妖精王の編纂   作:zumuzumu

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お待たせいたしました。

ツバキvsジェラールです。
ツバキの魔法を少し開示します。


8話

地獄を見た。

終わりのない地獄を見た。

苦しみから逃れられない地獄を見た。

 

次々に地に倒れて伏していく仲間たち。

体から血を流し傷ついていく仲間たち。

瞳から涙を流して死んでいく仲間たち。

 

彼ら一人一人が夢を持っていた。

実現したい心に志を掲げていた。

その為に生き抜くと決意していた。

 

皆が皆、それぞれの胸に想いを持っていた。

 

それらはすべて踏み躙られた。

 

狂気に魅入られた黒魔術教団による蹂躙。

虐げら続ける自分たちを嗤い続ける悪党。

 

この地獄からいつ抜け出せるのかが分からない。

 

 

 

 

 

 

憎い。

憎い。

憎い。

憎い。

憎い。

 

全てが憎い。

 

子ども一人救えないこの世界が憎い。

姿も見えないものを神と崇め奉るクソ共が憎い。

 

底なしの憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪。

 

 

憎め

 

拷問部屋で絶え間のない暴力に晒される自分。

痛みと恐怖の中で自分に囁く声が聞こえた。

 

憎しみこそが復活の鍵だとその見えない「声」は宣う。

もっと憎めと。

さすれば奴らの崇める神に出会えると。

 

そしてその日からジェラールは憎悪の化身に魅入られた。

 

仮初の自由などいらない。

この世界に自由などない。

本当の自由はゼレフのいる世界。

それを実現するために楽園の塔を建立する。

 

 

 

 

 

 

それこそが仮初の理想であると気づかずに。

 

 

 

 

「何があったというのだ……」

 

一触即発の空気の中、そこへやってきたのはジークレイン。

 

評議会にいたはずの彼が何故ここにいるのか。

その疑問をエルザはぶつける。

 

「ジークレイン!?何故お前がここにいる!」

「その質問は後だ、エルザ。妖精王、貴様一体何をした?」

 

エルザの質問には答えず、目線をツバキに向けるジークレイン。

彼の顔もジェラールと同じく険しい顔つきであった。

 

「簡単。俺の魔法でエーテリオンを防いだ。防いだというよりかは、()()()()()()()()()()()()()()()

「バカな!ありえない!エーテリオンだぞ!?一体何をすればあの魔法から守れるというのだ!!」

「これ以上は黙秘させてもらうよ。あんまり人に言いたくないし」

「ふざけやがって……」

 

ツバキに問い詰めるも解決の糸口が見えるわけでもなく。

飄々とした口調に怒りを滲ませるジークレイン。

ツバキは自分の魔法をあまり口外しない。

自分の手札を明かす必要はないと断じているからだ。

下手に対策を取られないようにする意味でもあるが、その隠す姿が余計にジークレインとジェラールの怒りを加速させる。

 

当然だろう。

9人の評議員の祈りにより放たれた悪魔(エーテリオン)

その魔法は周囲一帯を灰燼に帰す超魔法。

 

一度放たれたら、そこにいる生命は一切生存を許されない。

 

実に27億イデアもの魔法を食らって無事なものなどありはしない。

だというのにこれは一体何だ?

何故塔は変わらずにいる?

何故ラクリマは魔法を吸収していない?

他にも、何故ラクリマの存在に気付いたのか、

どうやって塔の装飾を一瞬で剥ぎラクリマをさらけ出したのか、

疑問は尽きることはない。

 

 

 

分かっていることはただ一つ。

ツバキにより自身の計画は破綻したという事実のみ。

 

 

 

「クソ野郎が……」

「お前……、よくも俺の8年を……!」

 

「ジークレイン!何故ここにいる!?今更ジェラールの蛮行を止めに来たわけではあるまい!」

 

エルザは再びジークレインに問う。

以前マカロフと共に始末書を提出しに評議会を訪れた際に遭遇したジェラールと瓜二つの顔の持ち主。

双子の兄と聞き、振りかぶった拳は収めたものの、ジェラールの行いを見て見ぬふりをしてきたロクデナシである。

 

その人物が評議会ではなく何故ここにいるのか。

そしてやはりお前たちは結託していたのだなと責め立てる。

 

