おじいちゃん指揮官による母港運営記   作:喜多見 健

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Shall We Dance

 赤城は執務室の扉に耳を押し当てて中の会話を聞いていた。少しばかりの私用のための休暇を申請しようとしたのだが、部屋の中から聞こえてきたのは彼女にとって聞くのも恐ろしい彼の過去の出来事だった。

 

 気配を消して耳を扉にあてる。中の会話は鮮明に分かる。

 

「私の妻は死んだ。惨たらしく、人の形をとどめないままに死んだ。医者と科学者と軍人の実験材料として切り刻まれて、棺を開くこともできなかった」

 

 ひっ、と声が漏れる。それが赤城自身の声だと自覚するのに数秒を要した。

 

「彼女は……あいつは……私の幼馴染だった。なあ、酒をくれないか? これ以上話すには素面では少しばかり怖い」

 

「盗み聞きとは感心しないな。赤城」

 

 びくっと赤城の背が震え、声の主を見遣る。こつこつとわざとらしく靴音を立てて歩み寄るのはロイヤルネイビーの空母、アークロイヤルだ。いつもなら憎まれ口の一つでも叩くところだが、赤城はおびえたように彼女を見遣る。アークロイヤルは赤城の手を取るとそのまま引き、つかつかと歩き出した。

 

「ちょっと!」

 

 たまらず赤城は抗議するが、アークロイヤルは意に介さない。

 

「良い天気だから。貴女も来ると良い」

 

 赤城の抵抗は気にせず、アークロイヤルは静かにそう言う。途中で駆逐艦の何人かとすれ違ったが、アークロイヤルは見向きもせずにただ前を見つめていた。

 

「アーク・ロイヤル!!」

 

「うん?」

 

 ひらりとアークロイヤルは身をひるがえし、バランスの崩れた赤城の腰を抱いて顔を近づける。普段は髪で隠されている目元さえも赤城に注がれて、たまらず赤城は目をそらした。まだ廊下だ。

 

「『人間』には秘密の一つや二つあるもんさ」

 

 耳元でアークロイヤルがささやく。赤城がぞくぞくとした感情を思うと、アークロイヤルは赤城を押しやり、それでも手は握りしめたまま、社交ダンスのように舞う。

 

「さぁさあ! 舞踏会の始まり始まり!!」

 

 アークロイヤルは大げさに言う。廊下にいたKAN-SENたちは興味をそそられたのか、食い入るようにその様子を見つめている。

 

「ふざけないで! 私には――」

 

「今は踊る時間だ。君も応えてくれたまえよ」

 

 そう言われたとて、赤城だって社交ダンスの心得がないわけじゃない。アークロイヤルの手を引いて、無理やりフォックストロットのリズムに巻き込んでいる。アークロイヤルも少しは面食らったようだが、赤城のエスコートの通りに足を差し出す。

 

「巧いな」

 

「馬鹿にしないでくれますか?」

 

「あぁ、それは失敬」

 

 アークロイヤルは赤城の手を取って、たどたどしいフォックストロットに付き合う。

 

 赤城の頬に朱がさしていたことに気づいたの、たぶん誰もいないだろう。

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