おじいちゃん指揮官による母港運営記   作:喜多見 健

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壁に耳ありとは言うけれど

「指揮官! 今夜は何が食べたいですか?」

 

「タコが食べたい」

 

「タコ!?」

 

 朝から飛龍が尋ね、おじいちゃんが答え、ウォースパイトが叫ぶ。

 

 この母港の食事事情は少し特殊だ。基本的には各KAN-SENたちは所属陣営の寮舎で食事や睡眠をとることになっているのだが、希望すればKAN-SENもおじいちゃんもどの陣営の食事でも食べられる。おじいちゃんはできる限り各陣営の寮社を回り、近況報告や母港の不満、改善の要望を聞いて回る。

 

 ローテーションでは今日はおじいちゃんの食事は重桜寮だ。もともと重桜出身のおじいちゃんは、やはり故郷の味が恋しいのだろう。

 

 さて、そんな望郷の念を引き裂いたウォースパイトはといえば、青い顔で信じられないというような顔でおじいちゃんを見つめている。

 

「タコって……あのタコ? 8本脚の、ぐねぐねした……」

 

「そうだよ。重桜ではよく食べたものだ。特に煮物が美味い」

 

「いいですよねぇ、タコ。刺身もいいですし、から揚げでもおいしいですし」

 

 飛龍とおじいちゃんはタコに思いをはせ、目をつむってうんうんとうなづく。ウォースパイトは青い顔のままアリゾナとテラーを見遣ると、彼女たちも信じられないという風におじいちゃんと飛龍を見つめていた。

 

「そんなに驚かなくても良いじゃないか。そうだ、君たちも今日は重桜で――」

 

「嫌よ」

 

「ごめんなさい……」

 

「無理です……」

 

 おじいちゃんの提案に、ウォースパイト、アリゾナ、テラーは即座に否定を述べた。

 

「おいしいんですけどねえ」

 

「おいしいんだけどねぇ」

 

 飛龍とおじいちゃんは残念そうに言うが、おそらくロイヤル、ユニオン陣営にはタコを食うということが理解できないだろう。

 

「さて、指揮官の希望も聞いたところでぼくは少し寮に行ってきますね」

 

 飛龍は書きかけの報告書の上にペンを置いて文鎮代わりにし、そそくさと部屋を後にした。

 

「そういえば、ここにきてからタコを食べたことなかったなぁ。もしかして市場とかでは置いてないのかな。ウォースパイト先輩たちの反応もあんなのだったし……」

 

 そんなことを考えながら飛龍は廊下を歩く。すると珍しいことに、明石も廊下を歩いていた。

 

「明石! 良い所に」

 

「にゃ?」

 

 明石は背後からかけられた声に振り向く。

 

「タコって売ってますか?」

 

「さっき赤城からも聞かれたにゃ。これから買い付けしに行くから外出許可をもらうために指揮官のとこにいくつもりだったにゃ。それで、飛龍はタコがいくつ必要かにゃ?」

 

 明石の言葉にたまらず飛龍は冷や汗を一つ落とす。

 

「あー、えーっと、赤城先輩とぼくの用事は同じだとおもうんですけど、とりあえずぼくにも1杯ください」

 

 その言葉ですべてを察したのか、明石も冷や汗を一つだけ流すと指揮官のいる部屋を見つめた。

 

「まさかにゃ……」

 

「まさかですよね……」

 

  

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