、今から世界を震撼させます。世界を脅かさんとする全てを消して、先の未来を掴みます。だから僕の事好きになってください」

「ん? ん? んん? えーと、もっと筋道立てて話てもらえたりしない?」

「時間、無いので。千式さん。貴女が全てに飽いて、だからこそ世界を面白おかしく滅ぼそうとしているのは知ってます。だから、見ててください。平岩木の実でさえ辿り着けなかった未来に、僕が連れて行ってあげます」

「それは魅力的な提案だけどぉ、それがなんで君を好きになる事に繋がるわけぇ?」

「貴方が僕を好きになる事で、世界滅亡が加速するからです」

「……?」

 

 気でも狂ったのか、と。

 普通の人になら、そう思われるだろう。そういう「……?」が常人であれば発生する事だろう。

 けど、彼女は違う。

 

 彼女には見えているはずだ。

 僕が一切の嘘を吐いていない事実が。表情。瞳孔の開き具合。発汗。

 あらゆるところから、全てを察せられる変態的研究者。

 

「ステータス、って奴?」

「そんなところです」

「そ。……なる程ねぇ。そういう因果か。じゃあ逆に、私が君を嫌いになったらどうなる?」

「貴方は死にます。僕が助けない限りは」

「うへぇ、ひっどい仕組み。ああ、じゃあ君の英雄的行動はそういう事?」

「はい」

「そっかぁ。じゃ、君を殺してもそもそも意味なかった感じかぁ。だって世界がソウイウ仕組みなら、君の死を悼む子がいるだけで、世界滅亡が起きてた可能性があるわけでぇ」

「そこまでわかりますか」

「ふぅん? じゃあ、あれ? 今起きてるのは……ははーん、なるほど、なるほど」

 

 千式は、銃をポイ、と捨てて。

 至近距離にいる僕を──ぎゅっと抱きしめた。そのまま、キスまでしてくる。

 

「私、性格悪い自覚あるケド。君最低だねー。ド底辺の性格してる。女の子達の純情使って世界を救おうとしてるワケだ。あ、男の子もかな?」

「好きになれそうですか」

「もちもち! いいよ、そういう子だぁい好き。何より」

 

 千式は舌をでろり、と出して。

 僕の頬を、ゾゾゾと舐め抉る。

 

「私の命を救ってくれようとしてるんだもん……好きになってあげる」

 

千式(せんじき)真那比(まなび)17

 

 え、普通に気持ち悪いけど。

 とかは声に出さずに。

 

「ありがとうございます」

「今普通に気持ち悪いな、って思ったでしょ」

「はい」

「んー素直ッ! いいねー、最近の子は素直で。んじゃ、私帰るけど。なんか私に出来る事あったりするぅ?」

「貴女の研究者グループの人達に、僕の美談でも語っといてもらえれば」

「おっけーおっけおっけー。んじゃね、英雄クン。次会う事があるとしたら……その、変わり果てた新しい未来で、かな?」

「お元気で」

 

 これで。

 更に、一人。

 

 

 

 

 

 

 平岩木の実は門前払い。花屋の赤坂さんは開口一番の謝罪と頭を下げたらハート状態になってくれて、錨地原霍公には出会えなかった。

 そうやって、今まで関わってきた人を周り続ける。

 携帯で見るニュースには、天変地異だの大災害だのという速報が出回りまくっていて、何よりの天上──青い空に輝く黒点が、全世界を騒がせていた。

 

 その最中。

 僕は──自宅に。

 

 ここ数日帰らなかった自宅に、いる。

 

 妹が連日中学校を休んでいる、というのは、先ほど判明した話。

 イカロスの子を探しに行った中学校で、話題として用いた妹の話から分かった事実。

 どうして休んでいるのか、など。

 

「ただいま」

 

 声に出して。

 声を出して。

 

 けれど答えは帰ってこない。

 ただ、上階でガタガタと何かが動く気配はした。

 

 彼女の部屋へ向かう。

 

 

「入るよ、導」

「……あ」

 

