光己から病院の場所を教えられた勝己は行くか行かないかを相当悩み……行く事を決意した。それを決めるまでに家で一時間はたっぷりと悩んだ末の結論だった。
普段なら乗らないタクシーに乗って出久が入院した病院へ到着した勝己。治まらない心臓の鼓動がバクバクと鳴っていた。
病院に入ると病院特有の消毒液の臭いがする。今はそんな臭いですら煩わしかった。勝己が慌ただしく動く看護婦から出久が居る病室へと案内された。
勝己が悩んでる時間と病院へ向かってる最中に出久の治療は終わっていたらしく、今は面会は出来ないが一命はとりとめたと説明を受けた。
病室には入れないが病室の前に設置されたベンチに出久の母である引子と自身の母である光己が座っていた。
二人とも憔悴しきった顔をしていた。性格に言うと憔悴している顔を見れたのは光己だけだ。
引子の方は顔を俯かせて表情を窺えなかった。仮に俯いていなかったとしても勝己は罪悪感から引子の顔を見れなかっただろう。
光己は手術の最中も引子にズッと付き添っていたそうだ。顔は伺えないが憔悴した引子を放っておけないのと出久が心配だったからだと光己が喋る。
「勝己君……出久の為に来てくれて、ありがとうね」
「え、あ……は、い……」
そしてズッと俯いていた引子が顔を上げると泣き晴らした顔を上げ、勝己に礼を言う。誰がどう見ても無理をして笑っているのが目に見えた。勝己はそんな引子に絞り出した様な返事しか出来なかった。
自分の一言が出久を追い詰めたなんて言える筈もない。今まで自分が出久を苛めていたなんて言える訳がない。そんなお礼を言われる側の人間じゃない……俺がデクを……そんな思いが勝己の頭の中を駆け巡る。
居たたまれなくなり勝己はその場を逃げる様に後にした。トイレに駆け込み、勝己は胃から込み上げてくる物を吐き出した。
「か……は……うぐっ……」
夕食の前で胃の中にある物は殆ど無かっただろう。だが、それでも勝己は込み上げてくる物を吐き出さずにはいられなかった。胃液を吐き出し、少しだけ気分が落ち着いたと同時に出久に向けて放った自身の言葉が頭を過る。
『来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!』
高らかに笑いながら言った自分の声が、頭の中で繰り返されていた。
いつもの事だった……出久を馬鹿にして苛めて……そう、いつもの日常だった。あんな奴、消えてくれと願った。殺す、死んでくれとさえ口にしていた。
その思いは、叶った。最悪の形で。それも自分が原因でだ。
勝己は自分の無責任な言動と行動がどんな結果に繋がるか、それを思い知らされていた。