ハーレム展開撲滅ゲーム   作:劇鼠らてこ

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※食事中の方はご注意ください。


ありがとう

 登場キャラクター一覧には特におかしなところが無かった。それが一層、焦りを加速させる。

 主人公の肉体は身体能力という面においてはアスリート級だが、オカルトな力が宿っていたり、霊感が強い、という事は全くない。今はまだこの学校に来ていない"宇宙人"属性の子にも、"転移者"属性の子にも、揃って一般人であると判を押されているし、ゲーム中でも特にそういった描写は存在しなかった。

 使えないという事は、耐性が無いという事でもある。

 何故あの時プールにいたのか。それがどうしても、思い出せない。恐らくは自我を取り戻した直前に何かそういうオカルトなものをかけられたのだと予想しているが、対策を練る事が出来ないとなればかなり厄介だ。

 

 俺にとって記憶は"彼女"の次に大事なものだ。

 『ハーレム展開撲滅ゲーム』の記憶。これがなければ世界滅亡は免れず、至る所で命が消える。それが異常だと思えるのも、死に行く命を見捨ててはならないと思うのも、俺に記憶とラベリングされた常識が備わっているからだ。

 今回は短期間の記憶のみであったけれど、もし、もっと深い部分まで消されてしまえば。

 ……考えたくもない。

 

「あの……」

 

 それとも、俺が気付いていないだけで、たとえば丸一日分の記憶を消されている、なんてことがあったりするのだろうか。それは、ああ、余りにも恐ろしい話だ。そんな事があり得てしまうのなら、俺は──。

 

「あの、藤堂君!」

「ん……」

 

 思考を浮上させる。うつ伏せに落とした顔を上げて、呼びかける声の方を向けば、そこには天羽の姿が。

 

「きょ、教室……次体育だから、移動教室だよ」

「ああ……そうか。助かった」

「えっ」

 

天羽(あまはね)久希(ひさき)15

 

 一ゲージ分の上昇に、思わず顔を顰めてしまう。その俺に、天羽はビクっと肩を震わせた。

 ここで何か、たとえば「俺が礼を言ったら変か?」とか「もういいだろ、早く行けよ」とか言ってしまえば、好意ゲージが更に上昇する事だろう。

 だから、何も言わずに立つ。何か言われると思ったのか、目をつむったままでいる天羽の横を通り抜けて、そのまま教室を出る。

 

「……藤堂君」

 

 その、ポツリと零された俺の名に、心中で深く溜息を吐いた。

 馬鹿をやった。負のスパイラルに陥りかけていたのを引き戻してくれた事も兼ねての礼だったけど、言わなきゃよかった。

 天羽久希。ホント、良い名前だよ。全編通して善性の象徴だしな。

 

 

 

 

 

 

 さて、体育の授業だ。

 この学校、何を考えているのか、どの授業においても二人組を作る時は必ず男女で作らせる。それは勿論この体育でも同じで、だからこれは、避けられない好意ゲージ上昇イベント、というヤツだ。しかも固定量上昇イベント。最悪、の一言に尽きる。

 そんな慣習があるなら毎年入学させる生徒を偶数にすればいいものを、何故か俺の年だけ奇数というふざけっぷり。

 

 そうなれば当然。

 

「じゃー、三木島と藤堂は、輪島も入れてやってくれ!」

「ええっ!?」

 

 あぶれ者が出る(こうなる)。そして何故か、当たり前の如く、俺の所に入れられる。可哀相が過ぎる。

 自由にペアを組んでいいぞシステムなら俺があぶれ者になった事だろう。俺と組みたがるヤツいないだろうし。ただ、整列順で隣同士、という組み分けだから、ここが原作通りになることはわかっていた。輪島があぶれる事も。

 体育などという汗をかき、身体が密着する事の多い授業で、女の子二人に囲まれる。普通のハーレムゲーならしゃぶりつくされた展開も、ハーレム展開撲滅ゲームにおいては死の恐怖と隣り合わせ。

