東方偽人録〜the false human〜 作:あんのーん
会話の多い話になってしまいましたがはじめましての方も、続けて見てくださっている方もゆっくりしていってください。
今回の話は何度か書き直しをしました、いつもより誤字脱字が多いかもしれません。ご注意ください。
こいしを呼ぶ声が聞こえ、こいしが振り返ると私も振り返った。その声には聞き覚えがあったがその声の主が私達の目の前に来た時、驚いた。
「こいし様、死体の処理は終了しました。」
その声の主はさっき死んだはずの片岡のボディガードにそっくりなのだ、身長も体格も声も何もかもがだ。
しかし雰囲気も口調も違うし、溢れ出る殺気もない、更には妖怪であろうこいしとしゃべっているし敬語だ。
双子だったのだろうか、そんな疑問が溢れてくる。
「そんな堅苦しい呼び方はやめてって言ったでしょ?こいしでいいって。それにしてもクローンとはいえ自分と全く同じ姿形の死体を処理するのは苦しかったよね?」クローン、その言葉に引っ掛かった私の表情も気にせず二人は話を続ける。
「はい、ですが他の方々が顔は見えないよう処置してくださいました。ありがたい限りです。」
「クローンとは一体どういうことなんだ?こいし。」
「彼らの居た人里の長が円滑に政治を進める為に自分の教えやモットーを刷り込んだクローンと里の人間をすり替えているんだって。それで元居た人間とクローンを入れ換えるために地底へ続く横穴に突き落として殺してきたんだって、ひどい話だよね。
私には難しい話はわからないけど自分の欲のために殺すのは悪いことだよね。」
「その話、詳しく聞かせてくれ!」
それは情報が少なかった私にはかなり有益な情報だった、もしかしたら紫に報告する間もなく片岡を潰せるかもしれない。
「いいよ、というよりその為にあなたを連れてきたの。お姉ちゃんが話して欲しいんだって。」
「何でこいしのお姉さんが俺の事を?」
「会えばわかるよ。」
彼女の言うお姉ちゃんについては道中聞いた話によれば他人の心が読める覚妖怪らしい。
覚妖怪を紫は嫌っていたが本当に心が読めるのだろうか、私は正直会ってみたいと思っていた。しかしこいしは妹といっているのに心を読まない。正直なところ半信半疑だ。
しかしその実力は聞く限り相当なものだ。彼女は地底、旧地獄においても強力な発言権を持ち、強力な核の力をもった地底に人工太陽を作った妖怪をペットとして使役し、財力も知力も高いらしい。
財力に関しては目の前にある地霊殿を見る限りかなりの物というのは納得だ。かなり大きく、美しい外観である。美しいのは外観だけではない内装は光の入り具合を計算して作られたであろう神々しいステンドグラスが入り口にあり、赤いカーペットが敷かれてある。館内は隅々まで綺麗に掃除されており、部屋数も多い。
所々に置かれた花瓶に刺さる薔薇は色鮮やかである。
しかし不自然だ、館内では動物しか見ないのだ。たまにハシビロコウのような珍獣までいるのに使用人はいっさいいないのだ。そして広い館内を歩くこと数分でこいしが立ち止まった。
「ここだよ、お姉ちゃん今忙しいからずっと書斎に籠りっきりなんだ。
入るよ、お姉ちゃん。」
どんな妖怪なのだろうか、やはり紫の様にかなりのカリスマ性を持った方なのだろうか。それとも知性溢れるインテリ系の方なのだろうか。扉を開けて中に入ると書斎の山にから赤い目玉が出てきた。
「こいし?それとお客様かしら。」
「お姉ちゃんが呼んでた人だよ、連れてきたの。」
「あらそう、ありがとうこいし。」
椅子から立ち上がり、目の前に出てきた彼女の姿はピンク色の綺麗な髪にこいしの服とは正反対の色合いの似たような服。そして何より小さい。
「小さいとは失礼な方ですね。私が地霊殿の主、古明地さとりです。知ってるみたいですがあなた半信半疑のようですね、私はちゃんと心が読めますよ?」
このような形で彼女の能力を確認することになるとは思いもしなかった私は思わず苦笑いをしてしまった。
「この書類まみれの汚い部屋を見せるのは恥ずかしいですし、客間に行きましょう、美味しい紅茶ぐらいは出しますよ。」
そういうと彼女は部屋を出て客間に案内してくれた。
