ちょっと長いです。
ツバキの魔法も少しだけ出しました。
それではどうぞ!
全員が三羽烏を打倒した後のこと。
エルザは持っていた通信用ラクリマで全員を塔から離れさせることを呼び掛けた。
塔の全権を握っているジェラールが、塔の内部にいる者に牙を剥く可能性があるからだ。
「だから頼む。皆ここから離れるんだ」
「何言ってやがるエルザ!お前見捨てて行けるわけねえだろ!」
当然妖精の尻尾組は猛反対。
特にナツは怒り狂い今にもこちらへ飛んできそうだ。
楽園の塔組は何も言葉を発さないが気持ちはナツたちと同じであることは言わずもがな。
エルザは言う。
奴は狡猾な男。
何を仕出かしてくるかはわからない。
奴が何を考えてこんなことをしたのかわからない。
エーテリオンがあと10分強で落ちてくるこの状況で、皆を守りながらジェラールを倒すのは困難であると。
奴があそこまで堕ちてしまったのには自分に責任がある。
だからこそ決着をつけに行くのだと。
最後にエルザはこう付け加えた。
「それに私なら大丈夫だ。ツバキが共にいる」
その一言で先ほどまで激昂していた一同は鳴りを潜めた。
彼ならエルザを必ず連れて帰ってくると確信しているからだ。
今すぐに駆け出したいが、彼らの邪魔になることを痛感する。
渋々納得した一同は船を出し、最後にエルザに投げかける。
「……わかった。その代わり約束だ。必ず帰って来いよ」
「ああ、分かっている」
双方は約束を交わし、暫しの別れとなった。
数分前のこと。
「ツバキ、皆を連れて塔から離れてくれないか?」
「何で?」
理由はナツたちに言ったものと同じ。
それに加え、ツバキには傷ついてほしくないという思い。
それが混ざり合い悲痛の表情を浮かべながら懇願する。
「断る」
「そんな、何故……!」
「まさかとは思うが、死ぬつもりじゃあないよな?」
「!」
はっきり言って状況は最悪だ。
これはジェラール側にも言えることだが。
エーテリオン発射までもう間もないのだ。
残り僅かな時間でジェラールを倒し、ここから逃げる時間など残されていないのではないか。
そう思ってのツバキの発言だ。
「俺ならなんとかできる。だからここに残る」
「でも、これは私の問題だ!」
「知っているよ。でももうエルザは1人じゃない。妖精の尻尾のエルザだ。最早その命はエルザ1人のものではない。それを分かっているのか?」
鋭い一言を言われ押し黙るエルザ。
仮にここで命を落として誰が喜ぶのか。
残された者たちが悲嘆に暮れるだけだ。
後悔に襲われてしまい咽び泣くだけだ。
勝手に死ぬなんて馬鹿のすることだと、昔どこかの海の海賊王が言った。
それをエルザに伝えるツバキ。
「俺なら最悪なんとかできる。だからさ……存分にジェラールをぶん殴ってこい」
あくまで戦うのはエルザであると。
自分は手出ししない。
だからこそ思う存分に力を振るえと背中を押してくれるツバキ。
それに張りつめていた肩の力を緩め、竦めるエルザ。
「……お前にはいつも諭されてばかりだな。……こうなっては仕方ない。地獄の門までついてきてもらうとするかな」
「縁起でもないな」
先程までの悲痛な表情はどこへやら。
冗談を言い合えるくらいには余裕が出てきたのか、微笑むエルザ。
2人は最上階へと進みだす。
その道中、ツバキはエルザに疑問を投げかける。
「なぁエルザ。一つ聞いていいか?」
「何だ?」
「Rシステムって言ったよな、この塔の正体。……あいつ何が目的なんだ?」
Rシステム。
一人の生贄の生命を捧げる代わりに一人の死者を蘇らせる魔法。
評議会が使用を厳重に禁止している禁忌魔法の1つである。
昔、とある黒魔術教団がその狂気に魅せられ作り上げたのがこの楽園の塔。
エルザたちはその際に奴隷としてこれを作り上げさせられていたのだ。