 なんたってこのあぶれた方の輪島、"ぼっち"+"ビッチ"属性。作者の頭がどうかしているとしか思えない属性を植え付けられたコイツは、コミュ障でありながら男性に興味津々で、隙あらば主人公に触れようとしてくるし、優しくされたらすぐに懐く恐怖存在だ。

 

「あ、あふ、えへ、よ、よろしくね、藤堂君……」

「……」

「よろですー」

 

 そして初めからペアになる事が確定していた三木島も、輪島程ではないが酷い属性の持ち主。"無知"+"爆乳"。その名の通り天羽の上を行くレベルの胸は凡そ学生の持ち得るモノではない。というか身長に対して大きすぎるし、特注サイズとしか思えない体操服が大変なことになっている。

 その上でこいつは性的知識に余りに乏しい。ハーレム展開撲滅ゲームにおいて主人公が*1胸に触れようが、体操着の中へ手を突っ込んでしまおうが、一切気にしていない様子だった。

 性的知識に乏しいというか、自己認識が無さすぎるというか。

 とはいえだからこそ、三木島側の好意ゲージはそこまで上がりやすいわけではないのが救いだ。下がりづらくもあるんだが。

 

 ともかく、体育の授業で組むには最悪過ぎる二人であることがわかってくれたらいい。

 して、授業は。

 

「おーし、じゃあマット運動始めるぞー」

 

 これまた、最悪なものである。

 

 

 

 

 

「お、おほぉ……」

 

 奇声を上げて鼻息を荒くしている輪島に足を支えられ、隣にいる三木島に無表情で見つめられながらの三点倒立。

 主人公のスタイルや筋力はアスリート並みだ。俺が一切トレーニングの類を行っていなくても、完璧なまでの肉体を掴み得る。

 だから学生授業におけるマット運動なんか苦にもならないし、もっと凄い事だって出来る。当然輪島の支えなんかなくとも倒立は可能で、なんならこのまま跳ね上がって三回捻ったりもできる。

 

 出来る、が、倒立をしている人の足を支える、というのがまずまずの授業。

 それを俺だけ無視、というのは無理だった。支えなくていいぞ、という断りはしたのだが、見守ろうとしていた二人を教師が叱り飛ばしやがったのだ。もとい、怒ったのだ。

 

「藤堂君……何この引き締まった足……おふ、おふっ……」

「……」

 

 ハーレム展開撲滅ゲームでもこのシーンはあって、その時の会話選択肢が「……」か「気色悪い」などの罵声かなのだが、どっちを選んでも好意ゲージは固定量上昇する。量そのものは同じだが、罵声を選んだ時は輪島のガチ目に気持ち悪い笑顔差分のスチルが見られるため、コンプ狙いの奴はそちらを選ぶ事も多いだろう。俺はやらんが。

 

「じゃー交代だ」

 

 教師の声と共に交代する。今度は三木島。

 彼女のやる三点倒立は、しかしその属性のせいで五点になる、なんて攻略サイトに書かれていた事があったか。下品な書き込みだが、作者を含めた多くのレビュアーから賛同マークを得ていたため、このゲームをそういう目線で楽しんでいる奴も一定数いるんだな、と思った事があったのを覚えている。

 別に悪い事じゃないだろう。ゲームなんだから。

 ただ、今、現実で。

 

 少し離れた所にいる男子の一人が、ぼそっと、「あれじゃ五点だな」と呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。

 

 俺だけじゃなく──三木島も。

 

「……」

 

 三木島は性的知識にこそ乏しいものの、自らの大きな胸が他人と違う事には気が付いている。それをコンプレックスにさえ思っている。即ちデブなんだと、どうにかして痩せたいと。

 三木島オンリーのルート、というのは非常に難しく、到達者は片手で数えられるほどしかいなかったほどの高難度ヒロインではあるのだが、苦労の末に掴み取った彼女とのデートイベントはそれはそれは素晴らしいものだった。

 まことに残念ながら俺は彼女のルートへは行けず、攻略サイトのネタバレを見たクチであるのだが、見た事を後悔した。自分で辿り着きたかったと、後悔した。

 

