雄英高校体育祭は盛り上がっていた。盛り上がって『いる』ではなく『いた』それには理由があった。
第一競技の障害物競走は焦凍が一位を取り、勝己を苛立たせたが第二競技の騎馬戦に闘志を燃やしていた。そこまでは良かった。しかし、その騎馬戦で問題が起きた。
それはB組の物間寧人が勝己を挑発する為に放った一言だった。
「あっれ~?人参をぶら下げた馬みたいに頂点を目指してる爆豪君じゃないか?キミ、多方面でも有名だよね。「ヘドロ事件」の被害者。更に先日のUSJの時もヴィランに襲われてさ。参考までに教えてくれないかい、年に一回、ヴィランに襲われる気持ちって奴をさ」
「ああん、殺すぞ!」
騎馬戦の最中、寧人は勝己を煽る。そして、言ってはいけない事を言ってしまう。
「そう言えば、キミのいた中学校で自殺した女子生徒が居たんだってね?アッハハハハ!キミみたいにヴィランみたいな奴がいたから飛び降りたんじゃないかい?」
寧人は勝己の事情を知らない。単純に勝己を苛立たせて思考を単純にし、出し抜こうと考えていた。それが最悪の結果を引き起こすとは露にも思っていない寧人は笑いながら叫ぶ。
「死ねやっ!」
「消えろっ!」
「懺悔なさいっ!」
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
その直後、勝己の爆破で吹き飛ばされ、焦凍の炎に飲み込まれ、百の創造によって造り出された巨大な鉄製の十字架で叩きのめされた寧人。
騎馬戦のルールを無視して寧人のリンチが行われた事で体育祭は一時中断してしまう。しかし、勝己、焦凍、百のルール違反を咎められる事は無かった。教師達が生徒達に事情聴取をした結果、寧人のモラルと常識を欠いた挑発に問題があったとされた。騎馬戦の最中で生徒が密集していた事で寧人の発言は、その場に居た者全てが聞いていた。寧人のした事はヒーローとして……と言うよりも人として最低の行為だったとして問題視され、寧人は体育祭の後に二週間の停学が決定。更に停学明けにはB組内部でも白い目で見られる事となる。
後にA組のクラスメイトは『爆豪の怒るのは、いつもの事だけど、あの時は怒りの桁が違った』『クールな轟があんなに感情を高ぶらせたのは初めて見た』『優しい委員長の八百万があんなに怒るなんて……』とそれぞれが驚きと恐怖を隠せなかった。
その後、寧人を除いた上位生徒で体育祭は続けられ、最終的にはトーナメントの戦いへと発展する。勝己は宣言通り、体育祭で一位を獲得し、焦凍は二位、百はトーナメント下位で敗れてしまったが、それぞれが体育祭に複雑な思いを抱きつつも新たなる思いが胸に刻まれていた。
体育祭がフィナーレを向かえた頃、出久が入院している病院でも、ある変化が起きていた。
「出久?……出久!」
「ど、どうしたの引子ちゃん!?」
出久の病室に設置されたテレビで雄英体育祭を見ていた引子と光己。引子は出久の手を握りながらテレビを見ていたのだが、途中から引子が取り乱し始めた。あまりの取り乱し様に光己も慌て始める。
「出久が……出久が、手を……握り返して……」
「そ、そうなのっ!?」
引子の発言に光己は思わず、ベッドで眠る出久に視線を移す。出久は依然眠り続けていたが確かに引子の手を握り返したのだ。