僕のヒーローアカデミア 飛べない鳥   作:残月

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第一話

 

 

 

事の始まりは中国、軽慶市。

発光する赤子が生まれたことを皮切りに、各地では次々と超常現象と呼ばれる能力を持つ人間が生まれるようになった。

そして世界人口の約八割が何らかの特異体質である超人社会となった現代。

人々の持つ超常の爆発的増加に伴い、それを用いた犯罪も増加していた。

法律ができる速度を無視して増え続けるそれらの犯罪者に対抗するため、同じく超常を使い、犯罪者を捕まえる者たちが現れた。

 

 

『ヒーロー』

 

 

空想の産物でしかなかった存在が『特異体質』と呼ばれた『個性』を持つ者が成り得る職業となった。

そして……それと対する様に『個性』を犯罪に使う者を人々は『敵(ヴィラン)』と呼んだ。

 

 

 

 

 

緑谷出久は、ヒーローに憧れる少女だった。

世界総人口の八割が何らかの特異体質『個性』を持つ世の中で、それを持たぬ『無個性』と呼ばれる存在であった。

『個性』を前提とした超人社会において、その『個性』を活かし活躍する職業『ヒーロー』

 

 

『無個性はヒーローになれない』

 

 

『個性』を持たぬ故に可能性の芽すらないのだと知り、出久の心は絶望に苛まれた。

世間でも『無個性』は下に見られ、馬鹿にされる風評がある。その姿勢は子供達にも受け継がれてしまう。

幼い悪意は周りに伝播し、小学校に入る頃には出久はイジメの対象となっていた。小馬鹿にされる程度ではあったが、それは確実に少女の心を蝕んでいく。

 

出久はそれでも諦めなかった。ヒーローの事を観察、研究して『無個性』でもヒーローになれる様に普段からノートに書き纏めていた。

 

しかし、出久が中学になってから幼馴染みの爆豪勝己から自身に対する扱いが酷くなっていく。

爆豪は元から口が悪い。そしてそれは思春期を迎えると更に悪化した。幼馴染みの少女に対しても悪辣な言葉を投げ掛け、爆豪の個性『爆破』で持ち物を爆破される事も増えた。

そんな扱いを受けても出久は爆豪と変わらずに接した。それが気に入らないと更に爆豪の怒りを買う事になるが出久は爆豪を心配するし、微笑んだ。

 

そんな日々が続いた……ずっと、そんな関係が変わらないのだろうと誰もが思っていた。

ある日、爆豪は出久が書き留めていた手帳を奪い爆破しようとする。ブツブツと言いながら必死に何かを書いている姿が気に触ったらしい。

出久は焦った。その手帳は出久にとって特別な物だった。

 

 

「これはダメーっ!」

「なっ!?よせ、馬鹿!」

 

 

出久は爆破される前に爆豪から取り返し、手帳を胸に抱き締め、爆豪から背を背ける。

同時に聞こえたのは爆豪の焦る声と個性の爆破の音。

それと同時に出久は頭が軽くなった感覚に襲われる。パサリ、と何かが落ちる音が聞こえ振り返ると驚愕の表情をしている爆豪と………視線を下に降ろすと其処には自分が髪を纏める為に使っていたオールマイトデザインのバンダナと千切れた長い髪。反射的に出久は自分の首筋に手を這わす。其処にあった筈の長い髪は爆豪の爆破でバンダナもろとも爆破され千切れていた。

爆豪が手帳を爆破しようと火力を最小限にした事で爆破されたのはバンダナと後ろ髪だけだったのは不幸中の幸いだったのだろうが、その光景に教室内はシンと静まり返っていた。

 

 

「ふん……無個性の癖にヒーローなんか目指すからだデク」

 

 

爆豪は悪びれた様子もなくバンダナを拾い上げると出久の胸の辺りにバンダナを投げ渡す。投げ渡されたバンダナは出久の胸に当たり、そのまま地面に落ちた。

 

 

「そうだ、デク。個性を出す秘訣を教えてやろうか。来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!」

 