 ハーレム展開撲滅ゲームにおいて、ハーレム展開を撲滅しきり、ちゃんと、一つのヒロインと添い遂げた先には、基本滅茶苦茶良いエンドが待っている。ふざけたゲームであるのは疑いの余地もないが、純愛主義とでもいうべきか、個別ヒロインのルートは今までの好意管理の疲れが一気に吹き飛ぶような、癒しエンドである事が多いのだ。全部じゃないが。

 少しくらいは作者にも人間の心があった、とでもいうべきなのかね。

 

「……邪魔だよね」

「否定はしない」

「っ」

 

 何が、と問われたら、胸が、だ。

 倒立者の前面から足を抑えるにあたって、三木島の爆乳は酷く邪魔だ。足の踏み場に困る。だからそこは、否定しない。

 ……こう言っても好意ゲージは減少しないのか。固定量上昇イベントでは好意ゲージの減少は無いと観るべきか?

 

「いひっ、いひひ……み、三木島ちゃん。と、とと、藤堂君は恥ずかしがってるだけだよ、三木島ちゃんのおっぱい、ちょう、でっかいから」

「そ──そう、なの?」

 

 冤罪と問いかけに、言葉ではなく音で返す。

 ガン、と。マット上であるというのに酷く重い音が響いた。俺が足を、思い切り踏みつけた音だ。

 

「ひっ!?」

「ちょっかいをかける相手は選べ。さっきからうざいよ、お前。俺がこんなデブに興味あるわけないだろ」

「ぁ……ご、ごめんなさ」

 

 輪島も輪島で個別ルートにおいては結構な純朴ヒロイン……且つそれなりに重い過去があってのこれだったりするのだが、実際ウザいことはウザいので注意を飛ばす。

 一瞬三木島の好意ゲージが上昇の気配を見せた。上がりづらい事で有名な三木島は、しかしコンプレックス関連の事だとそこそこ上がる。今回はまさにそれで、悪口を言われた後だったから余計に、なのだろう。

 

 ……だが、直後に起こった事は、俺の予測範囲外だった。

 

 

三木島(みきしま)(はるか)15

 

「そう、だよね」

 

 三ゲージはあった三木島の好意ゲージが、爆速で減少する。

 固定量上昇イベントでも好意ゲージの減少が起きるのか、という驚きは──。

 

三木島(みきしま)(はるか)15

 

 そのゲージが、ゼロになったことで、彼方へと追いやられた。

 

 風。初夏であり、そこそこの室温である体育館は窓が解放されていて、だからそこから、風が入ってくる。

 それは突風といって差し支えの無いもの。どういう状況になれば起こり得るのだろうかという程の気象現象は、体育館上層の空気を一気に押し流し──老朽化していたバスケットゴールのリングにとどめを刺した。

 

 ガァン、という音。

 突風に煽られたリングは鉄筋にバウンドし──狙いすましたかのように、三木島の元へ落ちる。

 

 未だその大きな音の出所を探っている状態の周囲を無視して、三木島の腹に思い切り膝を入れる。

 

「ぃ、ぁああぐっ!?」

「ぶぇっ!?」

 

 その勢いのまま輪島の身体を左腕で押しのける。どっちにも申し訳ないと思う。特に三木島は、結構痛かっただろう。ただ倒立の姿勢、突き飛ばしても横に倒そうにも、距離が足りない。首が折れる危険性もある。

 だからこうして、腹を折って、無理矢理担ぎ上げるしかなかった。

 そのまま大きく後ろに跳躍。

 

 直後、轟音を立てて──リングが落ちてきた。

 先程まで三木島のいた場所。倒立姿勢にあった三木島にこれが当たれば、どうなっていたかなど。

 

「ぅ……げ、ぇ……」

 

 そのギリギリさに安堵のため息をついていると、肩で苦悶の声が。

 異臭。加え、腹に湿り気。

 ……まぁ、そうなるか。腹への蹴りと、跳躍で更に衝撃があったんだ。

 戻してしまうのも、仕方ない。

 

「だ、大丈夫か!」

 

 こればかりは流石に、なのだろう。

 どんだけふざけたゲームといっても、ここまでの大事故があれば普段通りには行かない。慌てて駆け寄ってきた教師に無傷である事を示すも、抱えられている三木島の様子は隠せない。

