東方偽人録〜the false human〜 作:あんのーん
題名を少しいじりました。詳しい理由は活動報告をご覧ください。
今回は全編こいし視点です、ご注意ください。
バレンタインにちなんだ話ですが一応本編です。
因みに作者はバレンタインなんて知りません。
あれ?目から汗が、冬なのにおかしいなぁ。
時刻は日がくれた18時。
私、古明地 こいしはお姉ちゃんの夢である地底と地上の友好関係を築くため、神田 颯という妖怪と共に最後の難題、独裁された人里の解放に向け歩いていた。
目的地である人里は思ったより離れており、その道中にある別の人里に入った私達はそこにあった幻想郷唯一といっても過言ではない洋菓子店を見つけた。
「バレンタインデー…ってなんだ?」
バレンタインデーの看板を見た颯に聞かれ、私は一瞬固まった。
「えっ?本気で言ってるの?」
私は思わず疑問を投げ掛ける。
「嘘を言ってどうするんだ、何かの食べ物か?」この様子だと本当に知らない様だが私も実際にバレンタインデーというイベントをやったことがないのでわからない。
本によれば男と言うものは二月十四日に命をかけるものだと書いてあったが地底はそんなイベントは名ばかりで誰もしようとはしなかったのだ。
「なるほど、『二月十四日は好きな人にチョコレートをあげる日』って明日じゃないか?」
好きな異性に、では無いのか。それとも本に書いてあったことは嘘であって、実はただただ自分の好きな人にお菓子を配る日なのだろうか。
likeなのかloveなのか、そこの違いが私にはわからない。そこで私は彼に提案した。
「ちょっとよってみようよ、このまま今日はこの里で泊まるでしょう?」
甘い物に興味があったからであるが的を射た発言ではあるはずだ。
「そうだな…甘い匂いがすごいしてるし、俺もかなり気になるし、チョコってお菓子を食べてみたいしな。」
計画通り、などと思いながら私はそっと無意識の状態に入った。
ここまで住人に会っていなかったし見当たらないので姿を現していたが、店に入れば私が地底の妖怪とばれるかも知れないからだ。
お姉ちゃんが努力しているとはいえ地底は怖い妖怪の巣窟に思っているのが大半の人間の考えだ。
彼は私が見えなくなったのに気付き洋菓子店へ入ったっていった、一応私は隣にいる。
扉を開け、入ったところで従業員はいなかった。
店内は小さいが暖かく、お洒落な木造の建物で甘い香りがただよっている。
「あれ?誰もいないな。」
しかし奥からは何やら作業をしているような音が聞こえる、一人しかいないらしい、店主のようだ。
「すいません、買い物したいんですが。」
そう彼が呼ぶとやたら甲高い声で「はい、只今。」という言葉が聞こえた。そして現れたその店主を見て私達は衝撃を受けた。
それは甲高い声の似合わない長身で筋肉質な男だったのだ、しかしそれは化粧をしている、どうやら女性の心を持った男性のようだ。
「ようこそ洋菓子店『happiness』へ、あなたに幸せが訪れることを願いますわ。」
店主らしき人物はウィンクをしながらそんなことを言ったが隣にいる彼は登場時のギャップが凄すぎて話が耳に入っていないようだった。
そうするとカウンターから身を乗りだし私に向かってこう言った。
「あら可愛いお客様、隣の彼にバレンタインのチョコを買ってあげるのかしら?」
「…え?あっ、えぇっと。」
「違かったかしら?」
私はごもってしまった。
別にオカマが怖いのではない、私は他人の性別と心が違っていてもいいと思うタイプだからだ。
しかし能力を使っていたはずの私が無意識の内に能力を解除していたので店主に普通に話し掛けられたのだ。
しかし能力の操作を切ってしまった理由はすぐにわかった。私は見とれていたのだ、ショーケースに並べられていた可愛らしいケーキや綺麗なゼリーに。
「…そういえばあなた古明地 さとりにそっくりね、っていうことはあなたがこいしちゃん?」
「はい…そうですが。」
何故知っている?
「やっぱり!あなたのお姉ちゃんには結構お世話になっているからね、あなたのことも知ってるわ。自慢の妹って言われて一度会って見たかったのよ。」
納得した。しかし名前が出てきたのか突然すぎて私の心拍数がどんどん上がる。
「名前を言ってなかったわ、私はこの店の店主の播磨よ。地底出身の鬼でこのコック帽子を外せば角はちゃんとあるわ。」
そう言うと店主はケースからトリュフチョコを一つ爪楊枝で刺すと「お一つどうぞ。」と言って私にくれた。
呆気にとられて動けなかった私も差し出されたその菓子を受け取り食べる。
「……美味しい!」
さっきまでの緊張状態から一気に解放されるくらいのとろけるような甘さ、さらに固形物だというのに口に入れた瞬間雪のように溶けた、まさに絶品だ。
「食と言うものは人に幸福感を与える、更にお菓子ってものは目で見た目の可愛らしさを楽しむもよし、甘い味を楽しむもよし。
お菓子作りはまさに芸術!
