僕のヒーローアカデミア 飛べない鳥   作:残月

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お待たせしました。


第十七話

 

 

出久が目覚めた時に最初に目にしたのは見覚えの無い天井だった。視線が少し移れば泣き顔で自分を覗き込み、何かを叫ぶ母の姿。思わず、動かそうとした口からマトモな言葉は発せられず、掠れた息だけが出た。体は鉛の様に重く、動く事は叶わなかった。

 

 

 

 

『どうして……生きてるんだろう』それが出久が目覚めた際に抱いた最初の感情だった。どうやら三途の川の渡し賃が足りずに追い返された様だ。

 

 

 

出久は自分が病院に入院している事を母・引子から聞かされた。自分の身に起きた事。自分がしてしまった事。今が自身が飛び降りてから一年半後だと言う事。長らく昏睡状態だった事などを聞かされた。

 

出久は引子から聞かされる話と病院の検査をするだけの日々を過ごす。そんな日々が足早に過ぎていった。出久は自分の事なのに何処か他人事の様に思っていた。現実感がまるで無いのだ。

 

あの日、飛び降りた事も。大事に伸ばしていた髪を爆破された事も。自分がヒーローになる夢を諦めた事も。

全てが只の夢だったのでは無いかと思えるのだ。

 

だが、自分の記憶の中よりも憔悴し痩せた母の顔や幼馴染みの母である光己の申し訳なさそうな顔を見るとこれが現実であり、自分がした行動で様々な人に迷惑を掛けたのだと実感する。

 

『来世は個性が宿ると信じて、ワンチャンダイブ』

幼馴染みの言葉を真に受けて、あの日、屋上から飛び降りた。普段の自分なら、そんな事はしないだろう。

あの時の自分が何を考えていたのか、それは今の自分では届かない思考に行き着いていたのは間違いない。

 

 

『ねぇ……かっちゃん。なんで僕はまだ生きてるんだろう。言われた通りに飛び降りたのに個性は出なかったよ』

 

 

ベッドで眠り続け動けない体では眠気も来ない。引子も帰り、夜一人で居ると時おり、こんな思考に陥る事がある。

引子は日常の事や自身が眠り続けた間の事は教えてくれたが、幼馴染みの話題を避けている節がある。質問しようにもまだ喋る事すら叶わない体では問いかける事すら叶わない。

 

 

そんな日々が過ぎていく中で、僅かにだが、喋れるようになった、ある日の事。

幼馴染みの勝己の母である光己が出久と対面して座っているのだ。いままで光己は引子と共に来る事があったが基本的には黙ったままで、出久との会話は無かったのだ。それが今は出久と一対一で向き合っているのだ。引子は光己が願ったからなのか今は席を外している。

 

 

「出久ちゃん……その、ごめんなさい!」

「え、ちょ……おばさん!?」

 

 

意を決した様に頭を下げた光己に出久は慌てた。焦って頭を上げさせようとしたが出久は体が動かない為にそれは叶わなかった。

 

 

「頭を上げてください。なんで、僕に頭を……」

「出久ちゃんが飛び降りたの……勝己が原因なんでしょ?アイツも何も言わなかったけど、あの態度を見れば分かるわ」

 

 

光己の頭を上げさせようとした出久は思考が止まる。光己は勝己の行動を知っていたのか?それよりも出久には気にかかる事があった。

 

 

「あ、あの……かっちゃんの態度って……」

「ああ、うん……出久ちゃんが目覚める前の話なんだけど……」

 

 

光己は話した。勝己は出久が入院してから欠かさずに見舞いに来ていた事。出久の手を握り、優しそうに微笑んだ事。雄英高校に入学してからも変わらず、見舞いに通い続けた事。雄英の友達を連れてきた事。

 

それらを聞いた時、出久は『それは本当にかっちゃんですか?』と聞きたくなった。少なくとも自分の知る勝己なら、そんな行動はしない筈だ。そして何よりも勝己が自分の手を握るなど、そんな行為は過去を振り返っても無かったと言える。それこそ、勝己に個性が発動する前ならあったかも知れないが少なくとも、この数年間ではあり得ない話だった。

 

 

「ごめんなさい。あのバカが出久ちゃんに酷い態度を取っているのは何となく察していたけど思春期特有の馬鹿な行動だと思ってて……」

「そんな……おばさんは悪くないですよ。僕も……かっちゃんには何も言えなかったですし……無個性ですから」

 

 

 

光己の言い分は分かっているつもりだ。だが、今の出久の心を占めているのは勝己の事だ。

 

 

「その……かっちゃんは今、雄英高校に?」

「あ、うん……今はヒーローインターンでヒーローの所に職場体験に行ってるの。でも、後数日で終わる筈よ」

 

 

出久の質問に答えた光己。出久は正直、ホッとした部分がある。目覚めた時や今、勝己に会うのは出久にはハードルが高かった。もしも目覚めた時に勝己に会っていたならば感情のままに様々な罵詈雑言を投げ掛けていただろう。目覚めてから数日が経過し、幾分か冷静になったからこそ光己の話も感情的にならずに聞けた。

 

 

「お願い出久ちゃん。身勝手なお願いだっていうのは分かってる。でも……勝己に会ってやってくれない?インターンが終わったら……勝己も出久ちゃんに会いたいって言うだろうから」

「そ、れは……」

 

 

光己の願いは勝己と会って欲しいと言う物だった。出久の中では『会いたい』と思う気持ちと『会いたくない』と思う気持ちが渦巻いていた。

自身をこんな事に追い込んだ張本人に会えと言うのかと思う気持ちと自分自身の中にある気持ちに整理を付けたいと思う矛盾した思いが交差する。でも、だからこそ……

 

 

 

「はい、わかりました。かっちゃんが来る日が決まったら……教えて下さい」

「うん……ありが、とう……出久ちゃん……」

 

 

勝己に会ってくれると言う出久に光己は途中から涙を抑える事が出来なかった。ボロボロと涙を流しながら出久に礼を言う光己。正直、断られるとすら思っていたのだから受け入れてくれた出久に光己は感謝しかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、テレビのニュースでは保須市で脳無と呼ばれるヴィランとヒーロー殺しがエンデヴァーとサイドキックの活躍で倒されたと速報が流れていた。

 

 

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