S.O.N.G.もうダメだ説
Q.あなたは装者の誰に一番バブみを感じますか?
1位 月読調 38%
2位 マリア・(略 25%
3位 雪音クリス 19%
4位 ナスターシャ教授 7% ←?
1位に対するコメント
・貧乳はステータスだ! 貴重価値だ! (40代 総務部)
・調ママにイタズラして『めッ!』てされたい (20代 保安部)
・武運つたなく職務に殉じたときは、彼女の子供に生まれ変わるつもりです (30代 調査部)
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その日の朝、目を覚ましたときから月読調は頭が重かった。
それでもどうにか起き上がり、ペットたちのトイレの始末や餌の準備をする。
済ませた頃に、ようやく同居人の暁切歌が起きてきたわけだが、まだパジャマ姿の彼女は、相棒の様子に一発で気づく。
「ど、どうしたんデスか、調ェ!?」
「…うん。起きたときから、なんか頭が痛くて…」
調をソファーに座らせ、引出しを漁って体温計片手に切歌は戻ってくる。
脇に挟んで測定すれば、体温は37.8度。
「風邪、デスかねえ?」
「わかんない。別に喉とか痛くないし咳もでないし」
心配そうにまとわりついてくるペットたちの頭を撫でながら調が応じる。
「とにかく病院に行ってみるデスよ!」
切歌に着替えを手伝ってもらった調は、ふらつく足でS.O.N.G.本部へ。
シンフォギア装者である彼女たちは、街中の病院でも秘密裏かつ最優先に診察してもらえるよう根回しはされていたが、一番専門的な対応が可能なのは本部で間違いない。
24時間対応の担当医は、念のための各種検査を施したあとに言った。
「うん。これは過労による発熱だね」
基本的に、調はあまり身体は丈夫な方ではない。
例えば、風呂上りに濡れ髪でぽんぽんすーのまま牛乳を飲んでも切歌はなんともないが、同じことを調が行えば間違いなく具合が悪くなる。
切歌に比べれば繊細な調は、医師の指摘に心当たりがあった。
ここしばらくで一気に増えたペット。
望んで飼い始めて、ふれあいに癒されるも、気づかぬうちに心労が募っていたのかも知れない。
「まあ、ペットの菌による感染症も疑ったけど、それはシロだったから安心していいよ」
言いながら医師は調の薄い頬っぺたも診察。
以前にQちゃんに引っかかれた傷は、惜しみない最先端医療を施されてほとんど残っていない。
いずれは完璧に元に戻るとの太鼓判付きだ。
「取りあえず熱さましと栄養剤を処方するから」
なんだったら、本部の病室で休んでいって良いよ? という医師の申し出を断り、調は自宅療養を選択。
入院となると大袈裟だし、その間のペットたちのことも心配だ。
「…あとは一人で帰れるから、切ちゃんは学校へ行って」
「でも…」
「心配してくれてありがとう。でも、今日は小テストもあるし」
今日のテストは切歌にとっての苦手科目。
調は休んでもリカバリーは利くが、切歌の場合、すっぽかしての追テストとなるとだいぶ事情が悪い。
「…わかったデス。学校が終わったらまっすぐ帰るから、大人しく寝てるデスよ?」
お姉さんっぽく言い残し、切歌は登校。
調は自販機で買った水で薬を服用した。
気を利かせてタクシーを呼んでくれた守衛に御礼をいって、一路自宅へ。
ところで、家主不在のとき、飼っているペットはどうやって過ごしているのものだろう?
出かけるまで必死に飼主に縋りつき、飼主がいなくなった後も悲しげにドアを見つめ続ける猫がいる。
だらけきっている癖に、主人が帰って来たとたん、愛想を全開で駆け寄っていく犬もいる。
折りよく、と言ってしまえば語弊があるが、調はそんなペットの様子を伺う機会を得ていた。
「~ただいま…」
鍵を開けて玄関へと入れば、だだだっとリオンが駆け寄ってくる。
猫目を丸く見開いて小首を傾げる様子が、まるで『具合が悪いの?』と問い掛けてくるみたい。
廊下の曲がり角ではQちゃんが顔を覗かせ、こちらを見ている。
「…あれ? 小太郎は?」
いつもは真っ先に駆け寄ってくる子犬の姿がない。
するとQちゃんが顔を引込めて、間もなく「きゃんきゃん!」と小太郎の元気な声。
…トイレ中だったのかな?