そうだこいしちゃん、あなたもお菓子作りしてみないかしら?」
すぐに返事をしたかったが生憎忙しいと言って断ろうとした瞬間。隣で私達の会話を聞いていた彼が
「やっていけばいいんじゃないかな。お前のことだろうし、さとりにでもチョコを作ってやればいいじゃないか。いずれにせよ最低一泊はこの里で過ごすんだ。楽しめるなら楽しんでいけばいい。」
「あらあなたわかってるじゃない、お菓子は作るところが楽しいのよ。さとりも私のお菓子食べてくれたわ。」
颯がまさかそんなことを言うとは予想していなかった私はお言葉に甘えてお菓子作りをすることにした。
すると播磨はにっこりとした顔で私にエプロンを貸してくれた。
「そうと決まれば早速始めるわよ!善は急げ、思い立ったが吉日よ!」
「頑張って来いよこいし、ありゃ腕が良いプロに違いない。宿は俺が確保しておくから心おきなくってやってこいよ。」
こうしてオカマと私のお菓子作りが始まったのだった。
厨房は地霊殿のものより小さいが設備は良いものが揃っている。
「あなたのお姉ちゃんが私のお菓子が美味しかったって言ってくれてその後に私の為に妖怪でも働けるような人里を探してくれて自分のお店を持てたのよ。本当に嬉しかったわ。」
思えばお姉ちゃんは頑張る人が好きだ。
心が読めるからその人がそれに対してどれだけ全力かも分かってしまう。
私は言うほど頑張る人では無いがお姉ちゃんは昔から私に心から優しくしてくれた。
私もそんなお姉ちゃんが好きだ。
覚妖怪にとってサードアイは存在意義、それが有るがゆえに忌み嫌われてきた。
お姉ちゃんはそれをどうにかできないか考えていた。
私はどうにかしようとはしなかったが能力が嫌いだった、人間の薄汚いその思考は何度見ても吐き気を感じ、嫌悪感しか抱けなくなる。
お姉ちゃんも慣れるまで苦労をした、だから地霊殿には動物が沢山いるのだ。
動物たちのその純粋な思考が私たちを慰め、真の意味での目の保養であったのだ。
しかし私は耐えきれなくなりサードアイを潰し、思考を読み取るための管を自ら千切り、覚としての能力を失った。その結果、心を閉ざした状態となり、『無意識を操る程度の能力』を得ると私は人目につかないよう過ごし、地底から出ていった。
お姉ちゃんは覚妖怪の運命から逃れようとした私を軽蔑しているだろうと思った私は自己嫌悪に陥りながら明るさに引かれ一つの人里に行き着いた。しかし、私のたどり着いたその人里では地底の悪口とお姉ちゃんを掃き溜めの主と嘲笑っているのだった。
許せなくなった私はその人里のことを調べた。
そこでわかったことはその人里は表面上は住民が意見を出し合い作っていく里だ。しかしその裏は本当に汚れた、想像を絶する場所だった。
住民はサンプルを取られたら殺され、里の長の言うことを忠実に聞くクローンを作り上げ、野に放す。いわば巨大な一人芝居を演じているのだ。その癖雰囲気を良くした里には新しい住民が後をたたない。
ある時には他の里と合併し、一夜にしてその里の民を屍に変え、明け方には全てクローンにした。
妖怪を嫌い、地底を掃き溜めと呼
ぶ。お姉ちゃんとは全く逆の人間の中の屑、どちらが妖怪かわからなくなってくる。
その人里では二週間調べ続け、調査を大体終えた私は地霊殿に帰ることにした。
正直怖かった、もしかしたら捨てられるかもしれなかったからだ。
しかしこの事実は伝えなければならない、お姉ちゃんの努力を踏みにじろうとする存在を、地底を嘲笑っている家畜どもを。
こうして帰った私を見たお姉ちゃんは泣きながら私に平手打ちをした後、抱きしめてくれた。
私が居なくなってから血眼になって探していたらしい。
『私にはちゃんとした帰る場所がある。』
その真実は私の心を開き、お姉ちゃんに私は地上での出来事を全て話した。
サードアイを潰した私の心を読むことはできなくともお姉ちゃんは信じてくれた、そして私にしかできない仕事をくれた、それが偽人を探すことだった。私は地霊殿を守りたい。
お姉ちゃんを守りたい。
地底の仲間を守りたい。
