ハーレム展開撲滅ゲーム   作:劇鼠らてこ

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存亡と生死のシーソーゲーム

 東郷アミチア。

 あのリボンの先で、僕が言っていた苦手なお嬢様。

 彼女からの着信。

 

 ──"ハロー、未来の○影さん"

「勉強やり直したんじゃないんですか?」

 ──"やり直したわ。やっぱり面白いわね、マンガ"

 

 戦々恐々として出た先の声色に、真剣なソレは見当たらない。

 唯葉ちゃんの神妙な表情とは裏腹に、顔の見えないお嬢様は随分と楽しそうだ。

 

「何用かな。僕はこれでも結構焦ってたりするよ」

 ──"ええ、勿論わかってる。世界滅亡はビョウヨミで、イッスンサキハヤミで、世界の各機関が匙を投げるレベルのテンペンチイが起き続けている"

「財閥の観測チームは優秀みたいだね」

 ──"精鋭を掻き集めてるわ。それで"

「うん。何用なのか、教えて欲しい」

 

 唯葉ちゃんの"誇大妄想家"……属性としてみれば単なる嘘吐きにも捉えられるかもしれないけれど、今までの功績がソレを未来予測の類だと知らしめている。特に僕にとっては、あらゆる物事を妄想で言い当てた傑物だ。

 事実でなければ誇大妄想。この世界が実はゲームで、プレイヤーが一人いて、自分達には好感度を表すメーターが付随している、なんて。普通の世界でそんなことを言ってる人を見たら、気をやったとしか思われない。

 けど、事実なら。事実を言い当てているなら。

 彼女の言葉一つ一つに意味が出てくる。彼女の一挙手一投足に未来が見えてくる。

 

 答えだと、唯葉ちゃんは言った。

 なら。

 

 ──"このままだと、世界が滅んでしまう。ニホンは勿論だけど、地表にある国の全てが被害を受ける。火の海に包まれて、ホノオとガスとチリが渦巻く空になって"

「そうだね」

 ──"貴女がカ○イを使えないというのなら、違う手段がいる"

「手段はあるよ。けど、足りないモノがある」

 ──"()()()()()()()()()。それで、足りないモノって何かしら? 貴方が今まで築いてきた人間関係で賄えないモノ?"

「ロリータ」

 ──"What?"

「幼い少女だ。それも、お金持ちの娘……君のような、お嬢様と呼ばれる存在」

 ──"小児性愛に目覚めた、という事ネ?"

「君さ、大体わかってて言ってるんだろ? 割とね、本気で時間がないんだ。宙の巨石は、本来であれば既にどうしようもない距離にまで来ている」

 ──"ジョークよ。焦っているみたいだったから、ウィットをね。それで、幼い少女で、お金持ちの娘。ええ、ありがたく思いなさい。心当たりがあるわ"

「紹介してほしい。今から僕は、その子と恋愛をしないといけない」

 

 ジョークというなら、この願いこそジョークみたいな話だ。

 世界滅亡の危機にあって、ロリお嬢様を求める、なんて。それもこれも仲帳先輩がロリなんて普通の属性を持っていたのが悪い。

 人は属性を二つしか持てない。普通の属性は強い属性に上書きされてしまう。たとえば僕は"イケメン"+"行動力"だけど、もし大量の無差別殺人でも犯したら、"イケメン"+"大量殺人犯"か"無差別殺人犯"+"行動力"になるだろう。

 どちらが弱い属性なのかはわからない。そういうゲームじゃなかったから、判断基準がない。ただ鄭和先輩の"性転換"+"俺っ娘"や皆森先生の"年上"+"バツイチ"のように、最新の情報且つ主人公目線の情報が属性になる事は分かる。

 だから最新の状態がロリでお嬢様な少女がいれば、登場キャラクター一覧で属性を見なくとも"ロリ"+"お嬢様"である確率が高いというわけだ。無論、他に強い属性を隠し持っていたらどうしようもないんだけど。

 

 ──"そうね、紹介できる──というか、そのために電話をかけた、と言った方が正しいかもしれない"

