おじいちゃん指揮官による母港運営記   作:喜多見 健

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蛍の光

 ファイアフライ作戦は突如として終了が告げられた。ユニオンが「要塞」を攻め落とし、すでに陽動も必要がなくなったからだろう。詳しい説明もなしに突然上層部から電話で伝えられたそれに、おじいちゃんは怒ることも悲しむこともなく、ただいつものようにニコニコと笑っている。反対にウォースパイトは今にも頭から火が噴出しそうなほどに怒りを抑えきれずにいた。

 

「せめてご苦労様くらいの言葉はあっても良いと思わないかしら!? 私たちだって不死身で不平を言わないスーパーガールじゃないのよ!?」

 

「しかたないよ。私は戦力として見られていないのだろうからね」

 

 元重桜、元鉄血でありながら現在はアズールレーン陣営に所属する指揮官は少数ながら存在する。おじいちゃんのように何も告げられずに国から捨てられたものもいれば、自分の意志で亡命したものもいる。そしてロイヤルという国はスパイ疑惑のある彼らを中枢に近づけるつもりはなかった。

 

「私はリディからの作戦をこなし、君たちも無事に帰ってきた。それだけで十分さ」

 

 そしておじいちゃんは紅茶を口に含む。それと同じようにウォースパイトもまた、紅茶を口に含んだ。しばらくはまた、いつもの日常がやってくるだろう。

 

「……『あのとき』のことを聞かないんだね」

 

 おじいちゃんが悲しむでもなく安堵するでもなくそう言う。ウォースパイトはどきりとしたようで、少しだけ咳ばらいを落とす。セイレーンから話しかけられた言葉は第一艦隊全員が聞いていたはずだ。

 

「あなたのお嫁さんはもういないわ。『あちら』と『こちら』を行き来できる方法なんてないのよ」

 

「そうだ。そうだとも。そうだとしても……」

 

 おじいちゃんは紅茶の入ったカップを両手で包み込み、目を落とした。

 

「そうであったら、よかったな、って」

 

 おじいちゃんはそうつぶやく。ウォースパイトが彼の「お嫁さん」について知っているのは、重桜に所属していた時に結婚し、そして死んだということだけだ。それ以上のドラマなんて必要ない。あってはならないと思う。

 

「『ウォースパイト』。私の昔話を……老いぼれの戯言を聞いてくれないか?」

 

「なぜ?」

 

「それは…………」

 

 おじいちゃんは言えない。心の傷を癒すために君に卑しい思い出をぶつけるなんて。しかしウォースパイトはにこりと微笑んで、おじいちゃんの瞳をまっすぐに見つめた。

 

「冗談よ。聞いてあげる」

 

 ウォースパイトのその言葉におじいちゃんは泣き出しそうな笑みを浮かべた。

 

 そして紅茶を一口、口に含んで、震える手でカップをソーサーに戻した。

 

「私の妻について話をしたいと思う。そうだとも。私が『結婚』をしたひとについてだ」

 

 

 

 

 

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