※おんJの「バレンタインをテーマに短編小説書くスレ」に投げてました
※元スレの方は削除済みです
「頼む、俺のために本命っぽいチョコ作ってくれ!」
バレンタインがあと2週間後に控えている中で親友からこんな言葉を言われた時、自分が取るべき正しい対応を早急に教えてもらいたい。
「いい加減彼女持ちだって嘘やめればいいじゃねーか」
「今更そんなこと言えないんだよ……。それに彼女いないこと知ってるアオイにしか頼れないし」
「なら別れたことにでもしろ。はい、これで終わり」
大事な話があると聞いて制服のまま親友の家に来たらこんなこととは。心配して損した。
「頼む、お前を男と見込んでの話なんだ!」
「本命に偽装したチョコ作ることのがどこが男らしいんだバカ野郎!!」
「じゃあ女と見込んで頼む!」
その言葉を聞いた瞬間頭の中で何かが切れる音が響く。親友も失言に気づいたのか慌てて言い訳をしようとしたが自分の方が思いを口にするのが速かった。
「男だって言ってんだろ!!!」
叫びとともに座っていた椅子から立ち上がると、制服のスカートが揺れて余計に自分を苛立たせた。起こってしまったことはどうしようもないのに。心以外はあの日から女になってしまったのだから。
3か月前のある日に自分の体は突然女に変わってしまった。当日すぐ行った病院では「宝くじの1等より低い確率で起こる」「感染性はない」なんて言葉を言われたものの、俺にとって大事なことは「現状男に戻る手段がない」という1点だけだった。
幸いというべきなのか、研究のための定期通院以外に病院には行かなくていいらしい。だが、自分にとっては患者として見てくれる病院のほうがマシだった。学校に行っても今の体で混ざれるグループなんてなかったから。
昨日親友から言われたことは忘れよう。そう思っていたが、登校した教室の中ではバレンタインの話題で男子も女子もグループで盛り上がっていた。後輩から貰えるかとかなんとか先輩に渡すだの聞きたくもない話題が聞こえてくる。自分には関係ない、そう思いたくて机に体を伏せてHR前の時間が終わることだけを祈っていた。
「なあ、もう一回だけ昨日の件考えてくれないか」
逆鱗に触れるようなことを言っておきながら、まだ諦めてないとは見上げた根性だ。あの後殴らず帰っただけマシと思え。とはいえ、HRまであと10分もある。追及を避けるのも無理だろうと悟り、突っ伏していた体を起こして向かい合った。
「嫌だね。必要なら自分で作れ」
「頼むって、昨日言ったことは謝るから」
まあ、昨日の言葉を本気で言っていたとは自分だって思っていない。それがわかる程度の付き合いはある。ただその言葉が特大の地雷だっただけで。
「よし分かった。昨日のことは水に流してやろう」
「そこをなんとかって……。え、マジで!」
まさかこんな簡単に許されるとは思ってなかったのだろう。「それじゃあ……」と期待した声をこちらにかけてきた。そう簡単に許すわけねーだろバーカ。
「1万出せるか?」
喜びに満ちた顔が一瞬にして凍り付いた。バイトもしていない高校生の見栄に1万なんて出せるはずがない。これで諦めてくれる。そう思ってまた机に伏せた。
「……材料費込みだからな」
予想外の言葉に目を見開き、伏せたままの体勢で親友を見る。顔や負け惜しみの言葉からも苦渋の決断だったことが嫌でも伝わる。え、マジで払う気なのかコイツ。
「払ったからには働いてもらうからな」
「わかってるって。精一杯作りますよっと」
そんな軽口を言いながら、俺たちは通学路途中にあるデパートへと立ち寄った。何が悲しくて男2人でこんなとこに来なきゃいけないんだか。
「それで、どんなチョコを作ればいいんだ?」
気分は最悪に近いが、約束したことは守るつもりだ。差し当たっては、チョコの設定からだろう。それを決めなきゃ買うべきものも分らないし。そう思って売り場に並んだ板チョコを見比べる。
「逆に、どんなものが本命っぽい?」
「よし帰るぞ」
「待ってくれ! 本気で分からないんだって!」
帰ろうと回れ右した時に腕をつかまれて動きを止められる。自分だからいいけど、それ普通の女子にやったら痴漢案件だぞ?