「結託?それは違うぞエルザ」

「俺たちは元から一人だ」

「最初からな」

 

そう言いジークレインはジェラールへと溶け込む。

エルザは驚きを隠せない。

そしてジェラールから溢れ出る魔力。

2人に分かれていたことで魔力が回復したのだ。

 

自らの計画のために評議会までも騙していた事実に絶句するエルザ。

一体どこまで欺いているのかと声を荒げる。

 

 

「お前は一体どれだけの人たちを騙し続けているんだ!」

 

 

「さて、魔力が漲ってきた。……覚悟は良いな、妖精王?」

 

その目は先程までエルザに向けていたものとは違う。

必ず殺すと、怒りと憎悪に塗れた色を浮かべている。

ここまで自らを虚仮にしてくれた相手は初めてだと。

 

そのあまりの変貌ににエルザは怯むが、その肩を優しくツバキが抱く。

 

「ツバキ?」

「大丈夫だエルザ。俺に任せろ」

 

笑顔を見せ安心させようとするツバキ。

聖十大魔導の称号を持つジェラールだ。

いくらジョゼを倒したといっても、エルザはジェラールの狡猾さを改めて認識したところ。

 

不安な顔を拭い去ることはできない。

それでも大丈夫と言ってくれた彼を信じることを決めたエルザ。

 

ツバキはエルザに背を向けジェラールと向き合う。

 

「覚悟はできてるかって?それはこちらの台詞だよ」

 

その声は静かに、されど力強く。

 

ここに至るまでに感じ取れた多く嘆きと悲しみの数々。

虐げられてきた者たちの無念。

それらを嘲笑うジェラール。

そしてエルザの涙。

 

ツバキが己の裡から噴き出す激情に身を任せるのに十分だった。

 

周りの人に距離を置く自分に対し怖がることなく近づく彼女。

ズボラな生活を送る自分にため息を吐きつつ世話を焼く彼女。

ときに嬉しそうに、ときに恥ずかしそうに笑顔を見せる彼女。

 

そんなエルザの瞳から流れる涙を見て動かないほどツバキは人でなしではなかった。

 

 

「ぶっ潰す」

「良かろう、俺の天体魔法の塵にしてくれる」

 

ジェラールは魔法を行使する。

その魔法は先程までの禍々しいものではなく、煌びやかであった。

 

 

 

流星(ミーティア)!」

 

詠唱後、凄まじい速さで動くジェラール。

流星のスピードは秒速数キロから数十キロを超えるものまである。

それと同じ速さで動くジェラールのスピードは、常人の視力では捉えられることは不可能だろう。

既にツバキの視界は流星が尾を引く光の残像で埋め尽くされている。

 

 

普通の魔導士であれば、反撃する間もなく一方的に攻撃を受け続けるのみ。

 

ジェラールは幾度もツバキへと突貫する。

直撃するその寸前で何とか回避するツバキ。

しかし尚も四方八方からジェラールは飛んでくる。

 

ツバキは手を向けようとするも、ジェラールは自由自在に空中を飛び回る。

 

涼しい顔をするジェラールに対しどこまでも無表情なツバキ。

焦っているのか何かを考えているのかが判別はつかない。

いずれにせよ、今のままではジェラールに対して有効打はない。

 

 

 

ジェラールはこの速さの世界でも次なる攻撃の手を打つ。

その速さのままに空中に魔法陣を描いているのだ。

 

「もう終わる。お前に本当の破壊魔法を見せてやろう」

 

魔法陣はすぐに描き終わった。

一際大きく光る魔法陣が7つ、一繋ぎに歪な線となっている。

 

そこから漏れ出る魔力の大きさにエルサは青褪めるも、ツバキは変わらず無表情のままで突っ立っている。

その姿を見て反撃の手はなしと判断したジェラールはほくそ笑む。

さらば妖精王、潔く死ねと。

 

「七つの星に裁かれよ、七星剣(グランシャリオ)!!」

「ツバキ!!」

 

隕石に相当する破壊力。

受ければ必滅。

大地は抉れ、体は五体満足ではいられない。

 

1人の人間に向けるにしてはオーバーキルが過ぎる魔法。

さぞ愉快な死体を見せてくれるのだろうと、期待に胸を躍らせるジェラールであったが。

 