客間は豪華で暖炉があり椅子も高そうな物だ、絨毯も踏んでいるという実感を感じるくらいだ。正直感動した。
「ふふっ、感動して頂けるとは嬉しいです。」
そう彼女は微笑むと腰をかける様に言い、私はふかふかの椅子に腰をかけた。
間もなくして紅茶が出てきた、運んできたのは猫耳を着けているわけでは無いなら化け猫だろうか。部屋には紅茶の香りが広がっている。紅茶を淹れるのは慣れている様で、慣れた手付きで紅茶を出した。茶葉はアールグレイだろうか、香りがとても良い。
「ありがとう、お燐。
因みに正解です、うちのはアールグレイで、風見 幽香って花の妖怪が作っているやつです。
アールグレイのような香りの立つ物はストレートですよね、ミルクを入れてもにしても香りがあまり飛ばないのでミルクティも美味しいです。まぁ、あなたは今それ以上に気になってる事があるみたいですが。
私には八雲 紫が何をしたいのかわかりませんが、上で戦争でもあったのかって言うくらい穴に人が落ちてきてこちらも困っていた所でした。」
紅茶を飲みながら彼女は話を続ける。
「あなたの心を読む限り、上の人里で片岡っていう独裁者が自分の私利私欲のために人をクローンと入れ換えている様ですね。何故クローンを作る技術があるのかはこいしが調べてきてくれました。こちらのわかる範囲で説明しましょう。」
「何でそんなにしてくれるんですか?」
「地底を馬鹿にされた上に掃き溜め何て言われたら流石の私も怒りますよ。」
窓から眺めた地底の街は本当の太陽の光がなくとも輝いていた。
「ここにはどんな生き物よりも遥かに純粋な者達がいるのです、しかし本当の太陽の光が浴びたいのに浴びれない。話には聞いてるみたいだけど私のペットの一匹が人工太陽を作りました、その時はじめて浴びる赤外線や紫外線に戸惑う妖怪もいましたが、でも皆、涙を流して喜んだのですよ、その温もりに。」
ヤマメもそうだった、地底の妖怪はその能力等の事情により迫害を受けた言わば被害者達だ。彼女達は努力をしている、地上に夢を抱いている。あと少し、あと少しの所なのだ、地上に出られるのだ。それには本来の幻想郷を取り戻す必要がある、それができるのは私だけかもしれない。
「私達も協力します、あなたの思い、私には感じ取れました。こいしから聞いてあなたにかけてよかったかもしれません。」
「お姉ちゃん、私も協力するよ。」
突然こいしが現れた。能力なのだろうか。
「私だって地霊殿が一番大変な時にいなかったから、お姉ちゃんの役に立ちたいの。いつもしてるのって地底と地上の友好関係を円滑にするための仕事なんでしょ?私は役に立てる。この能力があれば、きっと!」
「こいし、あなたはもう十分働いたわ。休みなさい、あなたに居なくなられるのが一番寂しいのよ。」
こいしはそれを聞いた瞬間、何か焦っていた表情は緩み、笑顔に変わり。
「わかったよお姉ちゃん。」
と言って客間を後にした。
「本題に入ります、私はあなたにかけたい。地上における地底の評価が変わり始めた今、最後の壁は片岡という独裁者です。あなたがここに来て、分かってくれると信じて頼みます。どうか、お願いします。私達と戦ってください。」
さとりは頭を深く下げた。
「顔を上げてください、元々俺も片岡を探るために人里に入ったんです。ですが今、その目標は片岡の打倒に変えます。心の見えるあなたになら答えはもう見えているはずです。」
「ありがとうございます。」
その後私達は作戦を立て始めた。
「こいしには地上に出てもらい彼女の能力『無意識を操る程度の能力』を使い、敵の動きや発電所内部の構造等を下調べし情報を集めてもらいました。
こいしの情報によれば人里の地下には発電所があり、その中にクローンの研究施設があるそうです。『A-13』と書いてある棟の中に扉がありそこからクローンの研究施設になっているそうです、キーロックナンバーは…」
さとりの説明はしばらく続いた。
ちょうど颯が拐われてから数分後の迷いの竹林入り口では慧音がとある家を訪ねていた。
「妹紅、いるか?」
妹紅と呼ばれた少女は身長が高く、髪色は白い、ボーイッシュな格好をしていた。
「慧音、どうしたんだ?」
「不味い事になった、お前の力が欲しい。」
「もしや片岡の野郎か?」