 部屋に入れば──ボサボサの髪をそのままに、クッションを掻き抱いてベッドに座る妹の姿が。

 栄養状態は悪くない。ちゃんとご飯は食べているらしい。それは安心。

 だけどお風呂には入ってないのかな。そんな感じがする。

 

「だ、だめです。に……彩人さん、私今、臭いから……」

「いいよ、兄さんで。もう拒まないから」

「え、ぁ」

 

 彼女の好意ゲージは未だ高いまま。

 いや、あと少し、表面張力が如きギリギリでハート状態にならずにいる。

 

「ずっと、我慢してくれてたんだね」

「……好きに、なっちゃだめ、なんですよね。わかるんです。理性では、理屈では。でも。でも。心が……止められない。知ったんです。分かったんです。兄さんが置かれている状況が。あの後……唯葉さんから連絡が来て、もっとたくさんの事を知りました。だから、兄さんの事で、苦しくて、ああ、ごめんなさい。一番苦しいのは兄さんなのに、私は」

「ありがとう、導」

 

 抱きしめる。 

 罪滅ぼしになんかならないだろう。彼女には多分、一番迷惑をかけた。

 家族として。この家で暮らす、唯一の肉親として。

 

「もうすぐ──本当になるから。全てが本当になる時が来るから。今は、いいよ。その感情に身を委ねて良い。理性で律せられる世界が来る。理屈で考えられる世界が来る。だから今は、その心に従っていい。それが世界を拓くから」

「……兄さんまで、中二病、ですか?」

「お、言うようになったね。ふふ、そうだね。中二病だ。世界だの滅亡だの、何もかもが中二病だ」

 

 意味を調べたのだろう。

 調べた時、何を思ったのかな。憤慨したのだろうか。

 可愛らしく、頬を膨らませて。

 

「……また、夢、じゃないですよね」

「うん。もう乱暴兄さんはいないよ」

「……ちょっとだけ、ちょっとだけ……俺、っていう兄さんを、かっこいいな、とか思ったり……してません」

「してないんだ」

「して……ません。今の兄さんがいいです」

 

 僕的には俺俺イキってるあの演技あんまり好きじゃないんだけどね。

 心の中まで変えてるから普段は恥ずかしいとか思わないけど、正直ちょっとどうかと思う。俺様系って奴? ああいうのは王子様みたいな人じゃないと似合わないでしょ。

 

「導」

「はい」

「愛してるよ。僕の大切な、最愛の妹」

「大好きです。……そう、言って良いんですよね」

「勿論。おやすみ、導。ずっと寝てないんでしょ?」

「……おやすみなさい。次、起きた時……傍にいてください、兄さん」

「うん」

 

藤堂(とうどう)(しるべ)14

 

 力の抜けた彼女の腕。その体をゆっくりと寝かせて、毛布を掛ける。

 ありがとう。おやすみ、導。

 

 

 

 

 

 これで、準備は整った。

 電話をかける──相手は、委員会。

 

 ──"ようやく来たのね"

「うん。唯葉、という子に代わってほしい」

 ──"ええ、勿論。私達が協力できないのは、少しばかり心苦しいけれど"

「十分協力してくれてるよ。ありがとう、藍那」

 ──"……! ……ええ、貴方の、そして世界のためだもの。彩人さん"

 

 そうして、ようやく。

 対面……じゃないけど、ご対面だ。

 

 ──"あー、お電話お電話お電話代わりましてぇ~こっちらKIKT委員会代表、宵待唯葉ちゃんです!"

「KIKT委員会? KKDKT委員会じゃなかったっけ」

 ──"好感度解体委員会は好意解体委員会に名を改めましたぁ!"

「なるほどね」

 

 その略だったんだ。

 しかし、なんというか。

 

「テンション高いね、君」

 ──"高くなるよ~そりゃ! だって"

 

 嬉しそうに。

 楽しそうに。

 電話口の女の子は、言う。

 

 ──"私と貴方で、世界を救おう、っていうんだから!"

「……お手柔らかに頼むよ」

 

 直後──轟音。

 轟雷、だ。快晴の空を、光の槍が走った。

 

 天変地異。

 世界滅亡はもう、始まっている。

 

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