ゲームを周回プレイしていれば、一応あのエンドの伏線はここにあったんだな、と思わせるようなイベントが序盤の方にいくつか存在している事に気付き得るだろう。ゲームの仕様上フラグが存在しないために未然に防ぐ事は出来ないのだが、ここで起きていた事がアレに繋がるのか、という考察は出来た。
ゲームでは止められなかった事。
それを、果たして今──それを現実とした俺ならば、止められるのか。
「あの……何か御用でしょうか?」
目の前で怯えた顔をする……なんだろうな、頭にネジがぶっ刺さっている少女。比喩表現ではなく、物理的に。しかもそれはアクセサリなどではなく、縫合痕のある……本当にネジがぶっ刺さっている頭部を持った少女だ。縫合痕の有無は、専用のイベントで確認できる。
こういうゲームにはまぁまぁありがちなファンシーキャラ、と思わせつつ、世界滅亡エンドの
世界滅亡エンドのトリガーを引くのは各キャラクターだが、インベーダー襲来ならインベーダーが、パンデミックなら研究者が、というように下手人はトリガーとなったキャラクターではないのが基本だ。まぁ、普通の高校生に世界を滅亡させる力があるはずがないからな。
で、この少女は例外。
トリガーにもなり、下手人でもある、所謂爆弾だ。
「プールで、眼鏡を落としたんだが、アンタが鍵を所有していると聞いた。貸してくれないか」
そう表示されるウィンドウは、しかし名前が明滅していて、ウィンドウが表示バグを起こしている事が伺える。もっともゲームにおいてはこれはバグではなく仕様……名前が二つあると言うだけの話。
色々省いて言うと、この子は神様なのだ。
「あ、はい。プールの鍵は所有しています。……けど、貴方は新入生では? まだプールの授業は始まっていません、よね」
「部活動見学の時に置いておいたものが無くなっていたんだ。盗まれたのでなければ、どこかに落とした……誰かが落としたという可能性が高い」
「なるほど。わかりました、鍵を開けましょう」
……ちょっと拍子抜けした。
水髪が関与するイベントはゲーム後半に集中していて、序盤は挨拶を返すだけで好意ゲージが一定に保たれるくらいの関りしかない。一周目の初心者にとってはあんまり印象に残らないヒロイン。二週目……いや、三周目かな。そのくらいの中級者にとっては、注意深く動向を見ていたいヒロイン。
そして何十周もしている上級者にとっては、お前のせいであいつが!! となる……まぁあんまり愛されていないキャラクターだ。
水髪は他キャラクターと同じく好意ゲージの減少……一度主人公に好意を持って、それをゼロにする事で死亡イベントを引き起こすのだが、その引き起こし方が特殊なものとなっている。まぁ、これも諸々省いて言うと、
一応設定上は現人神と生贄のハーフとかいう重たい設定を持っている水髪。彼女は基本死なない。多分死亡イベントでよく使われる10tトラックをまともに受けても死なないんじゃないか。そんなシーンは無かったので検証の仕様がないのだが。
神様の加護、とかいう思いっきりファンタジーな力で守られているから、死なない。
しかし、特殊なもの……端的に言うなら、自殺。
「更衣室ではなくプール構内で良いんですよね?」
「ああ」
ただし、彼女の場合は死んでも死なない。人間の身体が死んでも神としての魂は死なない。その状態だと、好意ゲージが1ゲージだけ復活しているため、言い方は悪いがやり直しがきく。しかもその好意ゲージはゼロにはならないため、放っておいてもいい存在……に、思われがちだ。
そんなことはない。
いや、正確に言えば放っておいてもいい存在、というのは間違っていない。神様状態になったらどうしようもないから、という冠がつくが。
一応このゲームは各ヒロインの組み合わせに応じた世界滅亡エンドが設定されていて、この子とこの子に好かれたらインベーダー襲来、この子とあの子だったらパンデミック、というように、GAME OVERはGAME OVERでもエンドスチルとテキストが変化するのである。
世界滅亡エンドは、水髪が神様状態になっている場合、問答無用で水神エンドと呼ばれるものになる。
「どうぞ。私は入り口で待っていますので……」
「いや、一緒に探してくれないか? その方が効率もいい。迷惑だと言うのはわかってる」
「……わかりました」
で、コレの何を対策できるか、という話なのだが、第一に水髪が俺を嫌わなければいい、というのは当然として、水髪のその精神性と弾みで世界を滅ぼしやがる親馬鹿に向けた……なんだ、SEKKYOとかいう奴だ。卒業シーンの後、水髪だけがハート状態の場合そういうセリフイベントがあるからな。
「ざっと見てみましたが……ありませんね」
「そうらしい。悪いな、手間をかけた」
「いえ、力及ばず申し訳ありません」
見る。水髪を──その頭頂より、少し上を。目線を合わせる。見えてはいないが、そこにいるのは知っている。
「……あの?」
「愛しいのなら、愛しているのなら。そんな回りくどい方法じゃなく……直接話して、直接愛を伝えてやれよ」
「えっと……?」
これが何の役に立つか、というのは知らない。
ただ、思うのだ。俺がこの世界を生きるにあたって……あるいは、クリアする、という概念を持つにあたって。
世界滅亡のトリガーとなるものを、全て摘んでしまえば……複数人のハート状態にも、耐えうるんじゃあないか、という。
……そんなことが出来るのかはわからない。ゲームに無かった世界滅亡エンドが起きるのならもうお手上げだ。
だから、知っているものくらいには……意味の有無にかかわらず、やっておきたい。