「そのために?」

 ──"勿論貴方が幼い少女を求めている、なんて知らなかったから、そのために、ではないけれど"

「是非、お願いする。どんな目的でもいい。今はロリのお嬢様が必要なんだ」

 ──"真剣なコワイロなのに凄くシュール"

「東郷先輩」

 ──"アラ、怒らないで? それに、いつものようにフルネームで呼び捨てしてくれていいのよ? 貴方が心の中でそう呼んでいるように"

「……」

 ──"ごめんなさい。時間がないんだった。それじゃあ、電話代わるから。ステイシー、はいこれ"

 

 ステイシー。東郷ステイシーか。一応一瞬だけ目を瞑って登場キャラクター一覧を確認するけれど、10/10から更新は無く、既存情報の中にも少女の名は無い。

 怖いね。色々な物がかかっている最後の攻略が、前情報なしのキャラクター、なんて。……キャラクター、なんていうのは、もう失礼か。彼女らは人間何だから。

 気を付けなければならないのは──好かせることに躍起になって、好意ゲージの減少から死亡イベントを引き起こしてしまう可能性があること。

 電話越しでは、守れない。東郷のSPがどれほどの実力者であるかは計り知れないけど、埒外の死亡イベントにまで対応できる可能性は薄い。テロリストなんかには滅法強いかもしれないけど、部屋の中で突然花瓶が落ちてくる、みたいなのにはどう頑張っても対応できないだろうから。

 

 心して、かかろう。

 

 ──"お電話かわりまして、とーごー・すていすです。あいしょうをすていしーといいます。ご安心ください。わたしは英語できないです"

「あ、うん。初めまして、ステイシーちゃん。僕の名前は藤堂彩人。よろしくね」

 ──"おねーさまから聞いております。たくさんのにんじゅつが使えるニンジャであると"

「少しならね。準備が整えば、隕石を消す事も出来る」

 ──"ゆえに問います。とーどー・あやとさん。あなたは、わたしのことが好きですか"

「うん。大好きだよ」

 ──"うそつきぽいんといち。おねーさまに大好きだって言えないのに、わたしのことを大好きだと言えるはずがないです"

「う」

 

 声が幼いから、油断していた。

 東郷先輩の妹なんだ。たとえロリとはいえ、その頭脳は僕の上を行く可能性が大いにある。

 ……なんだって幼女と腹の探り合いなんかしなくちゃいけないんだ、とかは。

 まぁ今更か。

 

 ──"しつもんそのに。とーどー・あやとさんには、今、好きな人がいますか"

「いるよ。今というか、昔からね。大好きで、大事で、大切で……愛してる人がいる」

 ──"ほんとぽいんといち。そのあいじょうは本物です。うそいつわりのないように"

「う、うん。そうするよ」

 

 ロリ、なんだよね?

 こう……語彙力が。なんか。

 

 ──"しつもんそのさん。とーどー・あやとさんは、──今まで傷つけてきた女の子たちの事を、どう思ってますか"

「……え」

 ──"世界のためのとはいえ、たくさんの女の子をその気にさせて、ふって、きらわせて。きらう、というこういは自身の心にも大きなだめーじをおいます"

「……」

 ──"あなたが苦しんだのは間違いないでしょう。でも、あなたの行動で傷をおった女の子は、そして男の子も、たくさんたくさん、います。その子たちに対して、何を思っていますか。たとえこのあと、あの星をどうにかしたとして……その先で、そのあいしている人とつがったとして。しあわせを手にしたとして"

 

 なかったことにするんですか。いままであなたをあいし、あなたにきらわれ、なみだを流した少女たちを。

 

「ステイシーちゃん……君は」

 ──"いま、一部の少女らは、あなたをかわいそうに思い、身を引いてでも想い続けるだけでいい、なんてことをいって、あなたを許してしまいました"

「そう、だね」

 ──"それがすべてだと思い込めるような、あっぱらぱーな頭をしているわけではないのでしょう。今でこそあなたの良いうわさに流されて、あなたのしんしな言動にほだされて、あなたをきらえずにいる女の子たちがたくさんいる。けれど、しつれんの悲しみは消えないし、こんご一切、あなたがふりむいてくれることはない、という事実は消えません"