 

「保健室、送ってきます。掃除とか片付けとかいいすか」

「あぁ……、わかった」

 

 俵抱きから普通の抱え方に戻す。姫抱きじゃないぞ。

 それに伴って余計に俺の体操着が汚れるけれど、まぁどうせこの服は処分する。どうでもいいだろう。

 

 一応、未だに嗚咽を漏らし、涙を流している三木島の顔を手で隠しながら、体育館を出る。

 

 ……背後。

 少なくない数の生徒たちの好意ゲージが、一ゲージ分上がってしまっている事に気付きながら。

 

 

 

 

 

 養護教諭に三木島を任せ、体操着を処分し、プールのシャワーを浴びてから、また保健室に戻ってきた。

 三木島の様子が気になるのも勿論だが、ゼロになった好意ゲージがどうなるのかを確認するためでもある。

 

 果たして。

 

「あぁ、藤堂君……大丈夫よ、心配しないで。胃に強い衝撃を受けて、戻してしまっただけだから……」

「うす」

 

三木島(みきしま)(はるか)15

 

 三木島の側頭に出ている好意ゲージは、一を示していた。

 ……回復した、のか。どこに回復するポイントがあったのかはわからないが、良かった。

 あれかな、体育の授業っていうイベントが終了した判定になって、三木島の好意ゲージも固定量上昇が行われたって事かね。だから0から1に戻った……上がった、と。

 

「藤堂君、状況は聞いたから、仕方のない事なのはわかっているけれど……あまり女の子のお腹を強く蹴ってはダメよ? 男の子よりずっと柔らかくて、ずっと脆いんだから」

「……」

「数日は、痣になってしまうと思うわ。痛みも残る。だから、優しくしてあげてね」

「……うす」

 

 些か理不尽を感じないでもないが、元はと言えば俺が三木島を罵倒した事に始まっている。上がってしまった好意ゲージを下げるためにと発言した"デブ"というワードは、三木島には余りにクリーンヒットだった、という事だ。それを見抜けなかった時点で俺が悪い。

 余計な傷と、余計な死亡イベントを引き起こしてしまった。酷く反省している。

 

「先生、少し職員室に用事があるから、彼女を見ていてくれる?」

「了解す」

「あ、不純異性交遊はダメよ?」

「……」

 

 それ、セクハラだぞ。

 という言葉を飲み込んで、冷たい視線を投げかければ、養護教諭は逃げるように保健室を出ていった。

 ちなみにあの教諭にも個別ルートがあったりする。属性は"バツイチ"+"年上"。嫌になるな、このゲーム。

 

 さて。

 

「三木島、起きてるんだろ」

「ぁ……」

 

 そもそも別に、気絶していたわけではない。

 俺がシャワーを浴びている間に眠ったのかとも思ったが、その程度の狸寝入りは流石に見抜ける。多分あの養護教諭も気付いていてああいったんだろう。手を出しちゃダメよ、ではなかったのがその証拠。

 三木島の好意ゲージは未だ一。固定量上昇イベントで回復したとはいえ、まだまだ安心はできない。

 この先何かあってまたゲージがゼロになれば、今度こそ、という可能性もあり得る。

 

 だから。

 

「大丈夫、じゃないよな。……すまん。痛かったよな」

「ぇ……」

「それと……デブ、なんて言って悪かった。その……あまり、ああいうイジリをされるのが得意ではない。だからつい、カッとなって言ってしまった。本当に、すまなかった」

 

 本心を言う。無論好意ゲージの事は話さないけど、三木島の好意ゲージの上昇にカッとなってしまったのは事実だ。もう少しくらい言葉を選べただろうに、俺の語彙力はその程度だった。それで、味わう必要のない死の恐怖と、主人公の身体なんてものから放たれる膝蹴り、着地の衝撃という要らないものを多く与えてしまった。

 本当に申し訳ない。三木島が自らの胸や体型をコンプレックスに思っていると知っていての愚行だ。他の奴……たとえばあの下卑た発言をした男子とは、罪の重さが違う。

 

「……大丈夫、だよ。でぶなのは、事実だし……」

 

