東方偽人録〜the false human〜 作:あんのーん
夜は危険だから泊まっていけと慧音に言われたが流石に家に帰らなければいけないと思った私は寺子屋をあとにした。
季節は冬、夜はかなり寒い。
家に帰ったらとりあえず温かい飲み物が欲しいところだ。
寒いので早く帰りたかった私は商店街を通らず最短であろう路地を通って帰ることにした。自然と足取りは速くなる。
そして雪が降り始め次第に辺りが白くなっていく。吐く息も白く、寒さに耳は痛くなっていく。
路地に入ってしばらく歩くと私は異変に気付いた、誰かが後ろからつけてきているのだ。
私が歩く速さを少し上げるとその誰かも同様に速さを上げた。
この状況的に相手は少なくとも路地を全て把握している、しかし私は今日この町に来たばかりで路地は地図を覚えただけで実際の風景は知らない。
寒いから早く帰りたいという思いだけで路地に入ったのは失敗だった。
しかし接近してくる気配はなく数分後にはついてくる足音は消えていおり、その後人には殆ど遭遇せず自宅前へ辿り着いた。時間は20時を過ぎていた。
自宅の鍵を取りだし鍵を開けて中に入ろうとしたその時、金属バットで殴られたような重く鈍い音と共に背中に鈍痛が走った。
そうとう強い力で殴られた私は扉に頭をうちつけ額を少し切った。滴る血が雪を綺麗な赤色に染める。
薄れ行く意識の中犯人の姿を見た私はその顔と体格から昼間片岡と一緒にいたボディーガードの一人だと判断した。そいつは何かを言っていた様に見えたが私には何も聞こえなかった。そして積った雪の上に倒れたとき、私は完全に意識を失った。
そして翌朝の午前7時。
「あいつ、寺子屋に財布なんて忘れてどう生活するつもりなんだろうか、全く。」
そうぶつくさ言いながらも、昨日財布を忘れた私に財布を届けに来た慧音は扉を叩いても私が反応を示さないことを不思議に思い、扉を開けようとした。すると鍵がかかっていないことに気づいた。
「中から返事が無い上に鍵がかかっていない?寝ているにしても防犯の心得はないのか?説教するか…うん?これは。」
玄関前の扉に少量の血液が付着しているのに気が付いた慧音は「入るぞ。」と言って扉を開けて家に入る。やはり誰も居ない。
「もしかしなくてもあの血液は颯のものかもしれないな。だとしたらこれはまずいことになったかもしれない。颯を探さないと、まずは人手が欲しい、妹紅なら大丈夫か。」
慧音はすぐさま寺子屋に戻り、休校の張り紙をし、寺子屋の裏口から回り道をして迷いの竹林へ入っていった。
慧音が颯の自宅から離れた頃、旧地獄へつながる縦穴付近にて。
意識を取り戻した私はす巻きされた状態でボディーガードの男に運ばれていた。「気がつきやがったか。しぶとい奴だ。」
男は二十代半ばだろうか、声は若い。
「昨日お前を怪しいと踏んだ俺の予想は的中したな、商店街をふらふらしていた時点でつけていたんだ。やはり妖怪か、偽人とか言う妖怪は知らんがな。」
つけられていた気づかなかった、しかし声が出せない、口も縛られている。
「やっぱりあそこの寺子屋の教師も妖怪なんじゃないか、手間かけさせやがって。今頃はもう一人が寺子屋の襲撃にいってるだろうよ。」
「――!」
これは不味い、このままでは私のせいで慧音までをも巻き込んでしまう。
しかし今は、誰も見ていない。ここ里ではない。
「今からお前を掃き溜めに捨てに行くんだ。喜べ、お前みたいな汚ならしい妖怪がうじゃうじゃ居やがるんだ。」
私を罵るのに夢中なボディーガードは私の変化に気づかない。
徐々に髪の色が白くなり、手足の爪が鋭く、硬くなる。犬歯は鋭くなり、白い尻尾がはえる。
「んあ?なんだお前!」
気付いた時にはもう遅い。
私は縛っていたロープを切り裂き、ボディーガードを蹴り飛ばしその反動を使い距離を離した。
『白狼天狗』、妖怪の山にいる天狗の中でも位の低い天狗だが辺りは一面銀世界、姿は見えにくくなると考え、さらにロープを切断することを考えれば爪が鋭く硬いこれが一番最適である。輝く太陽は雪に反射し、吹く風によって積った雪は舞い上がる。
色は白に近い色の防寒着服を着ていた私の体は見えにくくなる。
