僕のヒーローアカデミア 飛べない鳥   作:残月

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第十六話

 

 

 

 

 

勝己がベストジーニストの下で矯正されている頃。焦凍は父であるエンデヴァーの所へ職場体験に来ていた。自身が悩んでる事を打ち明けに来たかと言われれば否である。

焦凍が今まで見て見ぬ振りをしていた家族。母を追い詰め、姉兄を無視し、自身を虐待に近い形で鍛えていた父。そんな父の思いを知ろうともしなかった焦凍は母から受け継いだ個性だけでヒーローになり、エンデヴァーを見返してやる。それが焦凍が抱いていた雄英高校での思いだった。

だが、そんな思いはクラスメイトの勝己の幼馴染みの事情を知ってから四散した。無個性を苦に自殺を図った出久。その話を勝己から聞かされた焦凍は今まで自分が抱いていた思いがちっぽけな物のように感じてしまったのだ。自分は父から虐待を受け、母とは離ればなれになり、姉兄とは確執が生まれ、自分を理解してくれる者などいない、自分は一番不幸なのだ、と。

しかし病院のベッドで眠り続け、目覚める事の無い出久と出久が自殺を選択するまで追い詰めてしまった勝己を間近で見た焦凍は自身を顧みる様になった。

 

体育祭の後、焦凍は職場体験にエンデヴァーを選んだ。体育祭の決勝で勝己に敗北した焦凍は自身に足りない物が数多くあり、学ぶ為にヒーローランキングでNo.2のエンデヴァーを選ぶのは当然とも言えた。それ以上に、焦凍の心にあるのは勝己が自身の過去と向き合っているのに自分は向き合わないのかと言う部分が大きい。

 

そしてエンデヴァーの事務所に来た焦凍は職場体験としてパトロールにも同伴していた。普段のエンデヴァーの管轄から外れた地域だが最近、世間を騒がせている『ヒーロー殺し』を捕らえる為だ。

そこで見えてきたのはヒーローとしての父は実にストイックで指示も的確。今まで見えていなかった。見ようともしなかった。簡単な事だった。簡単な事で身近な事なのに見えてなかった。父から学ぶ事が非常に多いと焦凍は思う。

 

そんな中、焦凍はヒーロー殺しが現れたのは飯田の兄が敗北した保須である事と……病院で眠る少女はどうなったのだろう?と考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百はスネークヒーロー『ウワバミ』の所へと職場体験に来ていた。ウワバミは持ち前の美貌で様々な企業の広告塔としても活躍するプロヒーローで男性からの高い支持を得ている。ヒーローに許されている副業として、CM出演もしている。そのウワバミが職場体験では、百とB組の拳藤を指名する。ウワバミによれば2人に指名した理由は将来有望そうでかつ可愛くて見た目がいいから、との事だった。更に一緒にCMに出てくれと告げたのだから絶句した。普通なら、ふざけるなと言うような理由だが真面目な百は『人の為になるならば』と引き受けた。それ以外にも百の心にあるのは出久の事だ。今の出久はCMの事を断る事はおろか起きる事すら出来ない。未だ目覚めぬ出久に『何かを断る』なんて贅沢な選択肢は存在しない。だったら自分はヒーローを志す者としてCMくらいこなせなくてどうする、と百はウワバミのプロデュースをするCMを引き受けたのだ。

CMの内容は新商品のヘアスプレーの紹介だった。試供品を手に取り、百は出久が目覚めたら使って上げようと考えていた。あの癖のある髪には使い勝手も良いだろうと百は思っていた所で同じく、CMに出た拳藤から話し掛けられる。

 

 

「どうしたんだい、八百万?試供品のヘアスプレー見て、ニヤニヤしてさ」

「あ、その……私の友人、いえ、友人の友人……ええと……」

 

 

拳藤の質問に疑問系を重ねる百。正確に出久と友人関係になった訳ではなく、勝己に連れ添って出久の見舞いに行っている身だ。果たして友人と言って良いのかと百は悩む。

 

 

「ああ、うん。友達ね。それで、どうしたの?」

「その……癖っ毛の強い方なので、このヘアスプレーは効果的なのでしょうと思ってまして……」

 

 

そんな百の心情を察したのか拳藤は明確に出久と百の関係を『友達』と言いきった。

 

 

「へえ、仲が良いんだね」

「いえ……病院に入院してる方なんです。昏睡状態でいつ目覚めるかも分からなくて……」

 

 

しかし、今度は『地雷を踏んだ!』と心の中で叫ぶ拳藤。百の表情は明らかに沈んでいた。

 

 

「そっか……でも、八百万がその人を友達だと思ってるんなら、そんな顔しちゃダメだよ。眠りから目覚めた時に、その顔で会う気?」

「………そうですね。ヒーローを志す者として、何よりもお友達として笑顔で迎えなければ!」

 

 

拳藤の言葉に笑顔を取り戻す百。プリプリと張り切る姿にA組のクラスメイトがいたら『かぁいいね』と言っただろう。

 

拳藤はそんな百を眺めながら、『誰かは知らないけど、八百万の友達さん。早く目覚めて八百万を安心させてやんなよ』と窓から空を見上げながら心の中での呟き、百は『待っています、出久さん!』と心新たに出久の目覚めを渇望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……あ……?」

「出久?……出久!分かる、出久!?」

 

 

場所は変わって出久が入院している病院では大きな変化が起きていた。勝己、焦凍、百の思いを受け取ったかの様に少女は閉ざされていた瞳が開かれた。

出久の手を握っていた引子は出久の瞳が開き、何かを発しようと口が動いている事に思考が止まり、理解が追い付かなかった。しかし、思考が追い付くと、引子は出久に向かって捲し立てる様に話し掛けた。

 

1年と数ヶ月の眠りを経て、緑谷出久は目を覚ました。

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