八百万百は雄英高校ヒーロー科1年A組のクラス委員長である。性格は真面目で責任感が強い。お嬢様育ち故の世間知らずではあるが優しく思いやりの有る娘だ。
そんな百がA組きっての問題児である勝己が焦凍を屋上に呼び出すのを目撃してしまう。普段から衝突の多い二人だ。万が一、喧嘩に発展したら……と思うとA組委員長として、見過ごせなかった。
「でも、殿方は河原で殴りあって友情を育む、と皆様から借りた漫画に載っていましたし……」
等と若干の勘違いをしていたが、最悪の事態を想定して屋上の扉の陰に隠れて様子を窺っていた。しかし、百の思っていた事態とは違った事態に発展していく。
単なる口喧嘩をしているのかと思えば、誰かの見舞いに行く行かないと言い争いに発展していく。
「兎に角……幼馴染みの爆豪が見舞いに行かないでどうする……緑谷も待ってるぞ」
「デクが俺を待ってるなんざ、ありえねぇんだよ!教えてやろうか?デクが屋上から飛び降りる切っ掛けを作ったのは俺だ!」
勝己の叫びに百は冷や水を浴びせられた様な感覚に陥り、口許に手を這わせ座り込んでしまう。
「デクは無個性で弱い泣き虫で女なのにヒーローになろうとしやがった。身の程知らずに雄英受けようとまでしやがった……だからよ、個性を出してヒーローになれる方法を教えてやったんだよ。屋上からのワンチャンダイブ。来世に、期待しろってよ。そしたらアイツはマジで飛び降りやがった。そんな俺が……アイツの見舞いに行けるかよ。行くならテメェだけで行けや」
百が呆然としている間に勝己と焦凍の言い争いは終わっていた。百は正気に戻ると咄嗟にその場から離れようとするが間に合わず、立ち上がったタイミングで屋上から校内に戻ろうとする勝己とその後ろの焦凍と目が合う。
「あ、その……お二人が屋上に行くのを見てしまって……喧嘩をしてしまう様なら止めようと思っていたのですが……盗み聞きしてしまって申し訳ありません!」
必死に頭を下げる百に勝己は舌打ち。勝己は百の隣を通り過ぎようとする。
「で……盗み聞きした話をどうするよ委員長?担任にチクるか?」
「い、いえ……そんな事は……」
勝己の悪い笑みに百は言葉に詰まってしまう。確かに過去の話とは言っても自殺教唆をした者を放っておくのか、とヒーローとしての矜持が叫ぶ。しかし、先程の話を聞く限り、勝己は過去の自分を反省しているし、それに水を差したくないと言う思いもある。
「兎に角……テメェも関わるな」
そのままその場を後にしようとする勝己の背を見た百は少なからず驚いた。いつも自信家で実力者である勝己が、いつも堂々としてるのに今はその背が小さく見えたのだ。
「なら……今の爆豪さんは逃げているのですね」
「あぁっ!?」
百は勝己に対し、挑発的な一言を漏らした。普段の百なら絶対に言わないような一言に勝己は即座にキレて、焦凍は目を丸くしていた。心根が優しい百からこんな厳しめな発言が飛び出すとは思わなかったからだ。
「今の爆豪さんは思い出した過去に囚われて、それと向き合う努力を避けておられる様に見受けられます」
「後から来た奴が勝手な事を抜かしてんじゃねーよ!」
百の発言にキレた勝己が百の胸ぐらを掴み上げる。
「私には今の爆豪さんが正しいのか間違っているのか、判断できません……ですが、雄英高校に入学してからの爆豪さんは見てきましたが今の爆豪さんは逃げているだけに見えます!」
「んだと……っ!」
百の発言にギリギリと歯軋りを鳴らす勝己。
「今まで、そのご友人のお見舞いに行かれていたのであれば最後まで責任を持つべきです!」
「俺がどの面下げて会いに行けってんだ!」
百の説得に勝己は納得せず叫ぶ。だが、百は勝己に掴まれている胸ぐらを優しく手を添えた。
「ヒーローは進んだ先で後悔しても、進まなかった道を悔やむ事はしてはならない。私が幼い頃に会った方から教えていただいた言葉です。今の爆豪さんがご友人を避けているのはご自分の気持ちともご友人への思いからも逃げているからなのではないですか?」
「…………ちっ」
百の言葉を自覚している部分があるのか勝己は舌打ちし、掴んでいた百の胸ぐらから力が抜ける。
「爆豪さんが以前の戦闘訓練でおっしゃっていた『ぶっちぎりのナンバーワンヒーローになる』と言うのは自分の過去から逃げる今の爆豪さんなのですか?」
「…………人の気も知らないで正論ばかり投げ掛けやがって」
百の発言に勝己は先程までの苛つきが多少は収まっている様に見えた。百の言葉に勝己は悪夢に怯えていた自分と少しずつ向き合えたのかも知れない。
「当然です。爆豪さんは普段から私達にも本心を語らないのですから。そのご友人にもそうだったのでしょう。ご友人が爆豪さんを赦すにしても責めるにしても爆豪さんは謝るという行為を止めてはいけないのだと思いますから」
「半分野郎といい、テメェといい……お節介なんだよ」
「余計なお節介はヒーローの仕事だろ?」
百の諭すような言葉に勝己は屋上に来た時のような苛立ちは消え、勝己の言葉に焦凍が僅かに微笑みながら勝己に話し掛ける。
「だから緑谷の見舞いに行こうか」
「私もクラス委員長として同行させて頂きます」
「おい、待てやコラ!」
焦凍が勝己の右腕を掴み、百が左側を掴む。左右に挟まれ、引き摺られる勝己は怒りを露にするが、焦凍は問答無用という表情で百は責任感からプリプリと心を弾ませながら勝己を病院まで連行した。
この日から放課後になると焦凍と百に連行され病院に行く勝己が見られ、クラスメイトからは更に奇異の目で見られるのだが、それはまた別のお話。