「市販品をラッピングするだけの簡単なお仕事だ」
「頼むから手作りにはしてくれ……」
「重いわー。重くて引くわー」
イメージがっつり決まってるじゃねーか。さっさと言え、予算内なら作ってやるから。
「だって、本命チョコだろ! なら手作りが一番に――」
「そんなこと言ってるからモテないんだよお前は。そんなもん幻想だ」
「彼女いたことないお前に言われる筋合いはねえ!!」
結局、調理の手間と男のプライドをかけた議論の結果、学校で自慢しやすいからと生チョコになった。プライドはそれでいいのか、チョコケーキよりは簡単そうだけど。
お菓子作りという経験のないことでも、何日も続けて行えばそこそこ形になるらしい。実際、自分の成長が実感できて楽しかったし。練習時間と大量の洗い物という多大な労力を支払ったことに目を瞑ればだがな。1万じゃこれ割に合わねえ。
あの日から練習を始めて気が付けばもう2月11日、あと3日でバレンタイン当日だ。そろそろ当日用のチョコの準備を始めようとしたときに、生クリーム等の材料が空になっていた。できることなら学校帰りに寄りたかったが、無いものは買うしかない。そう割り切ってデパートへ向かう。……そういえば、ラッピングは相談してなかったけど自分のセンスで決めていいのだろうか。
ほとんど使う気のなかった私服は、ボトムスは長めのジーンズでトップスも学校用のカットソーの上にパーカーとかを適当に羽織るだけという、見た目だけなら男のころと変わってないものだ。だが、男のころ使っていた服と明確にある違いが余計に感じられるせいで私服はあまり使う気になれない。制服なら強制されているという名分を使えるから。
早く家に帰りたいという思いもあり、デパートでは余計なものには手を出さないで必要なものだけ購入を済ませる。あの店員、売れ筋を聞いただけで勝手に盛り上がって時間取りやがって、もうあの店員には頼らねえ。
軽いとはいえ、それなりに荷物を持っていたので帰りはバスを使う。運転手の真裏の席に腰かけて外を眺めていると、向かいの道路に息を切らして走っている親友の姿を見かけた。
バスが信号待ちで止まっている間に、親友を目で追っていくと見慣れない女性がアイツを呼んでいた。肩で息をしながら合流した親友にその女性が手を伸ばし、そのまま手を繋いでどこかへ歩こうとした瞬間、左折したバスのせいで2人の姿は見えなくなった。
「ははっ」と軽い笑いがこぼれる。自宅近くのバス停には誰も居らず、自分の独り言が聞こえる心配もなかった。
「なんだ、浮かれてたのは自分の方じゃねーか」
ふらふらと自宅に入り、荷物を適当に片付けるとソファーへ倒れ込む。自分の中で荒れ狂う感情の濁流は、自分の気力をごっそりと奪っていった。
どう見ても彼女だったよな……。仲も良さげで、手だって繋いでたし……。バスから一瞬目に入っただけの女性が頭から離れない。そして、彼女と親友との関係を考えるだけで胸が痛む。嫉妬だってことはわかっている。でも、この嫉妬をどっちとして感じたものなのかはわかりたくなかった。
「アオイ、いつまで寝てんだ。もう放課後だぞ」
学生としての習慣は感情とは別物らしく。いつもと同じように登校して、机に伏して時間を過ごしていたが、どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
「うるせーよ。勝手に帰るから起こすな」
「お前……、昨日は起こせって言ってただろ」
昨日のデートなんて無かったかのように振る舞う親友を見るとまた痛みが戻ってくる。そして、いつも通りに話しかけてくれることを、うれしいと思ってしまった自分に嫌気がさしてそっぽを向く。