靴を脱ぎながら調は思う。
普段の彼女であればそのままリビングまで様子を見に行っただろうが、熱でぼーっとしていた。
まっすぐ手前の自室へと入り、もそもそと制服からパジャマへと着換える。
形ばかり髪の毛を梳いて、常備してあるヒエピタを額にぺたり。そのままぼふっとベッドへうつ伏せになった。
ドアの隙間から入ってきたリオンが、ベッドの横に投げ出した右腕の指先を舐めている。
「大丈夫だよ」
そう応じて、頭を撫でて、調は眼を閉じる。
次に彼女が目を覚ましたのは、喉の渇きを覚えたから。
水を取りに行くのも億劫だなあ、と思いながら上体を起こせば、硝子テーブルの上にマグカップ。
中には透明な液体が並々と。
しかし、調は眠りにつく前に準備した覚えはない。
「…切ちゃん?」
枕元のスマホを弄る。時刻は14時過ぎ。
昼休みを利用して切歌が戻ってきたのだろうか?
確認するのももどかしく、調はマグカップの中身に口をつけた。
仄かに甘い味は、スポーツドリンクみたい。
少し冷たい液体が乾いた喉に染み入って心地良かった。
んくんくっと半分ほど一気飲みし、ほっと息をつく。
残った半分で薬を飲んでベッドに仰向けにひっくり返る。
まだ熱が下がらないみたいで、全身がだるい。
仰向けのままスマホを弄れば、マリアからメールが。
内容は、
『切歌から倒れたって聞いたんだけど、大丈夫?』
くすりと笑い、調は短く返信。
『おおげさだよ、だいじょうぶ』
そこで瞼を閉じて、すぐにまた眠りに落ちたらしい。
再び目を覚ませば、窓の外の光は橙色。カラスのかーかーという鳴き声まで聞こえてくる。
スマホの時計を確認すると16時過ぎで、せいぜい二時間ほどしか眠っていない。
しかし、頭はすっきりとしていた。だるさも何も全然なくなっている。
ベッドの脇に降り立ち、ぴょんぴょんと軽くジャンプなんぞしてみれば「たっだいま~デス!」と玄関から切歌の声。
続いて、
「なんなんデス、これはッ!?」
との素っ頓狂な声に、調は急いで自室を飛び出す。
そして彼女は見た。
ゴミやら何やらが散乱し、散らかり放題に散らかった廊下を。
「…おかえり、切ちゃん」
「もしかして、これは調がしたデスか?」
「ううん、違うよ」
二人顔を見合わせ、リビングへ駆けつければ、そこも酷い惨状。
棚の上のものは床に落ち、千切れたティッシュなどが盛大に散乱。
そんな中でリオンは毛糸玉に包まれて悪戦苦闘し、Qちゃんは一生懸命チラシを引き裂いている。
そして全身ずぶ濡れの小太郎が、嬉しそうに二人を出迎えた。
「わんッ!」
「…何なんデスかね?」
ボーゼンと切歌が言う。
調も全く同意見だったが、小太郎がずぶ濡れなことに浴室を見て来れば、シャワーが全開だった。
シャワーを止め、濡れまくった廊下をタオルで拭きながらリビングへ戻り、調は溜息をつく。
「とにかく片付けなきゃ」
切歌も渋々と自治体指定のゴミ袋を取りだしてきて、溜息をつきながら散らばった紙切れをを放り込んでいく。
溜息をつきたいのは調も一緒だったが、いつの間にこんな惨状が展開されていたことに対する驚きの方が大きい。
いくら眠っていたとはいえ、こんなに散らかされてたのを全く気付かないなんて。
ペットたちを叱りつけるのは後回しにし、まずは小太郎の身体を拭う。
それから片付けなければならないものの量に少しうんざりしていると、マリアがやってきた。
「調ッ! 大丈夫ッ! …ってなに、この惨状はッ!」
リビングへ入るなり驚きの声を上げるマリア。
説明しようとする調の前に、新たな来訪者が。
「月読ッ! 重篤なクセに自宅療養だと聞いたが息災かッ!」
血相を変えた風鳴翼が姿を現すも、こちらもリビングの惨状に絶句。
更にそこへやってきたのは。
「おいッ! 重病のクセに入院しないでペットの面倒みるために自宅へ戻るって、どういう了見だッ!?」
憤慨した雪音クリスがやってきた。