 

 

 

 

 

「……は?」

「あ」

 

 

その魔法は掻き消えた。

いつぞやのジョゼと同じくまるで存在しなかったかのように、ジェラール渾身の破壊魔法は姿を消した。

そしてツバキにはその手があったと思い出し、一人慌てていた自分を恥ずかしく感じるエルザ。

 

「またしてもか……!一体何の魔法だというのだ!!」

固定(ロック)

 

ジェラールは理解しがたい現状に動きを止めてしまった。

その瞬間を逃さずにツバキはジェラールに手を向け呟いた。

 

そこから動こうにもピクリともしない己の体に驚きを隠せず焦りの表情を浮かべる。

流星の魔法は確かに発動する。

しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「クッソ、おのれぇ!!」

「そら」

 

ツバキは向けていた手を下へと向ける。

ジェラールは猛スピードで地面へと落下した。

勢いよく激突し、チカチカと目が点滅する。

 

「カハッ……」

 

瞬きの間に状況が逆転した。

そこから動けないように見えた。

 

 

星雲龍(ネビュラブレイク)!!」

 

ジェラールは倒れ伏しながらも攻撃の手は休めない。

落下中にも次なる魔法の準備を進めていた。

 

合わせた両手の内から発生した靄の如き塊から、龍を模した星雲のレーザーが9つほどツバキに向け迸る。

グランシャリオよりも攻撃の規模は小さいが、速さが段違いだ。

 

次々にツバキへと殺到する。

それらは悉く掻き消えた。

後ろから回ったレーザーも、ツバキは振り返って掻き消す。

 

「……ん?」

 

ここでジェラールが疑問の意を孕んだ声を上げる。

 

「今度はこっちから行くぞ」

 

ツバキはそう言い手両腕を左右に広げ、掌を広げる。

次の瞬間、ジェラールの流星により砕け散っていた当たりのラクリマが浮かび始めた。

 

そのラクリマの性質が変化する。

炎水氷土光鋼風といった様々な魔力に姿を変え、それらが一斉にジェラールへと牙を剥く。

 

「『上書き保存(オーバーライト)』、そして『移動(ムーブ)』」

 

自分の属性でもない魔法をいとも簡単に操作するツバキ。

高難度の魔法を一息の間に完成するその謎の魔法理論。

 

それらを回避しながらジェラールは思考を止めることはない。

 

 

「(塔の固定、装飾の一掃、そしてなぜか消える俺の魔法。他にも空中に固定やラクリマの材質変化と来たか………)」

 

果たしてジェラールはツバキの魔法に対して一つの結論を下した。

 

 

「……成程な。これが正解かは分らんが、いずれにせよ貴様の魔法の一端は理解できたぞ」

「………」

 

何も答えないツバキにと対してエルザは興味を惹かれた。

 

彼女もツバキが行使する魔法について幾度も考察したことがある。

ツバキに聞いてもなぜか答えてくれないのだ。

聞くたびにツバキはこう答えていた。

 

曰く、これは『ハッピーエンドを作り上げるための魔法』だと。

彼はそれを目指しているのだという。

この魔法はそれを実現するために必要なものだと。

 

分けも分からずその後もはぐらかされるばかりであったのだ。

 

 

 

 

「貴様のその空間操作が如き魔法、()()()()()()()()()()()()()()()()だろう」

「………」

 

ツバキは何も答えない。

 

「恐らく視認することがお前の魔法の発動条件だ。だから俺が流星を使っている間は俺に魔法を使えない。逆に放たれた魔法は原理は分らんが、視認して掻き消しているということ」

 

この僅かな時間でジェラールはそこまで見抜いた。

驚きの表情を隠せないエルザと無表情なままのツバキ。

ジェラールの考察結果はまだ続く。

 

「そしてわざわざ後ろに振り返って俺の魔法を見てから掻き消したのもこの条件が理由なら納得がいく。エルザが斑鳩と戦っているときに姿を消したのは、エーテリオンからこの塔を守るために()()()()()()()()()()()()ということか」

「そんな魔法が……」

 

エルザは開いた口が塞がらない。

ジェラールから聞いたツバキの魔法は到底信じられないものだった。

 