「奴の目的はゼレフ復活、その為に私を生贄にしようとして────」
「それ以前の問題だ。それを行うための魔力が足りない」
そうなのだ。
この大掛かりな魔法を行使するのに必要な魔力量は実に27億イデア。
ジェラールは一体どこからその魔力を用意するというのか。
「確かに……。やはりあいつに直接聞かないと分からんな」
「あぁ……」
エーテリオンの発射は文字通り死だ。
にもかかわらず、悠然と待ち構えているジェラールに対し疑念を抱くツバキ。
「(さっき塔の構造を観察していたが、まさか……)」
彼の脳内では1つの突拍子のない仮説が立ち上がっていた。
「やれやれゲームはもう終わりか」
「人の命で遊ぶのがそんなに楽しいか?」
「楽しいさ。生と死こそが全ての感情が集約される万物の根源。逆に言えば命ほどつまらなく虚しいものはない」
やがて最上階に達し、物々しい部屋にて。
エルザとジェラールは会合する。
「あんたはどう思うよ、妖精王。まぁゲームに参加しないで一体どこをほっつき歩いていたのか。怖くて隠れていたのかい?」
「いや、ちょいと腹が痛くなってトイレ借りていた」
ツバキのマイペースぶりには流石のジェラールもペースを崩される。
「……まぁ良い。久しぶりだなエルザ。いつでも逃げられたはずだと思うが?」
「かつての仲間たちを解放しにな。あと10分足らずでエーテリオンは落とされるが何を考えている?その余裕ぶり、やはりハッタリか」
「(……)」
辺り一帯を消滅させる超魔法。
ツバキがいるから助かると確信しているとはいえ、それだけの魔法があと少しで撃ち込まれるのだ。
ツバキがいてもなお焦る気持ちがあるというのに、ジェラールは見たところ全くその余裕な姿勢を崩そうとはしない。
「何を考えていようが、関係ない。ここでお前を倒し、この8年間に終止符を打つ!」
「何をやろうが無駄だ!ここで朽ち果てゼレフの生贄となる、それがお前の
エルザとジェラールが激突する。
ツバキはエルザの意思を尊重し、一人離れたところで見守る。
エルザなら問題ない、と信じているからこそ自分は手を出さないと決断した。
「(油断しおってからに。後で必ず貴様もエルザのもとへ送り届けてやろう)」
ツバキを目の端でとらえつつ、エルザに向けて魔法を発動する。
暗黒の魔力がその手から打ち出されエルザに向かう。
その数は多くはないものの、猛スピードでエルザを捕らえにかからんと殺到。
それを素早い身のこなしで躱すエルザ。
決意の装束のお陰で身軽に動けてはいるが、一度捕まり攻撃を受けると致命傷は免れないことは明白だ。
暗黒の魔力を切り刻み、ジェラールに差し迫ったが、ここで魔力弾がエルザの腹に直撃。
塔の外へ弾き出されてしまう。
が、ここで落ちることはなく落ちゆく瓦礫を足場にジェラールへと剣を上段に構え振り下ろす。
「せっかく建てた塔を自分の手で壊していては世話がないな!」
「柱の一本や二本などただの飾りに過ぎないさ」
「その飾りを造る為にショウたちは8年間もお前を信じ続けていたんだ!」
怒りの感情を露わにジェラールへの攻撃の手を一層激しくする。
ジェラールが躱し、部屋の内部の造りを壁にしてもそれごと斬る。
8年間も騙され続け、その身を捧げ続けたショウたちの無念を想いジェラールを責め立てる。
「いちいち言葉の揚げ足をとるなよ。重要なのはRシステム。その為の8年間だった。そしてそれは完成したのだ!!」
暗黒の魔力はエルザを縛り上げる。
両手を塞がれ成す術なく生贄になるや、かに思えた。
「何!?」
エルザの剣は、想いは。
暗黒の魔力を打ち破り。
その切っ先は遂にジェラールを捕らえた。
ジェラールの体の上に馬乗りになり、剣先を彼の首に狙いを定める。
勝敗は決した。
「お前の本当の目的は何だ?ツバキから聞いた。この塔はRシステムを作動するには魔力が全く足りない」