 

 痛い。

 心が痛い。

 だってそれは、僕が、僕自身が一番わかってる事だ。

 けど、誰もが許してくれて、誰もが仕方ない事だとして、誰もが──"最低な行為"だと、そう、具体的な事を言わずに否定していたことだ。

 こうして並べられると。罪を陳列されると。

 ああ。

 本当に、最低なクソ野郎だって。

 

 ──"ゆえに問うのです。あなたは一時の幻をふりはらい、しあわせな夢にたどりつくためにほん走し──そのぎせいとなる女の子たちの事は、忘れてしまう気ですか、と。かのじょらに何もあたえず、かのじょらに何も返さず、のうのうと、あなたの大好きな人とのしあわせなえんどろーるをむかえる気ですか"

()()

 ──"……!"

 

 刺すような言葉。心臓を貫くような言葉に──言い訳をせず、肯定で返す。

 そうだよ。

 僕はそのために生きてきたんだから。彼女を死なせないために、彼女のいる世界を守るために。そして、願わくば──彼女と添い遂げるために。

 

 犠牲となった女の子を救ってほしい、とでもいうようなステイシーちゃんの言葉。

 その気にさせられて、ふられて、癒えない傷を負ったままの女の子を省みてあげて欲しいと。ステイシーちゃんが何を知っているのかはわからないけれど、主張はこうだろう。

 お前だけ幸せになる事を、誰が許すというのか、と。

 

「凄く。今更な事を言わせてもらうけどね。僕は、ハーレム否定派なんだ」

 ──"では、女の子たちには傷をおわせたまま、苦しませたままに、自分のしあわせだけをのぞみ続けると。そういうことですか"

「うん。僕は今から君に好きになってもらうつもりだけど、君を幸せにすることはないし、君に何かを与える事もない。君のお姉さんにもそうだね。君のお姉さんのこと、僕は苦手だけど。色々助けてもらって、色々助言してもらって。背中まで押してもらった。その上で、言うよ。僕は君のお姉さんを好きになる事は無いし、君のお姉さんに惹かれる事も絶対にない。たとえ彼女にフラれて心身ともに憔悴していたとしても、だ。この世に絶望したって、死ぬ間際にあったって。僕は彼女を想い続けている。彼女が好きなんだ。彼女を愛している。その先で幸せになれるかもしれないし、なれないかもしれない。それをひっくるめて、僕は変わらない。自分の幸せを望み続けるというよりは、自分の人生を臨み続ける、が正しいかな。僕はこの生において、それを貫くよ」

「さっきちょっと諦めかけてたくせに」

「うん?」

 

 茶々を入れてきた唯葉ちゃんの方ににっこり笑いかければ、唯葉ちゃんは画面越しであるにもかかわらずホールドアップをした。

 

 ──"ほんとぽいんとじゅう。おそろしいです。怖いです。あなたの言葉には、うそいつわりがない。あなたは本気で、傷つけてきた女の子たちを、ぎせいになった人々を、そのままにする、と言っている。だんせいはみな女の子を傷つけたくなくて、えらべなくて、だからはーれむをつくってしまうんじゃないんですか?"

「凄い偏見だね……。でもまぁ、そういう人を否定する気はないよ。ハーレム否定派だけど、そういう生き方しか出来ない人はいるんだと思う。きっぱり断る事で、傷つけてしまうんじゃないか、って。思いを受け取れないという事で、縁が切れてしまうんじゃないか、って。勿論、選べないくらい両者に魅力がある……なんて妄言を宣う人もいるんだろうけど、大概前者なんじゃないかな。相手を傷つけたくなくて、相手に悲しんでほしくなくて、押し切られてハーレムを形成してしまう。お金や情報の絡まないハーレムは大体そうだと思う。お金や情報が絡むと感情なんか関係なくなるんだろうけどね」

