東方偽人録〜the false human〜 作:あんのーん
これからどこまで行けるかわかりませんが、改めてよろしくお願いします。
人里に到着した私は自分の活動拠点となる家の場所を探し始めた。
人里は結構広く、活気に溢れていた。何故八雲 紫はこんなことを頼んだのだろうか、この里は人もたくさんいて商店街は賑わい、家族づれが笑顔を絶やさずに歩いている。今までの自分にはなかった世界がそこにはあり、嫉妬してしまいそうな位に平和だった。
里の長に探りを入れるのが紫の指示だが、この里の様子を見る限り、この里の長は神並みの善人だろうと思ってしまう。少なくとも悪人のはずがない。
もしかしたら紫は平和や暖かさをあまり感じたことのない私へ褒美をくれたのではないだろうか。そんなことまで思い始めたころ、私がこれから寝泊まりをするになる活動拠点となる一軒の家をを見つけ出した。
中はきれいなで新品の畳の香りがする六畳間があり、襖を開ければ寝室になるであろう四畳半の部屋があった。流し台やら生活に必要な設備はしっかりとしていた。食材は月二回、八雲家から届くらしい。紫曰く「依頼を受けてくれた補助」だそうだ。
荷物を六畳間に置き、依頼内容である里の長に直接会いに行こうと部屋の外に出ようとした瞬間、一人の男が私の家を訪ねてきた。
「はじめまして、あなたが新しい里の住民ですね。」
その男は三十代ぐらいの男で、突然のことに唖然としている私に対し続けてこう言った。
「私がこの里の長、片岡と申します。」
監視対象が自分から来たのだ、これには驚くしかない。八雲家で写真を見たので本人であることに間違いはない。しかし普通新しい住民にわざわざ挨拶に来るだろうか。信用を勝ち得るには手っ取り早い手段かもしれないが。
「あ、わざわざありがとうございます。私は神田…」
「神田 颯さん、ですよね?」
名前まで知られている。住民表の様なものに名前を記入した覚えもない、紫が先に言っていたのだろうか。
さらに片岡と名乗る長は話を続ける。
「住民一人一人が一致団結して里を活発にしていくのがこの里のモットーであり、住民の声でこの里は大きくなっていきます。古い無駄なしきたりを無くし、新しい物をこの里で生きる全ての人と手を取り合って創造していきます。今日からあなたもその一員です、要望は里の中心部にある相談所で受け付けておりますので何かありましたら言ってみて下さい。可能な事項であれば長である私が責任を持って実行いたします。それと里の規律ですが…」
彼の説明は少し長く続いたが、里全体が活気に溢れていた理由が少しわかった気がした。この長は里の住民を第一に考えて、活動している。自分は長という立場を自覚した上で、独裁等をせず、まずは里がいい方向に進むことを考えている、教養もありそうでかなりの常識人だ。しかしその次に彼が語った里の規律が紫がこの依頼を頼んだわけを嫌でも理解することになった。
紫は幻想郷のことを全てを受け入れる最後の楽園と言っていた。
忘れ去られた者の救済処置としての役割を果たしており、魑魅魍魎が渦巻いている。よって人間と妖怪は共存しなければならない、だがしかし彼の放った一言はそれを覆したのだ。
「最後に大事なことを。妖怪に関わった者は人として見ず、即刻里から出ていっていただきます。妖怪なんてあんな汚らわしい化け物に里の地を踏ませない為であり、触れられた者も触れた者も汚れてしまうので同様に出ていっていただきます。最初に来た方は厳しいのではとおっしゃりますが、慣れればどうってことはありません。誰も何もいいませんよ。」
彼は幻想郷の暗黙の了解を無視していた。
しかし住民が同意しているのもおかしい、そんなことがあっていいはずがない。第一にに人間として見ないとはどういうことだ?襲われるのは悪くないだろう。
そんな思考が頭を高速でめぐった。
「それではまた、長らく話してしまって申し訳ない。何処かでお会いしましたら。」
そういって困惑した表情の私を横目に彼は去っていった。
この里はどうなっているんだろうか、まずは自分が妖怪であることは気付いていない様だ。
妖怪に恨みでもあるのだろうか、酷く彼は妖怪を嫌悪していた。まるでゴキブリか何かを嫌うような、いやそれ以上だ。
その時「危険な目に遭うかもしれない」という紫の言葉が再度頭をよぎった。家には入って来なかったが片岡の後ろにはガードマンのような筋肉質な男達がおり。その権力はかなりのものであるのは容易に想像できた。さらにガードマンは幻想郷にないはずのショットガンを所持していた。この事から片岡という男の背後には科学や金属加工と言った技術力がある。
これはかなり大変な依頼を受けたことを実感した。恐らく一人でやり、ミスをしようものならば私は確実に死ぬ。
暫くしてようやく頭の整理がついた私は商店街に出てみることにした。時間はだいたい17時頃、商店街は行灯の火や古びた白熱灯の明かりで優しく包まれていた。電気は最近になって片岡が作ったらしい、導入には時間がかかるらしいと肉屋の商人が言っていた。