だが、やってくるなり、翼と同じく「なんだこの散らかり様は!?」と目を見開く。
これで来訪者は終わりかと思っていると、どっこいカタパルトで勢いをつけたが如くやってくる大取り。
「し、調ちゃん! 不治の病なのに、最後は自宅でペットと―――って聞いたけど、大丈夫ッ!?」
小日向未来を伴った立花響が、悲壮な顔つきの全力全開でやってくる。
響の台詞にさすがに調も呆れ顔。
「響さん。そんな話、誰から聞いたいんですか?」
「えッ!? わたしはクリスちゃんから聞いたんだけどッ!?」
「あ、あたしは先輩から聞いたぜ!?」
「わたしはマリアから報告を受けたぞッ!?」
「私は切歌から聞いた通りのことを伝えたつもりよ!?」
仲間たちの様子に、ああ、伝言ゲームってこんな風に成立していくんだなーなんて調は思う。
「とにかく私は全然元気ですよ」
そう言うと、盛大に胸を撫で下ろす仲間たちがいる。
理解力はともかく、心遣いはとてもありがたいものだ。
「あ、ちょうどいいデース。片付けを手伝って下さいデス!」
すかさず言ってのける切歌は、ちゃっかりしているというか良い性格をしているというか。
さすがにそう言われて拒否する仲間はいない。
それぞれがいそいそと手伝ってくれる。
「…この惨状、何かに似ていると思ったら翼の部屋ね」
「マリアッ!?」
などと一悶着はあったが、人海戦術も功を奏し、たちまち元通りになる切歌と調の住居。
「ありがとうございました」
と切歌と並んで頭を下げる調だったが、せめてもの御礼に夕食を食べて行ってくださいと提案。
これを遠慮する者も誰もいなかった。実際、彼女の料理の腕は、仲間内では小日向未来に次ぐ。
調が調理している間、仲間たちはペットと思い思いに過ごす。
小太郎たちへのお説教はもっと後かな…なんて考えながらおさんどんをする調だったが、クリスに弄られるリオンたちに全く悪びれる様子もないのに、少しだけおかんむり。
そんな彼女は、大人数だからと、ありったけのパスタを茹でていた。
茹で上がったそこにトマトピューレをぶち込んで、買い置きのミートボールも在庫一掃。
「はい、どうぞ。カリオストロ風パスタです」
山盛りのパスタをそれぞれが小皿に取り分ける。粉チーズとダバスコはお好みで。
「いっただきま~すッ」
全員の声が唱和し、黙々とパスタを掻き込む。
特に立花響の食べっぷりは顕著だ。
「うんッ! 美味しいッ! お替りッ!」
「はい、どうぞ。たっぷり作ったのでいっぱい食べてくださいね」
「んなこと言っていると、このバカに全部喰われるぞー」
そういうクリスは、女子大生になったからか衣類にパスタは飛び散ってないものの、口回りは真っ赤だ。
「これは、赤ワインが欲しくなるわね」
上品に口に運びつつマリアはそうのたもうが、あいにく調たちの家にアルコールの類はなかった。
「良い味だ。まさに月読は良妻賢母となるだろう」
口に運びつつしみじみと述懐する翼だったが、調としては彼女の古臭い物言いに苦笑するしかない。
結局、響単独で6割、他の全員で4割という記録的な戦力差を記し、夕食は終了。
食後のコーヒーを振る舞えば、さきほどの散らかり具合が遠い昔のことにように思えるのだから不思議である。
「まあ、調に何事もなくて良かったわ」
小指をピンと立ててカップの取っ手を掴み、マリアはいかにも気取った格好で言う。
彼女のポーズはともかく、本当に心配してくれていた気持ちは伝わってきた。
そして、二杯目のコーヒーを飲み欲し、全力全開で心配していた気持ちをぶつけてくる装者も一人。
「本当だよー! わたしも調ちゃんのことが心配で心配で。それが尾を引いててさ、さっきの夕食も普段の半分くらいしか食べられなかったしッ!」
「…マジかよ?」
思わずそう呟いているのはクリス。驚愕の表情を浮かべながら隣の未来を見やる。
未来はリオンの頭を撫でながら、