その一心で幻想郷中を走り、何度も春が過ぎ、ようやく付けた目星があたり私は神田 颯を見つけた。
何故八雲家にいたのかはわからなかったがお姉ちゃんへの恩返しができた実感がわいた瞬間だった。
「そうね、せっかくだからガトーショコラでも作りましょう。」
播磨は慣れた手つきで準備を始める。
しばらく一人で暮らしていたし、お姉ちゃんに教えて貰っていた私
は料理は多少できる。
遠い昔に一緒に作ったケーキを思い出す、一回目は焦がしたっけ。
自然と私は笑顔になっていた。
「今のあなた、凄くいい笑顔よ。これは良いものができそうね。次はメレンゲをこうして…」
作業は驚くほど捗った。
作業をしながら話をしていたが播磨の話は面白く、洋菓子屋を営むことになった経緯やお姉ちゃんの話、地上の大酒飲みの幼女の様な姿鬼の話をしてくれた。
こうして時間は経っていった。
神田 颯は私から見たら頼りない男だ。
八雲家にいた時も散々八雲 藍に戦闘訓練で何度もやられていた。
丸腰で銃を持った相手に立ち向かったりと危なっかしい一面もある。
何故彼をお姉ちゃんが頼ろうとしているのかわからない。
確かに偽人なら人里に難なく潜入でき、スムーズに任務をこなせるが、彼でなくとも偽人はいるだろう。
確かに聞いたことないし名前だけで幻想郷でも見たことはない。ミスをしたらすぐにでも私が一人で全てを終わらせる気でいるが、今のところはまだ大丈夫だろう、しかし心配なところもあるどこか抜けているし。
第一お人好し過ぎるのだ。馬鹿みたいに純粋なところがある、まるで地底の妖怪達のような。
中々に責任感も優しさもあるので少しは期待しても良いのだろうか…。
「ガトーショコラは焼き加減が全てを分けるわ、足りなければべちゃべちゃ、焼き過ぎれば焦げるわ。しっとりとした味わいにするにはちょうど良い温度と焼き加減がポイントなのよ。」
「なるほど…。」
播磨はお菓子作りに全力を注ぎ、妥協は許さない。この人里ではかなり人気のお店らしく常連も少なくないどころか多い。曰く、「私が愛を込めたお菓子はお客様の心と胃袋を掴んで放すことはあり得ない!」らしい
こうして焼き上がったガトーショコラをケーキクーラーで冷やし、粉砂糖を振りかけ完成だ。
ガトーショコラを木箱に入れ、メッセージカードを添えておき、私は播磨にお金を払おうとした。
すると
「あなたのお姉ちゃんへの愛が私を満たしたわ。あなたからお代なんて貰うわけないじゃない。第一作ったのはあなたよ。」
そういって肩をポンと叩くと
「これ、忘れてるわよ?」
と言って包みを一つくれた。
「ガトーショコラを焼いてる時間で作るなんて、本当に手際が良いわね、その仕事が終わったら私の店で働いて欲しいぐらいよ。」
「えっ?」
包みの中にはトリュフチョコが入っていた。
「忘れてるってことは無意識で作ったのね?私が聞いたら颯の分って答えたのに。」
「なっ、嘘でしょ?」
「オカマは嘘はつかないわ。」
「どんな理論よ。」
そう言ったらなんだか可笑しく思え、二人で笑った。
時刻は19時半。
お姉ちゃんへは届けてくれるらしい。
お礼を言った私は外に出ると颯が迎えに来ていた。
「早かったな。」
「うん、楽しかったよ。それとはい、これ。」
「可愛い包みだな何だこれ。」
「ハッピーバレンタイン、トリュフチョコだよ。」
「…毒入りじゃないのか?」
「さぁ、無意識で作ったし何味がするんだろ、播磨が止めなかったから多分普通のチョコ。」
「無意識テロとかこれからは気を付けろよ?
でもありがたく受けとるよ、匂いはちゃんと甘い匂いがするし何より美味しそうだ。ありがとう。」
「どういたしまして、感謝しなさいよね。」
降り積もった雪の道を歩く。
全てはお姉ちゃんの夢の為、隣にいる頼りないお人好し妖怪と共に。
「ねぇ、宿はとれたの?」
「ちゃんと二つ部屋とったよ、安心しろよ。」
私はもう二度と逃げたりしない、そむいたりしない、何にでも打ち勝ってみせる。
Happy Valentine’s Day !