「……エーテリオン発射まであと3分か」
「答えろジェラール!お前の理想はもう終わっている!このまま死ぬのがお前の望みか!!」
ジェラールの体を己の足で、右手は自身の左腕で動かないように力を込める。
ツバキも見守ることはやめたのか、エルザの方へと歩み寄る。
実際もう魔力も体力も限界なのだろう。
エルザの疲弊しきった体は彼には見破られていた。
「……俺はゼレフの亡霊にとり憑かれた。ゼレフの肉体を蘇らすための人形なんだよ」
「とり憑かれた?」
「(亡霊?……この禍々しい気配がゼレフの?本当に?)」
淡々と話し始めるジェラール。
エーテリオン発射まで残り2分。
「あの日、拷問部屋で俺は亡霊にとり憑かれたのさ。俺は俺を救えず、仲間を救えず、仲間は俺を救えず……」
「楽園など、自由などどこにもなかった」
「全ては始まる前に終わっていたんだ」
悔恨の意を言葉の端々に乗せるジェラールの胸中から漏れ出た言葉。
エルザが思わず力を緩めるのには十分なほど、その言葉は重かった。
ツバキも警戒は緩めないものの、少し拍子抜けした顔だ。
「Rシステムなど完成するはずがないと分かっていた。でも体が、亡霊が止めることを許さなかった」
「お前の勝ちだ、エルザ。もう俺を殺せ。その為に来たんだろう?」
エーテリオン発射まであと1分。
エルザは先程までジェラールに対していた憎しみはもうそれほどない。
幼い頃、絶望しかなかったあの塔の中で自分たちを導いてくれたヒーローのように。
今のジェラールはあの時と同じ瞳をしている、そうエルザは感じられた。
残り僅かな時間で二人はあまりにもすれ違い続けた時を埋めるかの如く、互いに言葉をかける。
「これは俺の弱さに負けた俺の罪だ。理想と現実のあまりの差に俺の心が追い付いていなかった」
「自分の足りないものを埋めてくれるのが仲間というものではないのか?」
エーテリオン発射まで残り30秒。
「私もお前を救えなかった罪を償う。だから早くここから出るぞ」
「いや良い。俺は置いていけ。ここで天からの裁きを受ける」
「何を言っているんだ、早く!」
「頼むエルザ。今をもってやっと俺は亡霊から解放された。最期くらいは『俺』の意思を尊重してくれないか?」
反論できないエルザ。
知ってしまったのだ、彼もこの8年間苦しみ続けてきたということに。
自分たちを苦しめた黒魔術教団はもういない。
いなくなっても尚自分たちを傷つけるこの世界。
何が正解で何が間違いなのかが到底分からない。
少なくともこの時エルザは、ジェラールの決断を止めることが正解だとは思えなかった。
エーテリオン発射まで10秒。
「……ツバキ、頼む。もう時間がない、お前だけでも……」
「………………」
「ツバキ?」
返事をしないツバキを訝しむエルザ。
彼は険しい表情を浮かべジェラールを睨み続けている。
きっと自分の命を粗末に扱っているが故の怒りかと思ったエルザ。
自分だって納得がいっていない。
ツバキがそう思うのは無理もないだろう、とエルザは考えたのだ。
「ツバキ、すまない。私にはジェラールをどうやって止めればよいか……。奴を見捨てたいわけでは────」
「違うよ、エルザ」
エーテリオン発射まであと5秒前。
「こいつ、ここに至ってまだ────」
ツバキは少し後退し、片膝をつけ、左手を床につける。
「エーテリオン射出最終フェイズ完了」
「衛星魔法陣展開!!」
「祈りを」
「祈りを」
「祈りを……」
『聖なる光に祈りを!!エーテリオン解放!!!』
評議会により遂に発射されたエーテリオン。
光の柱は楽園の塔へ。
エルザはツバキに脱出を急かすが。
「理想を諦めていない。そうだろジェラール?」
「何を言って……」
その光が塔を包み込むその瞬間のことであった。
