ウルフ&バニー   作:とりなんこつ

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第三話 彼女がペットを愛でるわけ

前回のあらすじ&今回の冒頭

 

「調くんが猫も飼いたい、だとおッ!?」

 

以下略

 

 

 

 

 

 

 

 

俗に、犬や猫などのペットを一匹飼うことで、軽自動車が買えるくらいの経費がかかると言う。

食事代やトイレの砂などの諸々の定期購入代に加え、年度ごとのワクチン接種などの薬代。そして病気で手術、入院ともなれば基本的に保険は効かないので、結構な高額を支払うことになる。

なので、一人暮らしの高校生がペットを飼うなど、よほど経済的に恵まれているといった事情がなければ不可能に近い。

その点、調と切歌は二人暮らしであったが、あらゆる意味で普通の高校生の範囲を逸脱していると言える。

元テロリストと断罪されそうになった過去はさておくにしても、いまや世界に六人しかいないシンフォギア装者。

私立リディアン音楽院に在学すると同時に、国連直属特殊部隊S.O.N.G.に籍を置く国際公務員でもある。

公務員という身分に関しては、色々と超法規的な結果ではあるものの、労働への対価は支払われていた。

特殊手当に危険手当、その他諸々の手当がついたその額は、決して子供のお小遣いで済ませていい額ではない。

直接二人に渡さずマリアを経由しているわけは、雪音クリスが都内にそろそろ両親の墓を土地ごと購入しようと考えているあたりから察して欲しい。 

風鳴翼が最新のバイクやレアもののバイクを普段からぶいぶい云わせ、ノイズ出現時には惜しげもなく吶喊させていることもいい例になるだろう。

立花響に関しては、小日向未来とリディアンを卒業したら豪華客船で世界一周の旅行にいくために溜めているとか何とか。

 

このように、調と切歌の経済力はそんじゃそこらの高校生の比ではないのである。

しっかりマリアが手綱を握っているとはいえ、ペットの二匹や三匹を飼っても潤沢だ。

そんなわけで、ペットの食事代を捻出するために食卓のおかずを一品減らしたり、バイトなんぞに励む必要もない切歌は、リビングで呑気にスマホのカメラを向けていた。

 

「…なにやってるの、切ちゃん?」

 

不思議そうに尋ねる調。

 

「聞いた話では、猫と犬は相性が悪いそうデスからね! これで小太郎とリオンがケンカするところを撮影するんデス♪」

 

意気込む切歌に反し、ファインダーの中の小太郎とリオンは呆れているように見える。

 

犬は群れを成す生き物で、夜に眠る。

猫は単独で生き、夜行性。

確かに相性の悪い取り合わせではあるが、決して一つ屋根の下で暮らせないわけではない。

 

実際のところリオンはかなり殊勝な性格らしく、先住者である小太郎の生活圏を脅かそうとはしなかった。

箪笥や棚の上など、犬が昇れそうもないところで日中はウトウトとしている姿が多い。

小太郎の方も、調が評した通り頭も良く、大らかな性質らしい。今のところリオンの同居に拒絶反応を示す様子は見られなかった。

ただ、一つだけ、この二匹の共通点があるとすれば―――。

 

「ほら、小太郎。リオン。ご飯だよ」

 

調の声に、先を争うように駆け寄ってくる二匹がいる。

小太郎は千切れんばかりに尻尾を振り、リオンは重低音で響きそうなほど盛大にゴロゴロと喉を鳴らす。

専用の餌皿からご飯を食べるのももどかしく、二匹はひっきりなしに調に身体を擦り付け、甘えてくる。

二匹とも調に命を救ってもらったことを理解しているのだろう。

 

切歌をしてそう解釈するしかない光景なのだが、その懐きっぷりははっきり言って羨ましい。

一応、切歌にも懐いてくれるのだが、二匹の調に対する態度は、文字通りレベルの違う甘え方だ。

夜になれば、小太郎とリオンが先を争って調の布団へ潜り込むほどである。

 

「二匹とも雄だからデスかね?」

 

ならば、自分のベッドへ入ってきてくれないのはなぜ?