 顔をこちらから背けて、三木島が言う。

 好意ゲージ一の状態じゃあそうだろう。このセリフはゲーム内においてもあったもので、けれどその時は好意ゲージ四以上であるのが前提だから、こちらを向いてのものだったはず。

 ……少し早いが、仕方ないか。

 

「"遥"」

「ぇ?」

 

 名前を呼ぶ。

 そして。

 

「"お前の胸は、無駄な脂肪なんかじゃない。誰かを優しく包み込める癒しの象徴だ。遥がどんなにそれを嫌っていても、それは変わらない。俺もまた、お前に癒しを求める一人だよ"」

「え、え?」

 

 ゲーム内、三木島ルートの主人公の台詞。

 正直それはどうなんだ、と思うだろう。セクハラが過ぎないか、と。

 だがそれまでに散々三木島が自らの体型で困るイベントがあって、シナリオがあって、最終的には刃物で自らの胸を切り落とそうとする、なんてシーンでの発言であると考えたら、多少は許せないだろうか。

 刃物を持つ三木島の腕を掴み、その胸に顔を埋める主人公のスチルは見物である。ゲームを経験していないものが見ればギャグテイストにしか見えないそれも、苦難苦節を乗り越えたプレイヤーにとっては極上のご褒美だ。ちゃんとギャルゲーらしいスチルである、ともいえる。

 

「"誰もお前を嫌ってなんかいないよ、遥。みんなも──俺もな"」

「……え、あ」

 

 まぁ、正直。

 正直、好意ゲージ一の状態で吐くセリフじゃなかったかな、と思わないでもない。気持ち悪がられるのがオチなんじゃないか、と。

 だが相手は三木島だ。性的知識に乏しい三木島は、"男性が女性の胸に興奮する"という知識も持ち合わせていない。だから純粋に容姿を褒められたのだと思い込む……はずだ。うん。

 

「わ、たし──」

 

 三木島が、再度こちらに顔を向けた。

 その側頭。好意ゲージは。

 

三木島(みきしま)(はるか)15

 

「ありが、とう。……ありがとう、藤堂、君。それに、命を、助けてくれて」

「別に、大したことじゃない」

「大した事、だよ? ……すごいんだね、藤堂君は」

 

三木島(みきしま)(はるか)15

 

「っ、……俺はもう行く。じゃあな」

「うん。じゃあね、ありがとう」

 

三木島(みきしま)(はるか)15

 

 ぞっとする。

 そのどんどん上がって行く好意ゲージに。三木島がこんなに好意ゲージを上昇させる所なんか、ゲーム中に一度たりとも見た事がない。ダメだったか。個別ルート直前のセリフ使うのは、不味かったか。

 どう、すればいい。

 どうすれば、これを止められる。もう一度デブだと罵るか? いや、それはまた0になる可能性がある。

 思い上がるなよ、は文脈に沿っていない。勘違いするなよ、は、俺の方が何を勘違いしているんだ案件だ。

 

 どうすればいい。

 どうすれば。

 

「すまない」

「え?」

 

 もう保健室を出ようとしていたその恰好で。

 呟くように──懺悔するように。

 

「俺にはもう、好きな人がいるんだ。……期待させて、ごめんな」

「あ──」

 

 だから、正直に、真実を言おう。

 好意ゲージの上昇音が止まったのを確認して。更に、重ねて。

 

「本当に、」

「大丈夫」

 

 懺悔は遮られる。

 告解は妨げられる。

 

「藤堂君が、どうでも──貴方の言葉で、私は今、救われたから──」

 

 膝が崩れそうになるのを耐える。

 この世界に生まれ落ちて、あぁ、初めて、かもしれない。

 こんなことは。

 そんな、ことは。

 

「ありがとう」

 

 返事はしない。

 そのまま、保健室を出て。

 

「やめてほしかったな……そういうことされると、僕、折れそうになっちゃうよ」

 

 一人、呟いた。

 

 自分のしたことに、感謝をされる、なんて。

 それでちゃんと好意ゲージが止まっている、なんて。

 

 そんなのが、あり得るなら。

 今まで俺がしてきたことは──。

*1
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