おじいちゃん指揮官による母港運営記   作:喜多見 健

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ファイアフライ作戦③

 セイレーンの声に耳を傾けてはならないと言われたのがいつだっただろうか。その声を聴いてしまうと海底に引きずり込まれるなんて伝承がある地方もある。そのセイレーンと、人類が戦っている「セイレーン」が同じものなのかはわからないが、確かに言えることが一つだけある。

 

「セイレーンの声に耳を傾けてはならない」。

 

 ファイアフライ作戦として敵をちまちまと攻撃していたおじいちゃんの艦隊はサラトガとの交信を終えた後に少しばかり遠回りをして周辺海域の掃討を行う。数だけ多い低練度の敵ばかりだが、物量で攻められてはたまったものではない。だからこそ叩けるうちに叩き、敵の士気をくじく。本隊はユニオンが対応してくれるのであれば、おじいちゃんが出しゃばる必要はない。

 

 つまみ食いのように敵を沈めているとおじいじゃんの艦隊はついにセイレーンを補足。敵側もこちらに気づいたのだろう。おおよそ人類には真似できない弾幕を張ってこちらを沈めようとしている。

 

 いつものようにおじいちゃんの艦隊は敵に対して砲撃し、海中に沈める。相手が人間と似ている姿をしていようが関係はない。「あれ」は敵だ。敵は殺さなくてはならない。そうしなければ自分が殺されるから。

 

 おじいちゃんの艦隊は一切の躊躇なく敵を撃滅する。わずかばかりの損害は出たようだが、ウォースパイトの主砲が敵セイレーンに命中し、セイレーンは海上に手足を広げたまま横たわった。

 

「……もう一度会いたい人はいない?」

 

 無線に割り込んできた声に艦隊一同と、おじいちゃんは凍り付いた。今までセイレーンに話しかけられた経験なんてない。それと、その声があまりにも人間に似ていたから。

 

「会わせてあげるわよ。あなたのお嫁さ――」

 

「撃て」

 

 セイレーンの言葉を遮るようにおじいちゃんが指示を下し、それと同時にウォースパイトが砲撃する。間違いなく直撃したはずだが、死体はどこにも見つからなかった。

 

 艦隊一同は動けない。

 

「……周囲に敵の反応なし。さあ、帰ろう」

 

 おじいちゃんは努めて温和な声色でそう言う。セイレーンの声に耳を傾けてはならない。

 

「……セイレーンの声に耳を傾けてはならないよ」

 

 セイレーンの声に耳を傾けてはならない……。

 

 だが、もし会えるとしたら?

 

 セイレーンの声に耳を傾けてはならない。セイレーンの声に耳を傾けてはならない。セイレーンの声に耳を傾けてはならない……。

 

 艦隊一同は一言も発しない。ただ水音と風の音、そして飛行機のエンジン音だけが広い海域に響いていた。

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