憮然としつつ、切歌は調と戯れる二匹をスマホでぱしゃぱしゃと撮影中。

その画像を仲間たちに縦断爆撃送信をしていれば、遠く轟くバイクの排気音。

それがだんだん近づいてきたかと思えば盛大なブレーキ音が響き、間もなく玄関のチャイムが乱打された。

切歌がドアを開けて応じれば、

 

「…翼さん? どうしたんデスか?」

 

「うむッ! 新しいバイクの慣らし運転をしていたところ、ちょうど近くを通りかかったものでなッ!」

 

クリスあたりだったら、センパイ何台目の新車だよッ! と呆れつつ突っ込んだことだろうが、天然太陽娘切歌は余裕でスルー。

ちらッちらッと室内を覗き込んでくる翼を誘う。

 

「せっかくだから冷たい麦茶でもどうデス?」

 

「うむ、せっかくだから馳走になろう!」

 

うきうきと上り込んできた翼の表情は、調の足もとにまとわりつく子犬と子猫を見てぱああああッと華やぐ。

しゃがみ込んで、

 

「おいで~」

 

との声は、『世界的な歌姫』『剣の防人』といった彼女の二つ名に全く似つかわしくないほど甘いもの。

二匹の方も心得た様子でちょこちょこと翼の方へ歩いて行く。小太郎はふんふんと鼻を鳴らして身体を擦り付け、リオンはくんくんと匂いを嗅いでから突きだされた指を一舐め。

どちらも社交辞令程度のものだが、大興奮する翼。

 

「『コブラコマンダー』も『鬼楽因果丸』も元気でしゅたか~?」

 

「『小太郎』と『リオン』です」

 

割とキツめに調に言われ、

 

「う、すまないッ…」

 

謝罪はしたものの、翼の表情はトロケきっている。

そんな彼女は、さっそく懐からねこじゃらしなんぞ取りだして、リオンの前で振っていた。

毛先に反応するリオンに頬を緩めっ放しの翼を眺め、溜飲を下げる切歌がいる。

翼は遊んでやっているつもりだが、切歌にはリオンの方が翼に仕方なく付き合っている風に見えていた。

 

まあ、本当の飼主はアタシたちデスからね~。

内心で優位性を満足させてくれる翼の存在があったからこそ、切歌は調に強いコンプレックスを抱かずに済んでいる。

 

「あら、翼、また来てたの?」

 

チャイムも押さず上り込んできたのはマリア・カデンツァヴナ・イヴ。

そういう彼女も、調たちがペットを飼い始めてから、明らかに来訪頻度が上がっていた。

もっともマリアにはマリアの言い分がある。

勝手知ったるなんとやらで、倉庫代わりのクローゼットを開けて、買ってきたものを積み上げていく。

 

「はい、トイレ砂と猫ちゃん用の使い捨てトイレシート」

 

「あ、ありがとう、マリア」

 

礼を言う調。

 

「でも、この間も買ってきたばかりデスよ?」

 

と切歌が首をひねれば、

 

「いいのよ、ちょうど安売りしてたし、ポイントデーで獲得ポイントも倍だったしね」

 

世紀の歌姫と目され、国際公務員としての収入に他の雑収入も併せればちょっとしたセレブのはずなのに、このおばちゃん感覚はなんなんだろう?

 

そこにまたもやぴんぽーんと鳴らされるチャイム。

今度は調が応じれば、ドアの外には雪音クリスが立っていた。

今年から女子大生になった彼女は、私服姿も垢抜けてきている。

 

「ちょっと美味いケーキ屋を見つけたからな…」

 

と、手にもった箱を掲げて見せるクリスだったが、玄関先の靴の数に瞬時に舌打ち。

それじゃあそういうことで、と箱を置いて帰ろうとするクリスを、どっこいマリアは逃がさない。

 

「あら。貴女も小太郎たちを見に来たんでしょ?」

 

「い、いや、偶々だ! 偶々近くに来ただけで…ッ!」

 

「なに翼みたいな言い訳してんのよ」

 

バッサリとマリアは斬り捨て、

 

「あれ? アタシたちにケーキを買ってきてくれたんデスよね?」

 

切歌が無意識の追撃を喰らわせる。

顔を真っ赤にして黙り込むクリスの背中を、調は笑いをこらえながら押す。

 

「先輩。こちらへどうぞ」

 

「え? う、ああ…」

 

リビングの椅子へクリスを据える調。

続いて「失礼します」となお戯れる翼からリオンを抱えあげる。

「ああああ…」と切なげな翼の声を背に、クリスの膝の上にリオンを置いてあげた。

小柄なクリスの膝の上で、子猫のリオンの姿はなお小さい。

そんな子猫は腹を引っ繰り返して無防備にこちらを見上げている。

 

