爆豪勝己にとって『緑谷出久』は『腐れ縁の幼馴染み』だった。
親同士が仲が良い事と家が近い事から昔から付き合いのある幼馴染み。
無個性で女の癖にヒーローになりたいとほざく上に、遊んでいる時や学校行事の際にも自分を心配する腐れ縁女。
周囲は『幼馴染みに愛されてる』なんて言われて吐き気がした。自分が、無個性のデクの坊である出久に対等に扱われているというのは許しがたいとさえ思っていた。
格の違いを見せ付けようが、どれだけ罵倒を浴びせ、持ち物を爆破しようが、自分の周囲をウロチョロする出久の姿に、何度怒りを爆発させたことか。
いっそ目の前から消し去れたらどんなに楽だろうか。
その思いは、出久の姿を目の端に捉える度に年々強くなっていた。
中学生になってから、その思いは加速していく。似合わないセーラー服に長い髪をうなじの辺りで一本に纏めていた出久に爆豪は妙にイライラしていた。
イライラの正体は分からないが出久を見ているとイライラする。マトモに話せない自分にもイライラした。
結局は『無個性の馬鹿女』にイライラしているのだろうと結論付けた爆豪は幼い頃よりも出久を否定した。
中学生活がある程度過ぎた頃、爆豪の思惑とは裏腹に出久は今でもヒーローになろうと必死にノートに何かを書き込んでいた。ブツブツ言いながらペンを走らせる姿に爆豪は苛立ちを隠せなくなる。
書き纏めてるノートを爆破すりゃコイツもヒーローを諦めるだろう、と思った爆豪は出久が必死に何かを書いていた普段のノートとは違う手帳を出久の手から取り上げた。
「無個性がヒーローなんざ目指すんじゃねーよ。いい加減、現実見ろや」
そう言って手帳を爆破しようと個性を使おうとする爆豪。その瞬間だった。
「これはダメーっ!」
「なっ!?よせ、馬鹿!」
爆豪が個性を使う寸前に出久は爆豪から手帳を奪い返し、背を背けた。
その結果、爆豪の爆破は奪われた手帳を爆破する事なく、背を向けた出久のうなじの辺りを爆破してしまう。個性を止めようとしたがあまりにも突然の事で間に合わなかったのだ。
個性を使って人を傷つけてしまったかと焦る、爆豪だったが出久に怪我は無い様で安心したのも束の間。
爆豪の目の前で出久の髪を纏めていたバンダナがパサリ、と落ちた。
出久の後ろ髪は過去に自分が漏らした一言が切っ掛けだったのを爆豪は覚えていたが、その時は『単純だなー、出久』と位にしか思っていなかった。
そんな爆豪の思考は反射的に自分の首筋に手を当てて髪の有無を確認している出久によって引き戻された。
其処にあった筈の長い髪は爆豪の爆破でバンダナもろとも爆破され千切れていた。その事に出久の表情は青ざめているのが分かる。
爆豪が手帳を爆破しようと火力を最小限にした事で爆破されたのはバンダナと後ろ髪だけだったのは不幸中の幸いだったのだろうが、その光景に教室内はシンと静まり返っていた。
「ふん……無個性の癖にヒーローなんか目指すからだデク」
爆豪は悪びれた様子もなくバンダナを拾い上げると出久の胸の辺りにバンダナを投げ渡す。投げ渡されたバンダナは出久の胸に当たり、そのまま地面に落ちた。
「そうだ、デク。個性を出す秘訣を教えてやろうか。来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!」
そう言って爆豪は悪い笑みを浮かべた。そう、いつもの事だ。コイツはどんなに罵倒しようが、叩こうがヘラヘラ笑う。爆豪はそう思っていた。爆豪の一言にクラスの誰かが笑い始めると、その笑いは教室中に伝染した。だが、今日は様子が違った。
「ゴメンね……かっちゃん……」
そう言って床に落ちたバンダナを拾った出久は教室を出て行った。いつもならヘラヘラ笑っていた出久が俯いたまま教室を出て行く様子に爆豪は再び、妙なイライラを感じるが『デクの癖に俺に楯突くからだ』と自分を納得させていた。
その日の放課後。爆豪はヘドロのヴィランに襲われた。体を乗っ取られ、町を破壊しそうになったが偶々通り掛かったナンバーワンヒーロー、オールマイトに助けられた。爆豪はヘドロヴィランに体を乗っ取られそうになっても抵抗した事をオールマイト以外のプロヒーローに褒められていたが、ヴィランに遅れを取った事実が爆豪をイラつかせていた。更に警察からの事情聴取で家に帰れたのは夜になってからだった。時計を見れば時刻は既に20時を回っていた。
「帰ったぞ。ババァ」
口の悪い爆豪は自身の母を『ババァ』と呼ぶ。いつもなら此処で反論が飛んでくるが妙に静かな事に爆豪は眉を潜める。
「ちっ……いねぇのか?」
爆豪がキッチンに行くと何故か食材が出されているままだった。まるで夕食の準備中に何処かに慌てて出掛けたかの様だった。
「なんだってんだ……あん?着信36件?」
スマホを確認すると母親からの着信が凄い事になっていた。ヘドロヴィランと警察の事情聴取で爆豪はスマホを見る暇がなく母親からの着信に今頃気づいたのだ。
すると、タイミング良く母、光己からの電話が鳴り響く。
「………なんだよ?」
『勝己!アンタ、今何処に居るの!?』
電話に出ると母の叫びがスマホを通して爆豪の耳にダメージを与える。キーンと耳鳴りのする耳とは反対の耳にスマホを押し当て爆豪は叫んだ。
「うるせぇんだよ、クソババァ!さっきまでクソヴィランに襲われたから警察の事情聴取受けてたんだよ!」
『なっ、こんな時に……アンタは無事なの!?怪我は!?』
爆豪が自身の帰りが遅かった事と電話に出なかった理由を叫ぶと母の心配そうな声が聞こえたが、それ以上に爆豪には気にかかる事があった。
「おい、『アンタは』ってどう言う事だ?」
『夕方だったんだけど……引子ちゃんから電話があって、出久ちゃんが学校の屋上から飛び降りて……病院に搬送されたんだけど、まだ意識が戻らない程の重体だって』
何があったかを問う爆豪の耳に……絶対に聞きたくなかった事が聞かされる。それと同時に自分が学校で何を言い放ったか……その言葉が頭の中でリフレインした。
『来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!』
自分の一言でデクが学校の屋上から飛び降りた?病院で治療を受けているけど意識が戻らない重体?
『勝己?ちょっと聞いてるの、勝己!』
爆豪は自分の手からスマホが落ちている事にも気付かない程に動揺していた。落ちたスマホから母の声が聞こえるがマトモに爆豪の耳に届いているのかも怪しかった。
自分が無責任に言い放った発言が、どれほど残酷で人を傷付けていたのか思い知らされる事となる。