「亡くしてから嘆きを伝えても、返っては来ないぞ。失ってから愛を叫んでも、届くことは無いぞ」
水神エンドにおいて、水神に好意を持たれていた主人公は世界が滅亡し、人類が滅亡する最後の最後まで生き続ける。そして水神が世界を滅ぼした理由を聞き、その後悔を聞き、なんでもっと早く彼女と話さなかったんだ……という説教をかます。正直なところ、終わったことに何を言っても変わらないし、そもそも彼女を嫌わせたのはオマエだろ、というツッコミをしたくなるシーンではあるのだが……この水神は案外チョロい。
そんなツッコミどころ満載の言葉でも改心するくらいには。チョロイン。
今はどうか、正直分からん。水髪が死んでいない事や世界滅亡エンドに至っていないから何言ってんだコイツという思いで聞いているかもしれないし、何かしらを感じ取ってくれたかもしれない。あの時はツッコミどころのあった
効果があったかどうかは──。
「不遜。しかし、意味のある言葉だ」
……チョロくないか。本気で。
一応視線を合わせたとはいえ、妄言の類にしかならない呟きを……わざわざ水髪の身体を借りてまで出てきて意見するとか。神様とは。もっと遠いものじゃないのか。あと神様っていうんならこの世界のシステムでも壊してくれないかな。
「少年。名を言え」
「藤堂彩人」
「記憶。良い名前だ」
ちなみに、ゲーム中はこの水神、特に不思議な力を使うとかそういうことは無い。世界滅亡エンドのみ水神らしいところを見せてくれるが、その他の時はまず喋らない。水髪の神様状態に割り込んで、いきなり無表情になって「……」だけを残していく人……いや神、という印象だ。神様状態の水髪も特別な事ができるわけではなく、体が半透明になっただけである。
ただ喋り方が神っぽくて、水神エンドの元凶、というだけの存在だ。
「一つ。問う」
「……」
「何故。私がこの場でしか顕現出来ない事を知っていた。何故。私が水神である事を知っていた。何故。私の存在に気付いた」
……いやまぁ聞かれるよなぁ、と思っていた。
本来水神の存在に気付くのは水髪が自殺をした後。彼女が神様状態になってから、だ。俺が今水神の姿を視認できていないように、普通は感じ取れないし知らないしわからないし見えない。完全に知識ベースの対策故に、そういう疑問も当然。
しかしゲームではそんな質問はされない。される機会がないからな。だから俺のアドリブ力で頑張るしかない。一応予想はしていたから、考えてきてはいるが……さて。
「俺の眼は、相手の本質が見える。アンタの名前もわかる」
「驚愕。なんと、神通力は感じぬが」
「そういう力じゃないからな」
ゲームのシステムウィンドウの話だ。この神様……美子那サマは、よくわからんがそういう神通力、とかいう力で動いているんだろう。ゲームのシステムに理解があるわけではない。だから一層奇異に見えるんだろうな。
もっとファンタジー要素バリバリのキャラクターがいれば話は違った……ああいや、いるにはいるが、今はいないしな。
「好意。気に入ったぞアヤト。我が愛し子をよろしく頼む」
「っ! ……よろしくされる筋合いはない。愛しているならお前が愛せ。俺に好意を預けるな」
油断していた。神様状態になっていなくても、こんなに上がりやすいのか。……いや、まさかこの上昇分は……美子那サマの好意か? 嘘だろ、加算式とか聞いてないぞ。ゲーム中にはそんなことはなかった。それは人間に興味が無かったからか?
なんにせよ、少し下げなければ。
「疑問。拒絶の理由が見当たらない」
「お前に無くても、こっちにはあるんだよ。俺に
「理解。アヤトの眼は、本当に見えているようだな」
……ん?
今何を理解した? 依然として好意ゲージは下がらない辺り、俺の拒絶を一切気にしていないっぽいのが死ぬほど恐ろしいんだが……もっとキツく言わないとダメか?
しかしここで一気にゼロになって、そのまま神様状態に移行されたらコトなんだよな……。くそ、ゲームに無い展開は本当に扱いに困る。周回二回目の選択肢に対するストレスと似たものを感じる。
「おい、良いか──」
「肯定。礼を言う。故に──私達は、お前のためを思って、姿を消そう」
「……どういうことだ」
「返礼。すべてが終わったら、終わりが来るのなら、その時はまた礼を」
意味の分からない話が続く。何を言っているんだコイツ。
神様というのについての説明は、ゲーム中にはほとんどなかった。勘弁してくれ。これ以上悩みの種を……。
予鈴がなる前に教室へ戻る。
榛が少し好意的な目線を、天羽がにへら、とした笑みを、彼女がツンとした表情を見せてくる。他にも俺への好意を持つ……2ゲージ辺りで留まっているヒロイン達が俺を見てくるが、俺側にそんな余裕がなかった。
思い出せない。
自分がなぜ──プールにいたのか。好意イベントの発生? それとも好意管理のため?
わからない。プールになど、用は無いはずだ。関連する死亡イベントや世界滅亡エンドも思いつかない。なんだ。俺は何をしていた?
忘れている。忘れさせられている。そんなことが出来るのは……今はまだこの学校に来ていない"宇宙人"属性の少女か、"転移者"属性のあの子か……あとは妹エンドで一瞬だけ出てくる催眠術師なんてのもいたか?
……だが、それらは今いない。いたとして、俺にそういうものをかけるメリットがない。
わからない。
わからない。
……これだけ考えて思い出せないということは、イベント関係か。何か失敗したか、あるいは成功したか。とりあえず帰ったら登場キャラクター一覧を見て、おかしなところがないか確認しよう。
何かが分かるかもしれない。