 ──"ほんとぽいんとひゃく。あるいはそれが、あなたのしんこうなんですね。あなたは一途だから。あなたは他になびかないから。たとえうらまれても、たとえにくまれても、あなたは相手に同情しない。かわいいと思うことはあるのでしょう。美しいと思うことはあるのでしょう。けれど、それはあなたの心を動かす理由にはならない。もし、あなたの心が動くことがあるとすれば"

「僕のもっと深い所に触れてきた子には、まぁ動いちゃうかもしれない。恋愛観の奥底、僕の世界観までもを見抜いた子には」

 

 それが多分、杉原君だし。

 覚えていないけれど、多分、藍那だし。

 恋愛感情の繋がりというよりは──家族のような、あるいは身内のような括りに、入れてしまうのかもしれない。

 

 ──"なれば。最後の問いです、とーどー・あやとさん"

「うん」

 ──"この世界に生きる人々は、()()()()()()と、そう思いますか"

 

 問いの意味を反芻する。

 ふざけている。好意ゲージに支配され、暴走し、用済みとなれば死の運命が迫る人々。

 茶番だと、そう断じる事も出来るのだろう。あるいは僕に取る事の出来なかった選択肢……死亡イベントなんかとっとと見捨てて、形振り構わず想い人と添い遂げるような未来も。

 誰も気にしないのだから、自分が死を気にする必要はないと。ふざけた彼らにとって、このふざけた世界は普通なのだから……自らは身を引いて、安全圏で眺めていればいいと。

 

「思わないよ。みんな、生きている。人間だ。それはあの譲司でさえも。そして──君も」

 

 ふざけたシステムなのは変わらない。

 けど、人々までもがそうか、と言ったら。

 絶対に違う。僕も彼女も、僕が傷つけてきたみんなも。

 

 真剣に生きてる。真面目にね。

 

 ──"理解しました。あなたをみとめます。わたしが好きになるに足る、人物であると。そして、かいじします。わたしのぞくせいは"ロリ"+"お嬢様"。ごしょもう通りのぞくせいです"

「君は、やっぱり」

 ──"そして──条件を満たしたことにより、世界のめつぼうが始まります。どうしようもない、どうすることもできない小わく星の飛来。そのしょうとつ。その、二つめ"

 

 直後、世界から光が消える。

 窓を開けて身を乗り出せば、闇が落ちているのがわかった。夜──月明かりが遮られた、だけじゃない。

 街灯も、照明も、唯葉ちゃんとのテレビ電話は勿論、携帯の光までもが失われる。

 

 完全な闇。陰が落ちた、と。上空から見た誰かは言うのだろう。

 日本を中心として、丸い影が落ちたと。

 

 ──"地しんは地しんにそうさいされ、津波は津波にそうさいされ、嵐は嵐にそうさいされました。日本を中心として起こったあらゆる世界めつぼう……だいさいがいの数々は、同じえねるぎー量を持つ同じさいがいによって打ち消され、あれほどのてんぺんちいのさなか、死人の一人足りとて出ていない。世界中の科学者はこれを世界の終わりだとしょうしていますが──いいえ、これは、確実に"

 

 通信が切れているはずの携帯から、ステイシーちゃんの声だけが響く。

 誰もが天上を見上げている中で、僕の意識だけは、携帯電話に向いている。

 

 ──"きせき、と。そう言えるでしょう。それを引き起こしたのは、まぎれもなくあなたです、とーどー・あやと。あなたの積み重ねてきたぜんこうが、一本芯の通ったそのせいしんが、きせきを起こしました。そして、であるならば、ゆえに"

 

 空が歪む。円形状に、へこむ。

 違う。落ちてきているのだと誰かが言った。もう隠しようがない。けれど、ああ、やはりファンタジーだ。

 こんな距離にまでくれば、すでに地表は無事じゃ済まないはずなのに。多分、着弾のその瞬間までは──アレが平気なのだと確信できる。

 

 そして。

 

 ──"世界めつぼうは必ず起こります。例外はありません。ゆえに、世界めつぼうによって世界めつぼうがさえぎられそうなのであれば、時間を早めてでも間に合わせます。二つめの小わく星は加速し──自らの仕事をじゃまする一つ目を、どかすような軌道で"