 

 

そう言って爆豪は悪い笑みを浮かべた。その仕草に爆豪の取り巻きになっている男子生徒が数名、笑い始めると、その笑いは教室中に伝染した。

 

髪の爆破はやりすぎと思ったが緑谷を苛める事は少年達にとっては、いつもと同じちょっとしたからかいであった。苛めたとしても『どうせ、無個性の緑谷だし』と、そんな軽い考えだった。女子達からの冷たい視線に気付かない男子生徒達は笑い続けた。

 

 

 

「ゴメンね……かっちゃん……」

 

 

そう言って床に落ちたバンダナを拾った出久は教室を出ていった。

爆豪やクラスメートには、いつもの光景。緑谷出久にとってもそうであっただろう。

 

しかし、それが大きな間違いだと少年少女が気づく日はそう遠くなかった。

 

 

放課後になり、出久は学校の屋上に足を踏み入れていた。屋上から見る景色に「これがヒーローがビルの上から見ている景色なんだよね」と一言だけ溢し、膝を抱えて震えた。

 

 

『来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!』

 

 

幼馴染みの爆豪から放たれた一言は出久の心に深い傷を刻み込んでいた。

 

 

「やっぱり……無理なのかな……無個性じゃ……」

 

 

膝を抱えて涙を流す出久。いつもなら諦めない心があるのだが爆豪に爆破で千切られた後ろ髪の事もあり、気分は最悪だった。癖っ毛の出久は幼い頃、髪を伸ばすのが嫌だったが髪を伸ばす切っ掛けは爆豪だった。

親同士が仲が良い事もあり、爆豪とは良く遊んでいた間柄で互いの家でテレビを見ていたりもした。オールマイトが事件を解決したニュースの中で髪の長い女性ヒーローが映った時に爆豪はただ思った事を口にした。

 

 

「女って髪が長い方がいいな」

 

 

その一言を切っ掛けに出久は後ろ髪を伸ばし始めた。中学に上がる時には髪も背中に届くくらいの長さになり、髪留め代わりにオールマイトデザインのバンダナで後ろ髪をうなじの辺りで一本に纏めていた。

 

だが、その伸ばしていた髪も爆豪の手により、千切られた。大事にしていたオールマイトデザインのバンダナも爆破の影響で焦げ付いていた。

 

 

夢を否定され、伸ばしていた髪を台無しにされ、出久の心は今までで一番絶望に塗り潰されていた。

 

 

「現実を見る……か」

 

 

それは今までで散々言われていた。

『無個性はヒーローになれない』『現実を見ろ』『夢を見るな』

出久の脳裏に今まで大人や友人達に言われた言葉がリフレインする。

 

 

『来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!』

 

 

幼馴染みの言葉が一番大きく出久の脳裏に響く。

そう思った時、出久は屋上のフェンスを既に乗り越えていた。

 

 

そして足を踏み出し、屋上から身を投げ出す。一瞬の浮遊感。その直後、落下していくのが分かった。

『走馬灯って本当に見れるんだ』と出久は何処か他人事の様にも落下していく景色を見ていた。

 




『緑谷出久(♀)』

そばかすを気にしている地味目の中学生。
長い髪をうなじの辺りで一本に纏めている。髪留め代わりに使っているバンダナはオールマイトデザインの限定品。
一人称は『僕』


無個性の少女。幼い頃からヒーローを夢見ていたが無個性である事に絶望する。しかし、夢を諦めずにヒーローを目指していたが幼馴染みの爆豪の手により、夢を否定され、心が折られる。屋上で泣いている最中、爆豪に言われた一言を切欠に屋上から飛び降りてしまう。



本来ならオールマイトに出会い、一時的にヒーローになる事を否定されるがヘドロに襲われた爆豪を助けに行く姿にオールマイトからヒーローの素質を見いだされ、個性『ワンフォーオール』を受け継ぎ、ヒーローを目指すのだが、この物語では爆豪に髪を爆破されたショックで学校の屋上で泣いていた為にオールマイトには出会わなかった。
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