ツバキがポツリと呟く。
「『
ドゴオオォォン、と地平線の彼方にまで重い轟音が響き渡る。
終わった、と誰もが思った。
エルザも。
船で塔から離れていたナツたちも。
エーテリオン射出し祈りを捧げた評議会の面々も。
2人を除いて誰もが終焉を覚悟した。
1人はジェラール。
エーテリオンの衝突により凄まじい量の煙がもくもくと立ち込めるなか、彼は立ち上がり高らかに嗤う。
「ククク……ハハハハハハハハ!!遂に遂に遂に!このときが来た!!」
その声色は先程までとは打って変わり、またもや楽園の塔の主としての様相である。
「ジェラール……?」
「驚いたかエルザ?すまなかったなぁ、また騙して。これが楽園の塔の真の姿だ!刮目せよ!!」
さっきまで弱音を吐き出していた姿も全部が
エルザに油断させエーテリオンを直撃させること自体がジェラールの目的。
シモンたちもエルザもそして評議会の者たちも騙し、Rシステムはここに完成した。
煙が晴れ、そしてその姿が明かされる。
「ん?」
「……は?」
2人は思わず呆けた声を出す。
無理もない。
何も。
エーテリオンが直撃した痕跡はどこにもない。
あるのは物々しい部屋の造り。
エルザとジェラールが戦うことでできた瓦礫くらい。
果たして夢だったのかと思うくらい、何も変わっていなかった。
言うまでもなくツバキの仕業である。
彼もまたジェラールと同じく終焉を覚悟していなかった。
その必要がないからだ。
「ふぅ……何とか上手くいったな」
「貴様ァ、一体何をしたァァ!!!」
今までで一番の激情を見せるジェラール。
その姿を見て怯むも、ツバキが何かをしたことに気づいたエルザ。
「ツバキ、一体何を……?」
「こいつの目はまだ諦めていなかった」
ツバキはずっと引っかかっていた。
一体どこから膨大な魔力を調達するのかと。
それが明確でないまま8年も大掛かりな塔の建設をするはずがないのだ。
楽園の塔に着いてからこの塔の存在意義について考え続けていた。
エルザが斑鳩と戦っているときに徹底的にこの塔を調べ尽くした。
塔のどこにも魔力を貯蔵するタンクらしきものはない。
ゼレフ復活のための建物にしては、あまりにも非生産的で非効率的で非合理的な塔。
そしてジェラールがしきりにエーテリオン発射の時間を気にしているのに対し逃げようともしないその姿に違和感を感じ、一つの仮説を立てたのだ。
即ち、
その仮説は見事的中した。
それを確信したツバキは塔全体に魔法を行使し、見事エーテリオンの猛攻を凌いだのだ。
「ちなみにこれが本当の正体だろ?『
パチンと指を鳴らした後、塔の様相が一変した。
柱についていた豪華な装飾も、部屋の内装もない。
あるのは巨大な
ここにエーテリオンの魔力を貯蔵するつもりだったのだろう。
魔力がないため、鈍い色で発光しているが。
「よくも、よくも俺の計画を……!!死ぬ覚悟は当然できているんだよな?」
「お前こそどうなんだよジェラール。亡霊ごときに憑かれてエルザを何度も傷つけやがって……」
ツバキの口調は怒気に溢れていた。
己の理想のために心優しい彼女の弱みに付け込んだことに対してだ。
彼女がどんな思いで8年間を過ごしてきたのかツバキには推し量ることしかできない。
その苦しみを分かち合うことはできない。
土壇場においてなお救おうとしたエルザのその気持ちを蔑ろにするのであれば、俺が許さんとばかりに。
「覚悟しろよ、ジェラール。俺は身内以外には手厳しいぞ?」
「臨むところだ。俺の天体魔法の餌食にしてくれる……!」
優しき緋色の彼女を想う妖精の王と、
狂気なる理想に魅入られた天の星が
今ぶつかろうとしていた。
20000UAも突破し、多くの方々に読んだもらえ嬉しさの極みです。
ランキングが上位だとニヤついてしまう自分がいます。
次回も乞うご期待ください!