片岡の話は伝わっているらしく、妹紅の表情に怒りの色が見え始める。
「そうだ、奴はついに人に手を出し始めた。昨日来たばかりの偽人が姿を消した。どこにいったかは分からないが里中探しても見つからない。そうしたら寺子屋の前に片岡のボディーガードが居てな。昨日その偽人と話した会話の内容を聞かれたのかも知れん。とにかくその偽人を探すのを手伝ってくれ、頼む。」
「おう、分かった。その偽人の名前と容姿は?」
「神田 颯だ、現代から来たらしくあまり見ない格好をしているから分かりやすいはずだが白い防寒着を着ている、まだ時間はたっていないはずだ、急いで探すぞ。妹紅は里の外を頼む、私はもう一度里に戻ろう。」
二人は一斉に走り始めた。
所変わって地底ではさとりが説明を終え、流れが掴めた颯は地上へと上がって行くため地霊殿を後にした。
地底の繁華街のようだが飲み屋ばかりだ。見てみると鬼が昼間から酒を飲んでいた。
酒の飲めない私は足早に繁華街を抜け、落ちてきた場所に戻ってきた。
土蜘蛛の能力を使い糸を伸ばしては引き、伸ばしては引きを繰り返し登っていく。
「おっ、颯じゃないか、もう上がるのかい?」
途中の蜘蛛の巣にはまだヤマメが居た。
「うん、これから上がって一仕事したらもう一度来るかもな。それにしても大変だな。」
「いつ落ちてくるかわからないもの、気が抜けないね。」
受け止めるため蜘蛛の巣に妖力処理を施しているのだ、彼女が気を抜けば落ちてきた人間を受け止めるどころではなくなってしまうのだ。
「あと数日でその仕事も終わりになるだろうから安心しときなよ、次は安全に人を上げたり下ろしたりできるものでも作ったらどうだい?」
「桶とか?」
「釣瓶落としみたいだな。人がはいれる丈夫なやつ、頼んだら作って貰えるんじゃないか?」
「ははは、面白いこと言うね。それは楽しそうだ。」
この数日間談笑なんてしてなかった私は久々に笑った。
地底は掃き溜めなんかじゃない、ほとんどの幻想郷の民がそれを理解してくれるはずだ。
ヤマメに別れを告げた私は登っていく。
地上に出て背伸びをしながら里の方に歩き出して数歩の地点で後ろから声がした。
「待って。」
私が振り返るとそこにはこいしがいた。
「お姉ちゃんはあんなこと言っていたけどやっぱり任せっきりは嫌だし不安だから私もついていく。」
「そんなこと言われても。」
「あの様子だとナビゲートしないとあなた迷いそうだもの。」
「うっ。」
図星だった、正直言うと自信がない。
「ほらね、私は肉弾戦は苦手だけど弾幕ならすごい自信あるし。」
「弾幕ごっことは違う、相手は皆銃火器を持ってる。」
「あなた終始逃げ腰だったじゃない。」
「うぐっ。」
痛い所をつかれる。そうだ、銃火器相手に今度はそううまく行かないに決まっている。
「ヤマメの前であんなこと言っちゃって。次落ちてくるのがあなたの死体って言うのは嫌だし。」
次々えぐってくる、しかもその傷口には必ず塩を直に当ててくる。
「私の重要性分かってくれた?」
「はい、身に染みて分かりました。」
「よろしい。行くよ、颯。」
「はいはい。」
これから私は大丈夫なのだろうか。
一方地霊殿のさとりの自室。
そこの窓に向かって置かれた大きな椅子に座ってさとりは紅茶を飲んでいた。自分で淹れたようだ。すると一匹の黒猫がさとりの膝の上で日向ぼっこを始めた。
「こいしは行ってしまったのね、まぁこいしなら無事に帰ってくるでしょうし、帰る場所はいつでもあるのだから長く待ちましょう。」
紅茶を飲みながら猫と喋っているようだ。
「うん?あの男が弱そうだって?そうね、今の彼は紛れもなく弱いわ。頭は多少良いみたいだけど偽人自体がそこまで戦闘特化した妖怪じゃないもの。」
猫がさとりの膝の上で鳴き声をあげる。
「ふふっ、意味はあるわ。だって私の予想は当たっていた、彼の能力のストックには…あら、お腹すいた?ちょっと待っててね、すぐに作るから。」
そう言うと猫を椅子の上に置き、キッチンへと向かって行った。
「目がほんとそっくりなのよね、優しかった。優しかったのよ、彼女は。なのに何で、何でよりによって彼女が。」
その目には涙か溜まっていた。
心配した動物達がさとりにすりよる。
「大丈夫よ、大丈夫。昔を少し思い出しただけだから。」