「もうチョコなんて作らないから関係ない」
「ちょっと待てって、約束しただろ!」
「昨日デートしてた彼女から貰えばいいじゃねーか、金なら返して……」
「デートなんてしてないし、彼女なんているはずないだろ!」
「よかったな、本命っぽいしきっと……」
吐き出しても、吐き出しても嫌な言葉が口から流れ出る。傷つくのは自分だってわかっている。でも理性じゃ抑えきれなくてただ苦しかった。
「頼むから俺の話を聞けって!!」
肩を掴まれて強引に向かい合わせられる。力加減ができなかったのか、手を離した後もまだ痛みが残っている。
「今日、アオイの誕生日だろ。だから、昨日慌ててプレゼント買いに行ったんだよ」
「えっ……?」
確かに2月12日は自分の17歳の誕生日だった。最近忙しかったこともあってすっかり頭から抜け落ちていた。
「まったく、本人が覚えてないってどういうことだよ、ほらよ」
「あ、ありがとな。あれ、じゃあ昨日一緒に手をつないでいたのは……?」
「そこ見てたのかよ! あれは姉貴だ!!」
渡してきたプレゼント袋を落としそうになるほどの勢いで親友が叫ぶ。そっか、彼女じゃなくてお姉さんか。距離感が近すぎるせいで勘違いしたけど、一緒に出掛けるぐらい仲がいいなら手をつなぐのもありえるのだろうか。重度のブラコンな気もするけど。
「そもそも、彼女がいたらお前に1万もかけて頼まねえからな!」
「それもそうだな。悪い、お姉さん見て疑っちゃったぜ」
「まったく……じゃあ1万返すってことで手打ちに――」
「それはダメ。それに貰ったお金はもう使ってるし」
「さっきまでは返す気あったろ!嘘くせー」
いつもの関係が戻ってきた感じがしてつい会話が弾みそうになる。ただ、あることに気づいて慌てて帰り支度を始める。
「あ、チョコの準備終わってねえ!」
「あれ、明後日だからまだ大丈夫でしょ」
「お前なら当日の朝から自慢したいだろ。なら明日渡してお前の家で冷やすのが一番だ」
そう言い残して教室を飛び出す。急がないと準備が間に合わないからな。
「ほい、依頼のチョコだ」
「サンキュー。ラッピングまでしてあるとは気が利くな。結構好みのやつだ」
「そのまま冷蔵庫で冷やすなら邪魔になるけどな。ま、サービスってことで」
2週間ぶりに親友の家へ行ってチョコを渡す。たったこれだけなのにどこか恐ろしくて受け取ってくれるまで不安だった。なんにせよ、喜んでくれて一安心。
「そういえば、お姉さんに伝えといてくれ。ハンドクリーム良かったですって」
「もうプレゼント使ったのか、というか俺への感謝はないのかよ」
「悔しかったのなら、自分のセンスで選んでみやがれ」
「クソっ、姉貴頼りだったから反論できねえ……」
貰ったプレゼントは香料を使ってないタイプのハンドクリーム。最近洗い物が多くて気になってきたから助かった。本人が思ってるよりセンスはありそうだが口にはしない。その程度で調子乗られてもちょっとむかつくし。
「んじゃ、そろそろ帰る」
「おけ、夜遅いのにありがとな」
「気にするようなら明日ウチに来い。練習に使ったチョコが余ってるから食わせてやる」
「どんな誘い方だよ。払った金の元は取りたいから行くけどさ」
「おう、待ってるぜ」
雑談を適当なタイミングで切り上げて帰路をゆったり歩く。依頼された本命っぽいチョコで自分の依頼は終わりだ。でも、誕生日プレゼントのお返しぐらいは用意してやるよ。手作りのチョコケーキが一番本命っぽくて欲しいって言ってたこと覚えてるからな?
これに近いTS作品読みたいので教えてください
※1次2次自推他推を問わない