「お、おいッ! こういうとき、どうすればいいんだッ!?」

 

狼狽するクリスに、調は笑顔で教授。

 

「生き物が弱点であるお腹を晒すのは、相手に対してとってもリラックスしている証拠です。だから撫でて上げて下さい」

 

「こ、こうか…?」

 

言われ、クリスは小さく柔らかい腹部をゆっくりと撫でる。たちまちゴロゴロと喉を鳴らす様子に、クリスの頬も綻ぶ。

パシャパシャ!

すかさずその様子を激写する切歌に、

 

「や、やめろぉッ!?」

 

顔を真っ赤にし、それでもお腹を撫でるのを止めないクリスがいた。

そして、その様子を唇を噛みしめて眺める防人が一人。

 

「くッ、私には腹部を晒してくれないのに…ッ!」

 

血涙すら流しそうな翼の様子にマリアは呆れ顔。

 

貴女(あなた)、ねこじゃらしで『千ノ落涙!』とかやっておいて、猫にリラックスしろって方が無理な相談でしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

仲間たちも帰った夕方。

 

「あ、お醤油が切れちゃってる」

 

エプロン姿の調が言う。

 

「それじゃ、ひとッ走り買ってくるデスか?」

 

「お願いできる、切ちゃん?」

 

「もちろんOKデスよ。あ、小太郎、ついでに一緒にお散歩行くデスッ!」

 

切歌のおいでおいでに、小太郎はなぜか調の方を向く。

軽く小首を傾げる様子は、『いかなきゃ駄目?』と問い掛けてくる感じで愛らしい。

 

「お願い、小太郎」

 

相棒の気持ちも汲んで、調はそう声をかける。

きゃん! と元気に返事をして、ちょこちょこと小太郎は切歌の元へ。

 

「よほッ!? よーし、小太郎! 最速で! 最短で! 一直線にスーパーまでダッシュデス!」

 

笑顔の切歌を、

 

「車には気をつけてね~」

 

と送り出し、調は夕食の準備を再開。

ある程度目途が付いたところで、リオンが足に身体を擦り付けてくる。

 

「なに? 抱っこしたいの?」

 

抱え上げれば、調の肩にアゴを乗せるようにしてゴロゴロと喉を鳴らし始める。

その喉の鳴り方は尋常ではなく、まるで調を独り占めしていることを喜んでいるよう。

子猫のお尻を支えるようにして撫でながら、「あ、洗濯ものも取りこまなきゃ」と調は思いつく。

 

「ほら、リオン、離れて」

 

降ろそうとするも、子猫は嫌々とばかりに小さな爪を立てている。

 

「…仕方ないなあ」

 

そう言いつつも、笑顔でベランダへと出て、洗濯ものを取りこむ調。

猫を半ば肩に載せながら、髪を切っておいて良かったなんて思う。

あらかた洗濯ものを取りこみ終えれば、眼下の大通りを切歌が走って帰って来るところ。

ベランダのこちらに気づいたらしく、

 

「あ、調ぇ~!!」

 

臆面もなく大きな声を上げ、両手を振ってくる。

苦笑しつつ手を振りかえせば、相棒の足もとの小さな影はきっと小太郎。

犬の視力は弱いはずだが、こちらを見上げて盛大に尻尾を振っている模様。

 

夕日が世界を橙色に染めている。

調の顔も染め上げており、浮かぶ笑顔は眩しいくらいに輝いていた。

笑顔のまま腕の中のリオンを撫で、調は思う。

 

生き物を飼うのは責任が伴って大変だっていうけれど。

こうやって、二匹を飼うのは、本当に本当に楽しいな。

切ちゃんもいる。

仲間もみんな助けて可愛がってくれる。

こんな楽しい日々が、ずっとずっと続けばいいのに―――。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、彼女は知らない。

この二人と二匹の生活が、間もなく終わりを迎えるということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、今回の話のオチ。

 

「おい、藤尭ッ」

 

「はい? 司令、なんですか?」

 

「調くんの観察班からの報告書の件なんだが。この〝尊い〟との表現が頻出しているのだが、これはどういう意味だ? 何かの符牒か?」

 

「…あー」

 

 

 

 

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