 

 彗星だ。ほうき星だ。

 巨大な尾を持つ星は──けれど、その大きさが従来の比ではない。落ちてきている巨石と同等の大きさのソレが、勢いと威力を持って体当たりをかます。

 起こるのは爆発。たかだか隕石、じゃないのだ。小惑星……ちゃんとした質量を持ち、引力を有す惑星同士の衝突。それは当然、凄まじい熱波と破壊力を周囲に齎す。

 

 今度こそ、誰もが思っただろう。

 世界の終わりだと。

 目に見えない真っ黒な巨星より、目に見える真っ赤な破砕──双方が砕けて落ちる、数えきれない程の隕石となって飛来するそれこそを、世界の終わりだと。

 

 そこまでは僕も予想していなかった。

 消えるものだと。ファンタジーが如く、世界滅亡がダブって、それこそ空間に飲み込まれるようにして消えるものだと。

 

 これじゃあ。

 これじゃあ、意味がない。

 確かに世界滅亡よりは死亡は減るのだろう。これならばあるいは、半分くらいは無事で済むのだろう。

 けど、そんなの。

 

 僕の求めていた結果じゃない。それじゃあ彼女を──守り切れない。

 間に合わない事は分かる。今から彼女の家に向かったって、もう。

 無理なのはわかる。妹をどこに隠しても、共にどこへ逃げても、もう。

 誰と、どこへ行こうとも。

 あの巨石群から逃れる術はない。

 

 

 

 ──"きせきです。あなたの積み重ねて来たぜんこうは、世界めつぼうを防ぎ──さらに、世界のはんかいまでもを防ぎます"

 

 

 

 その言葉が終わる前に、それは起こった。

 見える範囲、視界のすべて。その至る所で水柱が立ち上がったのだ。

 

 一本縦、じゃない。うねるように、蜷局を巻くように。まるで──竜のように。

 周辺の河川という河川、あるいは海という海から、水の竜が飛び出した。

 それはまるで──"水神の怒り"とでも表現すべき光景。あまりにファンタジーなそれは、しかし向かう。向かうのだ。

 僕らを脅かさんとする巨石の元に。

 僕達を守るかのように。

 

「てってれー! 何もしないワケじゃないんだぜボクも! なんかすっげーのが出てきて霞んでるけど、くらえ消失ビーム!」

 

 物凄い速度で上空を駆け上がる円柱。取り付けられたけったいなスピーカーから、聞き覚えのある声が聞こえる。

 巨石の轟音で掻き消されるはずの音量は、けれど確かに僕の耳に届いた。晴巻夜明。宇宙人。

 円柱から飛び出したか細い一線は巨石の一つに当たり──それを消す。無数の岩に対してあまりに無力なそれは、けれど確実に効果を発揮している。

 水竜では漏らしがあるのだ。その大部分を、その多くを受け止めた水の竜達は、けれど水であるが故に、取りこぼしがある。

 それらは元の数に比べれば極少数といえるだろう。しかし地表に落ちれば被害は免れない。だからこそ、それらの零しを晴巻夜明が消していってくれている。

 

「やっはろー、少年。なんだよアイツを信じた私が馬鹿だったぜ、とか思ってたけど、マジじゃんマジじゃん。世界おもしれーじゃん。ってことで、用意しましたルチノーイプラチヴァターンカヴィィグラナタミョート! 撃つ? 撃つ?」

「いや、ロケランは弾頭が落ちると危ないし、外したら目も当てられないのでやめてください。というか住宅街にそんなもん持ち込まないでください」

「うっは冷てェ~! これでもテンション爆上がりしてんだよ私。ヒコノミーも大興奮でLI○Eしてきたし。手伝えることとかあったりする?」

「火傷に対する薬とかをありったけ」

「おっけおっけー、よかろう。私達天才研究者をそんな当たり前でありきたりな事に使うのを許可する。でさ、こういうのがマジで起こって、試練が阻止された、ってことは……来るんだよね」