だがこんなチートみたいな魔法を行使されれば、聖十大魔導士が手も足も出ないのにも納得がいく。

塔の装飾の一掃やラクリマの材質変化も視認したからこそできたこと。

魔法も見てしまえばツバキに届くことはないのだということ。

 

………強すぎないか?と目が点になるエルザであった。

 

 

 

 

「これだけの大魔法。リスクがあって然るべきだが、そこまではわからない。だがどうだ妖精王?俺の仮説は当たっているかな?」

「………ハァ」

 

ふとため息をつくツバキ。

そしてジェラールへ向ける目の色を変えた。

 

「お見事だジェラール。俺の魔法を初見でここまで理解した奴はお前が初めてだ」

「そうか、それは光栄だな」

「だが、()()()()()()()()()()()。これ以上は言うつもりはない」

 

何、といったジェラールだがすぐに口を閉じる。

彼自身も「仮説」と述べていた。

これが満点回答という自信は端からなかったのだろう。

 

 

しかしこれで攻略法が見えた。

要は流星を行使し続ければ良いだけのこと。

多少魔力は浪費するが、それでもこいつは何もできないということが分かった。

 

「まぁ良い。次で終わらせる。流星!!」

 

再び超スピードで空を駆ける。

既にツバキの視認可能速度を超えているためツバキは何もできない。

 

「キャッ!」

「!?エルザ!!」

 

ジェラールはその速さのままにエルザを捕らえ、またも空中を飛び回る。

魔力を使い続け疲弊していたエルザは抵抗する間もなく、秒速数十キロの世界に投げ出された。

 

ジェラールは平気だが、疲弊した体でこの速さの世界に急に投げ出されたエルザを襲う強烈なG。

脳内や体内をかき回されるようなその感覚に吐き気を催す。

あと数秒もあればエルザの体も壊れてしまうだろう。

 

「ハハハ、何も直接お前を倒す必要はない!こうして人質をとるなどやり方はいくらでもあるのだからなぁ!!」

「うぐぁっ!」

 

悲鳴を上げるエルザの声が四方八方から木霊する。

その声に宿る悲痛さに険しい顔をして怒りを滲ませるツバキ。

 

「そうか、それが貴様のやり方か……」

「どうした妖精王!手も出せない、仮に何らかの魔法を使ったとしてもそれはエルザに直撃するだけだ!!」

 

姑息な手段をとるジェラールはまたもや逆転した形勢に酔いしれる。

ハッキリ言って魔法ではツバキの方が格上であることは間違いない。

しかしそんな彼を歯噛みさせるような状況を作り出したことに愉悦を感じていた。

 

 

エルザは涙を零す。

それは痛みからではない。

彼の足枷になっているという事実に対してだった。

一体自分は何をしているのだ。

彼に自らの仇をとってもらっているだけでなく、その邪魔をしているではないか。

 

こんな苦しい思いをするならいっそ、と。

エルザはツバキに希う。

 

「頼むツバキ!私のことは気にするな!私ごと攻撃しろ!」

「正気かエルザ?この状態で衝撃を食らったら間違いなく死ぬぞ?まぁ最早俺はそれでもかまわないが」

 

あれほどまでにエルザを生贄に捧げるつもりだったのに。

今ではもう要らないものとして数え、処分しようとしている。

 

ジェラールのその思考に。

エルザの自己犠牲精神に。

遂にツバキは限界を迎えた。

 

 

 

 

 

「エルザ、君は後でお説教です」

 

すうっと息を吸うツバキ。

カッと目を見開いた。

 

 

 

「『最大化(マクシマイズ)』」

 

そう声に出したその時であった。

 

「何だこれは!?」

「ふぇ…?」

 

ジェラールとエルザが()()()()()

エルザは理解の範疇を超え、すんごく可愛い声を上げる。

その声に悶えそうになるも、次なる一手をツバキは出す。

 

「『切替(スイッチ)』」

 

今度はエルザとツバキの位置が入れ替わった。

ツバキは怒りの形相でジェラールにつかみかかる。

 

 

ツバキはジェラールを視認できたわけではない。

彼が飛び回るその空間ごと巨大化させたのだ。

空中ごと巨大化した弊害により、彼らの周りは歪んだ空間が広がっている。

 