「響は、おかずもいっぱい食べるから…」
フォローなのか何なのか良く分からない台詞。
「もし月読の体調は優れず、ペットのことが心配で入院出来ぬとあらば、わたしが責任を持って預かるつもりだったぞ」
Qちゃんを抱っこしながら翼も言ってくる。
するとマリアはジト目を向けて、
「あなたQちゃんを自宅で遭難させるつもり?」
「…マリア、どういう意味だ?」
「どうもこうも、そのまんまの意味だけど?」
キシャーッ! と過日の小太郎とリオンの如く睨みあう装者年長組。
まあ、これもいつものコトとばかりに、切歌は小太郎の両手を掴んで後ろ立ちさせていた。
「コラ、小太郎ッ! なんで勝手にシャワー浴びているんデスかッ! 身体を拭かないまま歩いたら風邪引くデスよッ!」
本人は説教しているつもりなんだろうが、微妙に論点がズレてしまっている。
そんな相棒に苦笑しつつ、調は礼を言わなければならないことを思いだす。
「あ、切ちゃん。お昼にスポーツドリンク準備してくれて、ありがとうね」
「? 何をいっているデスか、調?」
「え? だって切ちゃんでしょ? お昼休みに抜け出してきて、私の部屋に置いてってくれたの」
「いやいや、アタシはずっと学校だったデスよ?」
「え…?」
じゃあ、一体誰がマグカップを用意してくれたのだろう?
調の中の疑問は、響が大きな声を上げたことで吹き飛ばされる。
「みんな見て! 外の月が真っ赤だよッ!」
「ほんとだ…」
ベランダへ出てみれば、地平線の上にある月はそれは見事なブラッドムーン。
「大気の変化で科学的に説明できるんだけど、ちょっと不気味だよね…」
響の隣で未来が呟く。
しかも今、夜空にある月はかつての真円ではない。大きな亀裂の入ったそれは、崩壊寸前のような雰囲気も相まって、気味の悪さを助長している。
「古来より、赤い月は凶兆だと言われているが…」
翼がそんなことを言う。
「あら? 珍しいわね、あなたがそんな乙女チックなことをいうなんて」
「茶化すな! …されど、不穏な空気を感じるのはわたしだけか?」
マリアを一喝しておいて、翼が周囲を見回す。
「何か襟足がざわつくような雰囲気なのだ。大事が起きる前触れのような。
…欧州に出向いた緒川さんからの連絡も途絶えているというし」
緒川の件に関しては、装者たちみんなが情報を共有している。
しかし、あのスーパー忍である緒川に関しては、まず心配はいらないだろうという弦十郎の判断と全員の見解が一致していた。
問題は、翼の勘の方だ。
防人であり武人であり、その半生で第六感まで鍛えに鍛えてきた彼女の勘は、馬鹿に出来るものではない。
集った全員が過日の正体不明の敵との戦いを思い出している。
あの戦闘以後、一度も再襲来はないけれど、勝手に消滅するわけもないだろう。
翼の勘に喚起されたわけではないが、各々が何かしらの予感を胸に抱く。
これから訪れるやも知れぬ不測の事態に備えようと、皆が気を引き締める神妙な空気の中―――。
『ボ、ボクと契約して防人になってよッ』(ファルセット)
Qちゃんの手で、ちょいちょいとマリアの肩をつつく翼がいる。
「…なにやってるのよ、あなたはッ!?」
「い、いや、わたしの言で皆を不安にさせてしまったらしいので、その空気を和らげようと…」
「むしろ空気を読みなさいなッ!」
またもやギャーギャー揉めはじめる年長組を横目に、調は切歌から小太郎を受け取る。
子犬を顔の前にもってきて、「今日はめっ! だよ?」と軽く叱りつけた。
分かっているのか分かってないのか、小太郎は無邪気に調の頬を舐めてくる。
くすぐったい感触ごと子犬を抱きしめ、調は夜空を見上げた。
寂しそうに虚空に浮かぶ、地の滴りそうな赤い月。
…確かに不吉かも知れない。
でも、ここにいるみんなで、一度は行って戻ってきた場所だ。
今もみんなと一緒にいる。
だから、何も怖くないんだ。
月と同じ名をもつ少女は、強く強くそう思った。