「来ますよ。多分これが終わったら、異世界の住民が次元の門戸を叩きます」

「十分なモチベーションだことで。んじゃねー、少年。藤堂彩人。私は多分もう、君の目の前には現れない。研究室にいた方が有意義だから。だから、まぁ、私を外に出さないように、世界を彩り続けてクレヨン?」

「いや別に僕が未来を決めてるわけじゃないんですけど」

「アデュー!」

 

 言って。

 屋根から声をかけてきて、でっかいロケランを背負ったままに、白衣スク水の少女は屋根と屋根の上を伝って去っていった。

 ……あれ、あの人妹より運動能力ないんじゃないっけ。ドーピングでもしてるのかな。

 

「兄さん」

「大丈夫だよ、導。大丈夫、ちゃんと守るから」

「いえ。私より、由岐さんを大事にしてください。たとえ私の身が危険にさらされたとしても、由岐さんを優先してください」

「……でも」

「兄さん、自分が思ってるより声大きいんですよ。聞こえてました。さっきの言葉。兄さんの愛の話」

 

 ……寝てるものだとばかり。

 ああいや。起こしちゃったのかな。そうだよね、部屋となりだもんね。

 

「私は兄さんに愛される事は無いと、わかりました」

「……うん。ごめんね」

「許しません。だから、償いとして。もうどこにもいかないでください」

「うん」

「なので今は早く行ってください。危険かどうかはわからないし、由岐さんは多分ご両親と一緒に居ると思うので、真夜中にけしかけた不審者になると思いますけど……今行かないで、いつ行くんですか、兄さん」

「ありがと、導。そうするよ」

 

 ベランダのサンダルを履いて──飛び降りる。

 二階の高さなんて主人公の肉体には衝撃にすらならない。飛び降り、着地硬直も感じさせない動きで駆けだす。

 向かう先は彼女の家。といっても、そこまで離れてはいない。だから一直線に向かう。

 

 向かって。

 向かって。

 

「──ふざけるなよ、おい!」

 

 上空──光が見える。

 全体に比べたら破片も破片。晴巻夜明も撃ち漏らしだとすら思っていないのだろう程度の大きさのソレ。

 家屋を一つ潰すにも至らないだろう光点が、一つ。

 

 彼女の家に。

 彼女の──部屋に。

 一直線に。

 

 何の冗談か。どんなふざけ具合だ。

 彼女に死亡イベントは発生していないはず。世界滅亡エンドもグリッチによって取り除かれた。その余波も水の竜やら宇宙人やらが頑張って取り除いてくれている。

 

 だというのに。

 だってのに。

 

「そんな、取ってつけたかのようなバッドエンドを!」

 

 彼我の距離、約七十メートル程。

 今から説明したって当然間に合わない。なれば、破壊するしかない。だがどうやって。

 蹴り壊す? いやいや、主人公の肉体が如何に優れているからといって、そんな曲芸染みた事が出来るわけじゃない。第一どうやってその高さまで飛ぶんだ。

 何かを投擲する? それも無理だ。優れた肉体に反し、僕に技術の類は無い。あるいは鄭和先輩なら出来たのかもしれないけれど、僕には狙ったものを狙った場所に投げつけるという技術を高い段階で修めてはいない。

 ならば。

 ならば。

 

「窓から突っ込んで──安全圏まで逃がす!」

 

 一番の力技に頼るしかない。

 彼女の家の石垣に飛び乗り、高くジャンプ。一階の屋根へと一足で辿り着いて、その勢いのままベランダの窓を割る。

 

「きゃぁっ!?」

「由岐、ごめん!」

「痛ッ、ちょっと、何!?」

 

 一階のリビングに彼女の両親がいることは確認済みだ。光漏れるカーテンは内の光景を透かす。

 彼女は一人っ子。その部屋だけは犠牲になってしまうけれど──それはもう、ごめん、としかいえない。

 

 命が一番大事だ。

 だから、だから、ぎゅっと抱きしめて。

 出来るだけ彼女の部屋から離れて──直後。

 

 

 

 視界の全てが、目を開けていられないような眩い光に包まれた。 

 

 

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