「お前、正体現しやがったな!」
相手はリボルバーを取り出す、六連式の様だ。
保護色があるとはいえ、危険なのにかわりはない。
とにかく逃げることだけを考えることにした。
敵は拳銃を所持しているが射つのには慣れていない上にかなり視界が悪い。とりあえず足跡と臭いを頼りに里の方向を確認する。その先には敵がいた。敵の方に丸腰で突っ込むほど私もバカではないので様子を見ることにした。
その瞬間、一発目の銃声。
銃弾は頬を掠めた。
続けて二回目の銃声。
これは弾が見当違いの方向へ飛んでいった。
「へへっ、相手は丸腰の白狼天狗だ恐れる必要はない、俺は銃火器を持ってるしな!」
一発目がかすったせいで私自身焦っている、背中には汗が流れ、心拍数が上がる。とまれと言い聞かせても体が震える、恐怖に視点が定まらない。
当たれば命はない。
恐れてる、死ぬのが怖い、こわい、コワイ。
三回目の銃声、銃弾は私の足元に穴を開けた。
あと数cm前に足があれば歩けなくなっていたかもしれない。更なる恐怖に足ががたつく。
しかしここで奴の言葉が頭をよぎった。この先には掃き溜めという縦穴があるらしい、今までもそこに人を落としていたからここに来たと考えれば相当深い穴だとわかる。
この状況を打破するには一か八かの賭けにでる他ない、その穴使い、逆に敵を落とすのだ。そう思った私は振り返り穴の方向に走りはじめた、白狼天狗である私は今足が速い。「逃がすか!」
その怒声をかき消すように四回目の銃声が鳴り響く。
銃弾は真横を通り抜ける。
私はこの時着ていた防寒着のフードを深く被った、そして私は白狼天狗から徐々に姿を変える。
二本の手足の他に四本の蜘蛛の足がはえ、目のまわりには小さな複眼ができる。
背を向けて走っている私の変化に奴は気づいていない。
運が良いことにおそらく替えの弾が無いのだろうリロードをしない、よって確実に殺すために弾を温存しているのだ、走りながらでは狙いも定まらない。
そして穴の前まで来て立ち止まった。「ようやく止まったと思えばここか、お前も運が無い。ここがお前の墓場だ、墓穴ぐらい見ておけ。」
「そうだな、お前みたいなでかい奴でも十分入れる大きさだな、この筋肉バカ。筋肉バカの割にはちまちま銃なんて使うんだな、笑えるよ。」
「なんだと?」
挑発に乗ったのを見た私は振り返ると同時に糸を出し、敵を拘束した。『土蜘蛛』、地底にいる蜘蛛の妖怪。糸は硬く、色々な用途に使え、複眼は大勢の敵を一気に目視できる。
しかし寒さに弱い虫型の妖怪。短期決戦にしなければ力が弱くなっていく。
「なんだこれは!」
体格が良いだけに腕に堪える
「逆にす巻きにされる気分はどうだい?今からお前をここに落とす!」
糸を引っ張る。
「くそ!お前、離せ!」
抵抗を続ける。
私は寒さに力が弱くなっていく。
しかし相手は私の思いもよらぬ行動に出た、と言うよりは安易に予想はできるが緊張と焦りで大事なことを忘れていたのだ。
「離せっていってるだろうが!」
突っ込んで来たのだ、真正面から。
このままだと二人一緒に落ちることになる、そう思った時には敵のタックルを受けていた。そして私達は穴の中に落ちていった。
拘束が緩んだ敵は真っ逆さまに落ちながらも私にリボルバーを向ける。
「こいつで終わりだ!」五回目の銃声。
銃弾は私の左肩を貫通した。
痛みに悶える私を見た奴は味をしめたらしくもう一度トリガーに指をかけた。
死んだ、そう思い目を閉じた瞬間、敵の手元からリボルバーが消えた。
私も敵も状況が理解できなくなったが私はこれ以上のチャンスは無いと考え、もう一度敵を縛り上げる。その時耳元で「頑張ってね、お兄さん。」そんな声が聞こえた。振り返るが無限に暗闇が広がるだけだった。
おかしいと思いながらも敵を見る、まだ納得していない様だ。不揃いな岩がゴロゴロした壁面に敵を叩きつけ、顔面を足で蹴りつけ、壁に擦り付けたまま落ちる。
気を失わせ、糸を外す。敵を仰向けにし、フリーになったその顎に落下する速度を足して回転しながら蹴りを放つ。
落下速度に勢いが加わり真っ逆さまに落ちていく敵を見送った。
