僕のヒーローアカデミア 飛べない鳥   作:残月

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お待たせしました。更新再開します。


第十八話

 

 

テレビから流れるニュースを出久はぼんやりと見ていた。幼馴染みの勝己の母である光己から勝己に会って欲しいと言う願いを聞いてから頭の中で様々な感情が入り乱れていたからだ。

 

自分が飛び降りる切っ掛けを招いた勝己と会いたくないと言う気持ちと会いたいと思う気持ちが交差する。頭の中がぐちゃぐちゃになり、思考が定まらなかった。

光己に言われたからではなく、出久も勝己に会いたいと思う気持ちはあった。寧ろ、光己の申し出は出久が言い出せなかった事なので渡りに船と言えた。しかし、それでも心は落ち着いてくれなかった。会おうと決意しても体が拒絶しようとしている。

しかし、今日は勝己と会うと決めた日。時間が来れば勝己は出久の見舞いに来るのだ。その時が来ると思うと出久の心臓はバクバクと胸に鳴り響くのだ。母、引子もそれを察してるのか先程から口を開かなかった。

 

 

その時だった。出久の病室のドアがノックされたのだ。それは勝己が来たと言う合図に他ならない。出久の心臓は痛い程に揺れ動く。

 

 

「出久ちゃん、入るわね。ほら、勝己」

「…………おう」

 

 

光己と共に入ってきた勝己の姿に出久は驚かされた。自分の記憶にある勝己よりも成長した体に雄英の制服を身に纏う姿は出久の知る勝己とは違って見えたのだ。しかし、それ以上に違ったのは……

 

 

「かっちゃん……その怪我は……?」

「ん、ああ……気にすんな」

 

 

勝己の体は所々が包帯で巻かれていた。手や頭等に巻かれている包帯が無事ではない証であるが、勝己は出久に気にするなと告げる。

出久には言えない事だが、勝己はヒーロー殺しと呼ばれるヴィランを相手に大立ち回りをしていた。クラスメイトの焦凍と飯田も同様に戦ってヒーロー殺しを捕らえたのだが、その事は箝口令が敷かれたので当然の事ながら出久には喋れない。尤も勝己は出久に余計な心配を掛けさせない為に言うつもりも無かったが。

 

 

「うん……久し振りだね、かっちゃん」

「………ああ」

 

 

出久の挨拶に勝己はぶらっきぼうに返事をすると定位置になっていた椅子に乱暴に座る。馴れた様子の勝己に驚いていた出久。そして勝己はスッと手を伸ばした。

 

 

「………っ」

 

 

その仕草に出久は身じろぎをする。長年の苛めと飛び降りる前に髪を爆破されたトラウマが出久を襲う。しかし、未だに自由に動けない身体では身じろぎをするのが精々だ。恐怖に顔が歪みそうになった出久だが、その表情はすぐに変わる事になる。

 

 

「………ふぇ?」

 

 

勝己は優しく出久の手を握った。勝己の思わぬ行動に出久の口からは妙な声が出た。自分の記憶にある勝己がこんな優しかったのは幼稚園の頃よりも更に幼かった頃。しかも勝己の手は温かく、マトモに動かせない出久の手を温めるかの様だった。

 

 

「細いな……折れちまいそうだ」

「え、あ、うん……ずっと寝たきりだったから」

 

 

勝己の呟きに答えた出久。寝たきりで動かしていなかった出久の手は痩せ細りガリガリになっていた。そんな出久の指を折れそうだと呟く勝己の手は優しく出久の手を包んでいた。

 

 

「早く……治せや。リハビリは付き合ってやる」

「う、うん……」

 

 

折れそうな出久の手に負担が掛からない様に。それでいて力強く出久の手を握る勝己。その力強さと勝己に手を握られている事実が時間差で訪れた出久はドキドキとしていた。

勝己とこんなに穏やかな会話をしたのはどれくらいぶりだろうと出久は思っていた。勝己に個性が発現し、出久が無個性だと判明してから勝己は出久を見下し、出久は勝己に憧れを抱いていた。その頃から二人の関係は歪な物になっていたが、突如あの頃に戻ったかのような感覚に陥っていた。

 

だが、それと同時に出久の脳裏には自分を追い詰めたのは勝己なんだと言う感情も沸き上がってきていた。急に優しくなったのも罪滅ぼしのつもりなのかと、そう言いたくなる自分も居た。

 

 

(まるでかっちゃんじゃないみたいだ)

 

 

出久は今の勝己が知らない人の様に見えた。自分が行きたかった雄英高校に進学し、ヒーローの卵として活躍する勝己は自分の知る勝己でない。雄英に行った事で勝己が何か変わったのだろうか。今まで眠りについていた出久にそれを知る術は無い。

 

今の勝己を知りたい。だが、それと同時に『どのツラ下げて会いに来たの』と怒鳴りたい気分であるのも事実だった。

 

 

「出久、勝己君……そろそろ時間よ」

「………はい」

「あ……」

 

 

勝己が出久の手を握り、黙ったままの時間がどれほど続いたか、スッと勝己が手を離し出久の手を布団の上に乗せた。時計を見れば面会時間ギリギリになっていた。引子は勝己と出久を気遣って時間が来るまで知らせに来なかった様だ。勝己が離した手を出久は少しだけ名残惜しそうにしていた。

 

 

「……また、来るわ」

「うん……あ、かっちゃん」

 

 

今まで出久の手を握っていた手を乱暴にズボンのポケットに入れて病室を出て行こうとする勝己を出久が呼び止めた。

 

 

「雄英……受かったんだね、おめでとう」

「…………おう」

 

 

出久の言葉を勝己は振り返らずに背中で受け止め、そのまま病室を後にした。勝己は振り返らなかったのではなく、振り返る事が出来なかったのかも知れないが。

 

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