アークロイヤルと赤城という母港でも指折りのやべーやつらのダンスパーティはいつしか野次馬を巻き込んでの乱痴気騒ぎとなって幕を閉じた。どこからかぎつけたのか明石と不知火はちゃっかり出店まで用意して物販にいそしんでいた。
ロイヤルメイド隊、特にベルファストはアークロイヤルが駆逐艦たちをほったらかしに赤城とダンスを踊るのか理解できないようで、頭に疑問符を浮かべたまま立ち尽くしていたことは言うまでもないだろう。
翌朝の日差しとともに赤城と同室の加賀が目にしたのは頬杖をついて窓の外を見つめ、ため息を吐く一航戦、赤城の姿であった。
「昨日はずいぶんと楽しめたようですね」
加賀がそんな様子を茶化すように、いつも通りの声色で言う。赤城はのろのろとした動作で振り返り、加賀を見つめる。目元には深くクマが浮かんでいる。寝ていないのだろうか。
「まさか私が、指揮官様以外とダンスをするなんてね」
ふっと自嘲気味に笑い、赤城は再び窓を見つめる。ガラスに映る瞳は焦点を結んではいない。
加賀も赤城の反応は予想外だったのか、ぱちくりと瞬きをすると咳ばらいを一つ落とす。
「眠ったほうが良いですよ、姉さま」
「眠くないの」
ささやくように赤城が言うと、加賀は大きくため息を吐いて朝食の準備を始めた。
「……あなたからみて、アーク・ロイヤルとはどんな人かしら?」
「ロイヤルの空母としては精鋭です。ただし駆逐艦に対する性癖さえなければの話ですが」
赤城の問いかけに加賀は握り飯の用意をしながら答える。赤城はその言葉に満足したのだろうか、ふふ、と笑い声を一つだけ落とした。
「なんであの人は私と踊ってくれたのかしら」
「ただの気まぐれでしょう。深く気にすることじゃありませんよ」
そっけなく加賀が言うと、赤城はそれっきり黙り込んだ。
「恋でもしましたか?」
加賀がからかうように問うが、赤城は答えない。笑うでもなく怒るでもなく、ただ窓から外の景色を見つめていた。たまらず加賀はぎょっとしたように赤城を見つめる。
赤城は窓辺によりかかったまま、すやすやと穏やかな寝息を立てていた。加賀はそんな赤城の様子にたまらず笑い、握り飯を作り終えると手を洗って、赤城を彼女の布団に運ぶために彼女のもとへ向かう。
「……恋とは赤城姉さまをここまで狂わせるのですか?」
加賀だって赤城がおじいちゃん指揮官に好意を抱き、そしてその恋が彼の亡き妻によって阻まれたことは知っている。加賀は恋を知らない。
「恋とは、猛毒ですね」
赤城を担ぎ上げ加賀は小さく小さく、赤城に聞こえないくらいの声でつぶやいた。