糸を出し止まろうとした瞬間、別の糸に引っ掛かり私の体は落下から解放された。
「あれ?おかしいな、同族が掛かってる。って怪我してるじゃない!大丈夫?」
声がして、奥から現れたその少女は驚いた表情で私を見ていたのだった。
一方敵の落下地点は池があり、敵は意識を取り戻し池から上がった。
「くそ、あの野郎。次に会ったら必ず仕留めてやる。」
「次があれば、だけどね。」
その声の主は少女だった。黒い帽子を被り、眼はうぐいす色で何やら眼球のようなアクセサリーを身に付けていたがその眼は閉じたまま動かない。
驚くことにその少女は残り弾丸が一発分入ったリボルバーを持っているのだ。
「なっ、このっ、それは玩具じゃない、返せくそガキ!」
「人に頼む態度じゃないし、返す気も更々ないよ。あなただったのね、地上から人を落としてたのは。お姉ちゃんが困ってたわ。お燐は喜んでたけどね。」
リボルバーを構える。
「お姉ちゃんを困らせる奴は絶対許さないし、一通り見てたけどあなたかなり極悪人だね。あなたに生きてる資格はないよ、本来この池はあなたが落とした人を助ける為のお姉ちゃんの処置。ヤマメも糸を張ってくれた。」
奥から人が姿をあらわし始める。その人達は皆人里から出された人間達だった。
「お前のせいで、お前らのせいでこうなったんだ。」「どうしてくれるんだ、息子を一人置いてきたんだ。心配で仕方ない。」「人間のクズめ、地底の妖怪は皆優しい。」「死んでしまえ!お前らこそ、片岡こそが汚れだ!」
一斉に殴りかかる、颯との戦闘で全身傷だらけのそれが動かなくなるまで殴り続ける。
「こいし様、その黒い物をお貸し下さい、私がとどめをさします。」
こいしと呼ばれた少女はその一人にリボルバーを渡し、「後はよろしく。」と言って消えた。
六回目の銃声は穴全体に鳴り響く。
頭蓋骨が砕け、脳が飛び散る音と共に。
一方上層、蜘蛛の巣では。
「そうだったんだ。大変だね、地上の人里も。」
「すまない、拾ってもらった上に怪我の治療までしてもらって。」
「いいんだよ、私が好きでやってるんだし。」
笑いながら話す彼女はどこか会話することに喜びを感じているようだった。緊張したように声が震えている。
「もしかして会話するのは久しぶりなのか?」
「そういうわけじゃないんだけどあなた物凄く人間に似てるから人間と話してるみたいで嬉しくて。」
恥ずかしそうに笑う。
「なるほど、そういえば名前を聞いてなかった、名前を教えてくれないか?」
「私?私は黒谷 ヤマメ、見ての通り土蜘蛛よ。」
「俺は神田 颯、偽人だ。よろしく、えっとヤマメでいいかな。」
「いいよ、よろしく。偽人って珍しいね、地底にも数人居たけどもう居ないよ。皆突然どっか行っちゃったんだ。」
突然何処かへいってしまった、その言葉に引っ掛かりながらも私は何も言わなかった。
「わっ!」
突然目の前に少女が現れる、さっきの声の主だ。
「うわっ!」
「ちょっと、動かないでよ。」
ヤマメに怒られてしまったが私は悪くない気がする。
「えっと君はさっきの。」
「こいしだよ、お兄さん、初めまして。面と向かって話すのははじめてだもんね。ずっと見てたよ、昨晩ストーキングされてたあたりから。」
こいしは笑顔で話す。
「それにしてもお兄さんすごいね!銃持った相手に丸腰で挑むなんて、無謀にもほどがあるよ。」
しかしそんなことより気になった疑問を私はぶつけた。
「そんなことより君がやったのか?ついさっきの銃声。」
「違うよ、あの人に恨みを持った人達がぼこぼこに殴ったあと私が取り上げた銃を使って殺ったんだ。」
恨みを持った人達とは誰か気になったが私はあえて聞かなかった。
その話が終わったとほぼ同時に治療が終わった。
「弾が貫通していたのと妖怪であったのが幸をそうしたね、傷は殆ど塞がってたよ。」
「ありがとう、ヤマメ。助かったよ。」
「治療が終わったならちょっといいかなお兄さん、私の家に来てほしいんだ、いい?」
「別にいいけどどこにあるんだ?」
「旧地獄にある地霊殿ってとこだよ。」
そういってこいしは私の手を引いた。ヤマメに別れを告げ、私は引かれるままに地霊殿という場所へとむかっていった。