ジェラールたちが巨大化したことによりツバキはその姿を捉えることが可能となったのだ。

体が大きくなり、動きが相対的に鈍くなったところへ次なる魔法を行使したというわけだ。

 

「お前がいるからエルザは涙を流す」

「離せ、クソ野郎が!!!」

 

ジェラールは振り落とそうと抵抗を試みるも、ツバキは関節を器用に決めることでその動きを封じる。

そして右手を掲げた。

 

「お前みたいなやつには何を言ったって無駄だ。話を聞き入れるスペースがない。」

 

狂気に魅入られた者には話が通じないことをツバキは知っている。

 

自分が信じる世界や思想が正しいと疑っていないからだ。

そこに他人の考えや価値観、主張が入り込む隙などありはしないのだ。

 

 

 

大きく振りかぶった右手の拳をジェラールの腹へと突き刺す。

 

ドゴン!

 

 

その衝撃は辺りにまで響いた。

その拳の重さは隕石の如く。

されど打点はツバキの拳の大きさ。

 

一点集中でつぎ込まれたその圧力はいかなるものか。

 

 

 

「ごぶほっ……」

 

ジェラールは喀血しながら勢いよく落下する。

あまりに重いその拳を無抵抗で受けたその体は全身を引き裂かれるような痛みに襲われる。

 

体中が痙攣している。

立ち上がろうとする腕に力が入らない。

 

こいつは何なんだと混乱する頭の中でも、考えるのは理想の世界のこと。

 

こちらに歩み寄るツバキの気配を察したジェラールは、執念のみで体を起き上がらせる。

 

 

 

 

 

「痛みと苦しみの中でゼレフは俺に囁いた」

 

両腕をツバキに向ける。

その腕は震えていた。

 

「真の自由が欲しいかと呟いた」

 

魔法陣を描き始める。

その魔法は煉獄砕破(アビスブレイク)

目の前に立つ憎きツバキを殺すために塔をも消滅させる魔法を行使しようとしている。

 

「俺は選ばれし者。俺がゼレフと共に真の自由国家を創るのだ……」

「人の命や自由を奪ってまで創るものでもあるまい」

「黙れ、地獄を見たことがないお前に何が分かる……!」

 

荒い息を吐きながらもその魔法を発動した。

当然ツバキによって掻き消される。

 

「亡霊に縛られているお前に何を創れる」

 

ツバキがジェラールに向ける感情は最早怒りではなく憐れみであった。

こうまで彼が狂ってしまったその背景に、ツバキは気づいていた。

彼の体から迸る禍々しい気配に、懐かしい人の姿を見たのだ。

 

 

「(ウルティア。一体何が目的だ。君は意味もなくこんなことをする奴じゃないだろう)」

 

 

彼も被害者なのだろう。

エルザと同じく奴隷としてここに連れてこられ、苦しい日々を過ごした。

そんな中で狂気に堕ちても仕方がないのかもしれない。

 

 

 

それでも彼がした行いは到底許されることではない。

彼は多くの者を虐げた。

彼は多くの者を欺いた。

彼はエルザを泣かせた。

 

許すつもりはなかった。

だがそれでは救えない。

 

ハッピーエンドを目指すためには、彼も救わねばならない。

彼は根っからの悪人ではないのだから。

 

 

だからこそツバキはこの一撃を以て、

ジェラールが狂い苦しんだこの8年間に、

エルザが涙を流し苦しんだこの8年間に、

終止符を打つ。

 

 

「自分を解放しろジェラール。『初期化(リセット)』」

 

広げた掌をジェラールの体の中心に宛がう。

彼を柔らかな光が包み込み、そして収まる。

 

その光は攻撃魔法ではない。

 

あらゆるものを浄化し、

あらゆるものを元に戻し、

あらゆるものを解放する。

 

 

 

 

 

 

この8年間で一番苦しんだであろうジェラールが少しでも救われるように。

 

ツバキのその一手はこの楽園の塔で行われた戦いの中で、最も優しかった。

 

 

 

 

 




更新遅れて大変申し訳ございません。
素人が良い作品を作り上げるには時間が必要なもので……。

それでも楽しんでくれたら幸いです!
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