妖怪についても聞いてみたが皆口を揃えて嫌悪の言葉を述べ、場合によっては「そんな話をするな。お前まさか妖怪の仲間か?」等と言われる始末であり、正直吐き気がするぐらい気持ちが悪かった。
私の心は明るく活気の溢れる商店街とは真逆で不安や疑い、困惑等でいっぱいになっていた。そのまま私は何も買うこともせず、ふらふらとさ迷う様に商店街を歩いた。
日も落ち始めた18時。無意識の内に私は商店街を抜けており、元の道を戻ろうとしたとき、ふと一軒の木造の建物に目が止まった。どうやら学校のようだ。中から一人の女性が出てきた。見慣れない帽子の様なものを被っており、髪は長く青みがかっていた。彼女は私に気づくと歩みよってきてこう言った。
「見ない顔だな、新しい住民か?」
「え?あ、はい。」
「私は上白沢 慧音と言って、そこの寺子屋で教師をしている。突然話しかけてすまないが、片岡という男に会ったか?」
「はい、この里の長を務めている方ですよね?」
「なるほど、ちょっと中に入るんだ。話がある。」
そういって彼女は私を半ば強引に寺子屋の建物の中へと引きずりこんだのだった。
寺子屋の入り口から入った玄関でたまらず質問した。
「な、何ですか?」
「その様子ならまだ洗脳は受けてないようだな。」
洗脳という聞きなれない単語が出てきて私は少し戸惑った。何を考えたのか彼女は続けてこう言った。
「初対面で無理やり連れてきたことは詫びよう。名前を聞いていなかった、君の名前は?」
「神田 颯です。」
「颯だな、わかった。なら颯、お茶と酒、どっちがいい?」
私は迷わずお茶を選んだ。すると彼女は私を教室と思われる大きな部屋に通し、暫くして彼女はお茶とお茶菓子を持って現れた。
「改めてはじめまして、私は上白沢 慧音、教師だ。さっき洗脳がどうたらこうたら話したのに反応していたようだがそれに関しての話をしよう。その前に、君は何の妖怪かわからないが妖怪だろう?」
ばれてしまった、しかも会って数秒の相手にだ。
「仕事柄見分けるのは得意でね、そうとう擬態が得意みたいだが魔力が人間と違う。私も白沢という妖怪だ、しかし満月のときしか私は返信しない、だから妖怪でもばれていないんだ。」
お茶を飲み、一息ついた彼女は話を続けた。
「さて、本題に入ろう。奴の目的はわからんが、さっきの様に道行く人に片岡と呼び捨てで呼ぶと思いっきりキレられて自衛官を呼ばれてしまう。気を付けるんだぞ?」
自衛官、この里の警察のようなものと聞いていたが実際は片岡の元で手足となって働く下僕のようなものらしい。
彼らが片岡を敬称で呼ばない者を連れていき、何やら洗脳のようなことをして解放しているらしい。
「私も一度連れていかれそうになったが誰もいなくなったところで能力を使って抜け出してきた。」
彼女には『歴史を食べる程度の能力』があり、小規模だが自分の捕まったという歴史を食し、なかったことにしたらしい。
「片岡は危険だ、一度奴のいたという歴史を改竄してみたが数日後には元通りになっていた。奴も何らかの能力を持ち合わせているのだろう。ところで話は変わるが颯は何の妖怪でどんな能力を持っているんだ?」
「種族は『偽人』で『あらゆる種族の特性を真似る程度の能力』を持っています。」
「ほぉ、珍しい。『偽人』か、なるほどな。道理であの片岡の目を誤魔化せたわけだな。」
そう言うと彼女は笑った。
「颯はおかしいと思わないか?奴の言っている妖怪への卑劣な対応は。人間には特権があるとはいうのにこれはやりすぎだ。」
ここで彼女の言った特権とは、人間は非力であるが故に妖怪に襲われてはひとたまりもない。幻想郷にいる数少ない人喰い妖怪は指定された人間のみ食べることを許されている。人間はもし妖怪に理由もなく、更に人間側に非がない状態で襲われた際にその妖怪を地獄へ送る権利がある。等、妖怪と人間が共存するための基準として設けられた特権である。
「これまでに何度か腹を立てた妖怪が片岡を襲おうとしたが、明らかに片岡に非があっても皆地獄に落とされてしまったよ。」
「それも能力の恩恵?」
「そうとしか思えん、そこでまだ洗脳を受けていない住民を集めて会議をしたり夜中にこっそり外の妖怪と話をしたりしながら片岡の裏を探ろうとしているんだ。颯の力も貸してほしい、偽人は珍し過ぎて奴も知らない筈だ。」
この話は私にとっても好都合だった、この里にも仲間がいるのだ。数は少なくとも情報通な人が多そうである上に、彼女は教師で能力も優秀である。
話に聞けばこの里を元々妖怪から守っていたのは彼女であり、里の住民からの信頼も例え洗脳されていても衰えないし、当の片岡も気付いていない。寺子屋の存続に関する問題があるので公の場で動くことはできないにしろ彼女はかなり大きい後ろ楯となるだろう。
仲間がいる。
その事実だけで私は少し前に進める気がした。
こうして人里の夜は更けていった。